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オンラインと今。

ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

進化する視覚障害者用の点字携帯端末「ブレイルセンス」。健常者と同じオンライン環境を

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いつ、どこにいても、どんな人でも利便性を享受できるのがオンラインの素晴らしさだ。そんなオンラインによって、障害をもつ人の暮らしにも劇的な変化が起きている。そのことをまさに体現する機器が、視覚障害者用に開発された点字携帯端末「ブレイルセンス6」だ。視覚障害当事者として2006年からこの開発に携わってきた有限会社エクストラの技術顧問・石川准氏に、その進歩の背景について伺った。

点字支援機器の最前線

一見タブレットのように思うが、よく見るといわゆる“ディスプレイ”はない。代わりにあるのが、点字の凹凸を形成する点字ディスプレイだ。

 

「ブレイルセンス6」は、点字と音声で情報を出入力できる視覚障害者向けの支援機器だ。音声だけでなく、点字でも入力・出力できるのがポイントだ。点字は表面上部に6つあるキーボードで入力でき、下部にある32マスの点字ディスプレイから浮き上がってくるドットの凹凸として出力される。これをUSBケーブルでPCやタブレットやWEBカメラなどに繋ぐことで、様々なシーンで活用できる。こんな革新的な機器の存在に驚くが、実は日本では15年前から販売されているものだ。2012年からブレイルセンスの開発に携わってきた石川氏は話す。

 

「2006年に初代モデルが出て以降、アップデートを重ねてきましたが、この現行モデル(ブレイルセンス6)と一つ前の第5世代(ブレイルセンスポラリス)は、Androidスマホと同じOSを搭載しており、視覚障害者専用アプリだけでなく、世の多くの人が使っている人気のアプリがだいたい使えるようになりました。スマホやタブレットにも引けを取らないスペックで、ようやく視覚障害者のユーザーも健常者と同じモバイル環境にアクセスできるようになったと言えます」

例えばGoogleマップやApple Music、Podcast、またインターネットラジオ配信のRadikoや動画配信のABEMA TV、クラウドサービスのDropbox……など使えるアプリはどれもお馴染みの顔ぶれ。無線LANやWi-Fi、Bluetoothなどネットワーク機器への接続環境も万全だ。

この機器のポイントは、やはり点字と音声で情報を出入力できる点。視覚障害者の方々の間ではiPhoneの活用も一般的で、音声を通じてアプリを使ったり、メールを見たり調べ物をするなどはこれまでも行われてきた。しかし石川氏曰く、音声だけでは「情報にすばやくアクセスするのには便利」な反面「仕事や勉強などで正確、かつ迅速に読み書きをするのには適していない」という。点字は視覚障害者にとっての文字そのもの。そう考えると、点字の出入力ができるかどうかが、いかに大きな問題かが分かる。

支援機器の開発、日本が遅れていた理由

日本で初代ブレイルセンスが発売されたのは2006年。それまでにも点字で入力し表示する機器はあったが、インターネット接続はできず単体で機能させるものだった。石川氏は、この状態と海外との間に大きな隔たりがあるのを、世界最大のアクセシビリティをテーマにしたアメリカのカンファレンス「CSUN」で知ることになる。その会場で韓国の点字携帯端末を見つけ「日本にもこんな機器がほしい」と思いが高鳴る。そこで石川氏は大学発ベンチャーで有限会社エクストラを設立し、海外の先進的な支援機器のローカライズを開始。この頃から積極的に支援機器の開発を行うようになるが、ブレイルセンスシリーズはその主力の機器だ。エクストラでは歴代のブレイルセンスシリーズを日本語にローカライズし、自社開発のアプリケーションも加え、販売している。

 

日本でこうした支援デバイスがなかなか発展してこなかった理由に、視覚障害者のマーケットがあるという。日本で視覚障害をもつ人は、弱視を含めるとおよそ30万人といわれている。

