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ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。
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市場規模3,000億円。成長が確実視されるEdTech業界で注目株の「解いて憶える記憶アプリ」

「考える力が重要だと言われる時代だが、なぜ記憶に着目したのか?」との問いに、モノグサ株式会社代表取締役CEOの竹内孝太朗氏はこう答えた。

 

「考える力が重要であることにまったく異論はありません。だからこそ、“覚える”部分は効率よくやる必要があると考えています。時間は有限ですから」

 

この言葉にあるとおり、竹内氏が元Googleエンジニアの畔柳圭佑氏とともに開発したのが、効率よく記憶するためのプラットフォーム「Monoxer(モノグサ)」である。

 

コロナ禍の発生、教職員の労働環境改善、画一的な教育の行き詰まりといった社会状況の変化によって、いわゆる“エドテック”と呼ばれる教育とテクノロジーを掛け合わせた産業が盛り上がり(※)を見せている昨今、特に注目を集めているのが「記憶」に焦点を絞ったモノグサである。前職リクルート時代には、「スタディサプリ」の立ち上がりにも携わった竹内氏に話を聞いた。

 

※野村総合研究所「ITナビゲーター2020年版」によれば、EdTech市場規模は2023年に約3,000億円に達すると予測されている

テスト効果×産出効果=AIを活用した記憶定着ツール「モノグサ」

効率よく記憶するためのプラットフォーム「モノグサ」とは、どういったものなのか。たとえば英単語を覚えるとき、英単語帳を使う人は多い。英単語帳を用いて読む、書く、聞く、声に出す、シャドーイング(復唱)などを繰り返し行うことで、1つずつ覚えていくのが一般的だろう。モノグサは、そういった覚えるための行為に比べ、より記憶が脳に定着しやすい方法を提供するAIを活用した学習ツール(アプリ)である。竹内氏はこう話す。

 

「一言でいえば、モノグサは“解いて憶える”という方法の学習ツールです。読んだり書いたりする学習行為よりも、思い出す作業をすればするほど記憶が定着しやすいという研究データがあるのですが、モノグサでは、その理論に基づいて、『覚えていないことを解かせる』ということを基本にしています。学校で受けるテストというのは覚えているかどうかを試されるものであったかと思いますが、モノグサではテストという行為で覚えていくというとイメージしやすいかもしれません」

 

覚えていないのに、テストを受ける──そう聞くと、解答のしようもないような気がするが、まさにそこにモノグサというツールの核心がある。

 

「通常は、覚えていないテストを受けても、手が出ないですので、読んで覚えるのと変わらなくなってしまいます。しかしモノグサは、解いている人の記憶の度合いに合わせて、自動でギリギリ答えが導き出せる量のヒントを与えていきます。そうすることで、効率よく覚えていくことが可能になるのです」

学習者の記憶度に合わせて最適な問題が出題されつづけるとは、具体的にどういうことか。単語の場合、画像にあるとおり、最も低い難易度が「写経モード」である。解答がグレースケールで出るため、学習者は間違えようのない形になっている。さらに文章の穴埋め形式での問題がある。択一形式であるため、少しだけ難易度が上がる。この択一形式で正解し続けると、ブランクを埋める問題形式にレベルアップする。仮にブランクを埋める問題で間違えると、写経モードにレベルダウンする。そして、ブランクを埋める問題形式で正解を続けると、「記憶済み」として認識されるようになっている。

 

ちなみに、この「記憶の定着に、解いて覚える行為が効果的である」という理論は、米・パデュー大学心理学部のジェフリー・カーピック教授らが、2011年に『Science』に投稿した論文で示されたもの。同社では“テスト効果”と呼んでいる。同社の畔柳氏は、「テストにより対象を想起することは記憶定着にとても重要で、なおかつ、私たちはその効果を過小評価しがちである、ということを示した」と紹介している。

 

