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オンラインと今。

ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

元・隈研吾事務所の建築家が建築デザイン業界の働き方を変える。空間デザインと建材・家具の検索サービス「TECTURE」

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「選ぶものが多くて大変……」

 

注文住宅を建てたり、リノベーションをした人から、よく聞く言葉だ。施工前には、壁材から床材、天井材、階段、建具、棚の取っ手ひとつに至るまで、各所の建材・家具を選ばなくてはならない。それ以上に大変なのが、建築デザインに携わる建築家やデザイナーなどの設計者である。クライアントに提案する建材・家具を、膨大な商品の中から事前にリストアップする必要があるからだ。建材・家具メーカーも自社商品を選んでもらうため、大量の商品サンプルを抱えて営業に駆け回る。建築デザイン界において、建材・家具の検索や選定は設計者、メーカーともに非常に負担が高かったのだ。

 

そんな建築デザインの課題をスムーズにするために誕生したのが、空間デザインと建材・家具の検索サービス「TECTURE」。リリースからわずか1年後の2021年4月には1.2億円の資金調達を達成し、昨今の仕事のオンライン化に伴って引き合いが急上昇している。このサービスによって、業界の働き方や未来はどう変わるのか? 建築家としての経歴ももつtecture株式会社 代表取締役社長の山根脩平氏に、サービスの立ち上げから今後目指す方向について伺った。

山根 脩平

Shuhei Yamane

tecture株式会社 代表取締役社長

1984年大阪生まれ。 2008年隈研吾建築都市設計事務所入社。2015年よりLINE株式会社 にて勤務。会社やサービスのブランディングなどを担う組織のマネジメントを行う。 2019年tecture株式会社代表取締役社長に就任。

空間画像からアイテムの問い合わせまでをワンストップで

TECTUREを一言で表すなら、空間デザインと建材家具の電子カタログだ。サイト上には空間デザイン事例を捉えた美しい写真がずらり。そこに含まれた建材・家具アイテム一つ一つに、情報が紐づいている。これまでにも、オンライン上で画像を共有するサービスは存在するが、TECTUREがすごいのは空間画像から建材・家具のアイテム情報、メーカーの担当者まで検索でき、さらには担当者への問い合わせまでワンストップでできること。

実際に使って分かるのは、とにかく使いやすい。空間デザインのサムネイル画像にカーソルを合わせるだけで、使われているアイテムのメーカー名、品番、値段が瞬時に表示される。いちいちクリックせずとも、判断に必要な最低限の情報がすぐに分かる。クリックすると、細かなカタログ情報やコンタクトフォームのページへ飛ぶ。ある程度決まった商品を検索する場合は、カテゴリー、金額、色、耐火性能レベルなど、細かな絞り込み機能が役立つ。気になるアイテムを見つけたら、「お気に入り」に登録し、プロジェクトごとに分けることも可能だ。

 

メリットは建材・家具メーカーにもある。アイテムの詳細ページには、同アイテムを使った別の空間事例も表示されるようになっていて、それらが自然と商品の宣伝や信用度につながるのだと山根氏は言う。

 

「メーカー営業の方は大抵、サンプルやカタログをパンパンに詰めたキャリーケースを持って設計事務所に営業に来られるんです。その時間や手間の大幅なコストカットになると思います」

TECTUREの収益基盤もここにある。メーカー側は、営業や宣伝、マーケティングのコストを削減できる代わりに、TECTUREに登録する商品点数に応じた金額を月々払う。中規模のメーカーで約1,000アイテム、大きなところでは1〜2万点を扱うところもあるという。多種アイテムを同時に登録でき、問い合わせにもワンストップで対応できるTECTUREが重宝されるのも頷ける。

IT×建築で検索業務を滑らかにする

これらユーザー目線の細かな工夫には、建築とITの双方の経歴をもつ山根氏の経験が存分に反映されている。同氏は国立競技場や歌舞伎座なども手掛ける名建築家・隈研吾氏の事務所に9年ほど所属したのち、コミュニケーションアプリの「LINE」でブランディング組織の立ち上げに携わった。建築からITへという異例の転職を経て浮き彫りになったのは、「建築デザイン界の旧態依然とした働き方」だったと振り返る。

 

