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ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。
これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

斬新なアイデアは不要。パン取置きアプリ『sacri』が選択したシンプルな成功法

コロナ禍により内食化が進む中、第二次高級食パンブームが到来。パン屋さんだけでなく、コンビニのプライベートブランドのパンもプレミアムラインを展開するなど業界が盛り上がりを見せる一方で、パン屋さんの課題も浮き彫りになった。

 

需給バランスが取れないことによる食品ロスや、入店時の人数制限による回転率の悪さ、衛生面を考慮して電子決済への切り替えや個包装化によるコスト増……課題は山積みだ。

 

2020年にローンチしたパン屋さんのパンを取り置き&事前決済できるアプリ『sacri(サクリ)』は、そんな課題を一掃した。ただ、sacriのいちばんの目的は“欲しいパンが来店した時に必ず購入できること”だという。

 

sacriの代表取締役CEOである大谷パブロ具史氏は「パン屋さんに行っても、お目当てのパンが売り切れていたり、来店できる時間が限られてお目当てのパンが食べられないことがお客さまの一番の課題だった」と話す。

 

ただそれだけの悩みに特化したツールが、想像をはるかに超えて多くのパン屋さんの課題を解決することに役立っている。大谷氏に、本アプリが現在の立ち位置に至るまでの試行錯誤と、成功の秘訣を聞いた。

大谷パブロ具史

株式会社sacri 代表取締役CEO

1986年マレーシア生まれ。博報堂在籍中、博報堂グループの社内ベンチャー制度にて、株式会社frascoの共同代表として街歩きメディア「Stock.Shop」の事業開発と運営を経験。この経験から「ベーカリー業界特化のマーケティングソリューション」の提供を決意。パン屋さんとパン好きの方にとって「売れる」「買える」を当たり前にするために日々奮闘中。

メディアでのマネタイズ失敗経験がsacriを成功に導いた

「sacriは『Stop.Shop』で行ったことと全て逆をやればうまくいくと思った」

 

sacriをローンチする以前、広告代理店である博報堂に勤めていた大谷氏は、街のさまざまな個人経営の店舗情報を発信するメディア『Stock.Shop』を立ち上げた。ジャンルをまたいで情報を取り扱い、一軒一軒ていねいな取材を重ね、店舗情報を網羅するかたちで展開した。

 

「フルスクラッチで運営しましたが、マネタイズができず1年半で撤退しました。全7カテゴリをバランスよく更新しようとしたのですが、多くの人は特定のカテゴリにしか興味がなかった。ご飯屋さんにしか興味がない人は、ご飯屋さんの記事しか読まない。僕らも複数カテゴリを持つあまり、エネルギーが分散されちゃっていたし、ユーザーの満足度も担保できなかったんです」

 

大谷氏はさまざまな情報を多く取り扱うことより、バーティカルに特化しないと厳しいと感じるようになっていた。また、Stop.Shopで各店舗を取材していた時、気づいたことがあった。パン屋さんだけは、ほかのどの店よりも、常に人がひっきりなしに出入りしているということだ。

 

「お客さまが店員さんに『今〇〇パン、ありますか?』と、食べたいパンを指定して聞いていて。店員さんも売り切れてしまっていることを申し訳なさそうに伝えていたりして、その一連のやり取りを何度もいろんなパン屋さんで見かけたんです。そのうちに、来店前に在庫を知れたらいいのにと思うようになったのが、今のsacriを生み出すきっかけになりました」

 

Stop.Shopをクローズし次の打ち手を探している時、脳裏をよぎったのは目の前で繰り広げられていたパン屋さんとお客さまの困りごと。パン屋さんは売り切れたからといって、焼き上がるまでに時間がかかるため、すぐには提供できない。かといって多めに作っても在庫を抱えるリスクがある。

 

お客さまも都合の良い時間帯にしか買いにいくことができないし、朝一に並ばないと手に入らないパンは夕方に行っても買うことができない。この双方の悩みをビジネスチャンスに変えたのがsacriだった。

 

構想していた当初はお気に入りのパンの焼き立てをプッシュ通知でお知らせする機能だけから始まった。パンは焼きたてがいちばんおいしいのは言うまでもない。しかし、パン好きのお客さまへヒアリングを重ねるうち、焼き立てをお知らせしても買いに行けなかったら買えないジレンマだけを与えることになるということがわかった。そこで現行の事前決済取引と取り置きサービスに絞りサービス化させたという経緯だ。

「一番大切なのは、お客さまが買いに行った時に欲しいパンがあること。事前決済と取り置きサービスによって、パン屋さんとお客さまの需給のタイミングを適正化でき、両者の悩みを解決できると思いました」

 

さらに、Stop.Shopではブラウザ展開でお気に入り登録をしてもらうことや、記事のリンク先でコンバージョンするのは至難の業だったことを教訓に、sacriではアプリによるプッシュ通知で強制的に“パンの気分”へ誘導した。

 

