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ENILNO いろんなオンラインの向こう側

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ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。
これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

スマホ所持"絶対禁止"の高校が、ICT教育の最先端に変貌できた理由

モノづくりのまち・東大阪市に校舎を構える近畿大学附属高等学校。2013年から「1人1台のiPad」を掲げ、生徒各自が情報端末を自由に活用できる環境を整備してきた。国の「GIGAスクール構想」に先駆けたICT教育の取り組みは、同年の「e-Learning Award 文部科学大臣賞」の受賞や、2014年に日本初のApple Distinguished School(ADS)への認定等、高い評価を獲得している。

 

コロナ禍においては、スムーズにオンライン授業への移行や教職員の連携も行えたという同校だが、それ以前はiPadはおろか携帯電話でさえも禁止だったという。一体どのような理念を掲げて180度の転換ができたのか? 実際の生徒の反応は? これからの教育の展望について、教育改革推進室 室長の乾武司氏に聞いた。

iPadをきっかけに自ら学び進められるように

iPad導入から10年。同校では、3,000人の生徒がiPadを手に授業を受ける様子も当たり前になった。全国の教育現場で混乱が見られたコロナ禍においても、iPadを駆使しオンラインで繋がり続け、学びを止めることはなかった。しかし「導入前はデジタルとは無縁で、携帯電話の所持が発覚しただけで解約をさせる学校でした」と語るのは、近畿大学附属高等学校 教育改革推進室 室長の乾武司氏だ。

今とは180度異なる考え方の当時から、どのようにして導入・活用の一途を辿ったのか。

 

「iPad導入前の2011年頃は、学校として建前上、生徒は誰も携帯電話を所持していないということになっていました。でも実際はみんな所持していて、SNSでのいじめのような問題もありました。このままではいけないと、情報端末との向き合い方を学校で教育するよう方針を改めたんです」(乾氏、以下同)

 

同時期に大阪府の公立小中学校でタブレット端末の導入が検討されていたのを機に、同校でも議論が重ねられ、iPadを導入。そして同じタイミングで校門を出るまでは使用してはいけないルール付きで(緊急時を除く)、学校での携帯電話の所持も認められるようになった。iPadについては、教員の指示がない限りいつでも自由に使用できる。アプリの管理も生徒に委ねられており、ゲームでもSNSでも、どんなアプリでもインストールが可能だ。ブラウザでのウェブサイトへのアクセスも特に制限されていない。

 

「それが良いもの、悪いものというより、なぜ勉強するのかということを本人が理解していることが大切です。スマホの使用やiPadでのゲームを禁止すれば勉強するようになるというわけではありません。我々教員は、生徒が進んで参加したくなる授業や、取り組みたくなるような課題を作れるよう、工夫していく必要があります」

 

iPadは学習を手助けしてくれるキーアイテムになっている。先生が黒板に書いて、生徒がノートに書き写す一方通行の授業が変化しつつあるのだ。

 

「先生が全て解説するのではなく、自分で調べられる部分は思い切って生徒に任せる。そのほうが学習のモチベーションも上がります。受け身ではなく、自分で学び進められるのがiPadの最も大きな特徴だと思います」

リアルと同じものを求めないオンライン授業。教員同士の連携強化

2020年2月27日、新型コロナウイルス感染拡大を受け、翌日から全国の小中学校、高校が一斉臨時休校になった。それでも普段からICT教育システムが確立されていた同校では、とくに混乱は見られなかった。

 

iPad導入時に独自開発した生徒・教員・保護者を繋ぐポータルサイト「CYBER CAMPUS」を活用し、必要事項は全てその中で配信。“常に繋がっていること”を重要視し、サーバーダウンしないようにシステムメンテナンスの強化にも努めた。オンライン授業のガイドラインを作成し、授業を進めることより、生徒一人一人の精神的不安を取り除くことに徹していたという。

 

「慣れないオンライン授業下で大切なのは、リアルと同じことを求めないこと。独りで画面を見続けるのはかなりのストレスです。生徒のキャパシティもインターネット環境も個人差があるので、Wi-Fiがうまく接続できなかったり、課題の提出が遅れたりしても責めず、できる限り寄り添ってあげられる対応を先生方には求めていました」

 

Zoomは主にホームルームや個人面談など、生徒と顔を見て話す機会を設けるために使用。そのほか授業に対するアンケートを頻繁に行い、生徒の気持ちをすくい上げることを常に意識していたそうだ。

オンライン授業下で、出欠確認や成績評価はどのように行っていたのか。

 

「出欠はあくまで安否確認のためにとり、成績は課題の出来で評価していました。クラスごとに課題の量や難易度に差が生まれないよう、各教科の先生に日毎の授業計画をリスト化してもらい、学年主任の先生がチェックするという体制をとりました」

ちょうどコロナ禍に入る前の2019年に、ICT教育推進室から教育改革推進室へと校務組織を改革していたという。教育改革推進室から各教科主任の先生方と連携することで、学習の質をさらに向上させることを目指した。

 

「それまでは先生一人で授業内容や課題について決めるのがほとんどでしたが、同じ教科の先生同士で意見交換しながら考えるようになりました。それはとても望ましいことだと思っています。いろんな先生とディスカッションすることで刺激を受け、新たな発見があるはずですし、共通の物差しを持って適正な評価ができるようにもなります」

