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オンラインと今。

ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

なぜお花のサブスク「FLOWER」が支持される? 提供したいのは花ではなく花のある暮らし

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ここ2、3年で様々なサブスクリプションサービスが生まれているなか、SNS上で注目を集める花の定期便サービスが「FLOWER」だ。コロナ禍のピーク時にはユーザー数が4倍に膨れ上がるなど、在宅需要の高まりとともにその認知を広げている。同様のサービスのなかでも、特に若い世代からの支持が厚いのも特徴だ。アプリには「かわいいが届くお花便」とあるものの、既存のサービスと一体どう違うのか?同サービスの立ち上げから現在は企画・編集に携わる、ROLLCAKE株式会社の小室美佳氏に話を伺った。

小室美佳

Mika Komuro

ROLLCAKE株式会社

2014年新卒でクックパッドに入社。新卒採用のエンジニア・総合職・デザイナー採用のチームリーダーを経て、動画領域の新規事業に異動し、コンテンツディレクターとして従事。2018年ROLLCAKEに入社し、FLOWERの立ち上げを担当。育児休暇を経て、現在は企画や編集などに携わる。

提供したいのは花ではなく、花のある暮らし

FLOWERは隔週で花が自宅に届くスマートフォンアプリ。一見シンプルなサービスだが、設計には多くの工夫が凝らされている。始まりは、レシピ検索サイト「クックパッド」で動画ディレクターを務めていたという小室氏の前職時代に遡る。

 

「朝7時に家を出て日付が変わった頃に帰宅、という忙しい日が続いていた頃、友人の結婚式でお花をもらいました。花はもともと好きですが、自分で買うほどでもなかったので、嬉しくて。1週間ほどコップに入れて飾りましたが、その1週間がちょっといい1週間になって」

 

花の水が汚れてきたから変えよう。ちょっと気分が良いから、今夜はお風呂にゆっくり浸かろうかな。今日は少し良いお茶を淹れてみよう。もっとこの花に合う花器がありそう……。などなど、変わらず家には寝に帰るだけの日々だったが、気づけば、生活について考える余白のような時間が生まれていた。花が枯れた後、そんな暮らしを再びと思ってはみたものの、花屋は帰宅時間には開いておらず、行けても少し気恥ずかしかったり、意外と値段が張るのに気づいたり。様々な要因で、結局花のある生活は続けられなかった。

「試しに花が届くWebサービスを使ってみたら、お花に元気がなかったり、好みじゃないお花が届いたり、そもそも花器とお花のバランスを考えるのが難しかったりして、残念な体験になりました。自分好みの花が必ずかわいく飾れて、その生活が続けられたらいいのに…という妄想が膨らんでいきました」

 

そんな経緯を周囲に話していたら、縁があって、ROLLCAKE社で新規サービスとして立ち上げることに。当時からブレていないのが、FLOWERはただ花が届くだけの便利なサービスではなく、「花のある暮らしを提供する」それだということ。

 

「アプリでお花を選ぶところから、ポストに届いた箱を開け、保水キャップから取り出し花器に生けて、お世話をして、写真を撮って、飾って、眺めて、最後は枯れて、また新しいお花が届くところまで含めて、花のある生活全体を設計しています。そこでの体験を通じて、生活が少し豊かになったり、自分自身や自分の暮らしを好きになってもらえたらと思います」

旧体制な花材業界への挑戦

花は最低3種から選べるが、実はこの「事前に選べる」というのが、他サービスではなかなかない。「赤系」や「エレガント」などの色味や雰囲気を選ぶのではなく、選んだ写真の花と全く同じものが後日届く。

「FLOWERのサービスのコアは『かわいいが届く』ことです。他社では『実際の花材は届くまでお楽しみに』としていますが、FLOWERではお花が自分好み、というのは外せないポイントでした」と小室氏。花を選ばないお任せ設定もできるが、実際9割近くのユーザーが花を選んでいる。

 

とはいえ、花はナマモノで旬もある。希望の花が仕入れられるかどうかの確約は難しく、また卸業界的にも、事前の確約は好まれない。そんな“選べない”のが当たり前の世界で、小室氏は多数の業者に相談したが、ほとんどが門前払いをされてしまう。

 

「偶然出会った商社のお花部門の担当者さんが、花業界の衰退を危惧している方で、賛同してくださったんです。卸業者さんと調整を重ねてくださったお陰で、注文通りに仕入れをし、花材を変更せず届けることが可能になりました」

