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ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。
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大量の廃液が必要なプリント基板製造に革命。サステナブルな金属インクジェット印刷

毎日手にするスマホや、仕事に欠かせないPC。電子機器なしでは、私たちの生活はもはや立ち行かない。だがしかし、これらが近い未来に使えなくなってしまうとしたら? 今回話を聞いたエレファンテック株式会社 代表取締役社長兼CTOの清水信哉氏は、そんな危機感をもち、プリント基板「P-Flex®︎」を開発した。というのも、電子機器を稼働させるプリント基板の多くは、現状、大量の銅を使い、大量の炭素を排出しながら製造されている。環境負荷がある形で製造が続けられるイコール、持続可能な未来はない。そんなプリント基板の生産方法をサステナブルへと舵を切る、エレファンテックの技術とは。清水氏に話を聞いた。

「引き算」から「足し算」へ。技術を180度革新

2014年創業のエレファンテックは、「新しいものづくりの力で、持続可能な世界を作る」というミッションを掲げ、環境に優しい金属インクジェット印刷によるプリント基板の量産化に人類で初めて成功したスタートアップ企業。

 

「今までのプリント基板製造の技術を見直し、環境に配慮した形に変えていく。私たちがやっていることは、ごくシンプルです。プリント基板産業は古くからある産業でイノベーションも起こりづらい。そこを変えることができたら、日本の金属インクジェット印刷技術が、世界においてデファクトスタンダードになりうるのでは、という思いから研究開発を進めてきました」(清水氏、以下同)。

 

清水氏の動機となったのは、「環境負荷を減らしたい」ことだけでなく、「このままでは私たちの未来が立ち行かない」という危機感だったという。せっかく自分の人生を賭けて起業をするなら大きな課題を解きたい、とビジネスとしての大きな可能性も感じた。

 

1950年以降、約70年続く現代製造業の基本的なプリント基板の製法は、基材全面に金属を貼った上で不要な部分を溶かして捨てる「サブトラクティブ法」と呼ばれる方法である。これを「引き算」と表現するならば、エレファンテックが開発した製法はその逆の「足し算」方式。インクジェット方式で、必要な部分だけに金属を印刷する「ピュアアディティブ®法」と呼ばれるものである。

「従来の製法では実際使う量の何倍もの金属を使い、不要な分は結局廃棄されます。それに付随し、CO2も多く排出されます。これとは逆転の発想で『必要な部分にだけ銅を形成していく』ことにより資源の無駄を省きCO2や廃棄も最小限に防ぐのが、私たちの技術です。材料費や工程数も少なく、コストカットも実現できます」

既存製法とエレファンテックの製法を比べると、銅の使用量は70%減、CO2排出量は75%減、水消費量は95%減を実現。SDGs(持続可能な開発目標)時代に即した環境に優しい革新的技術として製造業界から大きな注目を集めている。この技術を開発するには、もちろん長い年月がかかったという。

 

「2014年に東京大学の恩師・川原圭博教授らによるインクジェット印刷による回路形成に関する研究成果を活用し起業しました。私たちの技術が初めてプロダクトに使われるという形で量産化に至ったのが2020年のこと。EIZO株式会社様のウルトラワイド曲面モニターへの搭載です。実に、6年もの時間を費やしました。100年もの歴史がありとあらゆる電子機器に使われているプリント基板のシェア交代をするのは、並大抵のことではありません。現在では少しずつシェアを伸ばし、安定した生産ができるフェーズまできています。シェアの拡大と安定した技術の供給。現在は、そこを両輪で進めている段階です」

Apple社やGoogle社製品への応用を見据えて

電子産業は、世界規模でみても3〜4社での独占シェアが当たり前の世界だという。だからこそ、エレファンテックの技術が認知&採用されデファクト化していけば、世界シェアの6〜7割を取れることは夢ではない、と清水氏は語る。これからの時代、各産業や技術におけるサステナブルでない取り組みには、よりテコ入れがされる時代になっていくことは間違いないが、そうはいっても技術開発にはやはり数年かかる。そういった意味でも、エレファンテックは業界のトップを奔走しているといってもいいだろう。そんなエレファンテックが見据える未来を聞いてみた。

 

「ミッションは、2つ。1つは、スケールアップです。iPhoneやAndroidなどスマートフォンには、まだ私たちの技術は採用されていません。現在採用されているのが年間数万台という需要の製品なので、スマホのような何億台という需要があるものへの採用を目指します」

 

