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ENILNO いろんなオンラインの向こう側

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ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。
これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

増え続ける先生の負担をどう軽減する? 事故や不祥事が相次ぐ今こそ考えたい学校運営のデジタル化

コロナ禍が様々な分野で膠着していたシステムを変えたことに異論の余地はないだろう。そのうちの1つが、学校現場の運営や実務に関することである。教員の長時間労働を是正できるとする部活動の地域移行や、保護者の負担を軽減するPTA業務のアウトソーシング化といった、コロナ禍以前からも叫ばれていた変革が最近になって大きく進展している。

 

そうしたなか、「教育現場のデジタル化もコロナ禍で大きく進んだ」と語るのが、ドリームエリア株式会社で代表取締役を務める寺下武秀氏だ。2005年より日本最大級の無料連絡網サービス「マチコミ」を提供している同社は、ITのチカラで先生の働き方を改善すべく、機能の充実や効果検証、および様々な情報発信を行ってきている。自身も子育て中の親であるという寺下氏が目指していることとは? 話を聞いた。

機能の充実化が必ずしも正解とは限らない

2022年12月現在、全国47都道府県で71の教育委員会、約1万4千の教育等の施設で導入され、約257万人の会員数をもつ「マチコミ」は、無料の連絡網サービスである。2005年のサービス開始当初は、不審者情報のメール配信や緊急連絡のためのツールとして活用されてきたが、学校と保護者間の連絡におけるデジタル化やイベントの出欠確認、ファイルの共有など様々な業務支援機能を提供することで、学校ならびに先生と保護者の双方の負担を軽減することを目指している。

 

「もともと、マチコミは緊急時の連絡網システムということで始めました。いわゆるガラケーを通じてメール配信するという使い方です。その後、スマートフォンが普及するなかで、我々は2012年にいち早くアプリをつくり、リリースしました。おそらく業界のなかでは最も早かったと思います」

 

具体的な業務支援機能としては、学校評価や修学旅行で行きたい場所といった調査と集計ができる「アンケートPLUS」、授業参観や学校行事への参加の可否の確認や催促メールなどができる「イベント出欠確認」、緊急時などにメッセージを送る「メール配信」、オンライン上で学校と保護者間のプリント共有ができる「ファイル共有」、さらには「お休み連絡」や「安否確認」などがある。

 

そんなマチコミは、類似サービスより先んじてアプリ化したことに加え、無料で使えるにもかかわらず、当初からユーザーインターフェース(UI)やユーザーエクスペリエンス(UX)に気を配っていたことが功を奏し、先生同士の口コミがベースとなって広がっていったという。

 

「UIやUXを重視していたというと、かっこいいデザインにすればいいと思われるかもしれませんが、この分野はそうではないと考えていました。あくまで使いやすくなければいけない。具体的には、我々は銀行のATMレベルの使いやすさを追求しようという目標を掲げていました。結果的に、競合となるサービスも出てくるなかで、『マチコミは誰でも使えるもの』という評判で選ばれていったのです。もちろん現在まで継続してガラケーのシステムにも対応していることも大きいのですが……」

いくら便利なツールであっても、それを使いこなすために一定のスキルが必要となると、ただでさえ多忙な現場の先生からは嫌厭されてしまう。だからこそ寺下氏はITリテラシーの多寡にかかわらず、誰にでも使えるようにすることを心がけてきたのだ。ただ、使いやすささえあればいいというわけでもない。

 

「先生たちは、たとえばチャットアプリのようなものも連絡ツールとして活用しようと思えばできます。でも、それだと保護者からの連絡が飛び交い、必要以上にコミュニケーションに時間を奪われ過ぎてしまい、他の業務に支障をきたす可能性があります。つまり、先生たちは便利であるかどうかだけでなく、ツールを導入することで負担が増えるかどうかも非常に気にしているということです。『便利だから正解』ではなく、線を引くところは引くという視点が欠かせません」

コロナ禍で体調管理が必要となった際は1週間で新機能をリリースした

すでに記したように、マチコミは口コミをベースに広がってきた。裏を返せば、1つのトラブルが悪い口コミとなって広まり、ユーザー離れを引き起こしかねないということ。寺下氏が、「先生の負担になっていないか」に敏感なのもうなずける。

 

他方で、同氏はスピード感にもこだわりをもっている。業務負担の軽減につながる機能であれば、いち早く導入することも心がけている。

 

「たとえばコロナ禍では、体調管理に関するニーズが出てきました。保護者も先生も、コロナというストレスフルな生活のなか、さらに負担が大きくなることが目に見えていましたので、弊社では1週間ほどでシステムを構築して、『体調・連絡ノート』という機能をリリースしました」

 

同社の決断スピードと実行力は、組織規模があまり大きくないからこその強みであると寺下氏は言う。そうした特徴を最大限に活かすためにしていることもある。

 

「最近でいえば、通園バスの悲しい事故がありました。そうしたニュースには常にアンテナを張っています。自分自身も子どもを持つ親として、感度高く生活しているのはもちろんですが、弊社のなかにも小学生や中学生の親世代が少なくないので、そうしたスタッフからの声を吸いあげるようにしています」

 

アンテナに引っかかったニュースを深堀りするため、リサーチを行うこともある。時事ネタを絡めながら、「具体的に保護者がどういったことで困っているのか」というお題を決めて、リサーチのための設問をメンバー同士であれこれ意見を出し合いながら決めている。そのなかで、2022年1月にはマチコミのユーザーである教職員向けに、学校のデジタル化に関するアンケート調査を行ったという。

 

