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ENILNO いろんなオンラインの向こう側

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ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。
これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

「導入数が前年同月比で1,492%」ロボット工学者・石黒教授提供のアバターオンライン接客サービス

アバターといえば、VTuberやVライバーのようなデジタルエンターテイメントの中だけの存在、というのはもはや過去の話。今やアバターは現実世界に飛び出し、経済活動においても大活躍している。中でもロボット工学者・石黒浩教授率いるAVITA(株)が提供するアバターオンライン接客サービス「AVACOM(アバコム)」は、2022年4月に正式にサービス提供を開始して以来、2023年9月までのアバター導入数が前年同月比で1,492%と、その浸透率は右肩上がり。アバター接客は人手不足の課題を解決するフックとなっているだけでなく、外見・性別・年齢・場所などの制約なく働ける環境づくりを提供。誰もが自由に活躍できる可能性を形作る。

 

同社は、石黒氏による約80件の特許の実施権や実証実験のノウハウなど20年以上のアバターに関する研究開発の成果を活用しユーザファーストのプロダクトを自社開発する、アバター業界の先駆者的存在。アバターの可能性やヒトには成し得ないAIのアドバンテージ、同社のビジョンなどについて、創業者/取締役COO ・西口昇吾氏に話を聞いた。

「アバター=冷たい」ではない。人の繋がりを感じられるあたたかい存在

AVACOMは、オペレーターがアバターや生成AIを活用して、効率的にリモート接客ができるサービス。アバターが現実世界にも実装され始めており、店頭で見た、利用した、という人も増えてきたのでは。画面に表示されたアバターや接客ロボットは、人間に劣らない臨機応変な接客対応をする。それを可能にするのは、完全なAI頼りではなくリモートで人間がリアルタイムで操作しているから。とはいえ1台のアバターに1人のオペレーターがはりつく必要はなく、1人で複数拠点の対応が可能。これまでは当たり前だった各拠点への人員配置が不要になり、接客の効率化や人手不足解消が実現されるのだ。

そしてアバターを操作するのに、特殊スキルは不要。外見・性別・年齢・場所の制約もない。だから、私たちの働き方はより多様になり、人間の生産性が上がる。近い将来に現在ある仕事の半分はAIに置き換わるだろうとも言われるが、AVACOMが目指すのはAIが人間の仕事を奪うことではなく、それを利用してむしろ新たな雇用を作り出すことだ。

「一番高齢だと80歳代の方がアバターで働いた例も。アバターというと難しく聞こえるかもしれませんが、Zoomを操作できる人であれば心配無用。高いITリテラシーが必要ではないので、多くの方にアバターで働いていただけます。とはいえ私たちが目指すゴールはただリモートで働くことではなく、いかに人類を進化させ、生産性を上げられるか。それを常に意識してサービス開発をしています」(西口氏、以下同)

 

導入事例は、オフィスやホテル、病院などの受付業務や、保険業務などのカウンセリングサービス、小売の接客サービスなどさまざま。業種も多岐に渡っている。アバター関連のコアな技術を保有しているため、さまざまな業界に簡単に横展開が可能。私たちが身近に利用するローソンの数店舗(北大塚一丁目店(グリーンローソン)、パークローソン千里店、ゲートシティ大崎アトリウム店、ローソン博多東比恵三丁目店など)にも設置されている。さまざまなサービスを展開しているコンビニでは、スタッフの業務はレジ以外にも多岐に渡る。

 

「最近では、レジやチェックイン機などの自動化も増えてきました。ただそれがめんどうだと感じる人や使えない人も多いです。誰も取り残すことなく、全ての人たちにとって便利なDXは実現がかなり難しい。どこかで線引きをしていることが多いのですが、私たちのサービスは効率化を積極的に推進しながらも、DXの進化に対応できない人たちを取り残すのではなく、寄り添う。そんな『温かいDX』をサポートしていきたいと考えています」

 

小売への導入事例では人員を一人も配置せず、AVACOMだけで接客をまかなうこともあるとか。全くの無人になると、盗難や犯罪のリスクが気になるところだが……。

 

