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ENILNO いろんなオンラインの向こう側

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ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。
これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

「クリエイティブを仕事に」のきっかけは10代に訪れる。中高生向けクリエイティブスクール「GAKU」の狙い

教育現場でオンライン導入が急速に進むなか、渋谷にある中高生向けのクリエイティブスクール「GAKU」が、異彩を放っている。コロナ禍で延期を余儀なくされながらも、2020年9月に開校し、質の高い講師陣やオンラインを巧みに使ったユニークなカリキュラムに、クリエイティブ志向の若者が集まっている。そんな学びの場を運営するLOGS代表の武田悠太氏と同校の事務局長・熊井晃史氏に、日本の教育シーンにおける「GAKU」の在り方について話を伺った。

武田 悠太

LOGUS代表取締役社長

1984年、老舗衣料品問屋の4代目として東京に生まれる。慶応義塾大学経済学部卒業後、アクセンチュア株式会社戦略コンサルティンググループに入社。医療、公共領域の新規事業立案、業務改善、政策提言などのコンサルティング業務に従事。2014年、 家業と同じ服飾雑貨問屋の経営に参画し、2016年ログズ株式会社を設立。以後、衣食住学という4分野に事業を拡大。DDD HOTEL(ビジネスホテル)、PARCEL(アートギャラリー)、nôl(実験型キッチンスペース)、GAKU(10代向けクリエイティブ教育)等を展開中。

熊井 晃史

GAKU事務局長

NPO法人CANVAS・プロデューサー、青山学院大学社会情報学部ワークショップデザイナー育成プログラム・オンライン講座講師、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科・研究員などを経て、2017年に独立。現在は、 GAKU事務局長の他、学芸大こども未来研究所・教育支援フェローや小金井のギャラリーとをがにも携わる。

きっかけは画一的な学校教育への疑問

公式サイトによると、「GAKU」はクリエイティブの原点に出会える“学びの集積地”。生徒は様々な講師陣の授業を受けられるが、内容は大人も羨ましくなるほどの濃さ。例えば都市計画の授業では、生徒は海法圭氏をはじめとする建築家と共に街の写真を撮影し、各々がどこに落ち着きを感じられるかを分析する。ファッションの授業ではANREALAGEのデザイナー・森永邦彦氏が登場し、「記号的なものを衣服に変換する」をテーマに、球体や三角錐のものを服にするのです。服が人間に合わせるという既存の考えから一歩離れた自由な発想で、「球体や三角錐でも、4つの穴があれば人間にも着ることができる」と授業内で発信している。

 

もともと衣食住をベースに事業を展開していた武田氏だが、このような学びの場に至ったのはなぜか。

 

「日々の生活の中で、多感な時期を過ごす中高生の学校教育が画一的であることに気づきました。良い面もあるでしょうが、若者の個性を奪っている面もあるでしょう。そんな教育制度に危機感を覚え、中高生向けのクリエイティブ教室をやろうと決めたのがGAKUの始まりです」

 

そこで武田氏が声をかけたのが、子ども向けワークショップの講師や開発を15年以上手がけてきた熊井氏だった。同氏も日本の教育に長年疑問を感じてきたうちの一人だ。

 

「かつてとある生徒から、図工の授業で空気を表現するために絵の具を使わず水で塗ったら、先生から怒られて図工が嫌いになった、という話を聞きました。そのようなことが重なる中で、ワークショップを開催していたら驚くほどの盛況ぶりで。当初500人程度の集客が、10万人規模に膨れ上がったイベントもありました。より良い学びのあり方への期待感が保護者や子供たちにいかに多いかを実感しました」

 

GAKUが中高生対象というのも、熊井氏が参加を決めた大きなポイントになった。

 

「小学生や未就学児向けのアートスクールや私塾は増えていますが、一方で、部活動や受験勉強に追われて忙しい、中高生向けのクリエイティブスクールは、これまで日本にはほとんどなかったんです。そこに大きな意義を感じました」

写真:GAKU/菅付雅信による「東京芸術中学」ゲスト講師:上西祐理

オン・オフラインの仕分け

当初の予定より半年遅れての開校となったGAKU。緊急事態宣言下で渋谷に中高生を集めるのは、無論現実的ではない。そこで、自ずとオンラインが新たな学びのスタイルの基盤になった。

 

「やはり、リアルでの授業でしか達成できないことも多々ある。GAKUとしてはオフラインにこだわりたいのが正直なところ。とはいえ、いつまでも延期にしていては子どもたちの学びの機会が失われてしまい、また、オンラインでしか参加できない先生や生徒も出てきたことで、試行錯誤を重ね、オンライン化を進めました。

