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ENILNO いろんなオンラインの向こう側

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ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。
これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

医療従事者を助けるヘルステックスタートアップ「Ubie」。サービスの価値を高める組織づくり

AIを活用した事前問診システムを展開するUbie<ユビー>は、スタートアップに必要な“革新性”と“スケール”の両輪を体現しながら、スピード感をもったビジネスを展開している。

 

一般的には、オンラインのソリューションを開発・提供する技術部門、顧客との橋渡しを行い、現場の声を拾い集めるマーケティング・セールス部門に分かれる組織が多い。しかし、Ubieの組織体制はまったく異なる。事業や組織などの     開発・立ち上げを担う部門と、それらの拡販を担う部門に分かれている。ビジョンやミッションは共通なものの、行動規範や評価基準、人材採用要件も違うのだ。同社は、一刻も速い成長を遂げるべく、2020年12月に組織を分化した。プロダクトの拡大を担うUbie AI Consultingを牽引する柴山友貴氏に立ち上げからの歩みを聞くと、自らの信念と向き合い、愚直に行動する大切さが見えてきた。

柴山 友貴

Ubie AI Consulting代表

東証一部上場ヘルスケア企業にて複数営業組織の立ち上げ、大阪支社の責任者の後、全国営業統括。プライベートで運営している事業を売却。
某上場企業グループ会社にて取締役に従事、事業部横断のセールス&マーケティングの組織を立ち上げ、新規事業開発を行う。その後、メガベンチャーにて新規事業開発に従事。単年で数億まで売上をあげる。2019年5月よりUbieに参画。同社のプロダクトのスケールとグロースを担うUbie AI Consultingを牽引する。

国を挙げて取り組む「医師の働き方改革」

Ubieは「テクノロジーで人々を適切な医療に案内する」をミッションに掲げ、誰もが「健康」を当たり前に享受できる世界を目指している。その理念をもとに、AIを活用し医療従事者の業務効率化をサポートする事前問診システム「AI問診ユビー」と、一般生活者を適切な病院へ案内する「AI受診相談ユビー」を展開してきた。

 

中でも、医師の働き方改革の観点から注目を集めているのが、「AI問診ユビー」だ。患者の症状に応じてAIが自動で質問を生成。その回答は、即座に医学用語に書き換えられ、医師が管理するシステムに送信される。

「AI問診ユビー」のイメージ

 

従来の紙の問診票では、患者の症状に応じた問診ができなかったうえ、診察終了後に医師が自らカルテに症状や診察内容を書き写す必要があった。こうした書類作業は、医師の残業理由の6割近くを占める※。その手間を「AI問診ユビー」は1/3まで削減してくれるという。

2019年には、厚生労働省が労働環境の改善に取り組む医療機関を支援する「タスク・シフティング等勤務環境改善推進事業」を採択。AI問診ユビーを導入した医療機関には、補助金が支給されるようになり、すでに全国42都道府県、200以上の医療機関で導入されている。

 

その成長を支えるのが、カルチャーが異なる2つの組織だ。Ubieには、市場を一から切り開き、新しいビジネスのタネを生み出す「Devチーム」と、すでにあるプロダクトを改善し拡販する「Scaleチーム(正式名称:Ubie AI Consulting 以下、UAC)」が存在する。この2つのチームは、ビジョンやミッションなど、目指す方向は一緒だが、マネジメント体制や採用基準、報酬設計など、組織の運営方針が全く違うのだ。

 

「Devチームは、『革新的な0→1を生み出す大胆な仮説検証』をキーワードに、市場の開拓からプロダクト開発、実証実験までを行います。新たなビジネスを生み出す役割のため、既存の概念を覆すような自由な発想力が求められる。マネジメント体制はフラットな文鎮型組織であるホラクラシーを採用しており、メンバーには失敗を恐れずに挑戦し、学習し続ける力が求められます。

