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ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。
これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

元『WIRED』編集長が予想する、5000日後の世界「ミラーワールド」とは?

インターネットが標準になり、スマホやSNSが浸透した今、次に訪れるのはどんな時代か? それを予想した本『5000日後の世界』(2021年10月発売)が話題を呼んでいる。著者は、元『WIRED』の創刊編集長であり、これまでにスティーブ・ジョブズやビル・ゲイツをはじめ、名だたる起業家を取材してきたジャーナリスト、ケヴィン・ケリー氏。本書の副題にもなっている「すべてがAIと接続された『ミラーワールド』が訪れる」とは一体どういうことなのか? 同氏にインタビューし本書を執筆した国際ジャーナリストの大野和基氏に、本書のポイントはもちろん、これからの時代に必要なケヴィン氏のものの見方について伺った。

大野 和基

Kazumoto Ohno

国際ジャーナリスト

1955年、兵庫県生まれ。大阪府立北野高校、東京外国語大学英米学科卒業。1979~97年在米。コーネル大学で化学、ニューヨーク医科大学で基礎医学を学ぶ。その後、現地でジャーナリストとしての活動を開始、国際情勢の裏側、医療問題から経済まで幅広い分野の取材・執筆を行なう。1997年に帰国後も取材のため、頻繁に渡航。アメリカの最新事情に精通している。

現実に仮想世界が覆いかぶさった「ミラーワールド」

ケヴィン氏は、これまでにもGAFAなどの巨大企業による「勝者総取り」現象や、全てが無料化する「フリーミアム」経済など、テクノロジーの進歩によって起こる様々な事柄を予測し的中させてきた。彼が本書で語ったのが、今からおよそ5000日後に訪れる「ミラーワールド」の世界観だが、本題に入る前に、なぜ“5000日”なのかを知る必要がある。

 

インターネットが商用化してからおよそ5000日後にiPhoneやソーシャルメディアが誕生し、現在はそこからおよそ5000日が経ったところ。今ではインターネットは標準装備になり、スマホ無しの生活を考えられない人も多い。そして、これからの5000日は「今までの5000日よりもっと大きな変化が起きる」というのがケヴィン氏の見解だ。それは、かつての産業革命のような物理的な変化ではなく、人間の関係性や人生観や働き方などに関わる精神的なものがほとんどだという。

そんな未来のプラットフォームになるのがミラーワールドだ。すべてのものがAI(人工知能)に繋がったAR(拡張現実)の世界。物理的な全世界がデジタル化された世界。例えば、スマートグラスをつけてとある場所を見ることで、現実の風景に重なる形で、バーチャルの映像や文字が出現する。それは過去の土地の様子だったり、土地の名称だったり、何かの広告だったり、その場所に紐づいたあらゆる情報である。現実の上に仮想空間が覆いかぶさっているようなイメージだ。

一人一人の得意なことを生かせる時代

ミラーワールドではこれまで難しかったあらゆることが可能になるが、なかでもケヴィン氏が声を大にするのは「100万人単位の人が協働できる」こと。現実ではバラバラの国に住む人びとが、バーチャルな世界を一緒に紡ぐことができる。

 

大野氏はこのように解説する。

 

「1000人でも100万人でも、仮想空間の中で一緒に仕事できるようになります。仮想空間に入ってあるプロジェクトに参加し、終われば解散する。プロジェクト単位で、自分の得意分野だけで貢献すればOK。自由な働き方が可能になるだけでなく、関わる人数によっては非常にスケールの大きいこともできるようになります」

 

おまけに、近年では自動翻訳の精度もどんどん上がっている。今後は言語ができなくても、能力さえあれば誰でも世界中の人と協働できるようになる。ミラーワールドの時代は、個々が自分の得意分野をより活かせる世界、と捉えることもできる。そこで大野氏は、ケヴィン氏から見た日本人の強みについてこう話す。

 

「ケヴィンは、『日本人は他との考え方の違いが力になる』と言っています。アニミズム的信仰感から合意に基づいた働き方、物を小型化する技術まで、他国との明らかな違いがイノベーションの源泉になる、と」

 

大野氏は続ける。

 

「例えば、日本は大きな飛行機を作るのは苦手ですが、車のミラーを動かすための2〜3mmの小型ギアなどは、世界シェア9割という会社も多いのです」

 

万物に神が宿るとされる日本では、ロボットに対しても他国と違う見方をしてきたように、日本人特有の考え方が、今後は一層強みになる。そこで日本が向き合うべき課題は、「プレゼン」力の低さだと大野氏は指摘する。

