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「VUCA時代」のメディアをどう乗りこなす? 『朝日新聞』から『弁護士ドットコム』『DANRO』を経た亀松太郎氏

朝日新聞社に入社し記者職に就くも3年で退職、様々な職を経て、『ニコニコニュース』編集長、『弁護士ドットコムニュース』編集長、『DANRO』編集長となった亀松太郎氏。関西大学の特任教授(ネットジャーナリズム論)を担当し、現在はフリーランスの記者・編集者でありながら、企業オウンドメディアの成長にも並走している。新聞やテレビといった既存の大型メディアが激しく変化するなかで、ネットメディアはどうあるべきか。軽やかに業界の荒波を乗りこなす亀松氏の視座を探った。

『弁護士ドットコムニュース』を支えた知見

「何か勝ち筋が見えていたから、というような具体的な戦略があったわけではありません。どちらかというと刹那的に、面白そうだからという理由で決めたことの方が多いですね。動き回っている間に広く世界が見えたのが良かったと思います」

 

早速本題だ。「VUCA(ブーカ)時代」と言われてしばらく経つ。テクノロジーが進化することで、あらゆる環境が複雑さを増し、将来の予測が困難になっていくことを指す。亀松氏が朝日新聞社を退職する1998年は、ちょうどGoogleが登場した時期に重なる。その5年後にはインターネットの人口普及率64.3%となり、まさしくテクノロジーが私たちの生活に介入しはじめたころだ。なにか予感めいたものがあったのではと勘繰ったが、違ったようだ。

 

「基本的に、メディアを中心に仕事をしてきましたが、大手メディア企業で働きたいというこだわりはありませんでした。新聞社を辞めた後は、医師が経営するネットベンチャーの広報や法律事務所のリサーチャーを経験したのですが、メディア会社以外の世界が見れたかと思います。そうすると、一見遠くはなれた2つのものが、実はつながるのではないか、という着目点が見つかったりするんですね」

 

その代表例が、『弁護士ドットコムニュース』だ。朝日新聞社退職後、法律の勉強をしていた亀松氏。法律事務所でもリサーチャーとして働いており、この分野への接点がそもそもあった。ひょんなきっかけで弁護士ドットコムの創業者と出会い、編集長をすることになるのだが、Yahoo!ニュースに積極的に記事を配信したことで、全国的なメディアになっていく。

 

社会で話題となっているニュースを積極的に取り上げ、そこに紐づく法的な疑問に対して、専門的な弁護士の法的観点からの解説を入れる記事をつくっていた。法律という多くの読者が普段触れることのないテーマについて1,000から1,500文字の読みやすい記事を配信して、注目されるメディアとなった。結果的にYahoo!でのトップニュースとして扱われることも少なくなく、Google上での評価も向上した。

引用元:弁護士ドットコムニュース

「法律事務所で働いた経験があったので、こういったテーマは身近にあったんです。また、新聞などの大手メディアは、事故・事件の一次情報の獲得が得意であることを新聞記者時代に学んでいました。WEBメディアが同じ土俵で戦うことは現実的ではありません。一方で法律など専門的な知識が要求されるニュースの場合、新聞記者の能力がついていけてないケースがあることも知っていました。そのギャップにチャンスがあるように感じました。

 

さらには、法律事務所の後に勤めた『J-CASTニュース』は、新聞的な一次情報と、週刊誌的な切り口で紹介する二次情報のあいだを意味する『一・五次情報』のメディアというスタンスをとっていたので、その価値を理解していました。これらの経験が『弁護士ドットコムニュース』に生かされたかと思います」

 

「編集」という文字は「集める」と「編む」からなる。情報を集めて編むだけが編集者ではなく、こういった知見を集めて編み込むのもまた、専門職ならではの魅力だ。一見、乖離があるように見える「法律」「事件・事故」「弁護士」「ニュース」だが、これらを編み込むと『弁護士ドットコムニュース』となる。

 

一社に長く勤めることの良し悪しは当然あるものの、「VUCA(ブーカ)時代」において、多くの知見をもっていることは必要であると言えるだろう。

誰かのための編集者として

現在は複数のオウンドメディアのサポート役として、事業会社と並走している亀松氏。事業会社の広報・プロモーション部と共に仕事をする機会が多いようで、ある分野で喜ばれることがあると言う。

 

