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オンラインと今。

ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

オンラインを介した「バーチャルスポーツ」は、コロナ時代のコミュニティの場になるか?

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オリンピックは、今後“オンライン”をどのように生かすのか。国際オリンピック委員会総会で再選したトーマス・バッハ会長は、新しい五輪改革の指針を提言し、その中で「バーチャル(仮想)スポーツ」の可能性について言及した。エレクトロニック・スポーツの略称で市民権を得た「eスポーツ」とは異なり、「バーチャルスポーツ」は実際のスポーツをコンピューターゲーム化したもの。つまり身体運動が伴う。これまで大会運用にオンラインが用いられてきたが、競技として“オンライン”が活用される可能性が見えてきた。既に伝統の自転車レース「ツール・ド・フランス」はバーチャルイベントが開催され、注目を集めている。この領域に詳しい流通科学大学・山口志郎先生に、その現在地を聞いた(2021年3月21日)。

山口 志郎

Shiro Yamaguchi

流通科学大学 人間社会学部 准教授
神戸商工会議所 神戸スポーツ産業懇話会 世話人

1985年神戸市生まれ。和歌山大学大学院観光学研究科博士後期課程修了。博士(観光学)。専門はスポーツマネジメント、イベントマネジメント。主な著書に『スポーツツーリズム入門』(共訳、晃洋書房)。2020年度にはコロナ禍の中、「有馬-六甲Virtual Ride Race」、「第3回企業交流運動会(オンライン版) in KOBE」、「第10回赤穂シティマラソンオンライン大会」の企画運営・調査業務を実施。

“オンライン”を活用したスポーツのあり方

「バーチャルスポーツ」はあまり聞き慣れない言葉であるが、Wii Fitなどのゲームを想像すると分かりやすいだろう。任天堂のゲームソフトで、2007年に発売されるとヨガや筋トレ、有酸素運動などができる点で人気を集めた。また、ここ5年間でもVRゴルフ・VRテニスなどが登場し、コロナ禍においてリングフィットアドベンチャーがヒットしたのも記憶に新しい。これらはゲーム要素が強いものの、身体活動を伴いながらスポーツとして取り組むことができる。他にも、トレッドミルに乗りながらランニングを行い、バーチャル上でアバターが走るといったインドアランニングも広がりつつある。

都道府県対抗eスポーツ選手権兵庫県代表戦の様子(トレスコルヴォス有馬チーム)

 

「IOCのオリンピックバーチャルシリーズの発表(4/22)を見ると、バーチャルスポーツは、”オンライン上で競う身体活動・非身体活動”と読み解くことができますが、定義の部分が曖昧な印象を受けます。今後は、バーチャルスポーツとeスポーツの棲み分けが必要であり、バーチャルスポーツを‟機器を用いて、オンライン上で競う娯楽的な身体活動“と捉え、レギュレーションやルールの明確化が求められます。コロナ禍での社会情勢も踏まえ、どれほど普及するか検証は必要でしょう。また、IOCでは若い世代へのスポーツの普及を目指しています。eスポーツも含め、デジタルを使ったものは若い層へのリーチが速いですからね」

 

eスポーツの市場規模は、2020年に1,000億円となった。2023年に1,600億円に到達するとも言われている。Jリーグの市場規模が1,200億円程度であることから、近い将来、これをeスポーツが上回ることも考えられるのだ。

 

日本人の我々がeスポーツを始めるのは、「ハードルは低い」と山口先生は分析している。私たちの日常には、スマートフォンのゲームや家庭用ゲーム機などがすぐそばにあるからだ。一方で、「競技として専門性を高める上での障壁はある」と指摘する。

 

「eスポーツでも専門性を高める場合、チーム戦になります。そうすると、技術力だけではなくコミュニケーション能力、人間力のようなものが必要になります。また、競技力が向上すると、ソフトの理解だけではなくその他の分野の知見も求められます。ゲーム機器や電子機器に関する知識の習得をはじめ、ゲームチェアや専門性の高いゲーム機器の購入、心身のコンディションを高めるためのトレーニングなどへの投資も必要になるでしょう」

有馬温泉で開催されたバーチャルライドレース

日本でも、いくつかのバーチャルイベントが実際に開催されている。2020年7月には、兵庫県の有馬温泉(神戸市北区)で「有馬-六甲Virtual Ride Race」が開催された。このイベントでは、屋外用のロードバイクを屋内に設置し、バーチャルサイクリングアプリ「Rouvy(ルービー)」とロードバイクに取り付けたローラー台「スマートトレーナー(Wahoo KICKER)」を連携させることで、屋内でのバーチャルライドが可能となる。リアルに自転車をこぎつつも、オンライン上に登場するアバターが連動して動き、レースに挑むものだ。当日はeスポーツプレーヤーやプロのサイクリストらが有馬温泉にあるeスポーツ観戦バー(BAR DE GOZAR)に集結。有馬温泉をスタート地点とし、そのまま山頂を目指すといったヒルクライムに挑んだ。勾配によるペダルの重さや、自転車自体の傾きも再現できるのが、バーチャルライドの魅力だ。

