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ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。
これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

滋賀県草津市のICT教育は、子供たちの質問をこう変化させた。学びを調整するラーニング・オーガナイザーとは?

超スマート社会とも言われる「Society 5.0」の社会に向け、国レベルで技術革新が進むなか、教育現場にも大きな転換が求められている。そんな今、滋賀県草津市の公立小学校の取り組みをまとめた本が、多くの教育関係者に読まれている。同市は、国内有数のICT教育(教育のデジタル化)の先端地域。従来のアナログな学びに加えてデジタルな学びを、およそ10年前から取り組んできた。その一連の流れを、段階を追ってまとめたのが本書『デジタル×アナログ 学びのハイブリッドデザイン』(西村陽介/著、明治図書、2022年10月発行)だ。著者は同市の公立小学校教諭であり、2018年から文部科学省のICT活用教育アドバイザーを務める西村陽介氏。本書の内容をベースに、いま実装すべき学校教育DXの形を考えたい。

 

※本記事は同書から許諾を得て掲載しております。

担当者を悩ませるICT教育

2019年、文部科学省は「GIGAスクール構想」を提唱した。簡単に言うと「全国の児童・生徒1人に1台の学習用コンピューターと高速ネットワークを整備する」ことを目指す一大国家プロジェクトである。これを機に、全国の教育現場では「1人1台端末」の整備が一斉にスタート。その動きは2021年のコロナ禍で加速し、全国レベルで環境が整った。そうした流れのなか、滋賀県草津市の公立小学校では、2014年という早い段階から児童共用のタブレットパソコンを整備し、ICT教育を実践してきた。「1人1台端末」もGIGAスクール構想から1年足らずで達成し、「New草津型アクティブ・ラーニング」と呼ばれるデジタルとアナログを効果的に組み合わせたハイブリッドな学びを実践している。

 

西村氏は2018年より文部科学省のICT活用教育アドバイザーであり、2017〜2022年3月までは草津市教育委員会の学校政策推進課専門員を務めた経歴の持ち主。学校教育が大きくシフトする時代に、国レベルでの大きな流れを俯瞰しながら、同市のICT教育を推進してきた。そんななか「得たい情報がなかなか手に入らなかった」と西村氏。今やICT教育関連の情報は一見溢れているが、「実際のところ」と「理論と実践をつなぐ」情報は不足していると言う。

 

「GIGAスクール構想の内容については各種資料が公開されていて誰でも知ることができますが、そもそも1人1台端末を活用することでどのような効果があるのか? GIGAスクール構想を具体的にどう実践するのか? といった情報にはなかなかたどり着けませんでした」

 

それは例えば、実際のネットワーク環境やクラウドを整備する際のノウハウ、子供が使うのに適切な端末やクラウドの設定、児童生徒が初めに学ぶべきパソコンスキル、またハイブリッドな学びを生かした授業例や起こりやすいトラブルについて。本書ではそうした個々のノウハウを細かに拾い上げ、もの(環境整備)、ひと(支援体制)、活用(職員研修)の3つを並行して整えることの重要性を説いている。

 

一般的にICT環境の整備・実践は、教育委員会事務局のICT教育担当者と現場の教員が行うもの。草津市の手法が全ての学校に当てはまるわけではないが、こうした実践に基づく具体的なノウハウは、個々の現場にいかに応用するか、イメージを膨らませるには十分なはずだ。

教師の質的役割が変わる

GIGAスクール構想が定める「1人1台端末」だが、端末やクラウドを備えた地点がゴールになってしまっては、宝の持ち腐れにもなりかねない。草津市では「1人1台端末」はあくまで土台に過ぎず、目指すのは「Society 5.0に生きるアクティブラーナーの育成」だと唱える。

 

1人1台端末を“文房具のように”活用することで、いつも手元にある(場所)、いつ使うかを学習者が選ぶ(主体)、どのように使うかを学習者が選ぶ(方法)、学習したことをデジタルで蓄積する(記録)という4つが可能になる。ここに従来のプリントやドリルといったアナログの教材・手法を上手く組み合わせることで、今まで以上に主体的な学び、かつ深い理解を得ることができるという。実際、同市の教育現場では「子供たちから、教師の役割の質的転換が求められていることを実感する」と西村氏は話す。

