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オンラインと今。

ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

「消滅可能都市を救うIT」、高専設立構想もある徳島県・神山町に集う企業のリアル

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四国山地に囲まれた徳島県の神山町は、2014年の調査で「消滅可能都市」として挙げられたほどの過疎地であった。消滅可能都市とは、このまま人口流出が続けば消滅する可能性がある都市のことを指す。1955年に2万人超だった人口は、2015年には約5,300人(国勢調査)に。高齢化率は48%。神山町の調査によれば2021年10月1日現在の人口は5,018人と、人口減少は依然進んでいる。一方で、ここ10年ほどの間に、多数のクリエイターやアーティスト、外国人が絶えず移住しており、2011年以降、16社の企業がサテライトオフィスを設けている。県内外からの視察者も絶えず、2023年には高専設立の構想も進んでいる。今回は、そんな同町に最初にサテライトオフィスを設立したSansan株式会社の「Sansan神山ラボ」に着目。こちらの常駐社員でエンジニアの辰濱健一氏に、自身の働き方や近い町の将来についてうかがった。

辰濱 健一

Kenichi Tatsuhama

Sansan株式会社 技術本部 エンジニア

徳島のソフトウェア会社への勤務を経て、法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan」、名刺アプリ「Eight」を提供するSansan株式会社に入社。徳島のサテライトオフィスであるSansan神山ラボでエンジニアとして勤務する傍ら、新しい働き方を実践・発信する。

サテライトオフィス勤務の決め手は“移動の少なさ”

ビジネスパーソンにとって、法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan」、名刺アプリ「Eight」はもはやお馴染みのツールだ。名刺をデータ化して情報を管理するのに加え、社内で共有することで効率化を図る。“働き方を変えるDX”を軸に、これらのサービスを展開してきたのがSansan株式会社だ。そのサテライトオフィス「Sansan神山ラボ」で辰濱氏が働き始めたのは、2014年3月のこと。リモートワークやテレワークはおろか、サテライトオフィスという言葉もさほど普及していない頃に、決め手になったのは“移動の少なさ”だったと同氏は話す。

「奈良の実家から高校までは電車で1時間、大学までは電車で2時間かけて通っていたので、『もう電車移動はこりごり!』という率直な思いで、自転車で通勤できる徳島のIT企業に新卒で就職しました。移動時間が減ると、自分のために使える時間と体力が格段に増えて。だから、新卒の頃から働き方にはプライオリティを置いていましたね。徳島の静かな環境は気に入っていたので、その後Sansanに誘っていただいた際には“徳島にいながら世界をマーケットにした開発ができる”という理由で転職を決めました。長らく「Eight」の開発に携わっていましたが、今は当社が2020年にリリースしたクラウド請求書受領サービス「Bill One」の開発をしています」

サテライトワーカーのために作られた居住空間

Sansan神山ラボの特徴は、居住と職場を兼ね備えた空間だ。社員は申請さえすれば誰でも滞在しながら働くことができ、また毎年春には新入社員合宿もここで行われる。

もともとは農家だった古民家の敷地には、桜の木とウッドテラスのある中庭を囲むように、母屋を改装した「OMOYA」、納屋を改装した「NAYA」、そして牛小屋を改装した「KOYA」が程よい距離感で立っている。納屋を改装した「NAYA」には、町内産のスギ材と石で組み上げた大きなデスクがあり、会議やグループワークに重宝する。

 

また、築100年の牛小屋を改修しワークスペースとミーティングルームの2部屋を作った「KOYA」は、木枠は苔むし、砂壁も剥がれていたりしてダメージは大きいが、経年による味わいはそのままに快適な空間になっている。木枠の内側に鉄鋼フレームを組み上げ、フレーム内にペアガラスをはめ込むことで機密性を確保。空調環境は抜群だ。

 

最も新しいのが、近年改修された「OMOYA」だ。サテライトワーカーの衣食住を考えて、職場だけでなく快適な居住空間も意識した。土間キッチンからダイニング、畳の間まで広々とした作業スペースがあり、ブラインドで仕切ることでグループワークや打ち合わせに、また寝室にもなり、汎用性が高い。

