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ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。
これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

DXで児童を救え。保育施設での死亡事故の7割が睡眠中。日本の医療・ヘルスケア業界の課題といま

近年では保育や介護施設での痛ましい事故が後を絶たない。また、医療・ヘルスケア事業者といったエッセンシャルワーカーの労働環境にも大きな関心が集まっているのも今の時代ならではだろう。

 

保育施設向けにカメラ型の午睡(お昼寝)センサー「ベビモニ」を提供するなど、保育・介護施設向けDX事業に取り組むのがEMC Healthcareだ。医療・ヘルスケア業界に長らく対峙するなかで、常に業界の根本的なソリューションを見定めシフトチェンジを繰り返してきた。これまでの、またこれからの社会課題はどんな点か? 同社の取締役であり、ベビモニの事業責任者でもある浦上悟氏に話を聞いた。

5分に一度のチェックの補助&記録を肩代わり

同社は2017年設立のヘルステックのスタートアップ企業。医療・ヘルスケア領域のデータに注力し、医療機器やデバイスの開発からデータ分析までを自社で行う。代表的なサービスが、保育施設向けの午睡チェックシステム「ベビモニ」。天井に設置した、AI搭載のカメラ型センサーが、各園児の午睡時の姿勢を自動で検知し、自動で記録するものだ。

ベビモニの目的は、園児のうつぶせ寝を防止すること。内閣府が毎年取りまとめている統計情報(「教育・保育施設等における事故報告集計」)では、保育施設内での死亡事故の7割が睡眠中に起きていることがわかっている。主な死因の原因は、窒息かSIDS(乳幼児突然死症候群)と呼ばれる疾病だ。後者においては未だ原因の解明には至っていないが、両者ともに仰向けに寝かせることでリスクを軽減させられることが分かっている。こうしたことから、厚生労働省によるガイドラインには、園児のうつぶせ寝を避けることが示されている。

「ガイドラインに従って、日本の保育園では、午睡中の園児の姿勢を5〜10分に1度観察して毎回記録することが義務づけられています。単純ですが、全ての園児にしなければならず、大変な作業です。ベビモニではその記録作業をカメラ型センサーが肩代わりしてくれます。通常、AIはイレギュラーなケースに弱いですが、姿勢だけを検知するシンプルな作りのため、精度の高い判断ができます」

 

カメラ型センサーが検知した姿勢を、ガイドラインに沿った四方向の矢印として記録。もしもうつぶせ寝の場合はアラート音が鳴る。紙の転記作業がなくなりより子どもを見守りやすくなった、安心感が高まった、などという声が多く届いているという。保育の現場に詳しい浦上氏曰く、保育施設の課題は「量から質へ移行」していくという。

「数年前まで最大の課題は待機児童問題でした。それが自治体や業界の努力で、今では一部地域を除きほぼ解消されています。量が解決された今、今後は質の問題がクローズアップされていくでしょう」

 

近年では、幼稚園バスの車内で園児が置き去りにされる痛ましい事故なども2年続けて起きており、運営方法や労働環境に関心が集まっている。加えて、発育にどうアプローチできるか?といったポジティブな質の向上も同時に求められている。そうしたなかで期待されるのは、保育施設でのIT活用だ。医療・福祉分野での人材紹介・派遣サービス大手のトライトグループが実施した「保育施設におけるDX実態調査」では、DXに取り組んでいると回答した施設は4割。しかし、その大半が「保育日誌を電子化する」「園児の写真管理」レベルのIT化に留まっていると浦上氏は指摘。

 

「そもそも業務のあり方が変わったわけではないのでDXとは言い難い、というのが正直な意見です。実際その4割のうち、業務の改善を感じたと答えた施設は5割ほど。つまり効率化を実感できているのは、全体の3割にも満たないということになります」

 

日本の医療・ヘルスケア業界は遅れている

医療・ヘルスケア業界に強い経営コンサルタントとしてのバックグラウンドをもつ浦上氏。国内外の現場を訪ねて気づいたのが、日本の医療・ヘルスケア業界の大幅な遅れだった。

 