さらに、「産出効果(生成効果)」という心理学ではよく知られた学習理論の1つも、根拠の一つであるという。これはトロント大学で教鞭を執っていたノーマン J. スラメッカ氏らが、1978年にアメリカ心理学会の『The Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition』に投稿した論文によるものだ。畔柳氏は、「例えば単語を記憶する際には、単純に単語を見て読み上げたりするよりも能動的にアウトプットするのが効果的であるという理論です。読み上げるのもアウトプットなのでは? と思うかもしれませんが、完全に対象を与えられた状態で読み上げるのか、不完全な状態の対象を想起するのかという違いがあります」と説明している。

モノグサによって“記憶の民主化”が実現される!?

さらにモノグサの特徴としてプラットフォームであることと、記憶の一元管理機能(メモリーグラフ)もある。

 

「たとえば検索という行為をしようと思ったら、Googleを使うことを想起します。すなわちプラットフォームというのは、特定の行為をするときに想起されるべきものだというふうに私は思っています。同じように、モノグサも記憶という行為をするときに、第一に想起されるツールでありたいと考えており、その意味で“記憶のプラットフォーム”を自称することもあります」

 

もちろんモノグサは、“名ばかりプラットフォーム”ではない。利用者は英単語、漢字、歴史、数式といった、いわゆる勉強のためのものだけでなく、保険のセールス担当者が営業力を高めるために必要な知識といった社会人の領域も含め、あらゆる記憶したい知識をインポートすることで、記憶定着のための最適な問題を自動で生成してくれるようにできている。また、「マーケットプレイス」という機能もあり、そこでは出版社などが提供するコンテンツ(参考書)を購入し、利用することも可能だ。

「記憶の一元管理」に関しても、深いコンセプトがあると、竹内氏はいう。

 

「人の記憶というのは、頭の中で一元的に管理されています。たとえば『Apple=リンゴ』という記憶があったとします。仮に2つの英単語帳を使っている場合、『Apple=リンゴ』という知識が1つの英単語帳で記憶できたとしても、もう1つの英単語帳にその記憶情報が共有されることはありませんよね。しかし、モノグサを利用することで、『Apple=リンゴ』という記憶は、どこで覚えても一元的に管理される体系をとっています。これはテキスト情報のみならず、音声情報や数式の情報なども含まれています」

 

記憶の一元管理は、“電子カルテ”のようなものでもあると竹内氏。すなわち、病院や担当医が変わってもすぐさま自分の健康状態が伝えられるように、記憶の情報も小学校から中学校にあがったとしても、複数の異なる学習塾に通っていたとしても、持ち運びが可能であるということ。大胆なことを言えば、モノグサがあれば、「“記憶の民主化”が実現する」と表現できるかもしれない。

to Cではなくto Bからアプローチしていった理由

モノグサは2018年にサービスを本格稼働させ、紆余曲折ありながらも拡大してきた。特に2020年以降、急成長を遂げており、2022年10月現在、塾や学校を中心に全国4,000以上の教室で導入されている。B to C市場向けにサービスを展開するのではなく、まずはB to B、すなわち塾や学校に対してアプローチしてきたというが、その狙いについて竹内氏はこう話す。

 

「そもそも我々がモノグサを開発したとき、“効率よく記憶をする”という市場が顕在化していませんでした。そのなかでまずは教育の領域から開拓しようと考えました。教育のなかには、試験やテストという評価される機会がたくさんあり、その評価を上げたいというニーズがあるはずだという仮説があったからです。さらに、教育の領域のなかでも最も成績を向上させたいと考えているのは学習塾であろうと考え、丁寧な説明をしてまわってご理解いただき、導入いただける組織が増えていった形になります」

 

