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ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。
これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

【東大阪・布施】地元民から歓迎される、まったく新しい宿のかたち「セカイホテル」

観光客すべてが「観光客として扱われたいわけでない」。

 

そんな仮説に対して、実直に向き合っている会社がある。“旅先の日常に飛び込もう”をキーワードに、まちをホテルに見立てた「まちごとホテル」というスタイルを提唱しているSEKAIHOTEL株式会社だ。

 

大阪府の布施商店街(東大阪市)に構える「セカイホテル 布施」は、まさに大阪の下町をそのまま堪能できる仕組みとなっている。朝食には近くの純喫茶を訪れ、昼間は商店街に入る老舗パン屋や精肉店のコロッケを堪能。木の風呂桶を持って地元の銭湯へ行けば、地元客で賑わう居酒屋へも。まさに地域の日常に飛び込むことができるのだ。

 

このモデルを支えるのが、LINE@を使った宿泊者との繋がりであり、SNSでの集客である。デジタルとアナログが越境し合う仕組みのカラクリについて、同社代表取締役・矢野浩一氏に聞いた。

日経優秀製品・サービス賞2019を受賞したホテルのあり方

まずは、セカイホテルの親会社で不動産を営む、クジラ株式会社について。矢野氏が同じく代表を務める同社は、不動産だけでなくデザイン・建築を担うプロフェッショナルが集い、「ワンストップリノベーション」を可能としている。

 

一般的に別物として捉えられがちな不動産と建築。お客さんの満足につながるのは不動産、つまり希望の土地や安全な建物の提供も重要だが、多様化した昨今の需要には、高いデザイン性や居心地の良さなども兼ねた空間づくりも欠かせない。そういった要望と時代を鑑みると「不動産と建築を切り離してはいけない」、これが同社の哲学となっている。不動産+建築の多くの実績があるなか、同社がリリースした「セカイホテル」のあり方は、日経優秀製品・サービス賞2019で「日経MJ賞・最優秀賞」を受賞した。

古家をリノベーションした布施のそれは、ドミトリーとツイン、そして家族向けのスーペリアルームが用意されており、日常に飛び込める旅の仕組みだけでなく、建築的な評価も高い。

宿泊客はチェックインと共に、LINEの友達追加でホテルと繋がる。宿泊情報をはじめ、スタッフおすすめの“布施の日常”を感じられるお店の紹介や、その営業時間などが確認できる。

「おいしいご飯がたべたい」「呑み歩きしたい」「写真を撮りたい」「のんびりしたい」「お土産を買いたい」など、初めてこの地に訪れるお客さんの要望を先回り。提携しているお店を紹介しているだけではなく、スタッフが感じた“地元の良いところ”を、そのままレコメンドしてくれる。bot対応だけでなく、スタッフがリアルタイムで困りごとに対応してくれることも喜ばれているようだ。

 

「LINEを活用したお宿は、まだそうないのかもしれませんね。ただ、お客様の属性などを考えると、付かず離れずの距離感でおもてなしさせてもらう準備も必要かと思います。これまで宿泊前に(どのような内容か確認)プレゼントを送って現地を堪能してもらうなど、宿泊する期間以外にも楽しんでもらえるよう考えてきました。LINEだと、宿泊後にもコミュニケーションの障壁が低いようで、いろんなコメントが届くようになりました。布施という地域をデザインしていくには、宿泊中の“タビナカ”だけでなく、“タビマエ”“タビアト”も大切にしたいのです」(矢野氏)

「より深く地域を発信」外注せずに自前で運用するSNS

お客さんと近い距離でいるために、外注しがちなSNS運用はすべて自前で取り組んでいるという。2020年に開始したInstagramは、地道な投稿を続け、フォロワー数が10,000人を超えた。自前にこだわる背景には、地方創生のジレンマがあったと矢野氏。そこにはトレードオフな関係性があった。

「インフルエンサーと呼ばれる方は、オンライン上で強い影響力を持たれていますが、出身地域や特別関わりがある地域以外のオフラインな場所に訪れても、その魅力に深く踏み込めないことがしばしばありました。一方で、地域に踏み込めている人は、今度は影響力・発信力を持っていないことが多いのです」(矢野氏)

この状況下で矢野氏が目指したのは、後者の発信力を育てるということ。

 

「たとえば町工場の人が、作業している風景を発信する場合。これまでの制作の道順だと、カメラの上手なインフルエンサーをピックアップして、市役所に企画を通して、制作会社をアサインして……。それだけでも大変ですが、実際に現場で何度も作業員にリテイクしてもらう必要があり、クリエイティブが安定しません。でも、地域にいるスタッフが既に関係性を構築できていれば、交渉コストが省かれますし、従業員も自然体でいられます。スピードもクリエイティブもずっとパフォーマンスが高いのです」

 

クリエイティブをデザインしていくには、地域スタッフのスキルアップが不可欠。セカイホテルに関わるスタッフは、まずカメラが手渡される。地域を練り歩き、撮影を通して、その街にある“日常”を切り取る訓練をするのだ。部外者が撮ったような写真ではなく、きちんと地域の中に入った絵が評価されるとのこと。デジタルでありながらも、アナログな部分も評価する姿勢がここにある。

アナログだからこそ体験できた「銭湯での交流」

思い出すと矢野氏の目尻が下がるエピソードがある。とある就活生が、セカイホテルを利用した時のことだ。皆、(銭湯や飲食店で特典を受けられる)共通のパスポートを持って地域を回るため、地元でのセカイホテルの認知は広がっている。そこは人情の街・大阪、行った先で様々な交流が生まれるというのだ。

 

