ENILNO いろんなオンラインの向こう側

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ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。
これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

音声プラットフォームはどうなる? 会員数を6倍に増やした「Voicy」に聞く、音声市場の勝ち筋

かつて、「音声コンテンツをリスナーに届ける」「リスナーとパーソナリティの間でコミュニティを形成する」といった役割は、ラジオが担ってきた。「歩きながら○○の勉強をする」「家事・育児をしながら○○を聞く」といった需要は、多種多彩なポータブル・オーディオプレーヤーが満たしてきた。

 

2004年にはRSSという技術を通じて音声コンテンツを広げるPodcast(ポッドキャスト)が生まれ、2008年には音楽ストリーミングサービスとして 、2010年にはインターネットを通じたラジオ放送のradiko(ラジコ)が登場した。2020年には、翌年初頭に日本で大流行することになる音声に特化したSNSアプリのClubhouse(クラブハウス)も誕生している。Twitterではスペースと呼ばれるリアルタイムの音声会話も人気だ。

 

そうした音声にまつわるメディアの変遷があるなか、日本では2016年にサービスを開始した「音声プラットフォーム」のVoicy(ボイシー)が成長を続けている。2020年1月から2022年5月にかけ、会員登録者数は約6倍となり、2022年7月には27億円を超える資金調達を実現している。そんなVoicyが考える音声メディア・コンテンツの魅力や、これからさらに成長するために必要なこととは?

「通過率5%」Voicyがパーソナリティの審査を続ける理由

そもそもVoicyとはなにか。同社では、「人や社会を豊かにする声が集まる音声プラットフォーム」と定義している。具体的には、 審査を通過したパーソナリティによるチャンネル、日経新聞や東洋経済オンライン、NewsPicksといった既存のメディアによる音声でのニュース発信、企業がその本音や世界観をリスナーに伝える声のオウンドメディア「VoicyBiz」などが集約された 音声コンテンツの総合プラットフォームである。

 

Voicyは独自アプリとウェブブラウザのどちらでも聴取することができ、80%を超える平均聴取維持率を持っているという。ライブ配信も可能だが、基本は収録した音声がプラットフォーム上に公開され、いつでも聴取できる形になっている。会員登録者数は2022年7月時点で約150万人、この数字は前年比で約2倍だ。ビジネスやキャリアに関した発信をするパーソナリティが充実していた経緯から男性の登録者数が多かったが、「2021年頃からは“暮らし系”の発信者が増えたことも影響し、女性のリスナーが増加傾向にある」と株式会社Voicyで広報を務める小出佳奈美氏は言う。具体的には2021年3月と2022年3月で比較すると、新規登録ユーザーのうち女性の割合が10%近く増えている。

 

Voicyは「声のブログ」と呼ばれることもあるが、かつて隆盛を誇っていた無料ブログサービスのように誰でも発信者(パーソナリティ)として参加できるわけではない。応募通過率5%前後という審査制をとっており、さらに過去にはオーディション形式でパーソナリティを募集していたこともある。その点で似たようなサービスである「stand.fm」や「Radiotalk」と一線を画しているといえる。このように、発信者の参加に対して一定の敷居を設けていることへの狙いについて、小出氏はこう語る。

 

「これは弊社代表の緒方の持論でもありますが、人は誰かの声を求めているけれど、どんな人の話でも聞きたいかというとそういうわけではなくて。やっぱりおもしろい話ができる人じゃないと離脱してしまう。わたしたちVoicyはリスナーさんが魅力的で良質なコンテンツに出合える環境をつくることが、音声市場を開拓していくためには大事だなと考えているので、その意味で一定の質を担保するために審査制は継続していくつもりです」

動画コンテンツや従来のラジオ番組とVoicyはどこが違う?

個人が自由に使える時間のことを、可処分所得になぞらえて“可処分時間”というが、スマートフォンを基点にした可処分時間の奪い合いという観点から見ると、現在はあらゆるメディアやコンテンツが群雄割拠の時代であることに異論の余地はない。動画もテキストメディアもゲームも漫画も同じ土俵で戦わなければならないからだ。しかし、そのなかで音声コンテンツには強みもある。視覚を奪わないという点である。小出氏は説明する。

 

「具体的に言うと、パパ・ママが子育てをしていて、子どもの寝かしつけのときに片耳にAirPodsを入れ、片耳は開いた状態で子どもの様子を伺いながら音声を楽しんでいる方もいらっしゃいます。そういった“ながら消費”の部分で、音声市場は可処分時間や新しい可能性があると考えているので、Voicyの使い方を含めて訴求していけたらと考えています」