みんなで共有できる学びに意味がある

iPadを活用したICT教育について、当事者の生徒は実際どう感じているのか。2年生の3人に話を聞いてみた。

 

 

「不明点や疑問点をすぐに調べられます。また、グループワーク時には、みんなで同時にプレゼン資料が作れました。テーマに沿ったVlog(Video Blog)を作ったことも。Instagramにクラス用アカウントがあるので、他の子の作品がいつでも見れます。学んできた成果が時系列でわかるので、個人懇談時に振り返ることもできました」

授業についてはどうだろう。iPadでゲームをしてしまうことはないのだろうか。

 

「先生と生徒が双方向な授業は楽しいです。生徒を積極的にあてたり、問題をクイズ形式にしたり、グループワークをしたり。楽しい授業は学ぶのに必要だからiPadを使う、つまらない授業は気が散ってiPadを触ってしまう、という感じです」

 

iPadは授業以外に部活動でも活用されている。試合の動画撮影・分析や、チャットツールでの連絡の取り合い、楽譜やメトロノームのデジタル化など。常にICTが生徒の身近にあり、活動の可能性を大いに広げている。

生徒の意見を受けて、改めて乾氏はこう語る。

 

「教えられたものを覚えるだけじゃなく、それを使って何かをつくって発表したり表現したり、どんどん挑戦してほしいです。共同する力や表現する力、自分で学んでいく力など全部ひっくるめて学力だと考えているのです」

 

今の時代に求められる学力は、ペーパーテストだけでは育成も評価もできない。それを見越し、成績の評価方法も大胆に変更。テストが90点、平常点が10点だったものを、50点ずつの割合に改めた。この評価方法だと、普段から積極的に授業に参加し、小テストや課題、プレゼンテーションなどに取り組んでいく必要がある。ほかの生徒とのコミュニケーションも必須だ。

 

「みんなで共有できる学びに意味があると思います。学校は同年代の学生が集まれる貴重な場所です。自分は何のためにいるんだろう、人のために何ができるんだろう、という視点がすごく大事だと考えています。お互い相互作用しながら共に発展するのが理想じゃないでしょうか」

ChatGPTは「頼りになる先輩」。見極める力を養う時代

少子高齢化により労働力人口が激減し、教育現場においても問題が顕在化するとされる2030年。教育者である乾氏はどのように捉えているのか。

 

「知識を覚えて吐き出すことに意味がなくなると思います。より学校の存在意義が問われる時代になるでしょう。コロナ禍以前から個人で学べるオンライン教材は増え続けていますし、『高校行くん?お金かかるやん』という時代がいずれくるはずです。リアルな学校の醍醐味は、同年代の生徒がたくさん集まっていること。誰かが失敗しても『ナイスファイト!』と声かけをし合える、自由に失敗できる場所であるべきです。失敗は年齢を重ねるほど怖くなりますから」

 

乾氏が描く今後の展望とは。

「ICTが自由に使える学校を作るのが夢でした。それが叶い、もう引退だなと思っていた矢先にChatGPTが登場。生成AIは教育現場に新たな可能性をもたらすでしょうし、純粋に面白そうで、まだまだ引退できないなと」

 

同校はIB認定校(IB=グローバル人材を育成するための教育プログラム)でもある。ちょうどバカロレア機構から生成AIの使用規範が伝えられ、それをもとに校内で活用できるようになったそう。

 

「暗記や探究に関しては、これからの時代は超個別学習になると思います。自分の弱点に特化したプロンプトができれば、自分のための教材を自分で作ることができる。ChatGPTを『頼りになる先輩』として、探究活動のパートナーとして使いこなせるのが理想ではないでしょうか。教員側も同じで、クラス全員の話を聞いてもなかには答えられない弱い分野があって当然。各自がChatGPTに頼る方が専門性に富むこともあるでしょう。ただ、出てきた答えが間違っていたとしても、調べた自分自身が責任を負うことを忘れてはいけません。プロンプトをいかに作るか、出てきたものをいかに見極めるか、その力を養える教育を目指していきたいですね」

 

学びの可能性を広げるため、常にアップデートし続ける近畿大学附属高等学校。教員から生徒だけでなく逆も然り、教員同士、生徒同士が共に学び合う姿勢こそ、答えのない時代に必要不可欠なものになるだろう。

乾武司

Takeshi Inui

近畿大学附属高等学校 教育改革推進室 室長

高等学校、塾、予備校等の講師を経験後、2002年より理科専任教員として近畿大学附属高等学校に勤務。電算室主任として校務学績管理システムの構築や教科「情報」の設置に携わる。学内情報のデータベース化・ペーパーレス化とともに、 lCT教育環境のアウトラインデザインに取り組む。2013年、iPad導入初年度の生徒たちのクラス担任をしながら、学校生活の中でiPadがどのように活用できるのかを試行錯誤して現在に至る。2014年度に ICT教育推進室室長、2019年度から教育改革推進室室長に就任。Apple Distinguished Educator 2015に認定された。

  • 公式Facebookページ

取材:執筆/オカジマアヤノ 撮影/平野明

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