 

「元々、視覚障害者のマーケットは狭いので、高い機能よりも多くの人にとって使いやすい、基本的な機能を中心とした設計が一般的でした。加えて、それほど開発にコストをかけず、価格も抑えることが優先されてきた部分もありました。一方、韓国は日本より国内市場が小さいので、家電や車と同様に国際的な市場を意識した製品開発をする必要があったのです」

インプットとアウトプットを同時に

講義や会議、また執筆など、石川氏の仕事において「ブレイルセンスは必須の道具」という。実際どのように使われているのか、イメージするのが難しい気もするが、「健常者の使い方と変わりません」と石川氏。クラウド上の資料を点字で確認しながら講義をしたり、会議の内容を聴きながら点字でメモをとる、など仕事や作業の内容によって使い方は異なる。ただポイントは、音声を使わずに、インプットとアウトプットを同時に行えることだと言う。

 

「イメージしにくいかもですが、音声を聴きながら同時に話すのは不可能に近いです。音はヘッドセットをすれば会話の邪魔にはなりませんが、聴いてから話すまでにどうしてもタイムラグができてしまう。点字の表示なら、直感的に情報に触れながら話をすることが同時にできるのです」

 

読む/聴くと書く/話す、を同時に。こうしたコミュニケーションの基盤をサポートするという意味では、あらゆるシーンでの活用が期待できる。

また、ブレイルセンスは当初からインターネットに対応しており、メール機能を点字と音声で使えることが、盲ろう者の方々に喜ばれている面もあるという。こうした視覚と聴覚の重複障害がある方々は、サポートの方を通してであっても、スムーズにコミュニケーションをとるのが難しい。例えばブレイルセンスなら、点字メールを使って、伝えたいことを正確に、また迅速に伝えることができる。

視覚障害者のモバイル環境を豊かにする

こうした支援機器が登場したのは、ウィンドウズ98が登場した頃から。点訳ソフトなどのPC用のソフトウェアや、画面を読み上げるスクリーンリーダー、また接続して使う点字ディスプレイなどが普及してきたというが、昨今は何がトレンドなのか。

 

「今はモバイルで完結する時代ですので、視覚障害者の環境もどんどんPCからモバイルへシフトしています。もしもブレイルセンスの進歩がなければ、日本の視覚障害者の方々は相変わらずパソコンと専用アプリケーション中心の環境になっていたと思います」

こうしたデバイスの歴史を間近で見てきた石川氏にとって、今は「健常者と同じようなライフスタイル、ワークスタイルを私たちも取れるようになってきたのは大きい」と喜びの表情を見せる。

 

仕事や学びの機会にオンライン活用が増えるなか、視覚障害者も健常者と変わらないPC・モバイル環境を整えていくことがますます重要になる。「IT機器がもたらす自由と可能性を視覚障害者も享受できるようにしたい、というのが最大の開発モチベーションになっています」と石川氏は言う。視覚障害だけではない。オンラインは障害をもつ人々の暮らしをいかに豊かにするか?その可能性には、今後も注目していきたい。

石川 准

Jun Ishikawa

有限会社エクストラ 技術顧問

静岡県立大学国際関係学部教授(国際関係学科所属)。元国連障害者権利委員会 副委員長。内閣府障害者政策委員会 委員長。主な研究テーマはアイデンティティ・ポリティックス論や障害学。支援工学分野では日本語英語自動点訳プログラム、スクリーンリーダー、点字携帯情報端末、GPS歩行支援システムなどを研究。1981年東京大学文学部社会学科卒業、1983年東京大学大学院社会学研究科社会学A専攻修士課程卒業。編著に『障害学への招待:社会、文化、ディスアビリティ』明石書店 1999、著書に『人はなぜ認められたいのか』旬報社 1999(単著)、『見えないものと見えるもの』医学書院 2004(単著)ほか多数。

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取材:池尾優

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