「人気がない完全に無人の店舗よりも、無人であっても人間のような存在感があるアバターがいる方が、万引きの抑止効果があるのではと期待します。無人店舗とはいえ物だけが置いてある無機質な空間ではなく、人口がどんどん減っていく社会においてもアバターなどの技術を活用することで、人と人との温かいコミュニケーションが生まれるような空間にできれば、心理的に万引きしづらい環境になるかもしれません」

 

アバター自体はデジタルの容貌だが、それを動かしているのは紛れもなく人間。だからこそ、現場の効率化を図りながら人の温かみを感じるサービスを受けることができる。人手不足が加速して自動化が進む一方で、アバターの介入により人との繋がりや接客体験を享受できる。そして労働環境においては、家を出ずともこれまでの処理能力よりも高く生産性を上げて働くことができる。空いた時間でリスキリングをし、自分の可能性を広げることもできる。アバターのポテンシャルは高く、「アバターワーカー」という新しい職業が浸透するのも、そう先の話ではないだろう。

ロールプレイングによる人材育成も。どんどん拡がるアバターの可能性

同社では、2023年10月にアバターと生成AIを使ったロールプレイング研修システム「アバトレ」もリリース。年齢・性別・性格などのプロフィールシートを用意するだけで、多様な性格やニーズを持った顧客との目的に応じたロールプレイングをいつでも何度でも行うことができ、短期間で多くの接客・営業経験を積むことができるというもの。AVACOMが経済活動をまわすためのサービスであるのに対して、アバトレは人材育成をするサービスだ。

「AVACOMを操作するには特別なスキルは要らないですが、アバトレはさらにスキルアップを目指すリスキリングを目的としたサービス。様々な業種に対応が可能です。例えば、ブックコンシェルジュになりたい場合、30歳の独身男性で年収500万、趣味は特になく、性格は真面目……といったようなペルソナのAIアバターを作り出し、会話を通じておすすめの本を提案できるかという練習をします」

 

いろいろなペルソナのAIアバターとの会話を通じて、場数をこなしていく。研修に工数はかからずある程度のラーニングを積み上げることができ、実際に現場で使えるスキルに。アバトレを使えば、いくつになっても転職が遅すぎることはないという希望ももてる。

 

「どんな商売も、コミュニケーション能力が必要です。しかし、ロープレを上司とする場合、成長のために必要以上に苦言を呈することがあったり、ぎこちないコミュニケーションになってしまったりもします」

 

AIなら正しい判断も下せるし、なんといってもローコスト。これからの人材育成に欠かせないシステムになりそう。このように、どんどんアバターが経済活動へと進出していく。

冷蔵庫の写真を撮るだけで今日のメニューを提案? AIがもっと日常に

AVACOMには、高性能の生成AIが搭載されている。人にできてAIにできないこと、またその逆は? AVACOMでは、それをどう棲み分けているのか。

 

「人とAIの違いについては、私たちも常々考えます。どこまで学習させるかにもよりますが、『正確な回答や情報を出す』ことにおいては、多くの場合AIの方が正しい。知識の量や確かさで勝負していくと、結構人間って不利なんです。でもAIの正答率が99%で人間の正答率が90%ぐらいだったとしても、なんとなく『人に頼むことの安心感』がある。どれだけ正しい回答をできるか確率論だけではなく、人間はときには感情的に意思決定をしてしまう。AIが正しくともなかなか受け入れ難い、といった現代のAIリテラシーの低さは否めません」

 

接してきた時間の長さや信頼関係によって、人は人を信じる。それがアバターとなったとたん「冷たい」と感じてしまったり、ひいては「脅威」に感じてしまったり。AIテクノロジーは日進月歩ではあるが、人間の許容が間に合わない。精度が高くなればAIの信頼度が人間へのそれを越すかというと、おそらくそうではないと西口氏は語る。私たち人間がAIへの信頼度を高めるためには、どうしたらよいのか。

 

「食わず嫌いなんだと思います。『AIって危ないんでしょ』とか『ChatGPTって間違ったことを言うんでしょ』と使わない理由を探すのではなく、リスクを許容した上で、リスクが問題にならない目的や方法でまずは使うことが大切。つい『人間vsAI』といった構図を描きがちですが、AIはあくまでツール。それを使うことによってこれまでの不可能が可能になるなど、人間の可能性を広げていくための『道具』です。私たちはそれを使う立場にあるし、怖くなったら電源を抜いてしまえばいいんだから(笑)。人間がAIをうまく使っていけるような社会になればいいですよね」

