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ENILNO いろんなオンラインの向こう側

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ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。
これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

楽曲収益を100%アーティストに還元。年間126億円還元も達成したTuneCore Japan

「学生時代にどうやって音楽を聴いていたか」。この話題が世代を表すバロメーターにもなるほど、音楽プレイヤーの在り方は数十年で大きく変遷を遂げた。レコード、カセットテープ、CD、MD、iPod……。やがてはオンライン上でダウンロードできるようになり、さらに時代の潮流はダウンロード不要のストリーミングサービスへと切り替わりつつある。

 

この音楽ストリーミングサービスに可能性を感じ、インディペンデントアーティストの支援サービスを検討していた、Wano株式会社の野田威一郎氏は、米国の音楽デストリビューションサービス「TuneCore(チューンコア)」 とのジョイントベンチャーを2012年に立ち上げた。「アーティストファースト」を掲げながら日本の音楽シーンに斬り込むそのサービスの、今と未来を聞いた。

2012年、スマホ普及の波にのり「アーティストファースト」を掲げ時代を先取る

TuneCoreとは、誰もがアーティストとして自らの楽曲を、Apple MusicやSpotifyをはじめとする音楽サブスクリプションサービスに簡単に流通させることができるサービス。

もとはアメリカで2005年に設立されたサービスで、そこに可能性を感じた野田氏が2012年にWano株式会社とTuneCore Inc.  のジョイントベンチャーとして、日本法人TuneCore Japanとして立ち上げた。現在では配信先のプラットフォームは55以上にものぼり、利用される領域としては、世界185ヵ国にも及ぶ。

「2010年頃、ガラケーからスマホへの完全移行期で音楽を聴くメディアもシフトしていくだろうというタイミングである中、国内音楽市場ではまだまだCDが圧倒的優勢でした。そのためにCDリリースが叶わない、いわゆるインディペンデントの子たちの楽曲提供の場は皆無に等しかったんです。そこを変えられるサービスを目指していたところ、アメリカTuneCoreの存在を知りました」(野田氏、以下同)

 

同サービスの最大の特徴は、楽曲の収益が100%アーティストに還元されること。彼らが価値を見出す「アーティストファースト」を体現するサービスであることに大きな意味があった。アップロードから最短2日で楽曲を配信できるという迅速さも大きな特徴だ。

 

「開始した2012年当時は誰もがネットを介して画像や動画を上げられる『クリエイター時代』と言われてはいたものの、インディペンデントのアーティストにとっては、YouTubeに上げてもほぼお金は入ってこないという状況だったので、さらにそこを変える仕組み作りをしました」

 

「アーティストを応援したい」野田氏の強い想いが、根底にあった。「アーティストファースト」であるべきサービスを目指すためには、当然日本の音楽シーンを反映させることが重要。大枠のビジネスコンセプトはアメリカのTuneCoreに準ずるものの、アメリカに比べて音楽市場のデジタル化が5年ほど遅れている日本の音楽市場に合わせたオリジナルの座組で、サービスを開始した。当時日本では音楽ストリーミングが一般的ではなかったため、課題感も多かったようだ。

 

「最初は大変でしたね。始めた当初は、日本特有のガラケーでの聴き放題サービスやCDが圧倒的シェアでした。そもそも私たちのようなサービスが国内にはなかったため、『誰でも楽曲配信ができる』という概念を伝えるために、いろんなアーティストに会いました。iTunes StoreとAmazon MP3から始まり、music.jpやdwango.jpなどのドメスティックなガラケー主体の聴き放題サービスなど、配信先を確保する営業活動も地道に行いました。さらにニコニコ動画でボカロPが出てきたタイミングにボーカロイド機能を実装するなど、時流に合わせてサービス自体を成長させていきました」

 

アメリカではSpotifyなどの音楽ストリーミングサービスがマス化し、CDは既に売れなくなってきていた。野田氏はそれを横目で見つつ、日本でも同じ現象が起こるだろうという確信をもっていたという。結果、野田氏の先見に時代が追いつく形となる。

