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ENILNO いろんなオンラインの向こう側

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ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。
これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

オンラインでは無理と言われた歯医者の挑戦「痛くないから歯医者に行かないは間違い」

コロナ禍におけるオンラインへの移行は、医療業界でも加速している。

 

今回紹介するのは、そんなオンラインを駆使した歯科診療を数年前から開拓してきた、珍しい歯科系スタートアップベンチャー〈ノーブナイン〉だ。2018年の起業から様々なビジネスコンテストで採択され、2019年には事業のシード期に多額の資金調達を達成するなどスタートアップ界でも注目を集める。代表を務める、歯科医師/歯学博士の竹山旭氏に話を聞いた。

竹山旭

AKIRA TAKEYAMA

株式会社ノーブナイン 代表取締役社長兼CEO
歯科医師・歯学博士

大阪府堺市の竹山歯科口腔医院院長。誰もが歯の悩みから解放される未来を目指し、臨床と事業の掛け合わせで実現するため、2018年に株式会社NOVENINEを設立。

竹山旭  株式会社ノーブナイン  代表取締役社長兼CEO/ 歯科医師・歯学博士。

ミャンマーで見直した、綺麗な口腔のあり方

口臭を測定できるIoTの電動歯ブラシ「SMASH」や、そのデバイスに連携し、患者が歯科医・歯科衛生士にオンライン相談できるアプリを開発する〈ノーブナイン〉。HPを開くと目に飛び込んでくるのは「口腔に愛を。」のストレートなメッセージ。その下には「治療より予防」「虫歯・歯周病は防げる」といった文言が続く。竹山氏が日本の歯科医療を見直すようになったのは今から10年前、ミャンマーでの出来事が発端だと言う。

 

「研修医時代にミャンマーで医療ボランティア活動をしました。口腔内はさぞかし酷い状態では……と思っていましたが、予想は外れました。治療技術や予防意識は低いため虫歯はありますが、抜歯や詰め物だらけでトラブルを生みやすい日本人の複雑な口腔内に比べると、非常にシンプル。あれこれ下手に触らないほうが綺麗な口腔をキープできるのでは?と、日本の歯科治療に疑問を抱くようになりました」

日本特有の保証制度が生んだ誤った認識

また竹山氏は、先進国と比べても日本人の口腔レベルは「低い」と指摘。日本では幼少時から歯磨きが浸透しているし、国民皆保険で病院に行くハードルも低い。竹山氏曰くコンビニが5万4000軒あるのに対し、歯科医院は6万8000軒というから、その充実ぶりが伺える。それなのになぜか?

 

「歯が痛んだり歯茎から出血するなど、トラブルが起きてから医師にかかれば良い、という誤った認識が染み付いているのが原因です。その場合、抜歯や神経を取ることも多く、かなり重症化した状態と言えるのです」

 

虫歯や歯周病が深刻化してから通院するのが一般的な日本。これを紐解くには、医療制度まで話を掘り下げる必要があると続ける。

 

「日本の国民皆保険でカバーされるのは疾病給付。ですから、虫歯や歯周病がないと保険治療はできない。予防で保険を使うことができないのです」

例えばドイツやスウェーデン、フィンランドでは、歯科治療で皆保険を受けるには、保険料の支払い以外にも、健康維持に対して課せられている。例えば、年間で数回の予防通院を受けることなど、予防行動に対してインセンティブがつく形になっている。対して日本の売りは“フリーアクセス制”。いつでも安価で通院できる一方、痛くなったら行けばいい、という易きに流れる文化が根付いてしまったとも言える。

「虫歯や歯周病は97.7%予防できることが、2004年に発表された論文で医学的に証明されています。ただし、ホームケアに加えて定期的にプロのメンテナンスや予防教育を受ければ、という条件付きです。すなわち、痛くなくても歯医者に通うというそんな予防医療の文化を日本に根付かせたいという思いが高まっていきました」

