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ENILNO いろんなオンラインの向こう側

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ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。
これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

200枠が即完売の「ほめてもらえるBAR」! 攻めるルクア大阪が大切にするお客さんの温もり

オンラインでの買い物が当たり前となった今、消費者にとっての商業施設の存在価値は大きく変化し、業界としては過渡期ともいえるタイミングにある。2022年の時点で日本全国に約3,000もの数があるという商業施設だが(※一般社団法人 日本ショッピングセンター協会調べ)、その一つひとつが立地の利便性以外の部分で「なぜそこで買い物をするのか」に応えられる個性を持たなければいけない時代だ。

 

JR西日本SC開発(株)が運営する商業施設「ルクア大阪」内の企画開発チーム「トキメキ事業部」では、館に足を運ぶファンを増やすべく、顧客とダイレクトに繋がるユニークな取り組みを実装中。今回は同事業部発起人の大垣晃子氏に、その内容や商業施設の未来について伺った。

「ひとり」のトキメキを、「みんな」へ。

「トキメキ事業部」。その響きだけで、面白そうな何かを企画していることが想像できる。ルクア大阪のトキメキ事業部は「ため息からトキメキを生み出す」ことをミッションに、さまざまなプロジェクトを行っている。基盤となっているのは、インスタグラムでのマーケティング。ダイレクトに消費者と繋がることで彼らが何を欲しているのかを分析し、求められていることを仕掛けていくというのだ。

「これまでの商業施設のあり方は、実際にお客様と接するのは各ショップのスタッフさんであり、私たちは上がってきたデータから数字を読み取ったり、テナントのスタッフさんから間接的に情報収集をしたりするのみでした。ただそれでは、ルクアに来ているお客様の年齢や居住地、どこで何を買っているかといった情報しか得られず、パーソナリティの部分が全然見えなかったんです。これではいけない、と『トキメキ事業部』を立ち上げました。施設自体が日常的に直接お客様と繋がり、それを来店機会に変えていく方が未来が明るいと思いました」(大垣氏、以下同)

 

業界では、10年ほど前からオンラインの急成長、販売チャネルの多様化、消費者ニーズの細分化による商業施設の失速が叫ばれていた。ルクア大阪も例にもれず、これまで通りの経営方法だけでは事業の未来はないという危機課題が常にあったという。そこで大垣氏が着目したのが、確実に個人と繋がることができ、スピード感高く反応があるインスタグラムマーケティングだった。

 

「個人的にも、当時の商業施設の販促には、不安がありました。お客様に『買って買って』とアピールするだけではいけない。本当の意味でお客様から『ありがとう』と言っていただけたり、役に立ったりすることで『ルクアが好き』というファンを増やしていかないと、お客様がどんどん離れていってしまうのではないかと。そこで売上や集客はいったんは置いておいて、『お客様が心の底から求めているモノを見いだし、お客様の気持ちに寄り添う』ということにトライしようと思いました」

 

商業施設のインスタグラム発信というと、イベントのPRや取り扱い商品の紹介などが主であるように思うが、「トキメキ事業部」のそれは全く違う。アカウント名は「トキメキデパート」。商品の宣伝は一切なく、ルクアの名前も極力出されていない。開始した2019年こそアカウントを知ってもらうために広告を打ったりはしたが、その後は口コミで広まったという。インターネットという大海の中でバイラルさせ、ファンを増やしていくにあたりどう工夫したのか。

 

「ただただ、愚直に1人ひとりのお客様に向き合いました。ストーリーズで質問を投げかけると、平均的に200人ぐらいがコメントを返してくださるのですが、その一つひとつに全部返事を書き、それをシェアする。この繰り返しを地道に行いました」

 

顧客とのやりとりが、大きくイベントに前進した例がこちら。

 

「『今欲しいものはなんですか?』という質問に『彼氏』『ワンピース』といった返答がくる中、『ほめられたい』という返事をくれた方がいました。なんか、ドキッとしましたね。DMでやりとりするうちに、大人になればなるほどほめられることがないことにあらためて気付かされました。いろんなことに気遣いながら頑張ってるのに、です。その気持ち、めっちゃわかるなと思って」

 

「ひとりの」インサイトに寄り添うことが、結果としていろいろな人の共感を得られるのかもしれない。それを、イベントでなんとか実現できないか。そこで、ひとりのお悩みをヒントに、新しいお店やサービスをつくる「妄想ショップ」を開設。

「ほめられたい」インサイトをもとに、「ほめるBar」というイベントを開催した。内容は、参加者が「ほめる人」に話を聞いてもらい、その中で素敵だと思ったところをただひたすらにほめてもらえるというもの。200人ほどあった枠は、即完売したという。

