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ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。
これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

鰹文化が今熱い!? クラブ&ファストフード通いから鰹節伝道師に転じた店主。リアルタイムでのSNS配信も注目!

朝の渋谷で常連客が開店を待つ小さなお店がある。「かつお食堂」。2017年11月のオープン以来、鰹節を使った一汁一飯の朝定食が食べられるとあり、インスタグラムでもフォロワー2万人超という人気店だ。ここの売りは、削りたての鰹節をたっぷりのせた炊きたてご飯だが、常連のお客さんが楽しみにしているのはこれだけではない。SNSで展開される“かつお愛”に満ちた世界観や、かつおの産地巡りの旅中に公開されるライブ配信など、料理の背景にあるストーリーだ。独自のかつおワールドがどう作られているのか? 鰹節伝道師であり「かつお食堂」店主の“かつおちゃん”こと永松真依氏にその想いを伺った。

鮮度が命のかつお情報をリアルタイムで配信

かつお食堂のSNSを覗くと、「本日そろそろ完売」や「明日かつおがきます」の速報など、リアルタイムなニュースが並ぶ。漁師さんからかつおが急遽入荷した時には、「夜かつお食堂」と題した夜の営業が当日に決まり告知することもあるというから、鮮度が命のかつお情報はSNSとは好相性だ。また永松氏が産地で漁に参加したり、鰹節屋を訪ねて鰹節の削り方を教わったりする様を臨場感とともに楽しめるライブ配信にもファンは多い。初来店の方を「初がつお」、ありがとうを「ありがつお」、また産地巡りを「回遊」と呼ぶなど、ファンとのコミュニケーション方法もユニークだ。

「産地に赴くのを大事にしているので、お店は不定休にさせていただいています。なので、お休みの期間もお客さんに楽しんでもらいたくて。『これ仕入れたので、明後日食べましょう!』などと、旅の間も細かく更新しています。すると、その後来店いただいたお客さんから『今回の旅よかったですね〜』などと言ってもらえて。一緒に旅を楽しんでいただいているのかなと思います」

ライブ配信中には、フォロワーはかつおちゃんに仕入れのリクエストをしたり、かつおちゃんを通じて産地の人に質問することもできる。さらにフォロワーは、かつおちゃんが産地からレポートした鰹のその味を、数日後には実際に味わうことができる。もちろん、フォロワーはかつお食堂まで出向く必要はあるが、一種のライブコマースの手法とも言えそうだ。扱うのはかつおだから、ベストな状態で食べさせてくれる、とあれば、自宅への宅配よりお店に行く方が都合が良いと捉える人も多いだろう。一方、SNSでの配信はこんな側面もある、と永松氏。

 

「漁師さんや鰹節屋の職人さんは、自分たちが手をかけたかつおがどんな風にお客さんに届いているのか楽しみにしてくれています。私はお店以外にも鰹節文化を広める活動もしているのですが、これまでは言葉で伝えるのがなかなか難しかった。それができるようになって、活動を理解してもらいやすくなりました」

産地“回遊”は仕入れ以上に、活動の源

北は気仙沼から南は宮古島まで、かつおの産地はもちろん、鰹節削り器の職人さんに会いに新潟に赴くなど、常に移動する永松氏の日々はまるで回遊魚。ただ、現地を訪ねる主な目的は「仕入れではない」と言う。

 

「漁師さんにかつお漁の現状や自然のリズムの変化を尋ねたり、鰹節職人さんに最近の工夫などを伺ったり。仕入れよりもむしろ、産地の人にかつおの物語を教えてもらうのが目的です。私自身、自然のなかに身を置いて気づくこともありますし、同じ場所に何度も足を運ぶことで発見があったりもします」

 

永松氏が印象に残っているのが、以前、鰹節職人さんに言われた「一生勉強」という言葉だ。

 

「鰹節を作る作業は最初から最後まで手作業です。とても美味しい節を作る職人さんですら一生勉強だ、と言っていて。以来、自分も勉強が終わることはないなと思っています。作り手さんに聞いた話や自分で調べたことは、東京に帰ってきてお客さんにも伝えなきゃと思う。産地で仕入れた情報が、東京での活動やパワーの源になっています」