 

「日本には素晴らしいものが多数あるのに、それらを伝えるのが苦手です。自分を大きく見せることに罪悪感を抱くのかもしれません。アメリカでは、たとえ実力が1でも2や3に見せるのが上手ですし、そこに結構な時間とお金をかけます。自分たちの取り組みをもっと積極的・魅力的に発信することで、ケヴィンさんの言う日本の力がより生きてくるのではないでしょうか」

楽観的なケヴィン氏の土台

「AIが浸透したら人間の仕事がなくなるのでは」という危機感はよく耳にする。これまでもずっと、新たなテクノロジーによって、新たな問題が引き起こされてきたためだ。ケヴィン氏はこうした悲観的な考えは「ある意味では正しい」と認めながらも、テクノロジーを100%肯定する姿勢は一貫している。そこにあるのは、テクノロジーが引き起こした問題に対する解決策は、決して「テクノロジーを減らしていく」のではなく「より多くの、より良いテクノロジーをつくっていく」という考え方だ。大野氏は補足する。

 

「彼は本書で『世界の進歩は、段階的な進歩の積み上がりによって生じたもの』であるにもかかわらず『毎年少しずつの進歩は見えにくく、残っている悪い部分にばかり目がいく』と話しています。例えば人工知能のような新しい技術ができると、後々そこから新しい仕事が生まれてくるように、広く全体を合計すると、過去より未来が必ずプラスになっていて、人間にできることも増えているんです」

 

大野氏はケヴィン氏への取材を重ねるなかで、彼の楽観的なものの見方に共感し、すっかり意気投合してしまう。そここそが、本書で日本の読者に最も伝えたかった部分だと言う。

 

「僕は外見は100%日本人だけれども中身はアメリカ人、とよく言われます。例えばコップに水が半分入っている時、アメリカ人は『ハーフフル(半分も入っている)』というのに対して、日本人は『ハーフエンプティ(半分しか入ってない)』と言う。そのように、同じ物事を楽観的に見るか悲観的に見るかは国民性の違いとしてありますが、とりわけケヴィンは本当に楽観的です」

 

とはいえ、ケヴィン氏の楽観主義は、単にイージーゴーイングというのとは違う。例えば、本書では彼の若い頃のエピソードにも触れているが、貧乏旅行をしたり自力で家を建てたりした経験や努力が、彼の視点を裏付ける土台になっているという。

 

「彼は本書で『人生で一度は貧乏しろ。特に学生の間は、たとえ裕福な家庭であってもお金のない状態に自分を置くべき』と言っています。そうした境遇から自分で考える癖がついたり、何が起きても乗り越えられるという自信がついたりするからです」

 

また、学生時代には専門的ではなくできるだけ総合的な学習が必要、とも述べている。新しいことを何度も学び直すことで、「学び方を学ぶ」スキルが身についていくからだ。

 

「進歩が加速する世界では不確実なことが多く、今学んでいることが今後全く通用しなくなるかもしれません。例えばどんなに会計学を勉強しても、5年後には人工知能がやってくれるかもしれない。でも、自分に最も適した『学ぶ方法』さえ知っていれば、世界がどう変わろうが適応できるのです」

ミラーワールドに備えておくべきこと

本書の企画が持ち上がり、ケヴィン氏の自宅で最初のインタビューが行われたのは2019年6月。2020年に発売予定だったが、パンデミックが起こり刊行は先送りに。2021年6月に追加インタビューをオンラインで行い、よりパンデミック後の社会にふさわしい内容が完成した。

「世界を大きく変えるような有事の際、それを自分でプラスに変える力は平時に蓄えられるものだ、とケヴィンは言っていて。世界の変化という意味ではパンデミックもミラーワールドも同じ。彼は本書で『自分が何者であるか?という疑問をもち続けること』が大切だと言っています。自分の軸をもち少し先の未来を見ながら生きていくことで、どんな変化にも焦らず生きていける。これが彼の発想の根底にあります」

 

彼の言う「平時に蓄えられるもの」とは、自分が本当にやりたいこと、かつ得意なことは何か?を日頃から見定めていくこと。また、そのスキルアップのための努力を惜しまないことだ。5000日後のミラーワールドのために、私たちが今やるべきことは、プログラミングを覚えたり、新しいITサービスを片っ端から取り入れることではない。自分と向き合いながら社会を観察することなのだ。

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