 

「1人1台端末の導入により『調べればわかる』ことが増えたため、子供たちの意欲は『知りたい』から『追究したい、解決したい』という方向に発展していきました。実際に学校では、子供たちから発せられる言葉としては『〇〇が何のことかわからない』『〇〇について教えてほしい』がどんどん減り、『どうやって調べたらいいの?』『どうやってまとめたらいいの?』『これで十分考えられているかな?』等が増えていきました」

 

子供たちはパソコンを開けば、いつでも疑問に感じたことを自分で調べられる。そうした状況では、教師が「教える」必要は減り、代わりに「ラーニング・オーガナイザー」としての役割が求められるのだという。

「例えばある程度学びが進むと、それぞれの進捗を確認したり、類型化して関係づけたりしながら、次の学びにつなげる必要がでてきます。これは学習者の立場では難しく、調整役が必要になります。こうしたより学びの質を上げるための調整役には高い専門性が求められ、子供たちを後ろから支えることもあれば、子供たちの数歩先に立って新たな道を示すこともあります」

 

こうした教師の役割を、草津市ではラーニング・オーガナイザーと呼んでいる。「子供の心に火がつき、主体的に学びを行っている時の意欲はすさまじいものです。そこには、『教師:子供=教える:教わる』という関係ではなく、『(教師も子供も、子供同士も)ともに追究する』という関係が生まれます」と西村氏は子供のポテンシャルを認めつつも、やはり「集約することや子供同士を意図的に関わり合わせることなどは難しい」と続ける。そこには、広い視野や管理能力、また経験なども必要なためだ。

 

ただ、こうした教師の在り方の見直しは今に始まったことではないという。1人1台端末の導入が行われたことで、役割の質的転換がますます重視されるようになったのだ。

教師や保護者のメリットも大事

本書でもう一つ強調されているのが、ICT教育導入が教員や保護者に及ぼす良い影響について。特に公立の学校では、従来の体制からの変化を好まない教員や保護者層も一定数存在する。その意味では、ICT教育を国レベルで浸透させるには、個々のメリットは重要だ。草津市では校務のICT化による教師の働き方改革が行われ、職場環境は大きく改善されたという。

 

「校務支援システムを導入したことで、導入前と比べて教員1人あたりの校務時間が年間平均50時間以上削減されました。2015年から段階的に導入し、2016年からは全20校で全面的に活用してきましたが、2018年に追加機能を実装したこともあり、目標にしていた『年間平均50時間』を超える校務時間の削減を達成しました」

 

校務支援システムとは、出席簿の作成や出欠管理、成績管理、通知表の作成といった学校運営に必要なあらゆる事務作業を管理するシステムのこと。これにより、児童・生徒の情報を一元管理することができ、クラウドなどを使えば教員間の共有なども簡単にできる。これまでのように手書きで記入したり、転記したり、紙の資料から記録を探す、といった膨大な手間が省けるので、時間の削減になるのはもちろん、「機微情報の取り扱い等セキュリティー面でも大きな効果があります」と西村氏。こうしたICTを活用した働き方改革を、同市ではさらに推進する予定という。

 

揺れ動く社会情勢に進む社会のスマート化。良い意味でも悪い意味でも不確実性をもつ方向へ社会は急速に変化している。そうした先にある未来の社会を生き抜くための、力を身につけられる学び。その実践法を現場発で綴った本書は、現代日本の学校教育に向けた応援歌にも見える。

西村 陽介

Yosuke Nishimura

滋賀県草津市立志津小学校教諭、マイクロソフト認定教育イノベーター(MIEE)

平成30年度より、文部科学省「ICT活用教育アドバイザー」。2017年~2022年3月までの5年間、草津市教育委員会 学校政策推進課専門員を務める。草津市ICT教育推進を担い、令和2年度からは「New草津型アクティブ・ラーニング」(個別最適化およびアナログとデジタルを効果的に組み合わせたハイブリッドな学習)を推進。

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