同様のことは、学校にも当てはまり、順調に導入数が増えている。要因の1つとして、塾の講師や先生など、教える側のメリットが大きいこともある。生徒たちの記憶の定着度と学習状況がひと目でわかるよう可視化されるため、1人1人に適切な指導を施しやすくなるからだ。試験日など特定の期日を指定することで学習計画をAIが提案作成してくれることに加え、テストの難易度も自動で調整させるため、おのずと業務負担が小さくなる。結果的に、覚えるための反復学習ではなく、本質的な指導に時間を割けるようになるのである。

直近では、専門学校や大学、資格習得が伴う社会人教育といった具合に市場を拡大させてきている。「記憶を日常に。」という同社ミッションの実現に向け、着実に歩みを進めているといえるだろう。

元Googleエンジニアの畔柳氏との再会から開けた起業という道

「そもそも私は30歳で自分の会社を立ち上げて、事業をしたいという明確な目標を持っていました。新卒でリクルートに入ったのは、事業開発と営業を学びたいと思ったからです。事業開発的なチャンスがあれば、全打席に立つという意気込みでしたので、当然のように、リクルートグループの歴史ある新規事業提案制度である『New RING』には、毎年かならず参加していました」

 

そうした目標があったとしても、なかなか一歩が踏み出せない会社員は少なくない。「(入社前に)想像していた以上に、自分で事業をやりたいという人が少なかった」という竹内氏の言葉にもある通り、ベンチャーマインドが強いリクルートとはいえ例外ではない。

 

実は、竹内氏を独立起業に向けて後押ししたのは、彼の高校の同級生である畔柳氏の存在だった。

 

「モノグサの原石となるビジネスアイデアを思いついたときから、逐一相談してきたのが、高校の同級生の畔柳でした。久々に連絡をしたことを機に毎週のように彼と会い、事業の話や雑談も含めていろんな話をしてきました。そのなかで、彼と一緒にやれば絶対にうまくいくと確信していました。一緒に起業してくれたら良いとは思っていましたが、『起業しよう』と私から口には出しませんでしたね(笑)」

 

当時Googleに勤めていた畔柳氏は、2016年になったとあるタイミングでGoogleを辞めて竹内と起業をする決断をしてくれた。

 

「正直にいって、畔柳がリクルートに来てくれるんだったら、そのままリクルートで事業を立ち上げてもよかった。それくらい彼と一緒にやることが重要だと考えていましたから(笑)」

 

そんな竹内氏と畔柳氏が率いるモノグサが目指すのは、さらなる高みだ。それは、モノグサを全人類に届けるというゴール。すなわち彼らは世界のマーケットを見据えているのである。

 

「そのためには、効率よく記憶することの価値を証明し続ける必要があると思っています」

 

もっといろんな世代や分野、領域にモノグサを広めていき、有効であることを示していけば、自ずと世界市場への道が見えてくる──そう信じる彼らは、いまも走り続ける。

竹内 孝太朗

Kotaro Takeuchi

モノグサ株式会社 代表取締役CEO

名古屋大学経済学部卒。2010年に株式会社リクルートに入社。2013年から「スタディサプリ」にて高校向けサービスの立ち上げに従事。全国の高校1,000校を行脚し、学習到達度測定テスト、オンラインコーチングサービスの開発を行う。2016年に畔柳(CTO)とモノグサ株式会社を共同創業。プライベートでは3児の父であり、休日は子どもと一緒にMonoxerで勉強している。

畔柳 圭佑

Keisuke Kuroyanagi

モノグサ株式会社 代表取締役CTO

東京大学理学部情報科学科卒。東京大学大学院情報理工学系研究科にてコンピュータ科学を専攻。分岐予測・メモリスケジューリングを研究。修士(情報理工学)。修了後は、グーグル株式会社(現・グーグル合同会社)に入社。2016年、モノグサ株式会社を竹内孝太朗(CEO)と共同創業。CTOとして記憶のプラットフォーム「Monoxer」の研究開発に従事。2022年4月には初著書となる『記憶はスキル』をクロスメディア・パブリッシングから刊行。

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取材:遠藤由次郎

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