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ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。
これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

イスラエルで学んだ「大胆さ」【人材不足を救うカギは、はやい・やすい・巧いAI】

スタートアップの道を進む者たちは、“失敗の専門家”である。そんな挑戦者たちの過去を紐解き、何を学び、そして未来に生かされていくのか……。混沌としたいまの時代に大切なのは、「修正力」だ。V字を描く彼らの修正力に注目する企画。


2020年8月に関西で行われた25歳以下の「関西ピッチコンテスト」で、創業4ヶ月足らずで優勝したAIベンチャーがある。広島大学工学部の卒業生3人が立ち上げた〈フツパー〉だ。ベンチャーキャピタル〈ANRI〉より数千万円規模の資金調達を果たし、〈沖電気工業〉とパートナーシップを組み、国外ではAI開発を行う〈NVIDIA〉のプログラムにも認定されるなど、創業1年目にしてその勢いは止まらない。株式会社フツパー代表取締役の大西洋に聞いた。

大西 洋

HIRO ONISHI

株式会社フツパー 代表取締役

製造業向けに「エッジコンピューティング✕ディープラーニング」で、生産性向上に取り組む株式会社フツパー代表取締役。工場向け画像認識エッジAI開発を専門とし、安価なAI導入で中小企業のお客様を支援する。

大西 洋

「自分が作りたい」ではなく必要なものへ

聴き慣れない社名のフツパー。この言葉はヘブライ語で、「大胆さ、粘り強さ」意味する。その精神の礎は実は意外なところで築かれた。

 

「2018年4月、〈日東電工〉を辞め、貯金200万円と自分で開発したウェブサービスを携えてイスラエルに行きました。“第2のシリコンバレー”と呼ばれていた彼の地へ行けば、起業や世界展開への道が開けるかも、という直感だけで行きました。VCを回ったりイベント出展も十分にできないうちに、予定より早く貯金が尽き、資金調達もできないまま帰ることになりました」

 

英語はさほど喋れず、プレゼンはかじりたてのヘブライ語とジェスチャーを交えて乗り切った。とはいえ結果は惨敗。大西さんは苦笑を交えて当時を振り返る。

当時はQ&Aサービスなどのコンシューマー向けサービスを作っていたのですが、実際同様のものはありふれていた。何より、“自分が作りたいもの”を作っていただけで、お客さんの意見は聞いていなかった。そんな中イスラエルで、水不足や医療を変えるサービスや脳をフル活用するスタートアップなどの最先端技術に触れ、大きな社会的価値を感じて。僕も新たな方向に技術転用していきたいと思うようになりました。中小企業の課題に目を向けるようになったのはそれからです

中小企業の人手不足に立ち向かう

現在日本の上場企業3700社のうち1500社が製造業で、国内GDPの2割を占める。そんな製造業に大西さんが興味を抱いたのは、大学在学中に中小企業のインターンシップに参加したのが始まり。新卒で入社した〈日東電工〉やその後の〈中島工業〉在職中に、国内外の工場で目の当たりにしたのは、どこも人手不足が止まらないのに工場内が全く自動化されていないという現状だった。



「特に目視検査のような単純作業は負担が大きい割に待遇が悪く、どこも採用に苦労していました。代わりに海外の人材を採用してもスタッフの不満やトラブルは耐えない。そこで僕は、こういった作業を人で補う選択肢はもうこの時代にあってはいけないと思うようになりました」

 

そんな折、大西さんは訪問した町工場で衝撃を受ける。

 

「車なら3万点、スマホでも1万点以上の部品からできています。それらの部品を作っているのは、元を辿ると小さな町工場だったりすることが多い。ある町工場では、今現場にいる5〜60代の職人さんがいなくなったら『もう日本は終わりだ』と嘆かれていて。これまで築いてきた日本を支える技術が消えてしまう。これはかなり良くない事態だと思いました」

 

昨今では、AIで自動化する企業も珍しくなくなった。でも、これは大手企業に限った話だと大西さんは強調する。

 