 

もう一つ、Voicyが考えている音声コンテンツとしての強みは、「声がテキスト情報よりも“人となり”が伝わりやすい」という点だ。小出氏はさらにこう続ける。

 

「声って、その人の息づかいや間合い、言い切っている感じだとか、ちょっと悩みながら言葉を選んで喋ったりとかも含めて、発信者の“素”が相手に届きやすいと考えています。だからこそ、発信者とリスナーの間に信頼関係が築かれやすい側面があって、それはVoicyの強みの1つですね」

 

良くも悪くも、テキストでは文章をつくりこんだり、あとから話の構成を入れ替えたり、普段は使わないような難しい言葉をあえて使うといったことがしやすい反面で、その人独自の温かみや、人間臭さのようなものが薄れてしまう。だからこそ、Voicyでは「パーソナリティのみなさんに対しては、台本はつくらないことを推奨している」のだという。この点は、割とかっちりとした台本をつくりこむことで知られる、従来のラジオ番組とは異なっているともいえる。

コロナ禍で成長、掲げるのは“パーソナリティ・ファースト”

先にも書いたようにVoicyはここ数年で成長を続けている。これは同社の企業努力によるものが少なくないが、2020年から始まったコロナ禍による社会状況の変化が関係していることにも疑いの余地はない。象徴的なのは2021年初頭にClubhouseが狂信的な人気を博した出来事だ。19歳でGoogleに入社したことで知られ、シリコンバレーの最新情報やエンターテインメントの未来などについて積極的に発信しているFalon Fatemi氏は、『Forbes』への寄稿のなかでこう説明している。

 

Clubhouse emerged at a time when consumers were increasingly screen-weary and looking for new and energizing entertainment platforms. “Zoom fatigue” had become pervasive and users were actively in search of a respite. At the same time, users were experiencing loneliness and isolation and craving personal connection.

意訳:クラブハウスが登場したのは、消費者が画面に疲れ、新しくて活気のあるエンターテイメントを探していた時期です。 「Zoom疲労」が蔓延し、ユーザーは積極的に休息を求めていました。同時に、ユーザーは孤独と孤立を経験し、個人的なつながりを切望していました。

 

すなわち、“画面疲れ”と“個人的なつながりへの渇望”とがClubhouseのような音声SNS(social audio)を成長させ、TwitterやFacebook(現・Meta)といった巨人たちを“音声業界”へ誘うきっかけをつくったという指摘だ。

 

一方で、Voicyの創業者であり、代表取締役社長を務める緒方憲太郎氏は著書『ボイステック革命 GAFAも狙う新市場争奪戦』(日本経済新聞出版)のなかで、Clubhouse現象がVoicyの成長にきっかけになったことに触れつつ、Voicyが進むべき方向が明確になったエピソードを披露している。

 

文字通り一日中クラブハウスに入り浸り、このサービスの特徴や強み、ユーザーが何に魅力を感じているのか、どんな風に使っているのかを徹底的に探った。

(中略)

カギはコンテンツだ。人の話は、全部が全部おもしろいわけではない。みんな、おもしろいコンテンツ、魅力的なコンテンツを求めていることが、あらためて痛いほどわかった1カ月だった。

すなわち、いかにしておもしろいコンテンツを集めるかが音声配信プラットフォームとして重要である、ということだろう。他方で、小出氏は「私たちVoicyは、先(2022年7月)の資金調達を発表したときに、『声で、未来を変える。』というコーポレート・メッセージを打ち出しました。そのためには、さらなる“パーソナリティファースト”への取り組みが必要だと考えています」と語っている。これは、先に挙げたFalon氏の寄稿のなかで、彼女が「To survive, platforms will also need to successfully incentivize creators to join their platforms(プラットフォームが生き残るためには、クリエーターがプラットフォームに参加するようにインセンティブを与える必要があります)」と指摘している点と一致しているといえる。

 

“Clubhouse狂乱”を経て、音声コンテンツが一定の市民権を得て、同時並行的に音声に関するプラットフォームやメディアが新たに生まれたり、既存のものが成長したりするなかで、パーソナリティはどこで発信するかを選ぶようになってきているといえる。もとよりインフルエンサーだった人物(それはVoicyのパーソナリティのなかに多いように見える)であれば、ことさらにメディアの選択肢は増える。発信することを目的とするならば、TwitterでもInstagramでもYouTuberでもTikTokでもいいからだ。

 

そうしたなか、Voicyはどのようにパーソナリティ・ファーストを実現しようと考えているのか。小出氏が最初に挙げるのは、発信する手間を極力省くことだ。

 