「プッシュ通知は、パンの気分じゃなかったり、お気に入りのパン屋さんを忘れていたりする人にも強制喚起できます。たとえ自分が食べなくても、友人と会う時の手土産として選んでもらえる可能性も出てきます。」

 

メディアを介してコンバージョンさせることは難しいが、一つの困りごとに特化したサービスであれば、困っている人が実際に行きつけのお店を前提に登録するのでコンバージョンしやすい。sacriははじめから店舗向けに有料でありながらも支持を集め、2021年4月には2万ダウンロードを達成した。

sacriローンチ後の失敗から、次の一手を発見。

sacriをローンチするまでに、インフルエンサーによる拡散を依頼したり広告を回したりすることはなかった。なぜならターゲットを"行きつけのパン屋さんでお目当てのパンを必ず買いたい常連客”に絞っているため、ターゲットをインターネットで無作為に探す必要がないからだ。パン屋さんごとに、パンを買えないで困っているお客さまがいる。

 

sacriはアプリの詳細を記載したチラシをパン屋さんに置いてもらい、パンを購入した人や購入できなかった人にも渡してもらうようにした。アナログな作業だが、店頭こそが確実にターゲットに届けられるタッチポイントである。

実際にアプリをダウンロードをしてもらうところまでは順調だった。しかし、想定外の問題も起きた。年配のユーザーから「会員登録したいのに同意ボタンが出てこない」という問い合わせが立て続けに入るようになった。

 

「はじめは何を言っているか全く理解できなかったんですけど、その連絡をくださるお客さまのほとんどが年配の方というのがだんだん分かってきて、聞いてみると老眼だからもともと端末での文字の表示を大きくしていたんです。それでレイアウトが崩れちゃっていて、画面からはみ出たところに同意ボタンが表示されていたことがわかりました。

 

恥ずかしい話ですが、スタートアップで当初は3人で回していたこともあり、リリース前のQA(品質管理)では、このようなことを想定できていなかったんです。急いで文字の表示のデフォルト値に制限をかけて修正しました」

 

また、2021年4月下旬から、浦安周辺のsacriとアライアンスを組んでいるパン屋4店舗のパンを新浦安駅前でまとめて受け取れる『sacriステーション』というリアル店舗を始めたが、ここでも想定外の問題が発生。

 

全国のパン屋のパンをsacriステーションで受け取れると勘違いしたユーザーが、北海道のパン屋さんのパンを注文。決済も取り置きも完了しているが、肝心のパンを受け取ることができない事態が発生した。

 

「アプリではマップ上にsacriで出店してくださっているパン屋さんがピンで表示されるのですが基本的には、そのお店の店頭で受取を行う仕組みです。一方、新たに始めたsacriステーションは違う仕様のピンで表示されているので、明確に違いを出しているつもりでした。また、sacriに限らず北海道のパンが即日千葉で受け取れるわけもないから理解できるだろうという思い込みで、このようなことが発生するとは想定できていませんでした」

 

そこからすでに手を打った。決済時に地図上に現在地からお店までの距離を表示して、視覚的に気づいて頂くとともに、20km以上離れた場所のパン屋で注文する際は画面にアラートが出る仕様に変更したことで、トラブルは激減したという。「これがきっかけで次なる打ち手が見えてきた」と大谷氏は話す。

 

「全国的に有名なパン屋さんじゃなくても、食べてみたいニーズってあるんだと思いました。それだけユーザーの皆さんが、自分の生活圏からかけ離れたところまで全国各地のピンをすみずみ見ていた。僕は全国的な知名度を持つ一部の有名店しかわざわざ送料払って食べたいと思う人はいないんじゃないかと思っていたのですが、実はそんなことないんだというのが今回の失敗で得られた新たな発見でした。なので、まさに今秋からsacriの出店者さんのパンを全国の方へお届けできる通販機能を始めようと思っています。」

想定外の出来事や失敗から得た学びがsacriを格段にアップデートさせていく。それだけではなく、今の機能のままでも想定の機能を凌駕した役割をsacriは担っているのだ。

 

たとえば、ベビーカーを押すママさんパパさんはトングやトレイを持ちながら狭い店内でパンを選ぶことはできなかったが、事前決済と取り置きによるスムーズな受け渡しでパン屋さんのパンを買うことが可能になった。

 

これからパン屋さんを開業しようと検討している人にとっても、sacriを使えば受け渡し場所一つあれば開業できるため、開業資金や家賃、人件費削減によって気軽に開業できるようになったほか、24時間365日予約受付ができるようになった。2店舗目の出店も容易で、商圏を広げることができる。また、トレイに乗り切る量しか購入しない人がほとんどだったが、sacriを介すとトレイの概念がないため、平均客単価が1.5倍にあがった。

 

このコロナ禍では密回避にも一役買うことになるだろう。衛生面でも安心できる。sacriの事前決済と取り置きサービスがその意味を超えて多くの場面で役立っている。

 

成功の秘訣は、斬新なアイデアでもなく、多くの人に刺さるマスを狙うサービスでもない。自分の生活圏内の中での身近な困りごとに目を向けてみることにあるのかもしれない。

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