例えば、全生徒がオンラインで参加する授業があれば、オンラインとリアルの生徒が混ざって参加する授業も。また、オンライン授業の前に1〜2時間早めにzoomを開いておき、自由な雑談タイムにしたり。新しいアイデアや授業の意見なんかは、ちょっとした雑談から出てくる場合が多かったんです。オンラインの方が発言しやすい生徒さんもいることも分かりました。そうやって、オンラインとリアル、それぞれに向いているものを整理していきました」(熊井)

 

なかでも、開校が延期になったのを機に、授業紹介などの目的で始めたポッドキャスト「ガクジン」は、意外な方向に発展していると武田氏は言う。

 

「毎回クリエイターゲストに10代の子が自分の悩みをぶつけて、ゲストがガチンコで答えるという内容です。これが好評で、放送は35回以上になりました。これまで40名ほどの生徒が出演したのですが、その大半のメンバーで「オンラインお茶会」を開催しているようです。同じ分野に興味のある若者が繋がり、その輪が自然と広がっている。僕たちよりもオンラインコミニュケーションがはるかに当たり前な世代にとっては、オンラインでの出会いがリアルな交流に容易に繋がっていきます」

 

「子どもたちは、有名なクリエイターの講義に刺激を受けながらも、自分と同世代が頑張っている姿にも同様に刺激を受けているとも言えます。そういった姿勢はオン・オフ限らず伝播していく。GAKUを通じて10代同士が繋がっていくことに大きな意味を感じています」(熊井)

写真:GAKU/菅付雅信による「東京芸術中学」 ゲスト講師:片山真理

家でも学校でもない第3の場にできること

オン・オフ両輪での学びのスタイルを築いてきたGAKUだが、GAKUにはリアルの場の強みもある。オンライン授業は「生徒の住環境が学びに大きく左右する」ためだと熊井氏は言う。

 

「例えば、リビングでオンライン授業を受けているとしたら、家族の目が気になって、自分を100%表現しきれないことも出てきますよね。そんな時は、我々がリアルな場を持っていることに意味を感じます」

 

「GAKUには不登校の子もいて、GAKUでは友達をたくさん作っているんです。とある子はデザインと映像制作が得意だったため、プロジェクトの映像を作るよう講師から指名され、チームに一気に溶け込みました。本来なら家と学校の往復になりがちな年頃ですが、そのように新たな可能性を生み出せるのも第3の場所が持つ力かと思います」(武田)

 

誰にも開かれ、かつ多様性が認められる空間。そんな場では、当然新たなチャレンジも生まれやすい。そこで熊井氏はコロナ禍に始まった取り組みとして「自習室」と「クラブ」を挙げる。

 

「『自習室』は10代なら誰でも無料で遊びに来られる場所で、クラブはそんな場に集まる10代が、自分たちでイベントを企画して開催するプロジェクトのようなものです。ここで開催されたもののなかで、「つきじ玉子焼映画祭」という企画もとても良くできていて、募集期間も短い中で10代が制作した映画が12作品も集まりました。映画を上映するだけでなく、作り手がトークする様子もYouTubeで配信していて見応えがありましたし、10代の発表の場の必要性も感じました」

写真:GAKU/伊藤建築塾による「自分の興味をカタチにする」

新たな教育・社会の土台を目指して

既存のスクールや習い事とは一線を画すGAKU。教育の場として今後目指すのはどのようなあり方なのか。

 

「僕たちが見られるのは、あくまでも教育の一部だと思っています。義務教育はもちろん必要ですから。ただ、中高生のうちに将来の仕事を思い描く子どもは結構多くて。特にクリエイティブな業界だと、大抵の人が10代のうちに仕事を決めているんです。例えば、多くの人が音楽を最も聴いていた時期が中高生の頃だったように、活躍中のクリエイターたちも、その時期に心を大きく動かされた人や作品があったはずです。そんなきっかけをGAKUのなかでどれだけ作り出せるかが、僕の目標です」(武田)

 

「教育産業という目線ですと、一番大事なのはやはり受験になってきますよね。そのなかで、スクールビジネスを成立させるには生徒を何人合格させたか?が重要になってくる。GAKUは当然そことは別のポジションにいますが、とはいえ自分たちの世界に留まっていれば良いとは思っていません。すごく大きな話をすると、日本の教育制度そのものを、より魅力的なものに変えていくような力をGAKUが発揮していけたらと思っています。そのためには、全国の同じような想いをもった方々とゆるやかに連携をさせていただきながら、最終的には教育のあり方を行政や社会に提案していきたいです」(熊井)

写真:GAKU/山縣良和による「coconogacco」

GAKUが目指すのは、クリエイティブ業界に留まらない、新たな教育の土台づくり。それが実現すれば、多様な人が生きやすい社会もそう遠くはない。

  • 公式Facebookページ

取材:池尾優

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