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ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。
これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

これからのメディアはどうなる? 100,000時間をメディアに費やした編集者の視座

将来の予測が困難な「VUCA(ブーカ)時代」において、メディアを軸に様々な仕事を請け負う亀松太郎氏。朝日新聞社をはじめ、『ニコニコニュース』編集長、『弁護士ドットコムニュース』編集長、『DANRO』編集長、そして、現在は、『あしたメディア研究会』を運営する。前回、「動き回ることで視野が広がった」と働き方のヒントを与えてくれた。

今回は引き続き、亀松氏のテクノロジーやメディアへの触れ方を聞いた。

25年間で2,500万部も減った新聞メディア

「【ご意見募集】最近、新聞夕刊の廃刊が相次いでいますが、むしろ気になるのは、誰もがスマホで好きなときにニュースを読める時代に、なぜ今もなお『夕刊』が存在しているのか、という疑問です」

 

こちらは亀松氏がFacebookに投げかけた投稿だ。「なんとなく惰性で紙の新聞を取り続けているが、夕刊はほとんど読んでいない。そんな人が多いのではないかと想像しますが、実際はどうなのでしょうか」と言葉を添えた問いかけには、「仕事帰りに夕刊を買うのが好きだった」など、様々な回答が寄せられている。

 

引用元:Facebook

しかしながら、紙の新聞の発行部数が減っている。それも、もの凄い勢いで。2023年10月時点の新聞発行部数は2,859万部(日本新聞協会・2023年)で、1年前と比較して約225万部が減少。2005年から19年連続で減り続けており、この1年は過去最大の減少率7.3%となった。1997年に約5,300万部あった新聞の発行部数は、25年を経て2,500万部が無くなったことになる。当然、各社はWEB化を進めているのだが、「成功している」と言われる日経新聞電子版の有料会員は約90万人(2023年)に止まっており、電子版創刊時から減った紙の読者約150万人を埋め合わすには至っていない。

 

「メディアの役割が変わる時代に差し掛かっているのだと感じています。YouTubeでテレビ局がニュースを流すように変化していますし、リアルタイムで必要な情報は新聞以外のツールで獲得できる。また、株の価格やスポーツの結果など、それぞれの個人にとって必要な情報は自分から取りにいく時代になっています」

 

情報やそのソース(source)を能動的に把握しに行くべきと、大学で指導した亀松氏。これからの世代は、ますますこのスキルが必要になる。その変化に対応できないメディアは淘汰されるのか。こうやってメディアのあり方が大きく変わる時期のなか、テクノロジーもまた進化している。亀松氏は、このような状況にどのように向き合っているのだろう。

AIに任せてみて足りない部分は専門家が補う

朝日新聞社に入社し記者職に就くも3年で退職した亀松氏は、その後、多くのメディアの編集長を担う。現在はフリーランスの記者・編集者でありながら、オウンドメディアの成長に携わることも少なくない。いわゆる紙の編集者という枠組みには収まらずに、活躍の場を広げている。

 

デジタル領域にも知見が広く、仕事のなかにAI(人工知能)を取り入れているようだ。「AIは半信半疑で取り入れることが重要で、足りない部分は専門職の人に任せる」という折衷案が現実的であると教えてくれた。AIは便利だが、編集業務の全てを任せられるほどの技術には(今のところ)至っていない状況である。

 

「AIを少しずつ仕事に生かしています。例えば、記事の見出しや企画の候補を出してもらったり、講演を文字起こししたものを要約させてみたり。便利ですよね。ただ、そのまま記事化というのは難しい。AIが出した記事を見ながら自分で書くと、まったく別のものに仕上がりますよね。まだ人にじっくり読ませる記事はAIには難しいでしょう。ただ、どのレベルの文章を作るかによるとは思います。対外的に公開する記事ではなく、議事録など社内で閲覧するだけの文章であれば、非常に使えるのではないでしょうか」

 

野村総合研究所が2015年に発表した「人工知能やロボット等による代替可能性が低い職業」の中には、「雑誌編集者」「図書編集者」といった職業があった。しかしながら、AIが現状できることは、インターネット上にある情報を組み合わせることに止まる。亀松氏のように取材を通して対象者の考えを引き出し、それを読者に伝わりやすいように表現する技術はまだAIに期待できないだろう。