「通常、AIの導入は検証だけで数百万円、本番を導入すると数千万〜数億円にも及び、大手でなければ手が出ない価格。いま、最も人が不足しているのは地方の中小企業ですので、そこに見合った価格帯にしようと決めました。また、従来の業界では、AI開発やシステム構築などを別々の業者に依頼しなければならず、ハードルがとても高かった。そこを柔軟に組み合わせられる会社が最も価値があると気づいたんです」

製造業の問題点

そうして2人の創業メンバーと話し合いを重ね、行き着いたのが、最低限のコストでAIモデルの開発から現場への導入、希望者には導入後の便利な機能までを一括で行うサービス。初年度は開発費・デバイス費込み込みで月額29万8000円と、1人分の人件費よりも安い。気軽に導入でき、うまくいかなかった場合も最小限のリスクで止められるよう、契約期間も無し。翌年以降は年間100万円以下とさらに割安になる仕組みを練り上げた。

 

また、拠点は大阪に設けることにした。そもそも国内の現状として、AIスタートアップの本拠地は東京で、次は福岡だ。関西は非常に少なく、おまけに財布の紐が固い気質というのも事実。大阪で、AIスタートアップが越えるべき壁は多い。

「大阪はIT系の会社自体がまだまだ少ないんです。一方で、製造業の事業所は国内でも最多。このことから、関西の製造業に向けたAIサービスの必要性を感じました。創業メンバー全員が西日本の地方出身というのもあり、まずは西日本から盛り上げていきたい。いずれは全国、世界展開も考えています」

人間以上の精度をほこる「エッジAI」

エッジAIの特徴

〈フツパー〉の売りは、主に検品作業用の「エッジAI」サービス。カメラとセットになったAIを、食品や部品の製造工場のラインに導入し、画像認識によって、異物が入りこんでないか?といった検品を行うもの。そもそもエッジAIとは、インターネットに繋いで使う従来のAIとは違い、ネット環境無しにその場で処理できるAIを指すのだそう。代表取締役の大西さん曰く、フツパーのエッジAIの特徴は“はやい、やすい、巧い”――。


ファストフードのような謳い文句に、AIの簡易版?と疑いたくもなるが、その精度は検証先の工場では「99%以上」という。

 

「間違えるのは100個中1個以下。通常人間がやっても2、3%は漏れがあるので、人と同じかそれ以上の精度はあると考えています」

コロナで浮き彫りになった自動化の必然性

2020年4月の創業から、コロナ禍とともに歩みを進めてきた当社。オンライン化が広がる中、事業の在り方はどう変わってきたのだろうか。

 

「オンライン化の恩恵はかなり受けています。VCからの資金調達の面談もITのパートナー会社さんとの打ち合わせもほぼオンラインで成り立っていますし、さらにはこれまで直接訪問以外考えられなかった製造業のお客さんとの面談もオンラインに通常よりスピーディに動けている印象です」

 

そんなリモート体制が広まる一方で、浮き彫りになった問題もあると指摘する。

 

「食品工場のお客さんのところでは、むしろ出勤日が増えていたんです。飲食店の売り上げが落ちる一方、内食の食品需要は激増していたので、土日も工場を稼働させないと回らないほどに忙しかった」

 

コロナ禍は、人手が本当に必要な部分を明るみにした。これを機に、今後は検品業務以外にもAIの適用幅を進めていきたいというのがフツパーの展望だ。

 

「製造業のお客さんとは最初のとっかかり部分に苦戦していますが、有り難いことに1度お話させていただくと結構話は進みます。工場の自動化が進めば、人は本来人がすべきもっと価値ある仕事に時間を使えるようになりますよね」

 

投資家などからは、「他の企業が同様のサービスをはじめたらどうする?」という質問が数多くあったという。だが、ここには毅然とした態度で自分の思いと話している。

 

「僕はフツパーのような会社がもっと増えて良いと思っています。同じようなサービスが増えたら、その分、世の中の進歩が早くなりますから。そうやって、よりよい働き方が広がることを僕たちは求めています」

  • 公式Facebookページ

取材:池尾優 デザイン:加戸妙

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