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ENILNO いろんなオンラインの向こう側

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ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。
これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

「低速小型」という新しい切り口のモビリティの価値は? 「移動」自体の体験価値も

労働時間の規制やドライバーの高齢化などに伴い、バス業界やタクシー業界では人手不足が深刻な課題となっている。一方で、自動運転技術の進展や「空飛ぶクルマ」をはじめとした次世代モビリティが登場し始めるなど、明るいニュースも聞かれる。そんな、刻一刻とアップデートされる令和のモビリティ市場。そこに共通するミッションの一つに「目的地までいかに速く行けるか」ということが、かつてはあった。

 

「かつては」と表現したのは、それを覆す「低速小型」という新しい切り口のモビリティが登場したから。それが、ゲキダンイイノ合同会社が開発する「iino(イイノ)」。「高速」ではなく、「低速」であることの価値とは? 新たな視点の背景について、同社座長・嶋田悠介氏に話を聞いた。

 

新たなモビリティとしての価値を創造。「低速」だから成し得ること

現在、同社が展開するプロダクト、自動走行モビリティ「iino」は2種類。6〜8人乗りの「type-S」と3人乗りの「type-S712」だ。これらの最大の特徴は、「時速5km」という低速で進むこと。イメージとしては、人が早歩きをするぐらいの速度。「乗り物」と考えたら、とてもゆっくり進むように感じるだろう。iinoは横を歩く人の存在を感知すると減速し、いつでも乗り込むことができる。人力車やタイのトゥクトゥクに似ている存在だが、それよりも低速の、いわば「歩くように進む」モビリティ。景色を眺めながら、街を散策するように移動を楽しむことができる。ビジュアルは街に馴染む「動く家具」を目指し、人が触れたいと思える落ち着いた雰囲気を大切にした木製のデザイン。

type-S
type-S712

「着想を得たのは、人がぴょんと飛び乗ったり降りたりするゴミ収集車。最近はもう、見ることがないですが……。街じゅうにこういったゆっくり動くモビリティが走っていて、好きなタイミングで乗り降りができたら、身一つでどこまででもいけるのではないかなと考えました。駅や時刻表から解放された自由な移動体験をつくりたいというのが開発の動機です」(嶋田氏、以下同)

 

開発当初はジョギングぐらいの速さでないと乗り物としてのニーズがないと考えていた。ところが、プロダクトの実証実験をしていく中で、それよりも遅い「歩く速さ」がもたらす価値に気づいたという。

 

「大学の構内で実験をした際に、学生さんから『普段通い慣れてるはずの場所なのにあんな場所に緑があったことに改めて気づけた』『いつも目的地までつい急いでしまいがちだがぼーっと乗っている間に思考がすっきりした』といった声を聞きました。さらに『乗りながら飲んだコーヒーの味をとてもおいしく感じた』という意見もありました」

 

海外においては、車で通学する子どもは道路の絵しか描かない一方で、徒歩通学の子どもは通学路に目で見るものを豊かに絵に表す、というデータもあるとか。「歩くほどの速度」で移動することの価値が、見出せるのではないか。そんな気づきがあり、「便利」である以外の価値を見出し始めた。

 

「今までモビリティ業界では『いかに遠くの目的地に早く行けるか』を至上命題とし、開発がされてきました。ですが私たちは、この『遅くて近い』領域に価値があると考え、このプロジェクトを本格始動させるに至りました」

トランスポーテーションにはとどまらない。行政や商業施設との協業も

今までのモビリティとは逆転の発想のiino。現在は、実装に向かって各地で実証実験を繰り返しているフェーズにあり、正式ローンチはこれからだ。実装例にはいくつかのパターンがあり、なかでも価値を生むと考えられているのが、神戸や横浜などのウォーターフロントの都市における運転。東西南北に広がっていく都市開発において、人々が気軽に移動できるこういったモビリティは価値がある。同じく、東京・丸の内や大阪・御堂筋のような、商業施設を中心にエリア開発がされている都市部にも適応できる。

人流に合わせて走行ルートや台数を変更できる

「駅や空港にある『動く歩道』をイメージしてもらうと、わかりやすいかと思います。いうなればiinoは、これを一区画ごとにブツ切りにしたようなもの。ブツ切りにしていることで、時間帯に応じて違うルートを走ったり台数を変えたり……と融通を効かせられます」

 

モビリティに搭載する「3D-LiDAR」の技術により、3D地図と経路を事前に作成し、 完全自動走行が可能に。障害物の検知もできるため安全に減速・停止を行え、公道走行時の警察審査もクリアしている。さらに遠隔システムにより、複数台のモビリティを監視・制御。だからこそ人が多い開発地域でも、無人の自動運転が可能になる。

 

