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ENILNO いろんなオンラインの向こう側

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ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。
これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

41年分の東京の姿を定点観測、WEBメディア『ACROSS』のもつアナログ性

デジタルな空間でありながら、アナログなコンテンツで人気を博す。その一つが、パルコのファッション・カルチャーのシンクタンクが運営するWEBメディア『ACROSS(アクロス)』だ。毎月、渋谷、原宿、新宿の路上で、若者とファッション・カルチャーを観察・インタビューする「定点観測」を基礎研究とし、東京の若者とファッション・カルチャーの研究を続けてきて、今年で41年目を迎える。つまり、1980年8月より実施されているから驚きだ。他にも、新しくオープンしたお店やイベント、事象を取材。それらの写真やインタビューデータ、資料をアーカイブスしている。若者“の” ファッション・カルチャーではなく、若者“と”ファッション・カルチャーを紐解く同メディア。その成り立ちについて、ACROSSの編集長・高野公三子氏に聞いた。

高野 公三子

Kumiko Takano

株式会社 パルコ『ACROSS』編集長

パルコのファッション&カルチャーのシンクタンク「ACROSS」の代表。社内および関連会社、ならびに外部企業等からのリサーチや共同研究、コンサルティング業務などを行なっている。編集室の近著に『ストリートファッション1980−2020定点観測40年の記録』(PARCO出版)。共著としては、『ファッションは語りはじめた~現代日本のファッション批評』(フィルムアート社)、『ジャパニーズデザイナー』(ダイヤモンド社)他。日本流行色協会トレンドカラー選考委員、昭和女子大学、文化学園大学院講師。

マーケティングとしての定点観測

街中のオシャレな人にフォーカスしたスナップ企画は、ファッションメディアによく見られる。しかし、ACROSSの定点観測が目指すものは少し異なる。「考現学×エスノグラフィー×フィールドリサーチ/ワーク」という考え方をベースに、街の若者とファッションやカルチャーから、生活者のライフスタイルの変化を読み解こうというもの。「服装は社会の表現である」という言葉にもあるように、表層的にファッションをチェックするのではなく、時代の空気や価値観の変化の“きざし”、次なるトレンドの“ヒント”といったものをキャッチするために実施しているのだ。

 

「定点観測を開始した1980年という時代は、渋谷を中心にどんどん街が成長している時期でした。その変化を捉えるには路上が最もリアルではないか、という仮説から初代「ACROSS」編集長のもと始まりました。大きな差異ではなく、小さな差異を路上の主役である若者たちから見つけ出そうという試みです」

トレンドとなっているアイテムを身につけるオシャレさんを撮影するのではない。それとは一線を画し、微妙な差異を見つけ出そうとしている。

 

が故に、やみくもに街に繰り出すことはない。毎月の調査前にプレサーベイを行い、当日注目する「アイテムやスタイル」を事前調査により決定するようだ。例えば、1980年8月9日に実施した第1回目の定点観測では、「ポロシャツ」「ツートンスカート」(写真右)を調査。その年の秋には流行を汲んで、パンクファッションが若者を中心に人気となったことが調査から見えてきた(写真左)。

 

「パルコは百貨店ではなくテナントビジネス。テナントオーナー様に“流行の少し先”のマーケティングレポートを届けるためにも、もっと消費者に近づこうとしたのだと思います。売上データは日々わかるわけですが、それはあくまで結果ですから」

根掘り葉掘り聞くインタビュー

定点観測は、毎月第1土曜日、渋谷・原宿・新宿の3カ所同時に実施する。お昼過ぎに現地に集合し、通行人数と流行アイテムを測定する時間は13時半〜14時半。毎回600カット×3地点となるから、収集される写真数は相当なものになる。

 

「1時間ですが、男性、女性の通行人数から、当月の該当アイテムやスタイルの着用率を測定することで、『流行の浸透率』を算出しています。観察者の『流行っているな』という感覚を客観的に立証しようという試みです」

2021年10月の最新の定点観測では、「男性・女性革靴」が観察対象となった。長くスニーカーブームは継続しているものの、革靴に移行する空気も醸成されつつあったからだという。定義は、黒革靴を対象とし、アッパーが黒いレザーまたはフェイクレザー素材の靴を履く男女すべてが対象となった。ブーツやスリッポン、パンプスなどデザインは問わない。その結果、革靴率は3地点平均約女性が20.3%、男性は12.6%となった。しかし、ここで出てくる数値はあくまで参考程度に止める。

 