「日本では、個人の医療データがどこかにひとまとまりになっている状況ではありません。カルテは病院ごとに細分化し連携されていませんし、年に一度の健康診断データだけが個人の手元にある、といった状況が一般的です。既存データを活用してサービス展開していくことに難しさを感じ、データ収集を行う窓口としてのデバイスから開発するという事業形態が始まりました」

 

こうしたデータ活用に限らず、日本の医療・ヘルスケア業界は世界に比べて全体的に遅れをとっているのが実情だ。先進的な取り組みをしている国のポイントは、「自分の医療データは自分のもの、という意識が非常に高い」ことだと浦上氏。

 

「アメリカではオンライン上から自分の医療データをダウンロードできるサービス『Blue Button』が政府主導で行われていますし、台湾では日本でいうマイナンバーカードのようなものに個々の医療データが紐づいていて、自分のデータをいつでも確認できます。対して日本では、電子カルテの統合に至るにはまだまだ超えるべきハードルがありますし、医療データの個人への共有はもちろん、病院間での連携も十分にはされていません」

 

セカンドオピニオンを受けに行った先の病院で、同じレントゲンを再度とる、なんて経験がある人も多いのではないか。それは日本独自の「当たり前」であることが、世界を見渡すことでわかる。

形式的なIT化・DXより先に解決すべきこと

同社が2年ほど前から目を向けてきたのが、エッセンシャルワーカーと呼ばれる人びと。働く人がものすごく疲弊している現場を幾度となく目にしてきた、と浦上氏は話す。

 

「IT化で効率を上げる計画を立てても、そのキャパシティが現場にない。人も時間も不足しており、新しいことにトライする余裕が全くない、という状況。デバイスより何よりもまず、今の働き手が働きやすく、かつ新規参入者にとっても魅力的に思える労働環境を作ることが、まず解決すべきことだと気づきました」

医療・ヘルスケア業界では、現場では「大きすぎる業務負担」が、経営側では「深刻な人材不足」が叫ばれて久しい。その実態は、コロナ禍ではさらに深刻化した。

 

「世間の多くの人がエッセンシャルワーカーを“365日働ける・働かなければならないスーパーマン”というイメージをもっていると思います。ですが実際は、彼らも父親であり母親であり、サービスを受ける側でもあるのです。週休2日や一日8時間労働など、みなさんと同じ働き方をさせてあげないといけない」

 

コロナ禍の看護師・介護士がそんな状況ではなかったことは周知の事実だ。そもそもこうした仕事は、社会貢献に対して高い意識をもつ人が多い。一方で、「やりがい搾取」に陥りやすい危険性も大きい。

保育・介護が社会で運営される未来

こうしたベビモニのようなDXで施設ごとの状況は改善されつつあるが、今後は社会の仕組みから変えていく必要があると浦上氏は語気を強める。

 

「医療・介護・福祉は個々のプレイヤーや施設だけに閉じたものではなく、それぞれが連携して、社会全体で運営していくべきものだと思います。海外では、上手く連携して地域に溶け込んでいる成功事例も増えています。日本でそんな社会に向けての一助になれればと思います」

大病院、クリニック、介護施設、保育施設、大学、医者、地域の介護福祉士、保育士、ボランティアスタッフ……。様々なプレイヤーが参画しながら、地域全体でセーフティネットを構築していく。そのためにも、個人の健康データの開示・共有はやはり欠かせない。

 

「データが共有されれば、働き手も多様な働き方ができるようになります。例えば、車椅子の方がリモートで介護を支援する、育児で一旦職場を離れた専門職の方が在宅で現場の技術指導をする、といったことも可能になる」

 

データが開示され、誰もが医療・介護・福祉に関わる世の中に。そんな社会が整ってきた時、同社のサービスはより力を発揮するだろう。

浦上 悟

Satoru Urakami

EMC Healthcare株式会社 取締役

大手コンサル企業において社会イノベーション事業を担当し、ヘルスケア企業の戦略立案や海外進出、新規事業の立ち上げ等に従事。大手企業の戦略立案、営業改革、人事制度改革、業務改革・効率化、大規模システム構築など幅広い経験と実績を有する。

  • 公式Facebookページ

取材:池尾優

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