一方で、UACのキーワードは『1→100を最速で実現するオペレーションエクセレンス』。Devチームが生み出したプロダクトを磨き上げ、拡大していく役割なので、現場の声を吸い上げ、反映し、高い基準で標準化していくことが求められます。このサイクルを、どれだけ迅速に回せるかが成長を左右すると言っても過言ではない。そのため、現場の声を比較的中央に集めやすい階層型組織を採用し、オペレーションを磨き込める体制を作りました。メンバーには、顧客の課題に寄り添う誠実さや課題解決に向けて、考え抜く力を求めています」

Ubieの2つの組織の運営方針

「一刻も速い成長」の中で見出した最適解

Ubieがこの組織体制を取ったのは、2020年12月。2017年5月の創業から3年半が経ち、一定程度の市場のニーズが得られたタイミングだ。市場の開拓から拡大へとフェーズが変わりゆく中で、従来の採用要件や評価基準のままでは、プロダクトを十分に行き渡らせることは難しいと感じていたのだ。実際に、プロダクトの拡販を担える人材をなかなか採用できないという課題も生じていた。

 

自社のフェーズに応じた組織設計をするといった方法もあるだろう。市場の開拓が必要であればフロンティア精神のある人材が、また、プロダクトの改善が求められるのであれば課題分析力のある人材が評価される設計をしていく、というように。なぜ、あえてカルチャーの違う2つの組織を並走させることにしたのだろうか。

 

「事業モデルから逆算したことと、一刻も速い成長を求めていたからです。私たちが目指すのは、誰もが健康でいられる世界。医療をはじめ、人々の健康にまつわる課題を解決するプロダクトを同時多発的に生み出していく必要があります。そのためには、市場を開拓する機能をなくしてはいけないと思ったんですね。とはいえ、既存のプロダクトを成長させて必要とする人に届けないと、真の課題解決にはつながりません。『開拓』と『拡大』を両立していく必要があります。

 

確かに、フェーズに応じて運営方針を少しずつ変えていくという方法もあるかもしれません。ですが、医療現場に赴くうちに、非効率による長時間労働や地域間の格差などに苦しむ医師たちを見てきました。2024年には、医師の時間外労働の上限規制も適用されます。現場の医師たちのためにも、この流れに乗り、一気に事業を拡大してく必要がある。そう考えて、時間をかけて慣らすのではなく、組織を分けるという方法を選びました」

Ubie AI Consultingを牽引する柴山友貴氏

最悪のケースから逆算し、要素を洗い出す

柴山氏はこれまで、数々の上場企業で営業組織の立ち上げや、新規事業開発を担ってきた。その実績が評価され、UACの立ち上げを牽引することになる。今回は、「まるで新たな会社を作るようなものだった」と振り返る。

 

「既存のチームとは全く違うカルチャーを築き、組織を成長させていくことが使命。まるで起業のようなものだからこそ、運営方針の設計は非常に難しかったですね」

 

運営方針は、一度決めると簡単には変えられない。そのうえ、組織の成長にはある程度の時間がかかり、数年などの中長期で成果が見えてくるもの。ミスが許されない中で、柴山氏はある問いを自分に課した。

 

「『組織を運営する上で、何を起こしたくないか』を自分に問いかけました。10年や20年ではなく、比較的想像がしやすい3年ほどの期間内に。そのうえで、事象の根本にありそうな課題を分析し、組織要因で起こるものと人的要因で起こるものに分類。前者を潰す要素を目標設計や行動規範に、後者を防ぐ要素を人材の採用要件に組み込んでいきましたね」

柴山氏がUACの立ち上げ時に思考を整理するために用いたメモ

 

この時に柴山氏がもっとも危惧していたのが、目先の売上にとらわれるあまり、「強引な押し売りをする営業組織」になることだった。「営業」といえば、多くの契約を獲得できる人材が評価されるというイメージもあるだろう。制度設計をしていくうえで、獲得した契約数に応じたインセンティブの付与など、営業力を評価する組織体制を構築することも可能だった。だが、柴山氏はその方法を取らない道を選んだ。

