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アナログとデジタルのあいだ

丁寧な生活を優先し、てまひまかけて仕事に向きあう人たち。オフラインを充実させながら、実用的にオンラインを取り入れてるリアルな姿とこだわりを学ぶ。

山の麓、河川敷、ログハウス……屋外で仕事はできるのか? アウトドアライターに聞いた独自のアウトドア仕事術

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コロナ収束後もテレワークを続けたい人が約89%いることが、2021年度のテレワーク人口実態調査(国土交通省)で明らかになった。社会が元に戻ったとしても、多くの人がテレワークの利点を感じている。通勤時間の有効化や負担軽減などが主な理由だというが、メンタル面でのメリットもある。それを日々感じているのが、屋内外問わず隙間時間を見つけては仕事をするというアウトドアライターの山畑理絵氏だ。キャンプ/登山歴は13年。美しい風景を求めて日本中を彷徨い、数々のアウトドア媒体でライターを務める。山麓も河川敷もログハウスもどこでも快適なワークスペースになるという山畑氏に、独自の仕事術を見せてもらった。

河川敷で隙間時間に仕事

里山が目と鼻の先にある、埼玉の奥武蔵エリア。山畑氏はそこを拠点に、日帰りハイキングからテント泊縦走、ボルダリング、トレイルランニング、スキー、キャンプなど四季を通してフィールドへ繰り出している。 2019年にはハーフビルドでログハウスを実家の庭に建てたことで、フィールドをより身近に感じられるようになった。 初心者向けのキャンプ情報発信から、衣食住を背負って山々を繋いで歩くテント泊縦走のルポ取材まで内容は様々だが、基本仕事は屋外。オンラインは必須と言う。

「携帯のテザリングを使って原稿を書いたりメールのやりとりをするのはしょっちゅうですし、登山中に原稿のアイデアが浮かべばiPhoneにメモを残すこともあります。特に助かっているのが、スマホでスキャンをして、PDF化ができるScannableというアプリですね」

 

紙の媒体も多い仕事柄、デザイナーから送られてくるレイアウトに対し赤字を入れて送り返すような作業も多い。かつてのようにハンディスキャナーを携帯する必要はなく、スマホひとつで完結する同様のスキャンアプリに助けられているという同業者は多い。山畑氏の場合、オンライン環境が加わることでフットワークはますます軽くなり、フィールドで過ごす時間がさらに増えたという。お気に入りの仕事場を尋ねると「山の麓、河川敷、ログハウス」という回答が。

 

「登山ついでに麓の河原に小さなテントを張って、山を眺めながらパソコンをポチポチすることもよくあります。長時間同じ場所で仕事ができないタイプなんです。外出ついでに場所を変え、少しずつタスクをこなすのが性に合っている気がします。また、場所を変えると気分転換にもなります。リラックスするからこそ、煮詰まった仕事にも光が見えてくる。逆に言うと、常に時間に追われている気分では良い仕事はできません。その意味では、私の場合、仕事のパフォーマンスを上げるためにも、外でのオンライン環境は欠かせません」

2年前には第一子が生まれ、子育てとの両立もスタート。時間への意識がより高まるなか、こうしたオンライン環境はますます手放せないものになっている。

都会のストレス社会の暮らしが原動力に

山の魅力を知って13年目。野山を飛び回り、2年前からは育児も加わったが、快活な雰囲気からはそんな多忙さは感じさせない。だがそんな山畑氏にも、ストレス社会に埋もれもがいていた時期があったという。

 

東京の音楽プロダクションに勤務していた20代の頃。終電で帰宅できないことも珍しくなく、そのまま飲み明かしにクラブへ行き、明け方に事務所のソファーで寝る生活。当時はそれがストレス発散だと信じて疑わなかったが、満員電車の中であることに気づいた。

 

「雨の日でした。車内を見渡すとみんながイライラしているように見え、自分もイライラしていることに気づいたんです。今思えば日々鬱々としていましたね」

そんな世界を180度変えてくれたのが、息抜きに試してみた野遊びだった。お酒を飲まなくても、爆音に囲まれていなくても、「ただただ自分がそこにいるだけで気持ちがいい」と思えた。また、日本の国土はほぼ7割が山岳地帯。山の遊びを覚えたら遊びのフィールドが一気に広がる、という考えも、とてもポジティブに映った。

 

「同じような境遇にいる女性にアウトドアで遊ぶことの魅力を伝えていきたい。当時自分が感じたことが、その原動力になっています。ライター業を始めて9年目になった今もそれは変わりません」

山に行くのは日常のありがたみを忘れないため

都会の遊びを知っていたからこそ、野遊びの楽しさに気づけた山畑氏。息抜きになるのはもちろんだが、山に行くとこんな“効用”があると山畑氏は続ける。いや、正確に言うと山から帰った後の効用だ。

 

「山では雨が降ってもすぐ雨宿りできないし、雨具を羽織るのですら大変。寒くてもお湯を沸かすのに時間がかかるし、夜はテントが強風に煽られて怖くて眠れない。そんな環境なので、下山後に自販機で温かい飲み物を買えたなら、たちまち最高の気分に。山から降りて街の便利さに触れると、日々のありふれたことが実は幸せなことだったんだな、って思えるんです。私が何度もフィールドに向かうのには、その気持ちを忘れないように、という思いもあります」

 

ポットに水を入れスイッチを押せばお湯が沸くこと、温かいお風呂に浸かれること、電車やバスで移動できること……。山での時間を思い返せば、日々の暮らしのありがたみが浮き彫りになる。

不便を楽しむと、現代が生きやすくなる

子どもが野遊びの新しいパートナーになり、これまでになかった新しい感覚を楽しんでいると山畑氏は話す。

 

「子どもって目線が低く、30cm歩いては立ち止まりますよね。私もそのテンポ・視線に合わせて足を止めてみると、小さな虫や草花など、これまで見落としていた些細なことに気づくようになりました」

昨今では密を避ける目的やリモートワークの浸透などから、キャンプ人口は増えている。キャンプ用品の売り上げも伸びていると、メーカーとの付き合いが濃い山畑氏は言う。新しい人が入ってきてくれているのは業界としては嬉しい反面、「野遊びのルールを守らない人も いて、それが環境に負荷をかけることもある」と山畑氏は危惧。そうしたキャンプ/登山初心者にアドバイスを求められた時、山畑氏が決まって伝えるのはこんなことだ。

 

「今日は不便を楽しみに来ている、と思うと良いですよって。それを頭の中に入れておくと、野山では全てがポジティブに感じられると思います」

都会の便利さと山の不便さ、その両方を知る者ならではの視点だ。便利を意識することで不便が楽しくなるし、その逆もまた然り。双方を行き来することで得られるこうしたバランス感覚は、現代を心地よく生きる上でますます重要になりそうだ。

山畑 理絵

Rie Yamahata

アウトドアライター

キャンプ/登山歴13年。音楽プロダクションとアウトドア用品専門店で働いたのち、ひとり旅に出たことがきっかけでアウトドアライターに転身。美しい風景を求めて日本中をふらふら。1児の母。

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取材:池尾優

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