 

発注から納品までの時間をできるだけ短縮した仕組みを作ったことで、商品写真を撮影・掲載してから、注文を受け、蕾の状態で届けるまでの行程を、花が旬のうちに行えるようになった。業界的には先進的な取り組みと言えるが、実際スタートすると、生産者や業者からは「出荷や仕入れの予測がしやすい分、お花のロスが出にくい」という意外な反響もあった。会員数から事前に注文数を割り出すことができるためだ。

“かわいい”を戦略的に作り込む

アプリを開くと、海外のインテリア誌のようにゆったりしたデザインに、うっとりするような色使い。一言でいうと「心地の良い」ユーザーインターフェース。忙しい時にはスワイプして画像から直感的に選べるし、それぞれをタップすれば花材名や花言葉やお世話方法などの情報を得ることもできる。

宅配は、忙しい人でも必ず受け取れるように、3cm以内の箱に梱包しポスト投函のみ。梱包も特徴的で、箱を開けると、試験管にも似た保水キャップに花材が1本ずつ入っている。また、専用の花器を使えば、茎と花器のバランスや相性に悩むことなく、誰でもかわいく飾ることができる。選び、届き、生ける。その全段階において「ワクワク感を得られる」工夫が散りばめられている。

 

ユーザーの「かわいい」を満たすためには、花材もなんとなくかわいいものを組み合わせているわけではない、と小室氏。例えば、どんより気分の梅雨の時季には、気持ちが明るくなるように晴れ間に見える虹をイメージしたかすみ草を組み合わせたり、ファッション誌でデニム企画が多い時にはデニムカラーのブーケを作った。花材は、フローリスト、デザイナーと共に行う毎月の「お花会議」で決めている。

 

「テーマ性や季節性からコンセプトを立て、お花の組み合わせを考えています。ユーザーさんはトレンドに敏感で、コスメやファッションも好きな方が多い。感度の高い方に毎回かわいいと思ってもらえるように、ファッションやフード、アート、映画など様々なトレンドを踏まえて、企画性をもたせてお花を選んでいます」

 

ブーケの名前や説明書きのちょっとした表現にもこだわりが伺える。ユーザーにとっては「自分事になれるかどうか」が重要なのだと小室氏は続ける。

 

「元々自分が好きな色やイメージだったりも含めて、“これは自分のためにある”と思ってもらえる要素が重要です。そこを怠ると、欲しいと思う花にならないんです」

ユーザー自らシェアしたくなる仕掛け

FLOWERのコアユーザーは20〜30代の女性。特に25歳以上の働く女性が多い。入会も退会も配送のスキップも簡単にでき、もしもの時の返金制度もあるのが、気軽に始められる理由だ。ユーザーにオンラインに慣れ親しんだZ世代が多いのも、TwitterやInstagramなどのSNS中心のマーケティングが成功している所以。SNS上の投稿は、ほとんどが広告ではなく全てユーザー自身によるもの。「かわいい花の画像をシェアしたい」という動機ももちろんあるが、もう一つは、シェアしたくなる仕組みにある、と小室氏は話す。

「例えば花を選ぶと、選んだブーケの画像がシェア画像として保存でき、テキストのテンプレがコピーされるようになっています。加えて、シェア時には自動生成されたクーポンコードが発行されます。そのクーポンを誰かが使う毎に、自分のブーケが5%〜最大30%オフに。クーポンを使った人も初回のお花が無料になるので、お互いハッピーなんです」

 

花を部屋に飾った写真が多いInstagramに対して、Twitterでは選んだブーケの見本写真がシェアされていることが多い。例えば、「同じのを選びました!」「私は別のにしたけれど、これもかわいいですね」などというやりとりだ。

 

「最初は、同じ画像なのでここまでシェアされると思っていませんでしたが、見ると、ユーザー同士の間で新しいコミュニケーションが生まれている。こんなニーズもあるんだなと思いました」

 

ユーザーへのヒアリングでわかったのは、親子で花を飾っている人や奥さんのために登録している男性、おばあちゃんへの贈り物にしている学生といった、様々なニーズ。オンライン上だけでなく、オフラインにも花を介したコミュニケーションが生まれていた。花を届ける以上の価値が提供できていると思う、と小室氏は言う。

 

「お花が生活にあることで、何かがすごく便利になるわけではないですが、生活のなかにある小さな課題を変えていく大きなインパクトがあると信じています」

 

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取材:池尾優

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