 

編集者が扱う「メディア」の意味は「情報を伝達する媒体」である。発信者と受信者を媒介する編集という仕事は人間の仕事だ。特にオウンドメディアの領域だと、企業の想いや思想なども鑑みてコンテンツを発信する必要があるので、なおのこと編集者が必要だと言える。

引用元:Yahoo!ニュース

常にメディア的な思考をして100,000時間

フリーの編集者・ライターとして働く亀松氏。変化に対応しながら長くこの仕事を続けるなかで、編集の仕事がライフワークであることのメリットを教えてくれた。

 

「だいたい3年おきに転職を繰り返してきたので、会社から辞令が出て◯◯部門に異動という経験がありません。自分で自分に異動辞令を出して、次の場所に移っていった感じです。うまくいくことばかりではないですが、そのときどきで自分が関心のある領域で仕事をすることができました。今の時代はどんな職場にいても情報発信が可能です。いわゆるメディア企業に所属していなくても、メディアの活動はできます。そう広く捉えています」

 

Yahoo!ニュースでエキスパートとして取材記事を執筆しつつ、Facebookでも幅広いテーマで投稿を行う亀松氏。どちらもメディア活動という認識である。

 

「常にメディア的な発想をしていると思います。興味深いものに出会った時に、これはどのメディアが良いかな、どのような切り口が良いかなと考えます。実際に掲載しないまでもシミュレーションするんです」

 

タクシーや電車のなかにできた、新たな広告媒体を見つけては思考する。そういう発想が常にあるのだ。

 

「ちょっと計算してみたんですが、僕のキャリアを振り返ってみると、これまでに約100,000時間、メディアのために自分の脳みそを使ってきたといえそうなんですよ」

 

亀松氏は笑いながら言う。計算式はこうだ。

 

朝日新聞社の記者としてメディアの仕事を始めたのが29年前。途中3年ほど法律事務所に勤めたが、それを除いた約26年間はある程度のムラがありながらも、毎日12時間程度、メディアのことを考えてきた。ネットメディアに移ろうが、フリーランスになろうが、1日の半分くらいの時間はなんだかんだとメディアに絡んだ思考をしている。そうすると、

 

12時間×365日×26年=113,880時間

 

ざっくりいうと、合計で約100,000時間をメディアに要したことになる。

 

「あえて意識しているわけではなく、自然とそうなってるんですよね。何をしていても、メディアのことを考えてしまう。いまは伝え方の選択肢も非常に多い時代です。かつては、一般人同士のコミュニケーション手段といえば、電話や手紙、ファクスくらいしかありませんでした。今では、メールに加え、LINE、Facebookメッセンジャーもある。Zoomを使った方がコミュニケーションの解像度が上がることも。SNSや動画といった選択肢が増えました」

 

発信する場としてのメディアは一部に限られたものではなくなった。また、メディア上で発信されるコンテンツも、すべてを人間が作らなくてもいい時代に差し掛かっている。「これを続ければ安泰」という仕事は珍しくなり、私たちは時代にあわせて「常に変化し続ける」ことが重要であることを、亀松氏からの言葉で確認することができた。

SNSや動画といった“残す”という機能が、メディアの特徴になるかもしれない。フロー型ではなくストック型として活用されるメディア、このかたちに未来のメディアのヒントがあるように感じた。

亀松太郎

Tarou Kamematsu

フリーランス記者/編集者

大卒後、朝日新聞記者になるが、3年で退社。法律事務所リサーチャーやJ-CASTニュース記者などを経て、ニコニコ動画のドワンゴへ。ニコニコニュース編集長としてニュースサイトや報道・言論番組を制作した。その後、弁護士ドットコムニュースの編集長として、時事的な話題を法律的な切り口で紹介するニュースコンテンツを制作。さらに、朝日新聞のウェブメディア「DANRO」の創刊編集長を務めた後、同社からメディアを引き取って再び編集長となる。2019年4月〜23年3月、関西大学の特任教授(ネットジャーナリズム論)を担当。現在はフリーランスの記者/編集者として活動しつつ、「あしたメディア研究会」を運営している。

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