「個人の営業力に依存しない組織を作った理由は、2つあります。1つ目は、市場規模の問題。私たちがサービスを提供する病院は、全国に8,000しかありません。市場規模が小さいため、1つの病院の満足度を下げてしまうと、大きな機会損失につながります。それを防ぐためには、量よりも質を高めることが必要です。いわゆる押し売りの営業スタイルではなく、顧客のニーズを汲み取り、実直に改善に向き合える力が大切だと考えました。

次に、Ubieのフェーズの問題です。当時は、プロダクトが目まぐるしく改良されているタイミングでした。提供できる価値が変化する中で、できない約束をしてまで導入していただくのは、顧客に不誠実ですし、満足度が下がる要因にもなりますよね。

以上のことから、多くの契約数を獲得するのではなく、顧客に向き合い、丁寧なフォローアップを通して課題を解決できる人材が評価される組織にしようと考えました。合わせて、顧客の声をプロダクトに反映させる仕組みを作れれば、Ubieは大きく成長するだろうと確信したんです。

 

こうして生まれたのが、冒頭でも紹介した組織運営方針だ。組織に求めるキーワードを「改善・システム思考・生産性」に、人材に求めるキーワードを「誠実さ」「GRIT(やり抜く力)」「当事者意識」「学び続けるプロフェッショナル」とした。この指針を胸に、UACは走り出した。

自らの価値観を問い続ける姿勢が「修正力」を向上させる

UACが創設されてから、2020年12月で1年が経った。実際に走り出してからも、マネージャーとの方向性の相違やメンバーの実力不足など、さまざまな壁にぶつかったという。その際に指針となったのが、組織運営方針だった。

 

「運営方針に照らし合わせて、改善のためのアドバイスをし続けました。少し厳しかったかな……と感じることもありましたが、みんな実直に向き合ってくれ、今では私が細かいマネジメントをしなくても自走できるようになりました。

 

やはり、『改善に向けて学び続けられる人』が評価される組織を目指したからだと思っています。現状のポジションに安住して学ぼうとしない人は、そもそも採用しないという方針を取っていたんですよね。最初の組織設計で、どんな組織を作りたいのかを考え抜いたからこそ、メンバーが成長できたのだと思います」

 

メンバーの数も当初に比べて、3倍近くに増えたという。柴山氏は次なる成長を見据え、組織設計のアップデートに取り組んでいるところだ。

 

「この1年でのもっとも大きな変化が、医師たちの声から洗い出した顧客のインサイトや、プロダクトを活用してもらったことによって貯まりはじめている『データの量』です。今までは、自分たちの所感も交えながら仮説を立てて改善に当たっていました。しかし今は、データという目に見える武器が貯まりつつある。

 

顧客に寄り添い、仕事をやり抜く力はベースとしつつも、数字などのファクトをいかに用いられるかが問われていきます。この力が評価されるような設計を考えていきたいです」

UACのメンバーとの一枚

 

理想の状態を頭に描き、困難にぶつかったら課題を明確にして改善にあたる。柴山氏が自身や組織に向き合えるのは、彼自身にも成し遂げたい「人生の指標」があるからだ。

 

「私の中には、『世の中に価値を生み出していきたい』という思いがあるんです。発展途上国などで医療活動を行っている、吉岡秀人さんに憧れて、医師を目指していたこともありました。失われていく命を救うことで、世の中に価値を与えられる仕事はかっこいいなと。けれどUbieと出会い、『医療の仕組み』を整えることで、与えられる価値があるかもしれないと思えたんです。私自身、Ubieのプロダクトは社会を大きく変えるきっかけになると信じている。だからこそ、どんな壁があっても乗り越えていきたいなと考えています」

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