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ENILNO いろんなオンラインの向こう側

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ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。
これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

国内シェアNo.1の登山アプリ「YAMAP」が目指す”共助の世界”と”森づくり”とは

YAMAPといえば、山好きの間ではお馴染みのアプリ。2013年3月のリリース以降、じわじわと支持を集めてきたが、アウトドア需要が高まるコロナ禍で、さらなる注目を浴びている。2020年10月にはMAU(月間利用者数)が前年比160%成長し、2019年には150万件だった累計ダウンロード数は、2021年8月には260万件まで急増した。700万弱といわれる日本の登山人口のうち、3分の1以上がYAMAPを使っている計算になる。2021年7月には循環型コミュニティポイント「DOMO(ドーモ)」をリリース。登山プラットフォームとしての新たなフェーズを迎える今、YAMAPの設立者であり代表の春山慶彦氏に、サービスが目指す未来について話を聞いた。

春山 慶彦

Yoshihiko Haruyama

株式会社ヤマップ 代表取締役/CEO

1980年、福岡県春日市出身。同志社大学法学部 卒業。アラスカ 大学フェアバンクス校野生動物学部 中退。株式会社ユーラシア旅行社『風の旅人』編集部勤務後、独立。 ITやスマートフォンを活用して、自然や風土の豊かさを再発見する仕組みをつくりたいと思い、2013年3月にヤマップを創業。ユーザー規模の拡大に伴い事業を多角化、現在に至る。

YAMAPのひらめきの元は、アラスカでのアザラシ猟の経験

山(YAMA)と地図(MAP)でYAMAP。名前の通りYAMAPは、携帯の電波が届かない山の中でも現在地がわかる登山地図アプリだ。その地図について説明する前に、スマホの地図機能に触れる必要がある。電波の入らない山で地図アプリを起動すると、当然地図は表示されないが、現在地を示す青い点は正確に起動している。なぜかというと、現在地を示す青い点はスマホに搭載されているGPS機能によるものだからだ。GPSは地上の電波ではなく、宇宙にあるGPS衛星から位置情報を得ているため、地上の電波が入らない山中や海外でも正しく作動する。GPS機能の仕組みに春山氏が気づいたのは、社会との向き合い方を模索していた震災後の2011年5月ごろ。大分県九重の山を歩きながら、その仕組みに気づいたとき、「全身に電撃が走った」と当時を振り返る。

 

「2005年、2006年当時、アラスカに住みながら、イヌイットの人のアザラシ猟に同行していました。猟の最中、海が荒れて何度か遭難しかけたのですが、GPS端末があることで、現在地がわかり、遭難せずに助かった経験がありました。アザラシ猟の経験から、GPSは命を守る道具なんだと実感しました。2010年以降、スマホが普及し始めました。スマホは、通信機器とGPS機能が結びついたデバイスです。今後、スマホはライフラインになると直観しました」

YAMAPアプリは、スマホ端末にあらかじめ山の地図をダウンロードさせることで、電波が届かない山の中でも現在地とルートがわかる機能を提供している。また、YAMAPでカバーしている山は、百名山などの有名な山だけでなく、地元の人しか知らないような里山なども含め、日本全国21,000座以上にのぼる。アプリは無料でも使えるが、プレミアム(有料)会員になると地図が無制限でダウンロードできるなど、使える機能がぐんと広がる。

遭難を防止するだけでなく、遭難してしまったときの救助にも役に立つようにと、登山者の位置情報を家族や友人と共有できる「みまもり機能」を2019年に実装。実際にこの「みまもり機能」で、遭難した人が発見され、助かったケースもあるという。

 

「みまもり機能で遭難者が救助されたときは、純粋に嬉しかったです。YAMAPは単に便利なアプリなのではなく、命を守る道具でもある。人の命に関わっているサービスであることを忘れずに開発を続けていこうと思いを新たにしました」

コロナ禍で山へ向かう人が増えた

自身も大の山好きだという春山氏。彼がもつ山の世界観は、YAMAPのサービスにも通底している。

 

「僕らの命は、”ひとつ”や”ひとり”で成り立っているのではなく、風土や環境といった全体と関連しながら生き、生かされています。大きな循環のなかに自分の命がある。しかし、現代の都市化社会では、自分の命と風景・環境のつながりを実感する機会が極端に減ってしまっている。山に行くと、自分の命が風土や環境とつながっていることを、体感できます。都市化が進む時代だからこそ、登山・アウトドアの社会的意義は深まっている。登山・アウトドアを通して、人と山をつなぐサービスをつくりたいと思い、2013年に起業しました」

2020年以降、アプリのダウンロード数やMAU、ユーザーが投稿する活動日記数などが軒並み増えている。その理由について、春山氏の意見はこうだ。

 