「オウンドメディアの仕事では、基本的には事業者の担当の方にお話をうかがいます。いただいた情報を客観的に評価させていただき、その企業の伝えるべきことを外部の人でもわかりやすい表現に変えていきます。事業者がメインプレイヤーになるので、その特徴を見つけて第三者にもわかるように伝えるのが、僕の役割です」

 

編集者という仕事のほとんどは影の仕事になる。誰かを輝かせるための並走者として、オウンドメディアでもその引き合いがあるそうだ。一方で、関西大学の特任教授(ネットジャーナリズム論)としても活動していた(2019年4月〜23年3月)。

 

「今のメディアやジャーナリズムはどうなっているかを構造的に教える授業でした。でも、学生と話していると驚くこともしばしば。例えば、Yahoo!ニュースやLINE NEWSは、Yahoo!やLINEが作っていると思う学生が多いんですよね。インターネット以前の僕らからすると信じられないですが(笑)」

 

引用元:Yahoo! JAPAN

その原因は、情報の「源」となるソース(source)を気にする機会が少ないからでは、と亀松氏は投げかける。学校教育では、教科書や教師が伝える情報が正しいことを前提に「ソースを疑わずに情報を受け取る」ことが基本姿勢になってしまっている。しかし、社会に出ると正しくない情報も少なくなく、最近ではフェイクニュースも無視できない。「正しそうな情報」を疑問を持たずに受け取っているだけでは、非常に危険だ。そんな中で、情報感度をどうあげていくかが、亀松氏の教育的なテーマとなっている。

 

「いま、ある大学の学生に取材記事の作り方を教えているんです。何かを発信するためには調査、分析が必要になりますし、そもそものソースに辿り着かないといけない。これを経験することで、少しずつ情報感度が上がっていけば良いと思います」

 

多くの学生はメディアの仕事に就くわけではない。にもかかわらず、若者の情報感度を磨くことにこだわるのには理由がある。メディア企業ではなくとも、事業会社の広報部をはじめ、企画部、営業部でも発信する機会は数多くある。その時にソースを無視して不確かな情報を発信していては、会社の損失につながることにもなりかねない。「正しそうな情報」で固めるのではなく、ソースを探って、企業の価値を最大化するような企画を提案してほしいものだ。そもそも個人での発信が自由にできる時代でもあるので、有益なものにする(トラブルを未然に防ぐ)といった視点もあるだろう。

動画文化とテキスト文化の違い

そういったなかで、時代の流れにも理解があるのが亀松氏だ。テキスト文化だけでなく動画文化にも興味が高い。

 

「動画制作の相談も来ます。ただ、いまはスマートフォンの技術を使えば、誰でも動画を制作できるでしょう。これだけ動画が一般的になったことで、文章を書くよりも動画を作るほうが身近になっている可能性も。スマホに向かって話して、スマホで動画を簡単に編集してYouTubeで公開するということを、多くの人が気軽にやっている。動画ならば、言葉だけでなく表情も使って表現できるので、文章のように言葉を正確に使わなくてもメッセージが伝わります。多くの人にとっては、動画の方が情報伝達手段として気軽に活用できるのでしょう。

 

一方でリテラシーが高い読者にしっかり理解してもらうためには、テキストが重要になる。忙しく働く人たちはとにかく時間がない。編集された文章を読む方が動画よりも時短になるでしょう」

 

「VUCA(ブーカ)時代」は新たなテクノロジーが次々と誕生する。その波を乗りこなすには、亀松氏のように柔軟に状況を捉え、状況を理解していくことが重要になるだろう。改めて、「戦略的に仕事を変えてきたわけではない」と語る亀松氏。しかしながら、「動き回ることで他の人よりも広く物事が見えたのかもしれません」とも分析し、ヒントを与えてくれた。

亀松太郎

Tarou Kamematsu

フリーランス記者/編集者

大卒後、朝日新聞記者になるが、3年で退社。法律事務所リサーチャーやJ-CASTニュース記者などを経て、ニコニコ動画のドワンゴへ。ニコニコニュース編集長としてニュースサイトや報道・言論番組を制作した。その後、弁護士ドットコムニュースの編集長として、時事的な話題を法律的な切り口で紹介するニュースコンテンツを制作。さらに、朝日新聞のウェブメディア「DANRO」の創刊編集長を務めた後、同社からメディアを引き取って再び編集長となる。2019年4月〜23年3月、関西大学の特任教授(ネットジャーナリズム論)を担当。現在はフリーランスの記者/編集者として活動しつつ、「あしたメディア研究会」を運営している。

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