事業の本質を見誤らず、軌道修正は柔軟に

順調に認知を広げる〈ノーブナイン〉だが、事業設立までには時間がかかった。話は大学院時代へと遡る。

 

「当初は、一生虫歯・歯周病にならない薬があればいい、という単純な理由で、大学院に進学をし再生医療の研究をしていました。学会で賞をいただくなどの成果は出たものの、社会が1ミリも変わる気がしなかったんです。例えば最近では京都大学の教授がノーベル賞を取られたように、あれほどの方が何年もかけて形になる。私ごときがやっても臨床で使われるのは100年先の話……。でも実際、虫歯・歯周病を無くすのは難しい話ではありません。そのための予防知識を短期間に効率良く広める方法は、事業化だと気づきました」

そうして舵を切ったものの、事業設立までは苦労の連続。事業計画を書き始めた2011年から創業まで、道のりは6年に及んだ。壁になったのは、温故知新を良しとする医療業界の性質だ。なかでも多いのが「オンラインでは歯を治せない」「予防が浸透したら歯科医が儲からなくなる」といった意見だと言う。

 

「前者に対しては『予防教育はできる』ことを伝えていきます。そのためにはやはり、歯科医療=歯を削る、という固定概念を変える必要があります。また後者には『予防を徹底した方が歯科医院は儲かる』という説得もして。予防通院が当たり前になれば、患者さんの母数が増え、歯科医院は経営的に安定します」

歯科系ベンチャーというのは珍しく、前例がないゆえ資金調達にも苦労した。当初は子ども向けサービスを企画していたが、周囲の反応を受け、全世代の男女へ向けたものにシフトチェンジした。そんな紆余曲折を経て、〈ノーブナイン〉はビヨンドネクストベンチャーズからの資金調達を達成。IoTデバイスの開発は大きく進み、同じ志を抱き、それぞれ異なるスキルをもつ仲間も集まった。ただ、「虫歯・歯周病の予防が当たり前の社会に」、さらにその先にある「歯の悩みにとらわれない自由で自分らしい人生を創出する」という志はずっと変わらないと竹山氏は言う。

 

「どんな事業にも当てはまることですが、事業の本質さえ見誤らなければ、どんな時代の変化にも対応できます。本質的な事業を展開していくと心に決めて、常々行き先を間違えないようにしています」

オンライン診療のハードルはますます低く

〈ノーブナイン〉の主なサービスは、口臭を測定できるIoTの電動歯ブラシ「SMASH」や、そのデバイスに連携し、患者が歯科医・歯科衛生士にオンライン相談できるアプリ。電動歯ブラシには“お口の健康のバロメーター”である口臭をチェックするセンサーを搭載。歯磨きの度に呼気から測った口臭をアプリで確認し、必要な際には登録歯科医・衛生士に対してアプリを通じて相談できる。実際に通院となれば、独自の基準を満たした登録歯科医・衛生士のいる歯科医院のマップにリンクが飛ぶ。ホームケアとプロのケアの双方を、シームレスにまかなえる仕組みと言える。

「対面診療は欠かせませんので、オンラインが全てを凌駕するとは思いません。ですがオフラインにも様々な制約があるので、オン・オフ組み合わせることで多くの方のニーズに応えていけると思います」

 

長引くコロナ禍で予防意識が高まる一方、通院を控えて口腔内トラブルが悪化する人も増えていると言う。今後も、歯科のオンライン診療はますます浸透すると竹山氏は予想する。

 

「医療界でオンライン診療(遠隔診療)の議論が始まったのは2017年頃ですが、コロナの影響で、初診でもオンライン診療・相談の解禁が、政府から発表されました」

 

最後に今後の展望を尋ねると、竹山氏は2025年をターニングポイントに挙げた。

 

 

「団塊の世代の方々が全て後期高齢者になる2025年問題がじきにやってきます。医療財源はますますひっ迫し、医療保障も厳しくなるでしょう。そんななか、予防で防げる歯科疾患は全身の健康にも大きく関連していることが明らかになってきた現在においては、予防意識がますます浸透していくと思いますね」

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