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ENILNO いろんなオンラインの向こう側

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ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。
これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

地方在住者が在宅アニメーターへ。オンラインアニメ塾が変えた業界のあり方

日本の文化的アイデンティティとして国内外で高く評価されているジャパニメーションが今、深刻な状況に立たされている。

 

昨今は子どもを対象にしたアニメだけでなく大人向けのアニメも増え、1クールのコンテンツの増加や、サブスクにおけるオリジナルアニメ展開など、需要が激増。それに対して慢性的な人材不足や人材育成に陥っているのが、今のアニメ業界の実態だ。

アニメーターを志望する人は多いが、高いクオリティを求められる狭き門。こだわり気質な業界であるがゆえに、ジャパニメーションでありながらも、人材不足で手が回らずにクオリティが落ちても短期間で大量納品に対応可能な海外に発注しているという矛盾も起きている。

 

また、制作拠点にも問題がある。京都アニメーションやP.A.WORKSなどを除き、アニメ制作会社のほとんどは一極集中しており、優秀なアニメーターが都心に偏っている。また、アニメは作業の工程においてまだまだアナログな側面が色濃く残っており、東京の現場で作業できるアニメーターがいないと成り立たず、地方での制作は困難とされていた。

 

宮崎県など複数の地方を拠点にアニメーターの育成・アニメ制作を展開する株式会社RICE FIELD(ライスフィールド)は、そんなアニメ業界に“オンラインアニメ塾”で風穴を開けた。代表取締役の田原麻美氏に、これからのアニメ業界のあり方について、そして次の一手について話を聞いた。

外出困難者や障がい者に社会的意義を。在宅アニメで地方から発信を実現

『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』などを手がけるアニメ制作会社・シンエイ動画で制作業務に10年従事した田原氏は、ネクストキャリアとして海外経験が長い商社マンとタッグを組み、活動の場をグローバルに展開すべく同社を設立。本社は東京だが、田原氏の故郷である宮崎県にも拠点を構えた。

 

「アニメ業界では紙と鉛筆で制作するのがメインですが、それだと場所の制約がある。弊社では、どこにいても携われるように一貫してiPadで制作すると決め、従来のアナログの仕事は一切していません。完全デジタル化に移行することで、地方からアニメビジネスを発信することが可能になりました」(田原氏)

まず田原氏が着目したのは“地方での人材育成”だ。地方にいながらアニメーション制作業務でプロとして働くスキルの習得を目的とした“アニメ塾”を開催した。オフライン・オンラインでの開催を実施。

 

優秀な人材が東京に集中しているのであれば、彼らを引き抜くのではなく、宮崎で絵を描くことが好きな人や独学で技術を磨いた人など、アニメ関心層でポテンシャルがある人を育てることに注力したほうが、長期的に見てアニメ業界を支える人たちを増やせることになる。

「当初は、育児中の専業主婦をターゲットに、1日2時間のスキマ時間で対応してもらう予定でした。このような短時間の労働体系は他の仕事ではなかなかありませんし、働きたくても時間がない主婦の方にとってニーズがあるのではないかと思いました」(田原氏)

 

ところが、実際にアニメ塾に参加したのは、障がいがある人や特定疾患を持っている人、シングルマザー、無職の若者など、働きたくても働けない事情を持った外出困難者だった。想定した人数は一度の開催に4〜5人だったところ、60人近くも集まった。

「当初のターゲットとは違いましたが、社会に居場所がない人たちに役割を提供できればと思い、彼らを指導するようになりました。最初から優秀な人なんてそういません。アニメ業界は狭き門ですが、宮崎で熱意のある人材を育てようと切り替えました」(田原氏)

 

これまで働きたくても働けなかった社会経験が乏しい人たちを指導するうえで、「自分の理想を押し付けないことを大切にしている」と話す田原氏。才能の芽を摘まず、相手の目線に合わせた指導を心がけている。

「アニメ業界の人材不足の一因に、理想が高く職人気質である人しか求められていないことが関係していると思っています。最初から抜群にできる人しか望まれていない狭き門だから供給が追いつかないし、なかなか教育も行き届かないから下が育たない。

 

私は納期を守ることと、人に迷惑をかけないこと以外は何も指摘しません。最初から完成度が高い人ではなくても、商業アニメのクオリティまでは教育次第でもっていくことができますから、育てて規模を拡大していくことを目指しています」(田原氏)

実際の制作はオンライン環境とiPadひとつあればできるため、現在はそこから育ったメンバーに『ドラえもん』をはじめ、『劇場版からかい上手の高木さん』や海外アニメーションの仕事などを発注できるようになった。

 

その結果、アニメーターとなった彼らの両親を喜ばせることもできた。これまで一度も働けなかった人が、国民的アニメの制作業務に携わる。家族が一緒になってドラえもんを見て、家族間のコミュニケーションも活発化した。田原氏は「アニメが家族団欒の一助になる瞬間に立ち会えて嬉しい」と話す。

行政もアニメ活用へ。代理店料ナシで使用シーン増

オンラインを活用して始まった人材育成プロジェクト。想定外だったのは、行政から予算が出たことだった。

 

「私たちの活動が目に留まり、自治体の子育て支援課から予算が出て、一部のシングルマザーが無料でアニメ塾に参加できるようになりました。地方からアニメを発信することに関して行政も前向きなんです。これまで働くチャンスがなかった宮崎の人たちに参加してもらい、クライアント先である東京や海外の仕事を請け負ってもらう。宮崎県外で動いていたビジネスを宮崎県内で行い、地元に還元させていることが大きいのだと思います」(田原氏)

 

行政だけではなく、一般企業からもアニメが一目置かれている。UMKテレビ宮崎の「U-doki」のオープニングアニメーションも担当することになった。

「これまで一般企業がアニメ業界に仕事を発注する際、代理店を介さないと発注できなかったので、コスト的に依頼のハードルが高かったと思うんです。弊社は代理店を通さないので、一般企業にとって手が出せるようになったのが大きいですね。

 

また、若者に訴求したい時にアニメという選択肢を選ぶ企業も増えてきた印象です。芸能人起用だと不祥事問題も少なくなく、そのような観点でも企業のアニメは信頼を獲得している。私が前職で管理する側の人間だったので、企業が仕事を発注する際に何が相手にとって懸念事項なのかが分かるので、それをメンバーにしっかり共有できた上で進めています」(田原氏)

アニメの活用シーンが増え、アニメ塾生の精鋭隊の活躍も目覚ましい。とはいえ、制作の現場は自宅でひとり、オンラインで行う、孤独な作業だ。彼らのモチベーション管理をどのようにおこなっているのだろうか。

 

「参加者の交流を活性化させるために、オンラインでチャットグループを作って横のつながりを強化しています。定期的に昇進テストも設け、次のステップへチャレンジしてもらうなど、お互いに刺激し合う関係性も意識して構築しています。とはいえ、オンラインだけではまかなえない、仕事以外の交流も大切にしたいので、不定期でオフラインの集まりも開催していますね」(田原氏)

こうして熱意はあるがチャンスがなかった人たちに、仕事を与えるだけでなく、商業アニメを通して社会的意義をも与えられるようになったライスフィールド。今後の展開に目が離せない。

田原 麻美

Asami Tahara

株式会社RICE FIELD 代表取締役

武蔵野美術大学卒業後、シンエイ動画株式会社入社。約10年ドラえもんの制作に携わる。2019年、ドイツへ移住。独自で海外の市場調査を行う。2020年帰国後、会社設立準備。2021年1月5日、株式会社RICE FIELD設立。

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