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ENILNO いろんなオンラインの向こう側

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ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。
これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

オンラインで“触感の共有”ができる時代に。ボディシェアリングが目指す未来とは

今やすっかり一般的になったビデオ会議。オンラインを介して映像と音声の情報を送受信し、遠隔でもまるで同じ空間にいるようなコミュニケーションが可能だ。しかし実際のところ、五感のうち使っているのは視覚と聴覚のみ。リアルな体験には程遠い情報量だ。そこに“固有感覚”が加わったらどうなるだろうか。

 

物に触れたり掴んだりする時に感じる重量感や抵抗感などの固有感覚を、遠隔でも他者やロボットと相互に共有できる〈ボディシェアリング〉を開発したH2L代表の玉城絵美氏。HCI(ヒューマン・コンピューター・インタラクション)研究者で、2011年に米『TIME』誌の「The 50 Best Inventions(世界の発明50)」に選出された彼女に、“未来型のリアルな体験”について話を聞いた。

玉城 絵美

H2L, Inc., CEO/琉球大学 工学部 教授

人間とコンピュータの間の情報交換を促進することによって、豊かな身体経験を共有するボディシェアリングとHCI研究とその普及を目指す研究者兼起業家。2011年にコンピュータからヒトに手の動作を伝達する装置「PossessedHand(ポゼストハンド)」を発表。CNNやABCで報道されたほか、米Time誌が選ぶ50の発明に選出。同年、東京大学にて総長賞受賞、博士号を取得。2012年にH2L,Inc.を創業。2013年より早稲田大学人間科学学術院助教、2021年より琉球大学工学部教授に就任。

固有感覚が持つ臨場感により、リアルな体験を実現

「オンラインを介して感じる固有感覚を、受動的ではなく能動的に体験共有できる技術がボディシェアリングです。

 

私たちが情報を得る時の感覚、つまり視覚や聴覚は全て受動的な感覚です。たとえば、映画における音声は“聞く”という形で情報を受け取るしかないし、映像も一方的に“見る”しかない。ですが、このボディシェアリングは自ら働きかけて情報をとりにいくことが可能です」

 

ボディシェアリングは、センサーとアクチュエータ(駆動装置)からできている。マイクで音声情報を入力して、スピーカーで音声情報を出力するように、センサーがコンピューターを介して出力した感覚を、アクチュエータで受け取り、まるで本当に触っているかのような感覚を体感できる。

 

これまでにもバイオグラム筋電図など、脳からでる微弱な電気で固有感覚を共有する技術はあった。しかし、電気は汗や水に弱いため、電気的ノイズが乗りやすく、精度は高くなかったという。

 

そこで開発したのが、筋肉変位センサーという筋肉の膨らみに光を乗せて固有感覚を共有するという現行のモデルだ。太陽光を防ぐカバーが付属されているため、光的ノイズも防げる。

 

「センサーは筋肉の膨らみで力の入れ具合を計測し、それをアクチュエータが受信して抵抗感や重量感などを人にフィードバックします。視覚や聴覚に加え、固有感覚が加わると、バーチャルな世界でも没入感が格段にアップするんです。

 

バトルゲームでキャラクターを操作していると、キャラクターの身体を自分が所有している感覚になるのを味わったことがある人もいると思いますが、まさにボディシェアリングは身体所有感を36〜53.5%アップさせます」

 

体を動かす時、通常は脳からの指示で筋肉を使って動くが、ボディシェアリングは脳を経由せず直接筋肉に働きかけるため、自分の意思とは別で体が動く感覚に、最初は違和感を覚えるという。ただしその違和感は、自分の目で直接景色を見るのと、テレビ越しに景色を見るのと同じくらいの情報差に近い。ボディシェアリングも5分ほどで違和感は消え、慣れてしまうという。

 

「固有感覚が加わっただけでも格段にリアリティを感じることができますが、もっと他の感覚も複合的に伝えられるようになると、リアルとオンラインの境界線がどんどん曖昧になっていくのではないかなと思います」

玉城氏がボディシェアリングを介して開拓したい未来とは

固有感覚を通して、まるで自分が体験しているかのようなリアリティを遠隔で味わえる。この技術が一体実社会でどのように活用されているのだろうか。

 

「最近では遠隔で農業体験できるシステムも開発しました。プロと同じ動きができるエクササイズのシステムも開発したのですが、プロのレベルがあまりにも高すぎるので、全身筋肉痛になってしまいました。現在レベルを調整中です」

 

ほかにも体験型観光などの取り組みも実施しているという。

 

「5Gとボディシェアリング技術を掛け合わせたカヤックロボットシステムによる体験型観光の実証試験を実施しました。まるで水面に浮かぶカヤックに乗っているかのような感覚と、オールで漕ぎ出す際に感じる水の抵抗感を体験できます」

 

ボディシェアリングは光を媒介にして情報を送受信するため、ネット環境によってタイムラグが生じやすい弱点があった。しかし、5Gの登場でそれもほとんど解消した。これにより、さまざまな体験型観光が可能になる。玉城氏は体験することの大切さを次のように語った。

 

「都市部にいるから山深い場所へ気軽には行けないとか、地方に住んでいるから東京の会社に就職できないとか、そもそも高齢で足腰が弱っているから長時間の移動ができないとか、そういう“居住地”や“身体的制約”が原因でやりたい体験を諦めたくないと思っています。

 

さらにコロナ禍で外出ができなくなっていますよね。どこに住んでる人でも、ほぼみんな同じ状況に置かれている。そんな今だからこそ、外に出なくても体験することのニーズは高まっていると感じます。みんなが平等に体験できる世界を目指したいです」

 

また、実際に自分の足で巡ることと、ボディシェアリングで体験することの差分について「欲しい情報だけを手に入れられるかどうか」と玉城氏は指摘する。

 

「ボディシェアリングのいいところは、自分が求めた情報だけが適切な情報量でフィードバックされることです。たとえば高尾山の山頂からの風景を見る体験がしたいなら、高尾山に向かうまでの移動や、車中の景色を見る体験などはスキップできる。無駄なく欲しい情報だけ体験できます」

 

限られた時間の中で、欲しい情報だけを効率的に体験できる。多忙な現代人にとってぴったりな技術といえそうだ。ボディシェアリングを活用した10年後20年後の未来はどうなっているのだろうか。

 

「ボディシェアリングが当たり前に使われる世界になっていると思います。そうなれば、身体的制約がない分、誰でも宇宙に行ける未来が来るはず。なんだかワクワクしませんか?」

 

体験を重ねることで人生はより豊かになる。目的地へ物理的に行かなくても体験できる未来が、もうすぐそこまで来ているようだ。

 

  • 公式Facebookページ

取材:藤田佳奈美

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