 

「当時の日本では、個人のアプリクリエイターが出だして稼いでいた時代でした。音楽も多分同じことが起きるだろうなと。インディペンデントのアーティストであっても、いい曲は聴かれる時代になるだろうなと」

 

誰もがスマホを持つ時代になった、コロナ禍で音楽配信が勢いを増した、TikTokをはじめとしたSNSの普及で「音楽がバズる」ことが当たり前になった……など数々の要因が重なり、2023年の年間音楽配信売上実績における内訳では、ストリーミングが初の9割超えをした(一般社団法人日本レコード協会調べ)。

 

「それでもアーティストにとっては、『デジタル配信はお金にならない』というイメージがまだ拭えなかったりもします。ですが、利用者が音楽を聴く環境が明らかに変わってきている今、そうとは言い切れません。ストリーミングの普及は、インディペンデントのアーティストに活躍の場を提供する大きなチャンスになるでしょう」

 

CDで音楽を聴くことが少なくなり、これからさらにそれが加速する。そんな時代のCDの在り方は「Z世代にとっての使い捨てカメラのようになるだろう」、と野田氏。ポップカルチャー的にはなりえるが、音楽メディアとしてメインストリームになることは考えづらい、と話す。

『香水』や『オトナブルー』。「最近よく聴く」を創出するTuneCore Japanの価値

音楽ストリーミングサービスによって、私たち利用者が自然にインディペンデントのアーティストの楽曲に触れる機会が格段に増えた。

 

「BillboardやSpotifyが公開しているチャートでは、TuneCore Japanを利用しているアーティストがどんどんチャートインしています。チャートインだけではなく、TuneCore Japanの国内ストリーミング再生と収益シェアは、メジャーレーベルも含めて実は第3位に位置しています。リスナーにとってはメジャーインディーズの垣根や違いは全く感じられないでしょう」

 

これまでの日本の音楽チャートでは、ほぼ同じアーティストがランクインしていた流れがあった。ところがストリーミングが浸透し始め、インディペンデントのアーティストがいきなりのランクインという下剋上の現象が起きるように。特にコロナ禍以降はそれが顕著で、私たちがよく耳にする音楽が実はインディペンデントのアーティストによるものであったというケースも多い。

 

「TuneCore Japan経由で有名になったアーティストとしては、例えば瑛人の『香水』やyamaの『春を告げる』や、2022年の国内で最も聴かれた楽曲にランクインした、Tani Yuukiの『W / X / Y』、2023年には、TikTokでバズった日本のクリエイターユニット・HoneyWorksの『可愛くてごめん』、紅白に出演を果たした、新しい学校のリーダーズの『オトナブルー』、東京ドーム公演を成功に納めたBAD HOPなど多種多様のジャンルで成功事例が出ている。ここ数年は、業界の収益の内訳におけるインディペンデントのアーティストのシェアが大幅に伸びています」

チャートインへと瞬く間に駆け上がったインディペンデントのアーティストは、メジャーアーティストと同等な収益が叶う場合も。まさに日本の音楽業界における、アメリカン・ドリーム。「アーティストファースト」を掲げる同社は、システムの提供にとどまらず、彼らが「バズる」ための仕組み作りを積極的にシステムに取り入れているとか。

 

「アーティストがインディペンデントで活動するための支援機能をさまざま用意しています。例えば、各プラットフォームへのリンクを簡単に生成する機能であるLinkCore。ユーザーが利用しているプラットフォームを選択しやすく、1クリックで自分の曲を聴いてもらえます。他にも昨年はTuneCoreクリエイターズやRework withなど、アーティスト活動を続けていく上で、支援になるようなプロダクトをリリースしました。継続的にアーティスト活動をしていく上で、必要なサービスは何か、常に模索しています。結果として、活動する中での宣伝や情報享受などの付随サービスは、かなり他社に比べて手厚いのではと自負しています」

刻一刻と変化する日本の音楽シーンに合わせて、システムの部分は柔軟に、常にアップデートされている。利用する際の料金体系もいたってシンプルだ。

 

