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ENILNO いろんなオンラインの向こう側

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ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。
これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

社会派アートディレクター山崎晴太郎氏に見る リアルとデジタルを越境するデザイン思考の作り方

社会の仕組みが急速に変わる時代の今、「デザイン思考」が見直されている。ここでいうデザインとはプロダクトや建築に留まらない、経営戦略やブランドイメージなどを含む広義のデザインだ。そうした世の中のトレンドを体現するように活動域を広げているのが、アートディレクター/デザイナーの山崎晴太郎氏だ。グラフィック、WEB、プロダクト、アートインスタレーション、建築など、ジャンルを超えたデザインとブランディングを行う。例えば、3Dプリンターと鋳造事業を手がける企業やEV自動車充電器メーカーでは取締役兼CDO(チーフ・デザイン・オフィサー)を務め、東京2020では組織委員会スポーツプレゼンテーション・クリエイティブアドバイザーに就任。またラジオパーソナリティやアーティストとしての一面もある……とユニークな経歴に驚くが、注目したいのはリアルとデジタルの境界を軽々と飛び越えていることだ。そんな独自のクリエイティビティの源になっているものは何か? セイタロウデザイン代表の山崎晴太郎氏に尋ねた。

オンラインの広がりでデザインにできることが増えた

「社会を右脳で刺激する」――山崎氏率いるセイタロウデザインのポリシーだ。2008年の設立以降、様々な分野のデザインとブランディングを行ってきたが、近年は「テクノロジーの成熟によって、できるようになったことがたくさんある」と山崎氏は話す。

 

「一人一人が発信力やコミュニケーションという武器を持てるようになり、“社会を変えるデザイン”を世の中に広くリーチできるようになりました。これまでは大手企業に所属していなければできなかったものが、今は僕のような小さなデザイン会社でもそれができる時代です」

その一例に、2021年から山崎氏が法務省矯正局と取り組んでいる刑務所の職業訓練がある。セイタロウデザインでは、「販売戦略科」として、受刑者に広告制作を教えている(写真上2点が完成した広告)。刑務所における職業訓練事業にデザイン事務所として入ることで、社会インフラとして刑務所のあるべき役割を見直しアップデートするのが目的だ。法務省矯正局がデザイン事務所と連携して職業訓練を実施することは全国初というから、刑務所とデザインという耳慣れない組み合わせに戸惑うのも無理はない。が、こうした取り組みにこそ同氏は大きな意味を見出している。

「これまでデザインが入っていなかった領域にデザインが入ることで、世の中がもっとポジティブに豊かになるっていうのを、僕はすごい痛感していて。オンラインが浸透したことで、そこへの境界を乗り越えられるようになりました。こうしたプロジェクトは、今後10年くらいは僕の“1丁目1番地”として、一生懸命取り組む仕事だと思っています」

 

最近では、デザイン経営というワードを耳にする機会も増えた。山崎氏が携わるEV自動車充電器メーカー「PLUGO」(写真上2点)のように、デザインをビジネスやブランド構築やイノベーション創出に活用しようという機運が高まっている。

 

「デザインって本当に良い仕事だと思っていて。世の中には良いものがたくさんある、けれどそれが全然伝わっていなかったり、大きな壁があったり。そんな概念化されていないけれど良いものを見つけて、そこに価値を与えていく。それができる人が増えていけば、社会はどんどんおもしろくなると思います」

キンドルとNike Run Club

生活に欠かせないデジタルツールを挙げるとしたら? 山崎氏にこんな質問を投げかけてみると、真っ先に挙げてくれたのが「キンドル」だ。山崎氏といえば読書家としても知られ、本好きが高じて2016年から数年、金沢にタイポグラフィ専門の古書店を運営していたこともある。

 

「キンドルは今4台目になります。初期は本のページをめくる行為がないとどうしても知識が入っていかない気がして、漫画くらいしか読めなくて、正直乗り越えられないかな……とずっと思ってたいたんですが、最近は結構読めるようになりましたね。ただ、紙の本よりザッピング形で読むようになりました。読む速度が速くなり、量は増えたけど読む粒子はちょっと荒くなった感じです」

面白いのが、学術書などは紙の本で読んだり、場合によっては紙と電子版どちらも購入する本もあるということ。本によって使い分けをするのはなぜか。

 

「どんな新しい体験をする場合もそうなんですが、世界や知識を取り込むためにはフィジカルで “所有している”ことが、結構僕のなかでは大事なことだったりします。紙の本を所有するのはやはり僕の頭の中の一角を占めている感じがしますし、紙の本を開くことはその知識を入れ込む儀式なのかもしれません」

 