 

「新入社員研修では、仕事だけでなく寝食もともにすることで絆が一気に深まるように思います。桜の木を囲んでウッドテラスでBBQをするのが恒例になっていますが、入社早々、これに感激する人も多いです」

プライベートも過ごして初めてわかる環境の良さ

ラボにはリフレッシュも兼ね、だいたい10日〜1ヶ月ほど滞在する人が多いという。その際は「仕事とプライベートを両方体験するように勧めています」と辰濱氏。

 

「静かな町なので平日は集中して働けますし、休日にはアクティビティがたくさんある。どちらも体験することで、この働き方の良さが実感できると思います。トレッキングや渓流釣りなどの自然のレジャーはもちろん、神山には様々な取り組みがあるんです」

例えば辰濱氏のオフの日には、趣味のトランペットでコンサートに出演したり、小学校の授業のゲスト講師としてプログラミングを教えたり、チェーンソーを使い竹やスギを伐採する森の整備を手伝うこともある。とりわけ、神山にきて関わりが深くなったのが、エンジニア同士のつながりだという。

 

「地域のエンジニア向け勉強会『GDG(Google Developers Group)』の四国版『GDG Shikoku』に参加したのをきっかけに、コミュニティの企画・運営をするようになりました。これまでは社内エンジニアとの交流だけでしたが、今では県内、四国、関西、そして世界中のエンジニアとのつながりができています。人脈が広がることで情報収集の幅も広がり、とても刺激的です」

 

実際、エンジニア職はデスクでの作業が多く、特に常駐スタッフの少ないサテライトオフィス勤務では孤立しがち。社外のエンジニアと知り合えるコミュニティは、都心以上に必要なのだ。

 

そして神山のような小さな町を拠点にすることの面白みとして、辰濱氏は「人口の少なさ」をあげる。人口の少ない方が、一人あたりの役割が大きく、社会への貢献度が高くなる。その意味では、得意なことをアウトプットできる機会が多くなり、かつ自分が必要とされている瞬間を感じやすい。ここに、小さい町だからこそ得られる充実感があると話す。

 

「幼い頃からトランペットをやっていて、徳島市内では吹奏楽団に入っていました。それが神山では、女性消防団のファンファーレ隊で信号ラッパを吹きたいので指南してほしい、と言ってもらえることもある。神山に来て、アウトプットの機会が自然と多くなりました」

新しい働き方から学び方へ

神山町は、2023年に次のターニングポイントを迎える。この年に設立を目指している「神山まるごと高専(高等専門学校)※仮称」が構想中のためだ。同校が目指すのは“テクノロジー×ITで人間の未来を変える学校”。理事長に就任予定となっているのは、ここ数年の町の変化を間近に見てきたSansanの代表・寺田親弘氏だ。

高専のコアメンバー。左がsansan代表・寺田親弘氏。  (C)今津聡子

 

構想段階ではあるものの、神山まるごと高専の特徴は、ソフトウェアに関するテクノロジー教育、UI・UXやアートに関するデザイン教育、そして起業家精神を育むことで「起業するデザインエンジニア」を育成すること。卒業後の進路は就職、編入に加えて、起業も選択できるようにサポート体制を整えていく予定だ。ここまで進路の選択肢が広いのは、高等教育としては斬新だ。

 

神山には集中できる環境と豊かな自然があり、サテライトオフィスのように、現場の課題や最先端の技術を扱う実践の場も多くある。高専がそれら地域と関わることで、地域にも様々な化学反応が生まれるはずだ。この町で、オンラインというインフラが新しい仕事環境を作ってきたように、今後は新しい教育も可能にしていく。

 

神山まるごと高専は2023年4月に開校を目指している。それに向けて現在、個人・法人ともにクラウドファンディングやふるさと納税による寄付を募っている。働き方だけでなく、学び方のモデルケースにもなりそうな、神山町のこれからに期待したい。

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取材:池尾優

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