歴史ある技術で作られた製品からのシフトとなれば、採用する側も保守的にならざるを得ない。そこをどう打ち破っていけるかだ、と清水氏は語る。

 

「もう1つは、技術的な部分。基板にはさまざまな種類があり、今私たちが作っているのは『片面フレキシブル基板』と呼ばれる、たくさんあるカテゴリーの中のあくまで1つにしか過ぎません。カテゴリーを拡充し、プリント基板全体を置き換えていくことを目指しています」

2030年、当たり前に技術を利用するために

ここまでプリント基板技術についての話を伺ってきたものの、普段使う電子機器の裏側にあるものだけに、なかなか実感も湧きにくい。「P-Flex®︎」が搭載されることで、生活者の視点での利便性はどこにあるのだろう。

 

「そうですね、難しいご質問です。実際に使うときにわかる利便性の視点というよりは、私たちのようなテクノロジーがないと、これから電子デバイスを使えなくなる時代が来るのはそう遠い未来ではないでしょう」

 

これまでは環境負荷の高い生産技術で作られたものが市場に出回っていたが、近い未来、そういったものがどんどん制限される時代がやってくるというのだ。

 

「悪いシナリオでは、地球の気温は5度以上も上がるといわれています。それを1.5度の上昇にとどめる必要があります。今私たちが当たり前に使っているものは、CO2を大量に出しながら作られているものがとても多くあるため、脱炭素化の技術革新がないままだと、100年先には地球は住めないような気温になってしまうかもしれない。今使っているものを引き続き使い続けるために、技術革新で環境負荷のかからないものづくりをする必要があります。私たちの技術は、何か新しい体験をするためのものというよりは、これまでの体験を、これからの未来でも変わらずし続けていくためのものなのです」

 

2030年の時点では、どう変わっていくだろうか。清水氏の考える2030年について聞いた。

 

「2030年には、サステナブルなものづくりができる会社しか生き残れなくなってくるでしょう。経済活動全体が、かなり変わっていくと思います。一方で生活者の行動が大きく変わるということは、あまりないと思います。だからこそ技術革新の力で、消費者が行動を大きく変えなくてもいいように、持続可能な未来を作っていかなくてはなりません」

 

向こう7年でサステナブルへの意識がより当たり前なものになるのでしょうね、との相槌に、清水氏は視点の違うこのような回答をくれた。

 

「意識が変わるというより、もはや法律が変わっていくでしょう。『サステナブル』がいわゆる慈善活動的に捉えられるのは、今だけだと思っています。先進国諸国において、日本は環境における意識や法律がものすごく遅れています。すでに欧州や米国では、環境に悪い技術やものづくりが禁止されている例もあります。消費者の意識というレベルではなく、日本もそのような経済活動、企業活動の形になっていくでしょうね。今でこそ日本は非常に遅れてはいますが、2030年頃は必ずそうなっているだろうと思います」

 

意識が変わるというよりは、そうせざるを得ない状況になるというのだ。そこで清水氏が例に挙げたのが、「紙ストロー」と「牛肉」。

 

「紙ストローは、やはりどこか違和感がありますよね。プラスチックは便利ですが、イノベーションがないままだと使えない素材になっていく。不便だけど紙に変えましょう、と消費者に不便を強いることになる。そんなことが、これからどんどん起こっていくのではないかと思っています。またこれもよくお話するのですけど、このままイノベーションがなければ牛肉が食べられるのは数十年で、『若かった頃は、牛肉を食べていた』と言っている未来が見える。技術革新なくしてはどんどん原始時代に遡り、昔できたことができなくなっていくのです」

 

だからこそ、エレファンテックの技術のようなサステナブルなテクノロジーが増えていかなければならない。原始時代にできるだけ遡らないように、今までと同じような生活が送れるような技術開発が必要不可欠だ。

 

 

こういった技術のおかげで、私たち、そして次世代の未来が持続可能になっていく。まさに社会とひとのための事業。清水氏に話を伺って、頭の下がる思いがした。

 

清水信哉

Shinya Shimizu

エレファンテック株式会社 代表取締役社長兼CTO

1988年生まれ。東京大学工学部電子情報工学科卒業、同大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻修士課程修了。2012年4月、マッキンゼー・アンド・カンパニー入社、主に国内メーカーのコンサルティングに従事。2014年1月、エレファンテック共同創業、代表取締役社長就任。同社の事業は、電子機器に使われるプリント基板の製造・販売。金属インクジェット印刷と無電解銅めっきを用いた環境に優しい製法が特長。

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