ランニングが毎朝の日課という山崎氏がもう一つ挙げてくれたのが「Nike Run Club」というアプリだ。記録をアーカイブし健康管理に役立つこうしたアプリは多いが、山崎氏が気に入っているのはモチベーションをあげてくれるコミュニティ機能だという。メンバー同士で「今週は何キロ走ろう!」という目標設定が共有され、バーチャル大会なども開催される。

 

「もともとみんなで一緒に何かをやるのはあまり得意なタイプではないんですが、アプリを通じて知らない人の頑張りに鼓舞され走ることもあります。パーソナルな部分がパーソナルなまま繋がってコミュニティ化するというのは、とても今風な繋がり方だなと思いますね」

8Bの鉛筆と紙で概念を形にする

前述したように、新しいテクノロジーに対しては前向きな山崎氏だが、もともとはアナログな出自ゆえ、アナログでなければダメなものがあるという。

 

「経営的な戦略を作る時も、デザインワークを作る時も、空間設計をする時も、紙と鉛筆から全てが始まります。それも最初は8Bや6Bなどの柔らかい鉛筆から。それを紙の上でガチャガチャやっていくと、ぼんやりとしたままでも結構書けちゃうんですよね。思考が曖昧なまま出力され、転写されていく感覚。それを何回もやると繰り返し書いたところが線として立ち上がってくるわけです、濃くなって。最終的に、その線を概念として拾っていきます」

企画書をワードやパワーポイントで作ることはもちろんあるし、細部を詰めるのはやはりグラフィックの作業になる。だが、初めからマウスやキーボードを使うことは決してない。物事や概念を「最初から定着させる感じがしてしまう」からだ。

 

「曖昧なもののなかに大事なものがある。逆に言うと、そこにしか次の時代の新しいイノベーションはないような気がしているんです。僕の仕事は、これまで概念化されていないもののなかに、新しい概念価値を見つけて、そこに言葉やビジュアルを与えて世の中に概念として“引き上げる”というイメージです」 

大きいスマホは持たない

インターネットが標準装備になりスマホやSNSは浸透した。AIが人間の仕事を奪う、とかスマホ依存が害をもたらす、といった不安の声はよく挙がるが、山崎氏は進化するテクノロジーにどう向き合っているのだろう。

 

「人間なので、どうしてもラクな方・楽しい方に流れるっていう面は必ずあります。デザインの場でよく使われるゲーミフィケーション(*)やアフォーダンス(*)の考え方と同じです。僕はそこを理解した上で、ネガティブな方向を塞ぐのではなく、それ以上に面白いものをセットして、心が自然とそちらに流れるようにしたい。その方が、楽しい生き方だと思うからです。欲求を我慢するのではなく、自分の気持ちをポジティブにずらすような工夫はよくしているかもしれません」

 

*ゲームデザイン要素やゲームの原則をゲーム以外の物事に応用すること

*形から使い方(情報)を発見できる、という考え方

 

具体的にはこんなことだという。隙間時間にスマホをついつい携帯・見てしまう、というなら、例えばソファのサイドテーブルやトイレやお風呂場など、家中の隙間時間ができそうなところに本やゲームなどを置いておく。「スマホかな? ゲームかな? 今日は本だな!」と、前向きに別の選択ができる。些細なことではあるが、そうした代替案を自分なりに考えておくという一例だ。

 

ただ、そんな山崎氏にも一つだけ決めている事があって、意外にも「大きい(デバイスの)スマホは持たない」ことだという。スクリーンが大きくなることで、没入しやすくなる、というのは感覚として理解できる。

 

「スマホはリアルとデジタル世界を繋ぐ一つの窓。それを小さくすることで、強制的に行き来をしにくくする、というのは意識的にやっていることです。子どもが500円玉を実物以上に大きく描く、という話がよくあるように、頭のなかの概念がそのままフィジカルなサイズとして出てくる、という話は事実あると思っています」

 

新しいものも古いものの、どんなものに対しても、ニュートラルに本質をみる。山崎氏のクリエイティビティの根底には、そんなしなやかさがあった。今後もデジタルとリアルを軽やかに越境する氏の活躍に期待したい。

山崎 晴太郎

Seitaro Yamazaki

株式会社セイタロウデザイン代表/アートディレクター/デザイナー

横浜出身。立教大学卒。京都芸術大学大学院芸術修士。2008年、株式会社セイタロウデザイン設立。企業経営に併走するデザイン戦略設計やデザインコンサルティングを中心にしたブランディング、プロモーション設計を中心に、グラフィック、WEB・空間・プロダクトと多様なチャネルのアートディレクションを手がける。各デザインコンペ審査委員や省庁有識者委員を歴任。東京2020オリンピック・パラリンピックでは、クリエイティブアドバイザーも務めた。 株式会社JMC取締兼CDO。株式会社PLUGO CDO。

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