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アナログとデジタルのあいだ

丁寧な生活を優先し、てまひまかけて仕事に向きあう人たち。オフラインを充実させながら、実用的にオンラインを取り入れてるリアルな姿とこだわりを学ぶ。

“密”を 逆手にとったオンライン演劇集団「劇団ノーミーツ」が描く未来のエンタメ

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役者と観客を隔てるスクリーンはなく、同じ空間の中で圧倒的臨場感を共有する。映画やドラマにはないライブ感が舞台の良さだが、このコロナ禍においては、一番避けなければならない状況に当てはまってしまった。

 

今、それを逆手にとったニューフェイスの劇団が誕生し、快進撃を続けている。劇団ノーミーツは、観客のみならず、役者も稽古から上映まで一度も会わない〈オンライン演劇〉をネットで配信。演目〈140秒Zoom演劇〉では、リモート飲みの画面をそのまま配信したような演出により、演技ではなくリアルだと思い込む人も続出し、話題を呼んだ。

現在は、サンリオピューロランドとのコラボや、HKT48のオンライン舞台プロデュースまで手掛けている。

 

同劇団のプロデューサーで、舞台監督の梅田ゆかり氏は「コロナで仕事がなくなってしまったから始めたことではあったけど、順調にビジネスとして成立させることができている。一方で、やりたいことをやれている感覚も強い」と話す。

 

コロナ禍における対処療法ではなく、結果的に時代に即した舞台としてエンタメ界を活況に導きつつある劇団ノーミーツに、オンラインの可能性について話を聞いた。

梅田ゆりか

劇団ノーミーツプロデューサー・舞台監督

1996年生まれ。営業職会社員として勤務しつつ、エンタメ企画のPMやディレクターに従事。没入型ライブエンタメカンパニー「Out Of Theater」、株式会社MIKKE、アンダーウェアブランド「One Nova」、編集デザインファーム「inquire Inc.」など。

有料コンテンツへの切り替えが、業界に希望を与えた

ミュージカルプロジェクト〈Out Of Theater〉のプロデューサー・広屋佑規氏や、脚本家の小御門優一郎氏、映画プロデューサーの林健太郎氏ら3人が主宰の劇団ノーミーツ。コロナでそれぞれの仕事がストップしてしまったことと、Zoomが世に普及してきたタイミングが一致し、Zoomを用いた動画コンテンツの制作を開始。2020年4月に旗揚げした。

 

先述の〈140秒Zoom演劇〉を配信するや否やSNSで反響を呼んだが、当時は無料コンテンツだった。マネタイズに関しては劇団内で何度も議論を重ねた。

「無料だからこそ楽しんでもらえたのではという不安もありましたが、有料コンテンツに切り替えたら活動の幅が広がるんじゃないかと思い、オンライン演劇〈門外不出モラトリアム〉で初めて有料に踏み切ったんです」

 

演劇を続けていくための仕組みを自分たちが作らなければならないという使命感もあったという。

 

「エンターテイメントは不要不急になるわけで、この状況が続いたら業界は閉ざされていく。たとえ従来通りオフラインで戦うとしても、コロナではエンタメを摂取することにお客さんが罪悪感を覚えてしまう。そう思ったので、ノーミーツが先陣を切ってオンラインで有料に挑戦することが、成功事例の一つになるかもしれないと感じました。業界全体の希望になりたかったんです」

有料コンテンツでも人が集まるワケ

とはいえ、ただ有料化しただけでは、これまでコンテンツを気軽に楽しんでいたユーザーが離脱する可能性もある。そこをどのように工夫して、集客につなげたのだろうか。

 

「オンライン演劇は劇場に行く必要がないので、開演の1分前でもチケットを購入できます。人数制限もありません。なので開演ギリギリまでSNSで呼びかけることができたのは、大きかったと思います。

 

