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「発想の自由を解放」まったく新しいIoT玩具「PLOCO」開発の軌跡

スタートアップは、世の中に存在しないサービスやプロダクトの開発に挑むことが多い。開発の過程で、「もう無理かもしれない」と感じることが何度もあるだろう。その際に、何を原動力にして突き進んでいくべきなのか。

 

そのヒントを持っているのが、大阪市のスタートアップ<白紙とロック>だ。同社は、2021年3月にアメリカで、同年4月に日本でIoTスマート玩具「PLOCO(プロコ)」を発売。ブロックを使って自由に作品を組み立て、専用のリーダーでデータを読み取ると、スマートフォンのアプリ内で作品を対戦させられる玩具だ。開発を牽引した同社代表の渡部一成氏にお話を伺い、理想を具現化するために必要な心得を探った。

渡部 一成

ISSEI WATANABE

株式会社 白紙とロック代表

20歳の時に有限会社team-Aコーポレーションを設立し、主に中小企業のEコマースの立ち上げをコンサルティング。その後、株式会社サイバースター(後に株式会社アイスタイルに吸収合併)に入社し、SEOやリスティング広告などのWEBマーケティングに携わる。
自身で設立した有限会社team-Aコーポレーションに戻り、バンコク(タイ国)でWALTZ Co,.Ltd.を設立する。ニューテクノロジー開発に関わる中で、新しい「決済処理システム及び決済処理方法」を発明し特許を取得。GMOペイメントゲートウェイ株式会社へ特許権利を譲渡し、2018年に株式会社白紙とロックを設立。「PLOCO」をはじめとする様々な発明を行い、パテント系ベンチャー企業としてグローバル展開を目指す。

あえて説明書はない。自分で考えたオリジナル作品をアプリで楽しむ

もしも自分が頭の中に描いたイメージが形になり、目の前で動き出したら、どんなにワクワクするだろう。

小さなころ、そんな理想を頭に描いた人もいるかもしれない。<白紙とロック>が開発する「PLOCO」には、その夢を叶えてくれる力がある。

「PLOCO」は、IoTを活用したブロック型の知育玩具だ。「ブロック型の玩具」と聞くと、「あらかじめ決められたキャラクターなどを説明書通りに組み立てるもの」というイメージを抱く人もいるかもしれない。だが、「PLOCO」には組立説明書が存在しない。自分が頭の中に浮かべたイメージを、作品として自由に組み立てられるのだ。

 

さらには、これらの作品を育てたり、世界中の子どもたちがアプリ上で対戦したりして遊べる。ブロックには特殊なタグが内蔵されていて、これらを専用の機器で読み取り、アプリにスキャンすると、さまざまな遊び方ができるのだ。使用するブロックの色や数、種類でゲームの展開も変わる。今は、アプリ上での対戦ゲームの提供が中心だが、今後は育成ゲームやスゴロクゲームにも幅を広げる予定だ。

「PLOCO」の利用イメージ(上記の画像をタップすると動画が再生されます)。自由に作品を組み立てて、アプリで遊ぶことができる

 

あえて組み立て説明書をなくし、「ユーザーの自由な発想」にプロダクトを委ねた理由。そこには、「PLOCO」を発想し、開発を牽引してきた渡部氏の願いが込められている。

 

「私たちは、『PLOCO』のコンセプトとして、『考えるをあそぶ、つなぐ』と掲げています。これには、考えることそのものを楽しんでほしい、自分なりの発想を大切にしてほしいという願いを込めているんです。自分の中で『面白い』と思えるような発想を持っていても、それを否定されてしまったり、決められた型にはめられたりして、個性の芽が潰されてしまう人は少なくありません。でも、本来は人ぞれぞれの正解があっていいはずなんですよね。

 

特に最近のコンテンツやゲームは、初めから楽しみ方が決められていますよね。自分たちで楽しみ方を見つけることがほとんどないように感じていました。特に、小さなころからオンラインと接触していると、楽しいことが山ほど提供されるので、自ら『遊び』そのものを生み出す機会がどんどん減っています。