 

AIの良さを実感する事例が増えていけば、人と人との付き合いのように信頼度が上がり、今よりも少しAIに対しての恐怖心みたいなものがなくなっていくのかもしれない。

 

「すでに今年、ChatGPTを提供するOpenAIからオリジナルのAIチャットを自分で作れるGPTsという機能が追加され、公式のGPT Storeもスタートしました。これをきっかけにソリューション化、アプリケーション化された生成AIのサービスがどんどん出てくるでしょう。そうなると、より広く身近にAIが使われるようになるのではないでしょうか」

 

例えば 「レシピGPT」的に、冷蔵庫に入った食材の写真を撮るだけでおすすめの料理を教えてくれたり、「子育てGPT」的に、子どもが泣いていたらその原因を聞いてくれて答えると解決法を教えてくれたり。ChatGPTはできることの範囲が広すぎるゆえにその便利さがいまいちわからなかったが、アプリなどでソリューション化されれば、その便利さが一気に浸透するというわけだ。付き合いが長い人を信用するように、付き合いが長いAIを信用することになる。どんどんAIが身近になっていくのも、もうまもなくだ。

2025の大阪・関西万博で海外に普及させ、2030には簡単な物理作業も可能に?!

DX化の潮流において、時代の先端を切り拓いていく同社が見据える今後の世界は?

 

「2030年までにCGアバターを使ったコミュニケーションで生まれる新しい働き方を国内だけではなく海外に発信し、アバターで働く人を100万人以上作ることを目標にしています。VTuberやVライバーなどのエンタメ領域を入れるとすでに大勢のアバターはいますが、我々は現実世界の経済活動で報酬が得られるアバター人口を増やしていきたいと考えています」

 

AVACOMやアバトレをはじめとした同社のサービスを海外向けに発信するタイミングとして、2025年に開かれる大阪・関西万博を見据えているという。大阪・関西万博においてキーワードになる技術は「アバター」となるだろう、と西口氏は語る。

 

「アバターは、日本が海外に勝てる可能性がある数少ない領域です。日本ではXのような匿名SNSが浸透していますが、メタが開始した『Horizon Worlds』では昔は実名のFacebookのIDと紐付いており、リアル世界と同じ人の経済活動がバーチャル世界に広がるという考え方でした。匿名化も一応できましたが。しかし私たちは、バーチャルの人格に可能性を見出しています。バーチャルだからこそリアルと違うことをして新しい生き方ができるニューノーマルなおもしろさを、万博のタイミングで世界に披露できたら」

 

日本ではアバターを使うことで未知の領域に挑戦し別人格になれることに可能性を見出す文化だが、海外ではそれをネガティブに捉える風潮がいまだにあるという。

 

「とはいえCGアバターが現実世界でできることって、まだまだ少ない。物を持つこともできない、誰かと一緒に手を繋いで歩くこともできない。石黒教授との研究でCGアバターとロボットを融合させ、物理作業もできるようにしていくのが今後の私たちのミッションです。2030年の時点では物理活動の全ては難しくとも、簡単な物理作業やリアル世界に干渉できるような業務をアバターで対応できる世界にはしていたいですね」

 

 

アバターとは、人そのものでもある。アバターのサービスには「ありがとう」が言える。効率化を図りつつも温かい空間を形作ることができるアバターというテクノロジーを使うことで、私たち人間の居場所がこれからもっと広がっていくことに期待だ。

西口昇吾

Shogo Nishiguchi

AVITA株式会社 創業者/取締役 COO

2017年に新卒で日本テレビ放送網株式会社に入社。2018年に VTuber事業を立ち上げ、共同代表に就任。2021年に独立し、AVITA株式会社を創業。アバターや生成AIを活用したオンライン接客サービス「AVACOM」などを展開し企業のDXを支援。大阪・関西万博にて石黒 浩氏が手がけるシグネチャーパビリオン「いのちの未来」のメタバースアドバイザー。三重県明和町で地方創生の一環としておこなわれている、デジタル技術を活用した「めいわデジタルプロジェクト」PM。

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