「誰でも使えるよう簡素なユーザーインターフェイスは、私たちの強みです。どこよりも早く必要な機能を常に出し続けているからこそ、成長し続けられてると思います」

 

2023年5月には、サービス開始10周年を節目にインディペンデントアーティストの活躍を各観点でピックアップし各部門のグランプリを表彰する「Independent Artist Awards by TuneCore Japan」を開催した。

さらに2021年には98億円であったアーティストへの還元額では、2022年度は126億円(前年比128%)となり、年間で100億円を突破した。

新しい音楽と無制限に触れ合えるなど、利用者にとってのベネフィットもたくさん。音楽ストリーミングサービスの未来は明るい。

音楽は「聴かれる」から「使われる」へ。海外チャートで日本人名が見られる日も

今年で12年を迎える同サービス。その12年の間でも私たちが音楽を聴く環境は、大きく変わった。CDを借りてきてPCに落として……という行動を最近までしていたように思うが、よく考えると10年前のこと。今となっては、日常的に音楽を聴くという人にとっては、音楽ストリーミングの存在は欠かせないものとなっているだろう。これからは、どう変わっていくのか。野田氏の先見の明はどんなポイントにあるのか。

 

「まず、私たちのサービス開始前後で、圧倒的に変わったことが大きく2つあります。1つはインディペンデントのアーティストでもメジャーと同じないしはそれ以上の条件で配信ができるようになり、アーティストの民主化が起こり活動範囲が増えたこと。もう1つは、ストリーミングサービスの浸透。個人のアーティストでも自分で作った曲の権利を持っていればいろんなプラットフォームで世界中に聴いてもらうことができ、お金を回収できるようになりました」

 

インディペンデントアーティストの市場シェアが3位までになったというのは、音楽業界的にも大きなインパクトがあった。これからもまだまだ伸びていくだろうと、野田氏は予想する。

 

「日本のアーティストがさらに海外で活躍する時代になっていくはず。今すでに、そういった兆しがありますしね。それを見越していろんな日本のアーティストが海外でチャートインしていくでしょう。Billboardなどの海外のチャートでも、日本人アーティストの名前が聞かれるようなタイミングではないでしょうか。希望も含めて、そう感じます」

 

利用者サイドとしても、サブスクで聴き放題の音楽ストリーミングサービスを利用することが当たり前になっていくのは、予測がつく現象だ。

 

「また、ここ数年の音楽の在り方の傾向として、TikTokやYouTubeショートで音楽が『聴かれる』だけではなく『使われる』という消費行動が増えてきているんですね。利用者にとっては、音楽は聴くだけではなく、自分のアイデンティティを表現するもの。SNSにおけるスタンプやアバターのような位置付けで、自分の気持ちを表現する一つとして音楽が選ばれています。ファッション的な要素も強いですね」

 

メタバースの世界でもその感覚が浸透していくのではないか、と野田氏。

 

「仮想空間が増えるごとに音楽も増え、使われる場も増えます。音楽の可能性がどんどん広がります」

 

音楽を聴くメディアだけでなく、音楽の在り方自体も時代によって進化する。音楽は「聴かれる」ものから「使われる」ものへ。そこへインディペンデントのアーティストがどんどん台頭する、まさに音楽業界の戦国時代。そのキックオフは、もうすでにされている。

野田威一郎

Iichiro Noda

Wano株式会社 代表取締役

1979年生まれ。東京都出身。香港で中学、高校(漢基国際学校)時代を謳歌し、1997年に日本に帰還。クラブでイベント企画、デザイナーをしながら、慶應義塾大学を2004年に卒業。同年、株式会社アドウェイズに入社、メディアディビジョンマネージャーとして上場を経験。2008年に独立しインターネットサービスでクリエイターを支援する会社「Wano株式会社」を設立。2012年には TuneCore Japan K.Kを立ち上げ、現在に至る。

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アーティストの活動サポートの一環として以下オーディションを開催中。今後も継続したアーティスト活動に繋がるサービスリリースを予定している。

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