また、上映中のスクリーンショットをOKにしたことで、公演内容のツイートがスクショと共にネットに回ったんです。いわゆる口コミ。学割も実施するなど、いろんな施策を打って、それにより、若い世代をはじめ、新しいもの好きな人が多く観てくれた。結果、5,000人の集客に成功しました」

 

オンラインを駆使することで、有料コンテンツでも集客ができた。こうして次に配信した第二回公演〈むこうのくに〉で、7,000人を動員するなど、エンタメ業界を活気づけた。

演技力だけじゃない。それぞれが本業を持つ専門家集団に。

メンバーも着々と増え、現在22人で構成している劇団ノーミーツ。生粋の舞台役者はもとより、デザイナーやエンジニアなど本業が別にあるメンバーも多く、それにより演出や機能面でもさまざまな工夫が施されている。

 

「上映中にお客様同士がコミュニケーションを取れるよう、チャット機能をつけました。お客様同士で臨場感あるやりとりができるだけでなく、我々もチャットでどういう場面で盛り上がりが起きるか可視化できるんです」

 

オフラインの演劇だと、静かに鑑賞しなければならず観客の反応は分かりにくいが、オンラインならそれが可能だ。反応を見て次の脚本や演出の参考にもなるだろう。もちろん、チャット機能を非表示にして、集中して観ることもできる。ほかにも観客を巻き込むために投票できる仕組みも作ったという。

「第三回公演<それでも笑えれば>では、お客さんがもっと参加できるように、投票形式の分岐機能を作り、お客さんの選択でストーリーが変わるようにしました。別の結末が見たいからリピートしてくれるお客さんもいて嬉しかったですね。

 

それに、物語の選択は自分の人生の選択と重ねているところがあると思うんです。この1年は過渡期で多くの人が選択を迫られる年だったから、時代にフィットしていたのかもしれない」

このような仕組み作りや、新しい表現への取り組み、時代との親和性が評価され、結成一年目のコロナ禍真っ只中という一見厳しい状況下においても、コラボやプロデュースのオファーが絶えなかった。

 

「サンリオピューロランドさんとのコラボでは、実際にピューロランドに行った気分を味わって欲しくて、ペンライトのスタンプをチャット機能に加えました。好きなキャラクターが出てきたら、ペンライトスタンプを押して応援できるんです」

 

また、ピューロランドのコラボでは〈ワンカット映像〉に拘って撮影したという。

 

「画面越しに鑑賞するけど、ドラマや映画とは違って生でやっているので。舞台のようなライブ感を出しつつ、舞台にはないカメラワークを楽しんでもらえたと手応えを感じています」

 

このように多岐に渡りさまざまな挑戦ができるのは、メンバーそれぞれの本業での強みが生かされているからだろう。実際に劇団とはいえ、役者ではない人間の方が多いという。さらに、社員は5人ほどで他のメンバーは全員副業として携わっている。

 

「公演ごとに機能をアップデートできるのも、各方面の専門分野に強いメンバーがいるから。演技を極める以外にも、劇団組織としてできることが我々にはある。新感覚のエンターテインメントとして閉じられた演劇業界を変えていけたらと思っています」

 

いかに観客を画面に巻き込むか、オンラインならではのギミックや演出が光る。

最後に、これからの展望を聞いた。

 

「地方在住の人や、お子さんがいる人も見ることができ、いろんな人が楽しめるエンタメとしてオンライン演劇はあると思っています。状況はどうあれ、これまでもっていた固定観念にこだわらず、そして業界のしきたりや社会の仕組みに囚われず、オンラインもオフラインも含めて、多様な活動をしていけたらと思っています」

この柔軟な発想やスタンスは、演劇界だけでなく幅広い業界に刺激を与えた。劇団ノーミーツが演劇の枠を飛び越えて、さまざまな業界で活躍する日もそう遠くないのかもしれない。

更新

  • 公式Facebookページ

取材:藤田佳奈美

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