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オンラインと今。

ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

なぜ、まだ食べられるものが捨てられる? 食品ロス削減を目指す「TABETE」で変わる環境意識

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“本来食べられるのに捨てられる食品”を意味する、食品ロス(フードロス)。環境意識の高まりとともに、近年見聞きする機会も多くなった。そんな廃棄の危機にある食品を消費者がお得に購入できる、オンラインプラットフォームがTABETE(タベテ)だ。多くの人がそれまでの“当たり前”を見直したコロナ禍では、食品ロスに対する人々の意識や同サービスの価値にも大きな変化があったはず。TABETEを運営する株式会社コークッキング代表取締役CEOの川越一磨氏に話を伺った。

川越 一磨

Kazuma Kawagoe

株式会社コークッキング代表取締役CEO

慶應義塾大学総合政策学部在学中の板前修業を経て、卒業後は株式会社サッポロライオンで店舗経営の経験を積む。2015年7月に山梨県富士吉田市に移住し、空き家を使ったコミュニティカフェや子ども食堂の立ち上げにかかわる。同年12月に株式会社コークッキングを創業し、2017年にフードロスに特化したシェアリングサービス「TABETE」をリリース。2019年4月一般社団法人日本スローフード協会理事に就任。

フードロスはあらゆる社会問題の大元

TABETEはまだおいしく安全に食べられるのに、食品ロスになってしまいそうな食事を購入できるフードシェアリングサービス。店頭で売り切れないパンやお弁当、予約のキャンセルが出てしまった料理、食材の端材でつくったオリジナル商品等の様々な食事が出品され、それらを購入することは“レスキュー”と呼ばれる。

 

「なぜ、まだ食べられるものが大量に捨てられているのか」

 

過去にはチーフシェフを務めたこともあるなど、飲食業界に長く関わってきた川越氏。日々、大量の食べ物がゴミ箱に投げ入れられていく光景を前に、全てはそんな疑問から始まったと言う。

©Rick Wu

 

そんな心の内のモヤモヤを「もったいない」で片付けることができず、同氏はフードロス啓蒙イベント「ディスコ・スープ」に関わるように。参加者が生演奏の流れるイベント会場で規格外野菜を調理して食べる、というのが名前の所以だ。ユニークな仕掛けは好評で年々ファンは増えていくものの、今度は「啓蒙活動だけでは社会はなかなか変わらないのでは、というジレンマを抱えていました」と言う。そこで、食品ロスの改善を社会システムとして最適化できる仕組みを作り、2018年4月に始まったのがTABETEだ。蓋を開けてみると、食品ロスの世界がどんどん明らかになってきたと、川越氏は当時を振り返る。

©Rick Wu

 

「見えてきたのは、食品ロスはありとあらゆる社会問題の根底となる、大元の課題だということでした。特に今、世界の喫緊の課題であるカーボンニュートラル(二酸化炭素の排出・吸収量を同等にすること)の実現に向けては、食品ロスは非常に大きなウエイトを占めると思います」

例えば、日本の自給率は38%と世界でも低い。輸入に頼るということは、フードマイレージ(食料の輸入にともなう環境への影響を数字で表したもの)がかさみ多くのCO2が排出され、さらに食べきれなかった分を廃棄すれば、焼却でもCO2が排出される。また、肥大化する家畜産業によるCO2排出量も大きな問題だ。それらの環境負荷は気候変動や資源の枯渇に繋がるだけでなく、先進国に食料が集まり貧困国に不足する事態をも引き起こす。こうした世界課題の悪循環の中に組み込まれているのが食品ロスであり、逆をいえば、様々な課題の改善につながるポイントでもある。

 

TABETEが始まった2018年は、日本ではまだ食品ロスの社会課題としての認知は低かったが、「食品ロスの関係人口は確実に増えている」と川越氏。最初の入り口が商品のお得感だったとしても、そこから問題に目を向け、サービスのファンになる人も多いのだとか。実際に、店舗では廃棄が減り、利益率が上がるだけでなく、捨てる行為が減ると「店舗スタッフの心的なストレス軽減にもなる」と、幅広い効果を実感していると言う。

 