そこで僕たちは、あえて組み立て説明書という正解を取り払った。『PLOCO』に触れたユーザーが自身の発想を解放する場にしてほしいと考えています」

「遊ぶ」をアップデートしたいという思いを起点に、PLOCOを発想

渡部氏が白紙とロックの4人のメンバーとともに、「PLOCO」を発想したのは2018年のこと。これまでは、通信販売などでWebマーケティングのコンサルティングの仕事を重ねてきた渡部氏だが、少しずつ自社ブランドへの憧れを募らせていった。

 

「僕自身はマーケティングが専門で、クライアントが開発した商品に付加価値をつけるような仕事をしていました。ですが、人が作ったものでビジネスを展開するのではなく、自社でプロダクトを生み出し、広げていきたいと考えるようになったんです。もともとアイデアを出すことは得意でしたが、それだけでなく、次は自分たちでカタチにするところまでやり切りたいな、と。当時の僕は、32歳。年齢的にもまだ挑戦ができる。そこで、思い切って自社プロダクトの開発に乗り出しました」

 

その際に掲げた条件が、「自分自身が楽しんで開発にあたれること」。思い入れが強い方が、開発に尽力でき、思いがユーザーにも伝播していくと考えたからだ。

「PLOCO」を開発した白紙とロックのメンバー(左から2人目が渡部氏)

 

同世代のメンバーとディスカッションを重ねる中でふと話題に上ったのが、1991年にエポック社から発売された電子ゲーム機の「バーコードバトラー」だった。ゲーム機本体にあるスリットにバーコードの付いたカードを読み取らせると、そのカードに内蔵されたキャラクターやアイテムがゲーム機の中に登場し、対戦ゲームなどで遊べる仕組みだ。

 

「みんなで昔よくやったゲームや流行った遊びなどについて話しているうちに、ふと『バーコードバトラーの現代版を作ったら面白いんじゃないか』という話になったんですね。当時はバーコードでしたが、今はQRコードやICタグも開発されている。その延長線上として、自分が作ったものをスキャンして戦わせたら、ユーザーの想像力も刺激できるのではないかと考えたんです。特に今は、テクノロジーも進歩していますよね。昔遊んだものに、IoTの技術を組み合わせて『遊びのアップデート』に挑戦してみたいなと。構想を描いていて僕自身もワクワクしましたし、楽しそうに遊んでいるユーザーの姿も思い浮かんできたので、早速、開発に乗り出しました」

世にないものを作る厳しさを実感。「もう無理だ」からの脱却

開発に乗り出した同社は、ブロックのデザイン、内蔵するタグの選定、ブロックの成形、アプリ開発をする4社と提携し、約2年の歳月をかけてPLOCOを具現化させていった。開発の苦労を問うと、「外部パートナーとのコミュニケーションがもっとも難しかった」と渡部氏は振り返る。

 

「僕たちが作るプロダクトは、これまで世の中に存在しなかったものです。化粧品や食品などすでに存在するものをアップデートするような開発だとイメージが湧きやすいですが、『専用のリーダーでスキャンすると、アプリで対戦できるおもちゃ』と伝えても、どうやって実現したらいいのか、なかなか想像できませんよね(笑)。

また、4社で歩幅を合わせていくことも苦戦しました。PLOCOはIoT玩具ですから、4社の技術を組み合わせなければ具現化が難しい。とはいえ、それぞれ専門領域が違い、独立した企業ですからね。いかに4社の技術を融合させていくか、課題が生じたときにどう説得して乗り越えていくかは、かなり頭を悩ませました」

 

もっとも印象的だった出来事として、渡部氏はタグを内蔵したブロックの成形を挙げた。

このブロックは、タグが入ってる蓋のパーツと本体パーツから成り立っている。2つの部品を超音波による振動と圧力を使って溶着させているのだが、後付けしたのがわからないぐらいなめらかに仕上がっている。だが、当初は技術的な問題で、0.1ミリ程度の隙間ができていたのだという。