「トレンドの細分化と同質化、世代別の特徴、街の変化や人びとの価値観の変化など、さまざまな要素を複合的に分析する姿勢も大切にしています」

スナップの撮影だけでなく、インタビューにも力を入れている。収入や実際の可処分所得、誕生日、現在ハマっていること、悩みごと、親の年齢に至るまで、毎月約30名に徹底的に聞いているとのこと。

 

「街頭アンケートではありません。編集部のスタッフやアルバイトのスタッフらが直接1対1で聞くという点が、他のメディアやスナップとの差別化に繋がっていると思います。アンケートは問いに対する表面的な回答しか回収できない。インタビューをさせてもらうことでは、問いそのものを発見することもあったり、話す時の仕草や雰囲気なども重要な情報になります。そういう1つひとつの細かいことがあって、インサイトへの理解に繋がるのだと思います。そういえば、2000年代まではメディアのスナップ隊が街に溢れていましたが、今は見かけなくなりました。アプリやインスタから効率良く探すメディアも多いのかも(笑)」

 

コロナ禍においては、この定点観測がオンラインで実施された。

 

「新型コロナ禍では路上での実施は中止を余儀なくされました。でも、こんな大きな社会の変化に定点観測をしないわけにはいきません。そこで、編集部員みんなで考えて、ふだんインタビュアーとして手伝ってくれているアルバイトスタッフのみんなとオンラインでスペシャル定点観測を実施しました。

オンラインだったのにもかかわらず、予想外に盛り上がりました(笑)。コロナでなかなか人と触れ合えない時期だったこともあると思います。または、それぞれ自身の部屋にいるのでリラックスしていたのかも。いろいろ雑談しているなかで、購入した理由や対象のアイテムへを思い入れなど、新たな発見がたくさんありました」

 

定点観測では、ミクロな視点をもちつつも、「定性」「定量」の両方をかけ合わせて解析するというスタンスに独自性があると言えるだろう。

グーグル“Arts & Culture”のファッションプロジェクトへ

当初、紙媒体として発信していた定点観測は、2000年にWEBメディアと進化した。41年の年月の間に、昭和から平成、そして、今の令和へと歴史が流れた。「若者とファッション・カルチャー」の変遷は、書籍『ストリートファッション 1980-2020—定点観測40年の記録』にまとめられている。この間、「カラス族」や「渋カジ」「裏原宿」「コギャル」「森ガール」「シティボーイ」など、様々な流行が生まれた。

 

「膨大なデータを駆使するAIによってあらゆるシーンで最適化が進行する今、わたしたちの行動や思考、ともするとクリエーションの源泉までをも『外部化』することで、結果的には多様性が失われているのではないか、という新しい課題も浮上しています。変化の激しい時代こそ、真の変化を捉えるには『定点観測』が有効ではないでしょうか」

 

同編集室では、定点観測をはじめ、一般人の消費を毎日日記として更新される「消費生活」も運用。こちらもミクロな視点で個人消費を見るという企画だ。徹底して個人の消費のあり方が表現されているのが興味深い。毎月5人が選出され、日々の消費を紹介していく。「半年間での大きな買い物」「人よりお金をかけているもの・こと」なども確認でき、それぞれのライフスタイルがいかに異なるかがわかる。

 

また、国内外の外部企業や団体などからの各種マーケティング業務の受託、共同研究、トレンド分析・予測などの発表も行う。世界唯一無二の『東京のストリートファッションのアーカイブ』は貴重で、2017年以降、Google Cultural Instituteが主宰する“Arts & Culture”のファッションプロジェクト、“We Wear Culture”に参加。ニューヨーク、ロンドン、パリ、東京など大都市を中心に、 約180の博物館・美術館、学校などの収蔵品3万点以上が公開されるオンラインミュージアムで、ここで40年以上の東京の流れを確認することができる。文化的な価値をも見出しつつあるのだ。

 

「ACROSSというメディアはオンラインですが、フィールドはあくまでも路上です。実は今年前半に、博報堂生活総合研究所のチームと一緒に過去の定点観測の画像をAI解析するというリサーチプロジェクトを行なったのですが、面白かったのは結局、アナログな知見、AIが示したデータを読み解くには、編集室に蓄積された知見が必要だった、というシンプルなことでした。また、データに示されなかった部分にも重要な情報があったり。そういう意味では、路上に人が行き交う限り、『ストリートファッションの基準』となるアナログなデータを収集することは未来永劫、必要かもしれませんね(笑)」

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