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ニューノーマルライフの先

ニューノーマルライフが当たり前の時代。その中で生き抜いていくための解はどこにある? 時代の半歩先を行く書籍著者のインタビューからそのヒントを探る。

テキストコミュニケーションで人の心は救えるのか? SNSカウンセリングの実態

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コロナ禍におけるリモートワークの普及で、テキストコミュニケーションが増え、やり取りの難しさを痛感することはないだろうか。同じ空間で顔を突き合わせて話すのと、チャットやメールで文字として伝えるのとでは、温度感や捉え方が全く違うことも少なくない。

 

実はカウンセリング業界でも、テキストベースのカウンセリングが行われている。それはLINEなどのプラットフォームを利用した“SNSカウンセリング”で、誰でもテキストで繋がれる、いのちのSNSだ。これもまた、うまく意思疎通がとれるのか疑問を抱く人もいるだろう。ところが、SNSカウンセリングは対面カウンセリングや電話カウンセリングに比べて、優位な点がいくつもある。

 

また、コロナが猛威を震い始めた2020年2月、3711人の乗員乗客を乗せたダイヤモンドプリンセス号内でコロナの集団感染が発生し、2週間ほど下船できずに船内に閉じ込められた人々に、SNSカウンセリングによるサポートがあった。さらに遡れば、京都アニメーション放火殺人事件における被害者家族や周辺の人々にも、首里城火災で心を痛めた人々にも、SNSカウンセリングが実施されていた。

 

SNSカウンセリングはコロナ以前から、テキストコミュニケーションで人々の心に救いの手を差し伸べていたのだ。そんなSNSカウンセリングの実態と活動に迫るべく、SNSカウンセリングを開拓した全国 SNS カウンセリング協議会常任理事の浮世満理子氏に話を聞いた。

浮世 満理子

全心連公認上級プロフェッショナルカウンセラー/メンタルトレー ナー

アメリカで心理学を学び、帰国後、株式会社アイディアヒューマンサポートサービスを設立。プロスポーツ選手などのトップアスリー ト、サッカー J1 チームや五輪チーム、芸能人、企業経営者などのメンタ ルトレーニングを行なうかたわら、多くの方にカウンセリングを学んでほしいと教育部門アカデミーを設立し、心のケアの専門家の育成も行う。(一社)全国心理業連合会代表理事。地方自治体とLINEを活用した無料相 談を推進している(一財)全国 SNS カウンセリング協議会常務理事。TV にも多数出演。『SNSカウンセリングの実務 導入から支援・運用まで』(日本能率協会マネジメントセンター)など著書多数。

メリットや対面カウンセリングとの違いは?

声のトーンや表情、仕草から察することができないテキストコミュニケーションは、通常のカウンセリングよりも得られる情報が少なく、相談者の心を読み解くのが難解に思えるが、「非対面で匿名性が高いからこそ、SNSカウンセリングは力を発揮できる」と浮世氏は話す。

「人には言えないような悩みでも、匿名であるが故に話しやすいこともありますよね。相談者にとって、対面だとアポを取って会いに行かなければならないし、電話も勇気がいる。声を出さずに、相談者のペースでカウンセリングを受けられるので、相談する際の心理的ハードルが下がります」

ほかにも、対面や電話によるカウンセリングでは、実際に声を介した対話のコミュニケーションが行われるため、自分のことや問題点をある程度明確にできている人でなければ、なかなかカウンセリングに行けないという。

また、「いじめやDVなど明確な原因がないと相談してはいけないのではないか」という思い込みから、カウンセリングを断念してしまう人もいるそうだ。モヤモヤとした悩みの場合、咄嗟の会話ではうまく言語化できないこともある。声を介したやりとりや、顔を突き合わせたコミュニケーションは心理的ハードルが高いのだ。

そのような面においても、SNSカウンセリングであれば気軽に相談できる。

「特にデジタルネイティブ世代は、電話や対面よりネットに慣れ親しんでおり、SNSが本音の置き所になっていることも多いです。『つらい』の3文字を打つだけでカウンセラーと繋がれますし、いじめやDVの加害者が隣にいてもバレないようにSOSを発信することができる。移動中でも、自分の部屋からでもできるので、カウンセラーにとっても相談者にとっても場所を問わないのがコロナ禍のメリットにもなっていると思います」

もちろん、人によって相談しやすいツールはそれぞれだ。文字を打つより声に出して伝えたいニーズにも、適宜対応しているという。

「どのツールを選ぶかよりも、たくさんの人が利用しているツールを活用するのが一番大事なんです。LINEだとアプリ登録者数が8,500万人ほどいて、日本人のほぼ8割が利用しているということになります。ですから、LINEに相談窓口を設けることで、多くの人に接点があるしアクセスしやすい。とはいえ、カウンセリング全体において、SNSカウンセリングが最適という話ではありません。相談者が利用しやすい手段の一つとしてSNSカウンセリングがあること、そして相談者によってツールを使い分けることが重要だと認識しております」

