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ENILNO いろんなオンラインの向こう側

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ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。
これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

「質の高い顧客体験」でサステナブルな社会を目指すフードデリバリー・Wolt Japanの戦略

鮮やかなスカイブルーの制服とバッグで行き交う配達員。こんな光景を見られる街が、日本でも増えている。〈Wolt〉は2015年にサービスを開始したフィンランド発のフードデリバリーサービス。長らく北欧で展開していたが、近年は23ヶ国・110都市以上にサービスを拡大し、Google PlayやApple Storeでは業界内で最高の評価を獲得するなど、今や世界が注目する存在に。2020年3月には日本でもサービスを始め、国内8都市までエリアを広げている(2021年1月時点)。その1号社員として、立ち上げ前から国内のマーケティングを担ってきた新宅氏に話を伺った。

新宅 暁

Akira Shintaku

Wolt Japan カントリーマーケティングマネージャー

2019年11月に一号社員としてWolt Japan入社。新規マーケットのマーケティングをはじめ、国内展開の戦略全般を練る。東京のエリアマネージャーでもある。

テクノロジーと人力の相互活用

アプリにせよ配達員の制服にせよ、スタイリッシュでカジュアルなの印象の〈Wolt〉。公式Twitterなどのコミュニケーションもフレンドリー。それもそのはず。〈Wolt〉は社員が若い会社。社長は31歳のフィンランド人Miki Kuusi。世界最大級のスタートアップカンファレンス「Slush」の創業者でもあり、スタートアップ界では若手のやり手として知られる存在だ。

驚くのが、世界中で〈Wolt〉が展開する都市の多様さ。人口2万人の町から東京のような大都市まであるが、多くを黒字化させている。その秘密は「質の高い顧客体験」にあると、新宅氏は話す。フードデリバリーでいうなら、商品を約束の時間内に届ける、問題があればすぐに解決する、などだ。

 

「フィンランドは悪天候が多く人口密度が低いなど、もともとデリバリーに不向きな土地。そこで〈Wolt〉は、いかに時間内に多くの配達ができるか?正確な時間に配達できるか?などの課題を、高度なテクノロジーによって効率化してきました」

具体的には、業界でも珍しい「同時配達」を採用。一つの店で商品を受け取り、一箇所の顧客に届けるのが従来のやり方だが、〈Wolt〉では多数の飲食店から連続でピックアップした後に続けて届けることが可能。これができるのは、過去―現在―未来の配達パートナーの位置情報と、近隣店舗のオーダー状況を俯瞰して把握し最大化する、高度なシステムがあるから。これは業界では「最高水準のアルゴリズム」と言われるもの。だが、それだけではない。

 

「人の部分にも力を入れています。アプリではチャットサポート機能でいつでもスタッフが相談に応じますし、安全に関する説明会への参加を義務付け、適性テストにクリアした人だけが配達パートナーになれる仕組みもあります。そもそもフードデリバリーは利用者、配達者、飲食店の3者が関わるため、問題が起こりやすいサービス。もちろんできるだけミスは防ぎますが、起きてしまった時は可能な限り早く解決し、次は起こらないように改善することが大切です」

日本進出成功のカギは、現地の人の声を聞く

同社が日本進出した2019年11月には、既にいくつもの競合が展開していたはず。後発としての難しさはなかったのだろうか。

 

「実は、そこまで後発だとは思っていなくて。というのも、日本にフードデリバリーが根付いたのはここ2年ほど。日本の出前市場は世界3位の規模ですが、オンライン比率でいうと、世界で本当に下位の方なのです」

 

テクノロジーを売りにした同社らしい捉え方だ。とはいえ、認知の低さと外資系企業ということもあり、広島でのサービス開始までは相当の苦労があった。この時は新宅氏自ら広島へ拠点を移し、数々のローンチ経験のあるフィンランド人スタッフと一緒に、地道な営業活動にも励んだ。

「どの店舗さんに行っても、初めはいつも『誰?』から始まるんです。そこを一店舗ずつ説明して回りました。〈Wolt〉のサービスはフレンドリーですが、そのままでは日本の皆さんの感覚とズレが生じる場合も多い。だから、まずは日本の皆さんの声を聞くことに徹したんです。〈Wolt〉の良さを活かしながらどう日本に適応させるかは、今も変わらず僕の課題です」