出汁をひくことは自分を大事にすること

「鰹節を削る人を増やす」を目指し、鰹文化の発信をライフワークにする永松氏だが、始まりは、台所で鰹節を削る祖母の姿だったという。20代の初め、昼は会社員として働き夜はクラブ通い、という暮らしを送っていた永松氏は、そんな日々に疲れて、福岡の祖母の元へ出向く。その際に、出汁をとるために鰹節を削ってくれた祖母の力強くも優しい姿に魅了されたのがきっかけだ。以来、取り憑かれたように祖父の鰹節削り器を携えて鰹の産地巡りをするようになる。鰹節文化を伝える公演や、子どもへの食育の場も設けるように。その拠点として行き着いたのが、朝定食を提供するかつお食堂の形態だった。

 

メニューは削りたての鰹節を乗せた炊きたてのご飯に味噌汁。そこに出汁巻き卵をつけるかどうかという、メニューはいたってシンプル。鰹節は、カビ付けや天日干しを繰り返し6ヶ月間ほどかけて作られる「本枯節」にこだわっている。ちなみに、スーパー等で小売されている削り節の大半はカビ付けや天日干しをせずに20日前後で製造する「荒節」というものだ。両者はコクと味わいが大きく違う。

「鰹節の企業でアルバイトをしながら、貯めたお金で産地を回っていましたが、本当にお金がなくて(笑)。貧乏旅行を見かねて、産地の方が「朝ご飯まだなら食べなよ」って、本枯節をガーって削ったものを炊きたてのご飯にパッと乗せて出してくれて。そこに醤油をかけて立ち食いする。それがすごい美味しくて。また海にまつわることは朝が早いので、そこに合わせていたら朝が大好きになりましたね。朝が充実してると、1日が充実するなって」

 

「食事は身体の基盤」というのが永松氏のモットーだが、食事の大切さがわかったのもかつおに出会ってからという。

 

「実はジャンクフードが大好きでした。週に4回通ってしまうくらい。でも鰹節に出会ってから出汁が大好きになりました。出汁を引いてご飯を作ると、自分を大事にしてあげている気がして。すると自然と、人にも優しくできる。鰹節を削っている時間は、忙しい日常を忘れて心を空っぽにできる、私にとって瞑想のような時間ですね」

かつおミュージアムでかつお文化を未来に残す

「席数が若干減ることになりました」。2022年4月にはそんな文言で、店内に「かつお博物館」を制作中だと永松氏はSNSに投稿。もともと産地の写真や説明などの展示はあったが、それがパワーアップするという。その先にはこんなことを目指していると、永松氏は教えてくれた。

 

「今店内に作っているかつお博物館を、将来もっと拡大していけたらと思っています。かつおは日本の味の基礎です。にもかかわらず、乗組員さんの人手不足や鰹の値下がりなどが原因で、近海のかつお漁は毎年数隻ずつ減っています。また、海の酸素不足で魚自体が減ったり、地球環境もものすごい速さで破壊されています。そうした海のリアルな現状を漁師さんから聞いていて、私も年々焦りが募っています。大好きなかつお文化をもっとみんなに知ってもらって、この先の未来に繋いでいきたいです」

 

「Dashi」は和食の代名詞として、海外での認知も高まった。とはいえ、日本の特に若い世代では、鰹節へのハードルはまだまだ高い。現在永松氏はオリジナルの出汁パックを鰹節屋さんと共同開発中とのこと。個人や小さなお店の発信がオンラインやSNSを通じで世界中に届く時代。今後も各地を“回遊”するかつおとかつおちゃんの動向を楽しみにしたい。

永松真依

Mai Nagamatsu

「かつお食堂」店主、鰹節伝道師

ニックネームは「かつおちゃん」。20代の頃に脱サラし、鰹節の産地巡りの旅へ。2017年11月に東京・渋谷に「かつお食堂」をオープン。かつおや鰹節の魅力を発信すべく、現在かつおミュージアムの創設準備中。

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