電話も対面も、これまで通り重要なカウンセリングの手段であることには変わりがない。ただ、たった一言発するだけで簡単に繋がれる気軽さが、SNSカウンセリングにおける優位性といえそうだ。

しかし、口頭ベースとテキストベースのカウンセリングでは、カウンセラーの対応も変えなければならない点があるという。

「カウンセリングでは共感を大事にしています。対面や電話のカウンセリングでは、相槌を打つのはもちろん、相手の言葉を反芻して距離を縮めていくのですが、テキストのやりとりだと反芻はロボットのように感じてしまいます」

対面のやりとりであれば、カウンセラーに反芻されたことで「自分の気持ちを受け止めてもらえた」という受容の感覚になるという。ところが相談者が「つらいです」と送ってきたことに対して『おつらいのですね』と返しても、なかなか先に進まない歯痒さや、無機質な返事という印象を与えてしまうようだ。

「ですので、共感のボキャブラリーの言葉をたくさん作っていくことが重要です。同じ意味合いでも表現を変えて、言葉の引き出しを増やしておくこと。そして、相談者の年代に合った言葉を選ぶなど、適宜判断する必要があります」

テキストでどこまで人を救えるのか

テキストは、受け取る側の精神的な状態や解釈によって、意思疎通がうまく行かないことも多分にある。SNSカウンセリングにおいて、それは最も避けなければならないリスクだ。たとえば、相談者が自死をほのめかす内容のテキストを送ってきたとき、その緊急度をどう判断するのだろうか。

 

「テキストでも危険を察知することは可能です。たとえば、『今から首を吊りに◯◯へ行きます』『◯時になったら飛び降りようと思っています』など、テキストに具体的な方法や日時を設定して書かれているかどうかが大事なポイントになります。

 

また、SNSカウンセリングにおいてはどこでもアクセスできるということから、今まさに死のうとしている最後の声まで送られてくるんです。そうなった時に“緊急対応”として、行政や警察など関連機関と速やかに連携し、具体的アクションに移行します」

 

SNSカウンセリングはテキストベースのやりとりでありながら、相談者のテキストから状況を判断して、緊急度に応じた対応に発展し、いのちを繋いでいく。SNSカウンセリングにはレギュレーションが用意されており、属人的判断に偏りすぎないバランスも保っている。

 

「人間誰しも誰と繋がりたいとか、わかってほしいとか、そういう思いは必ずあります。相談者はもしかしたら最後の頼み綱として連絡してきてくれたのかもしれない。我々はその細い手綱を離さないよう、しっかり言葉で向き合ってくことが大事なんだと思っています」

SNSカウンセリングの今後の展開

SNSカウンセリングの存在を知らない人はまだまだ多い。どうすれば多くの悩める人たちに、救いの手を差し伸べることができるのだろうか。

 

「LINE広告を売ったこともありますが、実は案外アナログな方法で周知していることも多いんです。たとえば、DV被害で悩んでいる女性に向けたチャットを開設した時は、自治体と連携してスーパーのレジ横にチャットの詳細を記載したカードを置いてもらいました。10代の子どもに向けたチャットを開設した時は、各学校で担任の先生にカードを直接配ってもらったこともあります」

 

インターネットは世界中の人にリーチできるが、本当に届けたい人に届けるためには、対象の人が手に取りやすい場所に設定することも重要なようだ。

 

また、テクノロジーの進化に伴い、AIによるチャットボットも開発中だ。

 

「チャットボットは、自己理解を深めていく上で非常に良い働きをすると思います。AIが人(カウンセラー)の代わりになりうるというよりは、語り掛けをしてくれる日記みたいな存在だと思ってもらえたら」

 

壁打ち相手として利用し、自分の思考をまとめるための役割のようだ。また、最近ではアメーバピグのようなアバターを用いたカウンセリングの可能性も検証しているという。

 

「テキストだけだと、うまく思考を文字に起こせない人もいるのですが、アバターを使うと、自分に置き換えて髪型や服装を自由にカスタマイズするから、その人の個性や感性がアバターで表現されるんですよ。さらにアバターを介してコミュニケーションをすると、動きや振る舞いでその人の思考性や興味関心が見えてくる。相談者の情報を得られるばかりか、アバターをきっかけに雑談が生まれたり、その雑談から相談者の悩みがより見えてきたり、情報量も多いんです」

 

アバターを使うことで、相談者を知る手がかりが増えるようだ。これから先の未来には、オンラインを介したさまざまなカウンセリングが展開され、より悩みを解消するための手段が増えるだろう。コロナで塞ぎがちだったり、気分を晴らしたりすることが難しいからこそ、心の健康をサポートするツールを覚えておきたい。

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取材:藤田佳奈美

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