「iinoは移動手段でもあるのですが、ただ利用者がトランスポーテーションの機能としてだけ活用するのでは、私たちの目指す価値創造とは少しズレてくるのかもしれません」

 

そこが、現在のiinoの課題感。移動だけが目的であれば、やはり「早く到着する」ことに価値がある。iinoの場合は、乗っている間の体験こそが、価値。乗客が有益な情報に触れられたり、新たな気づきを得られたりすることが大事なのだ。

フリーで気軽に乗り降りできる。そこにメディアとしての価値がある

iinoが目指すのは、いわば「自由度の高い動く歩道」。運賃が発生することなく、予約なしでもその場でパッと乗り込めなくてはならない。

 

「iinoがメディアとして機能すれば、運賃をいただかない仕組みでも成り立ちます。降りたい場所でさっと降りられるiinoだからこそメディアとして活用でき、店舗に送客する仕組みづくりができる。結果、走行ルートエリアの賑わいに繋がります」

 

同社がデベロッパーや行政と取り組むのは、iinoにメディアとしての価値を見出し、活用すること。「A地点とB地点を結ぶ」というモビリティのミッションを全うしつつも、移動の道中を楽しみながらメディアとしての機能ももたせる。人の乗降のログも取れるため、それを宣伝活動に生かすこともできる。

 

「そこが、モビリティを手がける他社との大きな違いです。広告掲載はもちろん、正確な位置情報をもっているというモビリティの特性を生かして、通過ポイントでそこに見えるものに紐づく音声広告を流す仕掛けをしたり。乗車中に周りにあるものの魅力を伝えられるのは、iinoだからできることです」

ディスプレイの前を通過するときに音声で商品の魅力を伝える

予約なしで乗降可能に、とはいうものの、動く歩道のようなスペースはないため「乗りたい人が乗れない」という事態が起こりうるのでは。

 

「台数を増やしたり走行エリアを広げたりすることで、いかに回転させていくかの仕組みづくりが課題です」

 

「あの場所に行ったらiinoが走っているよね」そんな会話が日常になるくらいの常設の運用を目指し、現在ではチャレンジを続けている。

主要都市部や商業施設、空港。各ポイントにiinoが走っている未来へ

少し先の未来には、iinoが当たり前に走る光景を私たちは目にするだろうか。

 

「サービスが始まったのが2020年。10年目標として掲げているのは、都心部における『ウォーカブルシティ』を『歩くようにめぐれる』というモビリティの価値を伝播すること。利用者に対しては街を楽しむニーズに紐付けつつ、ビジネスとして機能させていけたら」

 

モビリティ業界全体の流れも大きく変わっていくだろうが、それについて嶋田氏はどう予測するのか。

 

「iinoは『低速モビリティ』『マイクロモビリティ』という位置付け。乗せられる人数にも限りがあり速度も遅いため、トランスポーテーションとしての能力は弱い。そんな中でどうやって社会価値を生み出すか、ビジネスとして持続可能性をもたせるか。今手応えを感じてるのは、メディアの部分。店舗やエリアと連携して場所の魅力を伝え、その結果、お客さんがより滞在する時間が長くなる。そういったビジネスモデルを成立させ実装させていく。その分野を切り拓いている段階です」

 

海外のウォーカブルシティもターゲットにしたい、と話す嶋田氏。少し先の未来には、商業施設やはたまた都市部のエリア、空港などにもiinoが走っている景色が見られるのかも。

 

「この発想のプロダクトは、いまのところ日本にしかないと思います。私たちは『0から1を生み出す』をコンセプトに世の中にないものを作りビジネスモデルとして成立させ、日本のみならず海外にも広げていきたいと思っています。2030年には、都心部や主要な都市では必ずiinoが走っている、といった世界を目指したいですね」

 

一見エンターテインメント要素が強いように思えるプロダクトだが、メディアとしての役割や都市活性化など、ビジネスを円滑にする可能性を大いに秘めている。利用者にとっては歩くようにいろいろな情報に触れながら、便利に移動できる。「低速」モビリティは、「ウォーカブル」な街をより活性化させるフックとなるだろう。

嶋田悠介

Yusuke Shimada

ゲキダンイイノ合同会社 座長

2009年 関西電力株式会社入社。経営企画部門で中期経営計画策定などに従事した後、イノベーション専門組織を立ち上げ。並行して業務外活動として、時速5キロの自動走行モビリティ「iino」を使ったモビリティサービスの事業開発を担当。2020年関西電力発のスタートアップ、ゲキダンイイノ合同会社を設立。街を舞台に、走る場所の魅力を引き立てる「ゲキダン」の座長として全国の地方自治体やまちづくり事業者と協力しながら、街と人をつなぐ新たなモビリティサービスの提供に向けた取り組みを実施している。

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