「コロナ禍以降、登山・アウトドアは人気のアクティビティになっています。それは単に密を避けられる、という理由だけではないと思います。ステイホームの推奨や行動の制限があったり、リモートワークを含め様々な場面でオンライン化が進むなか、外で身体を動かすことの気持ち良さ、“リアルの価値”を、多くの人が求めているのかもしれません。人間の感覚・感性を開放するアクティビティとして、登山・アウトドアが見直されているように思います」

「いいね」の進化系、循環型コミュニティポイント「DOMO」

YAMAPが提供するのは、地図アプリだけではない。ユーザー同士で活動日記(登山記録)をシェアする山のSNS機能や、厳選された山道具が購入できるYAMAP STORE、YAMAP MAGAZINEというウェブメディア、さらにスマホから簡単に加入できる登山保険といった様々なサービスがある。登山前・登山後も含め、登山者に伴走してくれる存在といえる。

「ツール(地図)とコミュニティ機能(SNS)をワンストップで提供したのがよかった」と春山氏は言う。ユーザーが投稿する情報やユーザー同士の繋がりが価値となり、人が人を呼ぶ良い循環ができている。この循環をアップデートする取り組みが、2021年7月にリリースした循環型コミュニティポイント「DOMO(ドーモ)」だ。

 

ユーザーが「利他的な行動」をすると、DOMOというYAMAPオリジナルのポイントが貯まっていく。利他的な行動とは、活動日記を公開したり、みまもり機能をオンにするなどの、他人思いの行動のことを指す。そこには、YAMAPが考えるコミュニティの方針が表れている。

「YAMAPの利用者が増えたこともあり、プラットフォームとして、ユーザーさんのどういう行為をYAMAPとして後押ししていくのか。一定のモノサシが必要な時期に来ていると感じていました。もともと登山には、すれ違うときにお互い挨拶をする、困っている人がいたら助けあうなど、共助の文化が根づいています。この共助の文化、利他的な行為に寄り添うようなモノサシ、ポイントシステムができるとユニークなのではないかと考え、DOMOを設計しました」

 

貯めたDOMOの使い方が、また面白い。これまでの「いいね」機能をアップデートする形で、DOMOのポイントを贈り合えるようにした。加えて、DOMOはYAMAPが連携する支援プロジェクト(鎮守の森づくりや登山道整備など)に使うことができる。支援に充てられたDOMOは、一定のレートで円に換算し、支援先に届けられる。

「『いいね』はユーザーさんにもっとも使われている機能でした。ですが、『いいね』が単に承認欲求を満たすだけの記号になっているのは、もったいないと感じていました。いいねを、YAMAPなりに価値化したのがDOMOです。DOMOというYAMAP独自のコミュニティポイントを通じて、森づくりを支援したり、登山道整備をサポートするなど、インターネットに閉じず、リアルの風景・環境整備にも貢献していきたいと思っています。山に行くことで風景や環境が豊かになり、山の再生に貢献できる。そんな循環をYAMAPでつくれたらいいなと思います」

 

現在は「どんぐりの苗を植林し、山の再生に繋げるプロジェクト(熊野古道/和歌山県田辺市)」と「大雪山(北海道)の登山道整備プロジェクト」、「英彦山(福岡県・大分県)鎮守の森プロジェクト」「福島県南相馬市での鎮守の森プロジェクト」などがある。プロジェクトは今後も順次増えていく予定だ。

インターネット企業がリアルの風景を美しくしていく時代へ

普段から山に入る人には周知のことだが、日本の山は荒れてきている。「一部の山はかなり危機的な状況になっています」と春山氏も危惧するように、増えすぎた鹿が新芽を食べるので森が育たず、山は荒れハゲ山も増えている。スギやヒノキなどの保水力の低い針葉樹の山が多く、大雨が降れば、土砂が容易に流れ出すなどの危険性も高まっている。

 

「2020年に起きた熊本県球磨川の氾濫も、今年熱海で起きた土砂災害も、半分は人災だと思います。流域治水の考え方をベースに、山を手入れしていく必要があるように感じます。具体的には、はげ山にはスギ・ヒノキの針葉樹を植えるのではなく保水力の高い広葉樹を植える、増えすぎた鹿は一定数獲るなどの取り組みです。山の恵みを実感し、山で遊ばせてもらっている登山者やアウトドアユーザーから、山を豊かにする活動の後押しを始めていけたらと思います」

 

DOMOはデジタルの価値をリアルの風景づくりにつなげる、一つの挑戦ともいえる。人や情報と出合うあらゆる入口がオンライン前提になる今、「リアルとの接点をどうつくるか。インターネットに閉じこもらずに、リアルの風景をどう豊かにし、後世につないでいくか。そこが問われている気がする」と、YAMAPを提供する立場として春山氏は言う。

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