 

「僕としては、隙間が一切なくなめらかな状態をイメージしていたので、焦ってしまいましたね。『なんとかして隙間を埋められませんか?』と聞いたのですが、『難しい』の一点張りでした」

 

このままあきらめて、隙間が空いた状態で発売すべきか……。そんな考えが渡部氏の頭によぎった。だが、そこで浮かんだのは、「PLOCO」で遊ぶユーザーの姿だった。

 

「もしも隙間が空いた状態で発売をしてしまったら、爪を引っ掛けて思わぬケガをしてしまうユーザーがいるかもしれませんよね。そして何より、隙間が空いていると美しくない。安全に楽しめて、頭の中に描いたキャラクターが美しく仕上がることこそが、ユーザーにとっての『楽しさ』につながるのではないか。そう考えたんです」

 

渡部氏は工場に赴き、説得を続けた。担当者に会い、「なぜ隙間を埋めたいのか」「隙間があることでどんな危険性が生じるのか」など、「理由」を地道に伝えていった。

 

その結果、思いが通じ、担当者が知恵を絞ってくれたのだ。試行錯誤を繰り返した結果、ブロックの四隅にのりしろ部分をつけることに。見事に隙間が埋まった。

上部が完成品のブロック、下部はプロトタイプ

 

この経験から渡部氏は、外部パートナーとともにプロジェクトを進めていくうえでの心得を学んだ。

 

「パートナーシップを組んで仕事を進めていると、『想定と違った』と感じてしまうことが必ず起きると思うんです。その時に、『今の出来はダメだ』『満足できない』という結論を伝えるだけなく、『なぜ、ダメなのか』という理由を伝えていくことで、相手が協力してくれるのだと実感しましたね。外部パートナーは、いわば『自分たちの要望を形にする人』ではなく、『共にユーザーに価値を届ける仲間』。特に資金力もリソースもないスタートアップが多くの人を巻き込んでいくためには、パートナーに『どんな体験を与えられるか』がカギになると思うんです。僕たちのプロダクトが形になり、ユーザーの手に届くことで、どんな価値を世の中に与えられるのか。そういった意味づけを伝え続けていくことは、プロジェクトを進めるうえで欠かせないと実感しています」

市場の大きなアメリカで勝負を挑む

開発に2年の月日を費やした「PLOCO」は、2021年3月にアメリカで、同年4月に日本で発売される。アメリカでの発売を先行させたのは、渡部氏の決意の表れだ。

 

「僕は『PLOCO』を通して、ユーザー一人ひとりのアイデアが形になり、尊重されることの喜びを届けていきたいと考えています。その喜びを、日本だけではなく、世界に届けたい。そのビジョンは、グローバル競争で勝ち抜いていかなければ実現は不可能です。あえて市場が大きく、優秀なスタートアップがひしめくアメリカからアプローチを始めて、本気でプロダクトやマーケティングを磨いていこうと考えました。特にこのプロダクトは、言葉の壁の影響を受けにくい。プロダクトの魅力で勝負をすることができると考えてます」

同社は、アメリカの証券取引所NASDAQ(ナスダック)での上場を目指しているという。この先も、数多の困難が訪れるだろう。「ユーザーの反応は怖いですよ」と前置きをしつつ、最後に難題に挑む決意を渡部氏は語ってくれた。

 

「ユーザーのフィードバックを目にする中で、開発中に感じたように、『もう無理だ』と思うことも何度もあるでしょう。けれど、僕は何としてでも、一人ひとりの発想が尊重される世界を作っていきたい。このゴール地点は、決して変えてはいけないと思うんです。困難に直面したとしても、ゴール地点は妥協せず、到達までの道筋を変えながら『PLOCO』と共に突き進みたい。迷った時は、楽な道ではなく難しい道を選択して成長を続けていきたいですね」

「PLOCO」によって、オンラインで育まれる“遊び”の感性がどのようにアップデートされていくのか。この先も見届けていきたい。

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  • 公式Facebookページ

取材:藤原梨香

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