 

AppleやTwitterなど、これまで外資系畑でやってきた新宅氏。多くのサービスが日本に浸透せずに、撤退しているのを目の当たりにしてきた。そんな彼もこの時ばかりは、どんなマーケットにも辛辣に向き合う企業の姿に心を動かされた。

 

広島ローンチ直前には、新型コロナウイルスの影響で、フィンランド人スタッフが全員本国へ帰国することに。立ち上げ前後の1週間は、日本チームは日付が変わるまで缶詰で、フィンランドチームも日本時間に合わせて朝3時から始業し、最終調整に努めた。

 

「〈Wolt〉にとっては、ローカルスタッフだけでの立ち上げはこの時が初めてでした。にも関わらず、大きな問題もなくサービスを開始できたのは、チームの強いメンタリティのおかげだと思っています」

ビジネスモデルに浮かび上がる国民性

日本でフィンランドというと、ビジネスより『ムーミン』や『マリメッコ』のイメージが強い。だから〈Wolt〉のビジネスが“フィンランド人っぽい”というのもピンとこないかもしれない。

 

「よくアメリカ企業だとスケールを伸ばすことや、トップラインの場所を重視しがちですが、その前にいかにサステナブルなビジネスができるか?が〈Wolt〉が大事にしている考え方。フードデリバリーに関わる3者それぞれの満足度を維持しながら、フェアな関係を築いていくのもそのためです」

 

新宅氏がそんなフィンランド人の考え方に触れたのは、留学生支援をするボランティア活動がきっかけだった。

 

「デンマークの高校生をお世話したことがあるのですが、その思慮深さと物事の本質を考えてから行動に移す様が、とても16歳には思えなくて。それが気になり、デンマークへ旅行した際に〈Wolt〉を知りました。その後、縁があり経営陣と会ったら、皆20代後半で僕より歳下なのに、頭が切れてパッションがあって。彼らと働いてみたいと思ったんです」

 

それを知れば、同社が日本ローンチ時に、広島一箇所に3ヶ月もの時間を費やしたのにも納得がいく。今や広島で青い制服はお馴染みの光景で、「『広島県民ならWoltじゃろう』という声もかけてもらえるようになりました」と新宅氏は微笑む。外資系だが地元の方に愛されるサービスに、という命題を同社はこうしてクリアしているのだ。

フードデリバリーは“早くて便利”の先へ

奇しくも日本でのローンチがコロナ禍と重なった〈Wolt〉。このご時世でフードデリバリーの需要は一層増えているが、「コロナだから盛り上がっているわけではない」と新宅氏は話す。

 

「世界的な潮流としてフードデリバリー需要が高まっていたので、日本でのニーズが拡大したのも自然な流れと捉えています。時代的にプライベートの充実に意識が向き、自宅で良い体験をしたい人が増えているからだと思います」

ニーズが高まる一方で、競合関係も厳しさを増している。同社の今後の勝算はどこにあるのか。

 

「これまで日本の皆さんには “早くて便利”が求められていましたが、サービスが日常化するなかで、今後はその先の高いスタンダードが求められてくるはず。そこは僕らが大切にしてきた顧客体験の部分なので、うまくアプローチしていけると思います」

 

さらに、同社では新たな挑戦も予定している。〈Wolt〉の仕組みを利用した雑貨や食材などを届ける小売りのサービスを、札幌では既に始めている。

「30分で物をお届けできることは、もうインフラそのものです。これを小売りの部分に広げていきたいと思っていて。従来は、注文したら大きな倉庫から1日かけて配達するのが常でしたが、〈Wolt〉なら地元のお店からお客様に30分程度でお届けできます」

 

この小売りサービスが充実すれば、ユーザーの利便性が高まるのはもちろん、時間や運送コスト削減になるだけでなく、地域のお店を支えることにもなる。その先に同社が見据えるのは、サステナブルな社会。同社の本質を知れば、これも“斬新”な展開には見えないはず。

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