就活生が銭湯に行った時には、そばにいた地元の女性客から声をかけられた。最初はセカイホテル宿泊について、それがいつの間にか人生相談に広がった。就活というライフイベントの真っ只中で、ましてや泊まりがけでの挑戦だ。不安や心配で溢れるのも無理はない。そんな就活生の思いをすべて受け止めたのがその女性だ。

 

「すべての話を聞いてくれて、最後には『あんたなら大丈夫や!』と背中を押してもらえたと。僕もまったく存じ上げない方なんですが、いかにも大阪のおばちゃんぽいエピソードだと感じました。一方で、その就活生にとって良い機会になったとも聞いています」

 

まち(商店街)のまるごとホテル化を目指す同社は、常に地元の方々と細やかなコミュニケーションをとっている。商店街に入っているお店だけでなく、地域の住民もまたその仲間でもある。セカイホテルのお客さんとなれば、声をかけやすいのだろう。この2人の接点をつくったのは、紛れもなくセカイホテルである。

SNSでも反響のあった医療従事者を想った企画

2022年夏に実施された企画の一つが、「医療従事者でよかったわ~プラン」。これは、布施の商店街の協力の下、日々医療の最前線で尽力されている方々が、商店街だからこそ味わえる”景気のいい体験”を楽しんでもらうもの。これも地域と連携したものだ。

 

「大阪下町のテンポ感あるコミュニケーションのなかで、医療従事者の方に思いっきり笑ってもらいたい。また、まちごとホテルで多くの人に労ってもらうことで、緊張感から解放してもらいたい。なによりも“医療従事者で良かった”と思える瞬間を演出したいと考えました」(矢野氏)

 

1泊2日の滞在中(1万円・税込)に医療従事者が受けられるサービスは下記の一覧だ。

 

・銭湯(戎湯)またはサウナ施設(なにわ健康ランド湯~トピア)が無料

・老舗お好み焼き屋または海鮮居酒屋の夕食代金が無料

・2軒目の特別協力店舗での飲食代も全て無料(SEKAI HOTEL Fuseが飲食代を全額負担)

・翌朝、喫茶店のモーニングでの朝食が無料

・感染防止対策としてオリジナルマスクケースをプレゼント

 

同プロジェクトについて、地元出身のヨッピーさんのツイートでは、4,000を超えるリツイートと、2,500を超えるいいねがつき、プレスリリース自体も18,000に近いPVを獲得した。オリジナリティの高い企画を作り出し、SNSを活用して発信も続けているのだ。

「不動産業が社会から求められているのは」の問いを持って

しかしながら、なぜここまで地域に寄せた企画になるのだろう。矢野氏の回答は明確だ。

 

「僕は長く不動産業に携わっていますが、首都圏と地方の2択しかないことに疑問をもっていました。セカイホテルの1号店は大阪の西九条駅近くにある長屋なんですが、坪単価はかなり低いです。人が集まりやすい場所ほど地価が高騰する構造自体は理解できるのですが、個人的には違和感あって。マネーゲームではなくて、この不動産業界が社会から求められているのって何だろうって……。

 

布施はよく『商店街もあって昔は栄えていた』と言われるんですね。それこそ『銀座』と呼ばれる地域もあった。いくつかの候補の地域を巡った時に、この布施が一番、モヤモヤしていたんですね。首都圏と地方じゃない場所を活性化させたい、僕らもいちベンチャー企業ですので、勝負したくなったんですよね」(矢野氏)

 

観光の一等地でなくてもやっていける。そのためのヒントは、訪れる旅行客の感覚のスイッチをオンにさせることだ。たこ焼き屋を例に教えてくれた。

 

「僕自身が名店をコンプリートしたいタイプではないのもあるのですが、旅先では、できるだけ生活者と同じ目線で、その地域を感じ取りたいと思っていました。

 

何よりもたこ焼きを堪能するなら、スイッチが入った状態のほうが絶対に良い。スイッチが入っていれば、食べログで高評価のお店を並ぶことも楽しい。そして、地域の名もなきたこ焼き屋であっても、道中の景色や、店先の店主の振る舞いなど、記憶に残ることがあります。地域の名もなきお店であっても、このスイッチが入った状態だと、感じ取り方が違うと思うんですよね。創業以来、このスイッチが押せる仕組みを考え続けています」(矢野氏)

 

食べログ評価など認知的な判断で楽しむのもアリ、その地域に流れる景色など非認知的な判断で楽しむもアリ。ただ、後者の方が曖昧な部分が多いため、創意工夫が必要だと言える。大阪は粉もん文化が醸成されており、名店と呼ばれるお店はいくつもある。名店を訪れる観光的な楽しみ方もあるだろう。一方で、地元で長年やっている名もなきたこ焼きやもまた、味わい深いものがある。

「たこ焼き一つおまけしとくわ」「おつり900万円な」……、テンポある地域の会話をそのままに享受する。そんな旅の形を求めている旅人も少なくない。そういった旅行客の感性を先導しているのが、セカイホテルなのである。

 

2022年12月には富山県高岡市に新たなセカイホテルが誕生する。そこにはどんな“日常”があるのだろうか。想像が及ばないからこそ、楽しみでもある。

矢野 浩一

koichi Yano

KUJIRA / SEKAI HOTEL代表取締役社長

まちごとホテルが日経MJ賞2019最優秀賞。調理師学校卒業→不動産営業→創業→仲介からリノベーション業へシフト。「平均年齢28歳のベンチャー」「公益資本主義」「地域コミュニティを作る不動産開発や空き家リノベーションについて」

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  • 公式Facebookページ

取材:上沼祐樹

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