「こうやって誰か一人が打ち明けてくれた悩みこそ、確実に存在している悩み。そこを起点にしてイベントを企画し、その悩みに共感する人たちが集まるといった立てつけなら、本当の意味でお客様の役に立てるなと思いました」

「ほめるBar」を皮切りに、「妄想ショップ」ではリアルな生声を発端にして、さまざまなショップ(イベント)を実装してきた。インスタグラムアカウント「トキメキデパート」にメッセージを送ってもいいし、公式ホームページや公式ツイッターにある「ため息ポスト」に日常で感じている気持ちを書き込み、送信ボタンを押してもいい。一人のつぶやきがヒントとなって、ルクア大阪でさまざまなイベントが開催されていくなんて夢があるし、行ってみたいと思える。

ファンが増えて、売上も右肩上がりに

「妄想ショップ」で実装されてきたショップの内容はどれもユニークで、思わず参加してみたくなる。とはいえ、それがルクア大阪の売上にどう反映していくのか。顧客のリアル声を吸い上げたイベントは、必ずしもショップや商品と紐づいているPRであるわけではない。

「それについては、実際に結果が出ています。『妄想ショップ』を体験していただいたお客様と妄想ショップを体験していない会員様を比べると、体験したほうがLTV(ライフタイムバリュー)が約2倍ほど高いというデータが出ました。お客様の心の温度をあげることで、『ルクアって私の気持ちわかってくれる』とファンになってもらえる。館を訪れたときも高揚感を持って、買い物をしてもらえるようです」

「浅く広く」ではなく「深く狭く」の時代。「これが好き」という人に深く刺さるプロジェクトをいろいろな視点で行うことによって、ルクア大阪へ足を運ぶファンを増やすという戦略だ。売上にも繋がっているなら、それこそが商業施設の新しい存在価値とも言える。

 

「これまではテナントの売上に館の売上が左右されるという図式でしたが、これからはいかに館がコアなファンを抱えるかが重要です。こちら側からショップ側へ送客していくといった、新しい図式を目指していく時代だと思います」

2030年、商業施設は逆に面白くなる

さらにオンライン全盛が加速化する世界が見える7年後の2030年、商業施設はこれまでのままだとますます苦戦を強いられそうだ。そんな中、大垣氏は2030年をどのように見据えているのだろう。

 

「時代に合わせて試行錯誤をしていくしかない。オンラインで買うのが当たり前になったり消費者の価値観が変化していくのは、今後も当たり前にあることです。それに対して柔軟に対応していくことが必要で、あらがおうとは全く思ってないです。2030年の頃は、より商業施設が面白くなってくる時代なんじゃないかなと思います。現状どの施設もあまり変わり映えしないという課題感がありますが、今後は各施設それぞれのカラーが出てくると思います」


どの商業施設に行ってもあるお店がさほど変わらないとなると、私たち生活者は場所でしか選ばない。ところが、その商業施設にしかない個性が出てきたらどうだろうか。少し足を伸ばしてでも、遠くの魅力的な場所へ行きたくなるのが心理だろう。

 

「これまではあまり目を向けられなかったニッチで小さなコミュニティでも、打ち出し方を考えれば面白いことがたくさんできると思います。むしろそういう力が、これから私たちの業界にはすごく必要なんだと思います。直近で企画しているのは『大人が童心に帰って楽しめる』ようなイベント。便利で役に立つものが溢れている世の中で、無駄を満喫するのもときには必要だと思うんですよね」

 

いろんな新しいものが生まれて、自分をどんどんアップデートしていかないといけないような世の中。疲弊してしまう心の隙間にも寄り添えるようなイベントを続々と生み出したい、というのがルクア大阪・トキメキ事業部の見据える先だ。

 

オンラインで買い物はできるが、オンラインでは体験はできない。ルクア大阪に限らず、今後の商業施設ではどんどんこういった事例が増えていくであろう。

大垣晃子

Akiko Ogaki

JR西日本SC開発株式会社 ルクア大阪事業本部営業部 販売促進グループ 広報担当

2011年、JR西日本SC開発株式会社に入社。「ルクア」「ルクア イーレ」のPR広報に従事。2019年から顧客心理をリサーチするInstagram「トキメキデパート」、イベント「妄想ショップ」を企画・運営し、2020年に「トキメキ事業部」を設立。自分を好きになれる「ほめるBar」、お坊さんに愚痴を聞いてもらえる「お坊さん喫茶」など、ユニークなイベントを実施している。

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