その結果に対しては、「デジタルを押し込むのではなく、その懸念事項を解決するための機能も併せて提案していきたいと考えています。これにより懸念が期待に変わると確信しました。システム化できそうなもの全てを『デジタル化』するのではなく、デジタルとの共存・共生が必要だと考えます」と、寺下氏は同社プレスリリースの中で答えている。

食わず嫌いの可能性もあるため、チャレンジしてもらう環境の整備も大切

ただ、そうした現場の声を重視するあまり、及び腰になりすぎてもいけないと感じた出来事もあったという。その1つはプリント物の配布に関することである。

 

「ある学校さんで取材をさせていただいたことがありました。その学校ではコロナ禍の影響もあって、プリント物の配布をデジタル上で行いたいとのことで、保護者に対してデジタル化に関してアンケートを取ったらしいんです。すると賛成と反対が半分ずつと、想像以上に反対が多い結果だったそうです。ただ、賛成も半数いることから、強制的にデジタルデータでの配布も始めたといいます。その後、しばらくして再度アンケートを取ったら、デジタル化に反対する人は2〜3%まで減っていたとのことでした」

 

結局、食わず嫌いという側面も大いにあるのではないかと感じた取材だったと、寺下氏は話す。そこで同社のやるべきこととして、「チャレンジしてもらう環境を整えることも必要ではないか」と考えを少し改めたという。

 

「ツールを提供する我々としては、先ほど伝えた操作性の部分だけに気を配るのではなく、技術に対しての理解してもらうことのメリットも打ち出していかないといけない段階なのかなと思いました」

 

つまり新しい機能が想像以上に使われないようなケースでは、「ニーズがないのかもしれない」と短絡的に考えるのではなく、活用してもらえないのはそのメリットを伝えきれていないだけかもしれないという想像力を働かせ、実行していくこと。そのあたりまで踏み込んでいけると、教育現場のデジタル化はより進むのだろう。業界でトップクラスに利用されているマチコミだからこそ、その可能性を持っているとも言い換えられる。

マチコミは有料プランもあるが、基本的には無料で十分な機能が使えることでユーザー数を拡大させてきた歴史を持っている。すなわち、無料で使えることは強みであるといえる。他方で無料だからといって、ユーザーの評価が甘くなるかというと、そうではない。有料と無料とに関係なく、不具合が出れば悪い評価に直結するものなので、しっかりとサーバーを増強し、不具合が起きたときにはすぐに対応できる体制を整えているのだとか。すなわちそこでは、想像以上にお金と労力がかかっているといえる。したがってアプリを通じたマネタイズは不可欠だといえる。

 

「有料会員になってもらえるよう努力することはもちろんですけれど、それ以外のマネタイズもしていかないといけないと思っています。1つの方法は広告です。マチコミに登録している会員は精度高くセグメントされているので、たとえば教育関係のサービスに関する広告を打つには最適です。特に最近はプライバシー保護の観点でCookieでの情報取得に規制がかけられていっている流れもあって、すでに属性データをもっている我々のようなプラットフォーマーの価値は高まっていると思っています」

子どもたちに向き合う時間と余裕を生むために、システムの自動化を目指す

業界トップクラスのシェアを持っているとはいえ、まだ拡大の余地はある。そうしたなか、2022年12月には管理者が利用する管理画面の大幅なリニューアルも実施した。「今日やるべきことがひと目でわかること」を意識したデザイン設計に変え、手間のかかるアンケート機能の強化・自動化、ならびにメール機能の利便性向上を行った。加えて、2023年1月には、保護者が利用するアプリもより使いやすいデザイン設計に変更予定だ。

 

「アプリを広げていくには、こうした地道な作業も大事だと思っています。というのも、相手が行政さん、公の組織である場合には、営業活動がしづらいからです。あくまでこれからも基本は口コミベースで広げていくほかないので、努力し続けていきます」

 

そのなかで、寺下氏は、「最終的にはシェア100%に近い状態まで持っていきたいです。『マチコミさえ使っていれば安心だよね』という、GoogleとかYAHOO!のような存在になりたい」と語る。さらにこう続ける。

 

「繰り返しになりますが、キーとなるのはとにかく学校の先生と保護者の方の負担をいかに減らすかです。そう考えると、今はマチコミを使って業務改善をするには画面を見て頭を使いながら操作しないとダメなのですが、別に何も考えなくてもシステムのほうから『あれやって』『これやって』と自動的に指示を出して、それに従えば自然と業務改善ができているという状態にもっていきたいですね。すると、先生たちは本来やるべきである教育に全力を注げるようになるなど、これまで以上に子どもたちに向き合う時間と余裕が生まれます。それは保護者も望むところですよね」

 

教育のDXと聞くと、教育や学習におけるデジタルツールの利活用を思い浮かべるかもしれない。しかし「マチコミ」が支援するような、雑多な業務に関するデジタル化がもたらすメリットは小さくない。改めて言うまでもないかもしれないが、人口減少による人手不足が目に見えて現れてきているなか、業務支援ツールのさらなる進化と普及は不可欠ではないだろうか。

寺下 武秀

Takehide Terashita

ドリームエリア株式会社代表取締役

インターネット関連企業で働いた後、2001年にドリームエリア株式会社を設立。2005年には、「子どもが安心して暮らせる街づくり」をコンセプトにした不審者情報システム「マチコミメール」の無償提供を開始。2018年にはGPSを活用した見守りサービスの「みもり」をリリース。2022年12月現在、「マチコミ」の登録者数は約257万人、全国約1万4千施設で利用されている。

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