 

「ルービーのコースは、自動車にGo Proを取り付け有馬温泉から六甲山頂を実際に撮影したものをAR化しています。そのため、実際のコースを走行しているようなリアリティがあります。現場ではプロの方が本気でこいでいたので、その時の臨場感は忘れることができません。また、没入感ある映像も相まって、夢中になって画面に見入っていました。オフラインとオンラインが繋がった近未来型のイベントでした」

同レースは、有馬温泉・御所坊グループ金井庸泰専務(兵庫県eスポーツ連合副会長)と神戸商工会議所、山口先生の三者で企画が進められた。2019年7月頃から企画が練られ、2020年5月開催を目指し、民間企業や地元・有馬温泉の賛同者を集めて実行委員会が発足。開催準備は進められたものの、コロナの影響で一旦白紙に。大会中止も考えたが、三密を避け、自宅から参加者が自由に参加できる優位性がバーチャルスポーツにはある。今の時代だからこそ開催をと、コロナ対策を行った上で7月にアジア初となるルービーによる公式レースを開催した。その結果、スポーツ庁による第3回パブコンにおいて「優秀賞」、公益社団法人日本スポーツ健康産業団体連合会と一般社団法人日本スポーツツーリズム推進機構による第8回スポーツ振興賞において「日本商工会議所奨励賞」を受賞し、評価を得ている。一方で課題もあると山口先生は振り返る。

 

「今回、実際に有馬に観光に来てもらうという地域振興・地域活性化の狙いがありました。バーチャルで走行した人をいかに実際のコースに誘導するかが課題です。バーチャルからリアルへの仕掛けが必要です」

 

※ 表紙の写真は、4月14日に有馬温泉金の湯の裏にオープンしたサイクリングカフェ「Casa Ciclismo:カーザ シクリズモ」である。ここでは、バーチャルライドをはじめ、eバイクレンタル、駐輪場、カフェなどが完備されており、バーチャルからリアルへの仕掛けづくりが行われている。(関連リンク 参照)

「ワールドマスターズゲームズ2021関西」直前にレースも

少しずつではあるが、バーチャルスポーツに関する環境が整いつつある。その成果は、ゴールデン・スポーツイヤーズの一つとして2022年に開催される「ワールドマスターズゲームズ2021関西(WMG)」でも取り入れられている。WMGは概ね30歳以上が誰でも参加できる生涯スポーツの国際スポーツイベントだ。同イベントのインターカレッジ・コンペティション2020(WMGに向けた学生コンペ)で準優勝を飾ったのが、山口先生のゼミ生たち。有馬温泉でのバーチャルライドレースの企画を発展させ、WMGの自転車競技(ロードレース)が開催される鳥取県倉吉市において、コロナ禍でインバウンドツーリストが開催地に事前訪問が難しいことを考慮し、バーチャルライドレースの開催を提案。また、コロナ収束後に現地を訪問し、サイクルツーリズムを実践してもらうための仕掛けづくりを行なった。

 

インターカレッジ・コンペティション2020での準優勝がきっかけとなり、現在鳥取県、倉吉市、WMG組織委員会などと協働で新たなプロジェクトが進行している。訪れる人をより倉吉市にグリップしてもらいたいという狙いから、バーチャルライドレースの開催を進めているのだ。2021年秋開催に向けて検討を進めているという。

中国地域自転車競技ロードレース大会(WMG2021関西リハーサル大会)の様子

 

「WMG後のレガシーをいかにつくり出すかが大事です。バーチャルライドレースはイベント終了後もコースがバーチャル上に残りますので、倉吉市の認知度向上にも繋がりますし、終わったあとにリアルで現地のサイクリングや観光を楽しんでもらえるという点が今回の特徴なのかなと思います」

サードプレイスの進化版としての位置付け

今後、スポーツとオンラインは、ますます密接な関係になっていくだろう。コロナ禍で分断された人とのコミュニケーションの場をバーチャルスポーツは繋ぐことができる。

 

「サードプレイス(家でも職場でもない、居心地のいい場所・空間)という言葉がありますが、それにプラスしてバーチャルスポーツによってオンライン上で“つながる”ことで、『フォースプレイス』ができると思います」と山口先生も分析している。

 

今までの現実空間から、WebサイトやSNSの場といった「仮想空間」に生まれるのがフォースプレイス。それをバーチャルスポーツが介すような形で、コミュニティが醸成されるのだ。

 

「バーチャルライドの場合だと、実際にFacebookのコミュニティが活発に動いています。そこでイベントや参加者同士の交流、練習会が行われています。オンラインコミュニティを通じて、オフライン・オンラインと繋がる。そうしたことから、スポーツ実施率の向上や自殺率・犯罪の減少、コミュニティ意識の醸成、主観的幸福感などに繋がっていくと思います」

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取材:上沼祐樹

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