「当時のLINEは上場前で勢いがありましたし、働き方への考えが設計事務所とは対極で、とても刺激的でした。そこから、建築デザイン界にITを導入したらもっと働きやすい環境になるのでは?との思いが強くなっていきました」

 

具体的に、建築デザインに関わる人の働き方とは、山根氏曰く「長時間労働が当たり前」。例えば、建築雑誌やインターネットなどでトレンド把握や情報収集をし、気になるアイテムがあっても、ネットで検索しても出てくることは稀なのだそう。周りに聞くなどあの手この手でメーカーを突き止める必要がある。運良くメーカーが判明し問い合わせをしてからも、カタログやサンプルを持った営業マンの訪問を待たなければならない。結局、アイテムを取り寄せるのに1週間ほどかかってしまう。建物を建てる時、こうした設計者が決めるべきアイテムは住宅レベルでは数百点あり、ビルだと数千点を超えるケースもある。

「アイテム探しにとてつもない時間がかかるので“1タップ”がものすごくストレスになるんです。ここまで手間がかかると、新しいものを探す勇気がなくなってきます。彼らの業務をいかに滑らかにするかを考えてできたのがTECTUREの仕組みです。検索に加えて、クライアントへの提案時にもTECTUREのリンクが役立つので、クライアントとのコミュニケーションがスムーズになります」

こうした設計事務所は日本全国でざっと11万社あり、これはコンビニの倍ほどの数。特に中小規模の会社はどこの街にもある実は身近な存在。なのに「IT化はほとんど進んでいない」のだと山根氏は意外な事実を述べる。

 

「例えば、レーザーカッターや3Dプリンタのようにデザインをビジュアル化する技術は進んでいますが、働き方自体はほとんど変わっていないと思います。物の選び方、コミュニケーションの仕方、労働の仕方。そこに僕たちはテクノロジーを入れていきたい」

リリースせずに、サービスを軌道修正

2020年に始まったTECTUREだが、実はリリースまで1年以上かかっている。「失敗・修正は前提に、とにかく走り出してみることが大事」というのが山根氏のポリシーだが、それにしても堪えた一件があったと話してくれた。

 

「初めはもっとユーザー参加型のサービスでした。ユーザーである設計者やデザイナーが画像をアップして、相互にコミュニケーションをとるという、コミュニティ機能が強いものを目指していました。ですが進めながら気づいたのが、ユーザーがアップした情報で、どれほどの信用を担保することができるのか?という疑問でした。TECTUREは電子カタログである以上、データの信用度がサービスのブランディングに直結します。信用されないデータベースでは意味がありません」

 

こうした思いから、完成したサービスをリリースせずに軌道修正することに。この後、作り直したものが現在のTECTUREだ。つまずきから得た大きな気づきが、サービスの基礎を築いたのだ。

建築情報を可視化・共有すれば、世の中はもっと美しくなる

紙のカタログを見たり、図面をひいたり、模型を作ったりと、設計者の業務はもともとオフラインの作業が多いが、コロナ禍以降、オンライン化が急速に進んでいる。中には地方の現場に常駐してしまい、ほとんど都心の事務所に戻って来ないという人もいるという。

 

「設計者の働き方は随分自由になりました。その反面、メーカーさんは困っている状況と言えます。オンラインで営業はできるけれど新規開拓の方法がわからない、といったご相談やお問い合わせも、今年に入ってからグンと増えました。働き方改革やコストカットが時流なので、カタログの電子化に興味をもつメーカーさんも増えています。メーカーさんのカタログって、一つの設計事務所に数千冊は保管されていて、それが通常1〜2年で更新されていたんです」

多方面から「こんなサービスを待ち望んでいた」と言ってもらえるものの、TECTUREのデータベース量はまだ足りず「働き方改革にはまだ至っていない」と山根氏の自己評価は厳しい。しばらくは、過去5年分の主要な設計事例のデータベース化に力を注ぐ。“建材・家具はTECTUREで探す”。業界に、そんな文化を浸透させるのが目標だ。山根氏の前には、こんなヴィジョンが広がっている。

 

「良い建築が情報がどんどんオープンになれば、みんながそれを享受できる。それにより、世の中がもっと美しくなると思います」

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取材:池尾優

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