「多忙な発信者のみなさんに、いかにVoicyで発信しつづけてもらうか、という観点は大事であると考えています。そのなかで、Voicyはどんな発信の方法よりもシンプルに収録できるようにしています。スマホ1台さえあれば収録できることに加えて、あえて細かい編集はできない仕様にしているんです」

 

先ほど、小出氏は「台本はつくらないことを推奨している」と言っていた。それは“話す”と“読む”では声に乗って伝わる本人性や想いに差が出ると考えていることに加え、「発信者さんの手間を省くという意味合いもあります」と説明する。

 

さらに、お題(トークテーマ)を設けたり、パーソナリティが困ったときに見られるノウハウ集を日々アップデートしていたり、他のパーソナリティがどんな工夫をしているのかをパーソナリティだけが聞ける放送のなかで流すことで“知の共有”を促進させたりしているという。そのほか、放送の改善がしやすくなる、過去の放送に関する様々なデータをサマリで見ることもできる。

パーソナリティの収益化を実現する3つの機能

もう一つ、パーソナリティ・ファーストという意味で外せない観点が「収益化」である。Voicyが2022年7月に発したプレスリリースでは、1,600あるチャンネルのうち、半数が収益化を実現させ、1ヵ月の収益が900万円を超えるパーソナリティも生まれているという。では、Voicyでは具体的にどんな収益化の方法を用意しているのか。

 

「1つはプレミアムリスナーという機能です。これは、簡単に言えば声のファンクラブのようなもので、特定のパーソナリティに対して毎月の定期的な支払いができるという機能です。使う目的はパーソナリティによっても異なりますが、プレミアムリスナーに向けて限定した放送を提供でき、互いの距離を縮めるコミュニティのような役割を果たしたりします」

 

さらにチャンネルスポンサーという収益化プログラムもある。パーソナリティ個人に対して、主に企業からスポンサーがつくというケースだ。一般的なテレビのCMのように番組から独立したコンテンツが流れるのではなく、パーソナリティが自身の声でスポンサーコールをする形式を取っている。

 

「パーソナリティ自身が企業や商品、ブランドのスポンサーコールや説明をするところがポイントで、これによってスポンサーへの認知や好感度が上がりやすくなると考えています。ただ、リスナーさんに“邪魔だな”と思われてしまったら、誰にとっても好ましい状態ではなくなるので、パーソナリティから背景を丁寧に伝えてもらうようにしたり、『なぜその企業がパーソナリティのスポンサーになったのか』を説明するためにも、企業の担当者と一緒に話すタイアップ放送を併せて設けるケースがあります」 

 

さらに「差し入れ」という機能もある。リスナーからパーソナリティに対する〝投げ銭機能〟であるが、あえて「差し入れ」という名前にしているのには理由がある。

 

「『無料で聴いているので、パーソナリティにお返しがしたい』、『内容が濃いのにプレミアムリスナーの月額料金が安いのでもっと払いたい』、そんなリスナーの声がありました。そこで、パーソナリティとリスナーのコミュニケーションのひとつとして、『差し入れ』機能をつくりました。パーソナリティは日々一生懸命に生きているなかで、アップデート情報を声で届けてくれています。それに対する感謝であったり、これからの放送への期待、日頃の労いなど、どんな想いを込めてもらってもかまいません。一部のサービスでは、投げ銭が生配信などの最中に行われて、それに対して反応が求められる慣習もあるようですが、Voicyではパーソナリティの話が『差し入れ』によって遮られないような設計にしています。パフォーマンス中ではなく、楽屋や控室に行って感謝を伝えるみたいな位置づけにしたいと考えているからです」

 

最後に、Voicyの展望について小出氏に問うと、こう話してくれた。

 

「わたしたちはあまり目先の利益だけにこだわるのではなく、最終的に『Voicyがあったことで、社会が豊かになったよね』というふうに思ってもらえるようなサービスを提供していけるようにやっていきたいと思っています」

小出 佳奈美

Kanami Koide

株式会社Voicy 広報

前職の総合PR代理店では、戦略PRの企画立案から実行のほか、学生時代から様々なメディアに携わってきた経験を活かしメディアリレーションを担当。生活者に寄り添った施策や課題解決に取り組む。その後、新しい文化を築き価値の創造を目指すVoicyに共感し、事業会社での広報に転向。ひとり広報として広報PR全般の実務を担うなか、現在はVoicyが開催する“世界を変える声の祭典“Voicy FES ’22のブランド構築に力を注ぐ。

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取材:遠藤由次郎

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