「最近では、大手の某カフェチェーンで、数店舗へ試験的に導入してみたら、スタッフの評判がよく、たちまち50店舗まで広げよう、という動きが出ています。こうした現場の満足度が高いのがTABETEの特徴です」

日本の環境意識の壁

食品ロスは、2015年9月の国連サミットで採択されたSDGsの重要な柱となっていることからもわかるように、今や地球に生きる全市民の共通課題だ。消費者庁の資料によると、世界では人の消費のために生産された食糧のうち1/3が廃棄されているという。世界の食品ロスは年間643万トンで、これは国連世界食糧計画(WFP)による食糧援助量(2017年実積)の1,7倍にあたる。世界の人口約78億人の内、約8億人が食糧不足や栄養失調で苦しんでいる。先進国には日々大量の食糧が集まり、捨てられているにも関わらず、だ。

 

こうした食品ロスの課題にいち早く取り組んできたのはヨーロッパ、特に北欧諸国だ。TABETEがビジネスモデルの参考にしている「Too Good To Go」も2015年にコペンハーゲン(デンマーク)で始まり、今や世界中に拡大しているフードシェアリングサービスだ。一方、日本ではこうした意識はまだまだ低く「SDGsという言葉もバズワード的に使われてはいるが、いまだに浸透しているとは言えないレベル」だと川越氏は厳しく評価。先述の消費者庁の資料によると、日本の食品ロス量は年間643万トン。年間1人あたりの食品ロス量は51kgで、1人あたりの米の年間消費量に相当。その原因は「環境意識の低さ」にあると川越氏は指摘する。

 

「2017年から各所で食品ロス問題を訴えてきましたが、生活者にはすんなり浸透した一方で、事業者サイドに理解してもらうのには今も難儀しています。食品ロスは『経済活動においては必要悪』というご意見も多くて。世界では、経済合理性と環境配慮を両輪で進めるのがスタンダードになりつつありますが、日本では両者は相反するもので、前者が優先される風潮が根強く残っています。ですが、ここ1年ほどでグローバル企業や大手企業が対策を打つなど、良い流れがようやく生まれたように思います」

オンライン時代に生きる支え合いの心

TABETEでは注文から会計までがオンラインでできるが、商品の受け取りはユーザーが直接店舗に赴く、テイクアウト形式をとっている。オンラインプラットフォームでありながら、対面の受け取りにこだわるのはなぜか。

「購入した方には、食べ物をレスキューした・困っているお店の役に立った、と感じていただきたいので、あえてそうしています。商品の受け渡し時には、『ご協力ありがとうございます』と心を込めて言ってくれるお店の方も多いようです。そうしたちょっと不便な部分をあえてデザインしていく、というのが、実はこれからの社会で重要なのかなと思います」

 

そこには、消費者と生産者・事業者間の心の通い合いが生じる。TABETEが“現代版おすそ分け”と例えられる所以だ。そんな企業の理念が大きく現れているのが、コロナ禍に誕生したECサイト「レスキュー掲示板」だ。生産者やメーカーが、何らかの理由で売れなくなってしまった商品を消費者に届けることができる。現在は月間約200種類の商品を扱っている。

 

「1・2次産業の方に多数相談をいただいたことから、昨年の緊急事態宣言時に急遽実験的に立ち上げました。その後も継続的にご依頼をいただいたため、本格的な運用を始めました。今はBASEのプラットフォームを使っていますが、早ければ今年中に自社サービスに移行する予定です」

 

コロナ禍では飲食店や学校、また娯楽施設などで食品廃棄のニュースが立て続いたことで、特に都市生活者が生産者の困りごとに目を向ける大きな機会となった。コロナ前後で食品ロスの総量は変わらないが、人の流れが読みづらくなり、食品ロスはより出やすくなったといえる。

「クラウドファンディングのようにお店を応援する動きがあちこちで起こったように、消費者が何・誰に対してお金を払っているかという感覚は、コロナ禍で少しアップデートされたのではないでしょうか」

 

直近では、農産物直売所で余った農産物を販売する「TABETE レスキュー直売所」が本格始動するなど、今後はTABETEの手法を様々な市場に展開していく予定。心の通ったオンラインサービスで、社会は便利に、人々の意識も変わっていく。そんなTABETEから生まれる新しいうねりに今後も期待したい。

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取材:池尾優

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