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ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。
これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

自治体オウンドメディアの成功例から学ぶ。出版社マガジンハウスならではの知見と戦略

昨今、出版社がWebメディア運営に参入するケースが増えている。

 

なかでも注目したいのは、『anan』や『BRUTUS』『POPEYE』など多数の人気雑誌を生み出し、トレンドやカルチャーを独自の切り口で発信している出版社〈マガジンハウス〉だ。

同社のコロカル事業部では、webマガジン『COLOCAL』を運営しながら、新潟県や大分県など地方自治体のオウンドメディアも制作・運営している。

 

紙媒体が主戦場の出版社が自治体のオウンドメディアを展開する際、雑誌の知見をどのように落とし込んでいるのだろうか。また、新型コロナの影響で観光誘致がしづらい状況下において、自治体オウンドメディアはどのような施策でアプローチをしているのか。

 

Casa BRUTUS編集長やPOPEYE編集長を歴任後、2020年webマガジン『コロカル』編集長に就任した松原亨氏に、出版社が手がける自治体オウンドメディアの戦略について話を聞いた。前半にこれまでの経緯、後半にコロナ禍における試行錯誤について展開する。

はじまりは、ローカルの魅力を発信するメディア『コロカル』の発足

 

あらゆる機能が東京一極集中している一方で、地方創生や移住・定住、Iターン・Uターンなど、新型コロナがもたらした“脱・東京”により、今、ローカルに追い風が吹いている。

 

ローカルの魅力を発信するメディア『コロカル』がローンチしたのは、それよりも昔、2012年のこと。

 

ローカルは“楽しい・かっこいい・進化している”という視点で、東京の中央集権から地方分権を目指し、前編集長の及川卓也氏が立ち上げた。マガジンハウスとして初の、雑誌を母体に持たないメディアの誕生でもあった。

 

コロカルでの取材を通してさまざまな地方自治体の関係者との出会いも契機となり、自治体のオウンドメディア制作を受託するようになっていった。

 

このような地方自治体のデジタルでの情報発信に対する課題を、マガジンハウスの知見やコロカルの手がけてきた実績により、プロポーザルを経て地方自治体のメディア制作が実現。

 

飛騨のポータルサイトや東京都の島のタイアップ、シティープロモーション制作などを手がけるようになった。

 

「ローカルをテーマにしているコロカルとして、このような仕事の広がりは非常に自然な流れでした。

 

現在は、アンバサダーにDJ松永さんを起用した新潟県のポータルサイト〈新潟のつかいかた〉や、宇賀なつみさんが旅をする連載を展開中の大分県のポータルサイト〈edit Oita〉などの制作を行っています。

 

いずれもコロカルのメディアとしての機能拡張ができてきていると感じますね」と松原氏。

雑誌の知見が豊富なスタッフで構成されているコロカル編集部だが、雑誌のノウハウはWebに転用可能だという。出版社であるマガジンハウスが自治体のオウンドメディアをやる意義について松原氏は「どうすれば読者に読んでもらえるか?  伝わるのか? 消費者視点で考えるのが得意なところが、マガジンハウスの強みですね」と話す。

 

「雑誌づくりで培った世界観の構築やビジュアルの見せ方、雰囲気の作り方、伝え方、あるいは日本各地にいる優秀なスタッフとのネットワークなどを用いて、高いクオリティを保ちながら、ユーザーにしっかり届く情報発信をしていくことが可能です。それはこれまでの雑誌づくりの知見があるからこそ成し得ることだと思っています。

 

我々が手がける新潟県のポータルサイト〈新潟のつかいかた〉では、新潟の魅力を首都圏の人に伝えるのがミッションなのですが、ここでも雑誌の知見が活かされています。

 

誰でもそうですが、自分が当たり前だと思っていることは“魅力”として認識していなかったりします。新潟県の人も、自分達のいいところに気が付いていない可能性がおおいにある。このような土地の魅力を発見して読者に届けるのが、外部の人間である我々の役割だと思っています。

 

そのためには、内部との連携が重要。新潟県の魅力を深く知っているのはやっぱり内部の人なので、その話をしっかり聞いて、本人も気づいていないかもしれない隠れた魅力を掘り起こして話題化していくことがメディアの役割だと思っています」(松原氏)

 

 

さらに、その魅力を伝える“話者”についても松原氏はこう話す。

 

「発言者はどんな立場の人なのか、ということは重要で、たとえばパン屋がパンの情報発信をしたらそれは“宣伝”ということになる。同じ内容の情報でもメディアが発信したら“報道”ととらえられる。そういう意味で、我々が入ることでオウンドメディアは客観性が担保できると思っています。

 

たとえば、大分県のポータルサイト〈edit Oita〉では、温泉が好きな宇賀なつみさんに現地をレポートしてもらうことで、外部視点を活かした、魅力的な記事を届けることができていると思います」

コロナ禍で苦戦する観光メディア。コロカルが逆風に打ち勝ったワケ

基本的に県の仕事は、公平性の担保や予算の兼ね合いなどが理由で単年度の実施だ。1年ごとに運営を見直され、プロポーザルにかけられることも多い中、〈新潟のつかいかた〉は異例の5年目を迎える。クオリティの担保だけではなく、きちんと数字として結果も出してきた。

「KPIは県と協議の上、サイト規模として認識されやすいPVやUUのほかにSNSのフォロワー数で、毎年達成しています。その他、サブKPIの設定やアンケート調査なども行い、総合的なクオリティ管理をしています。

 

県の予算は1年ごとに決められていますが、我々は雑誌のような中長期的な視点でメディアを育てていき、ファンになってもらうことを目指して計画的に設計しています」と松原氏。

 

コロナ禍で苦境に立たされる観光メディアが多い中で、現在はどのような取り組みをしているのだろうか。松原氏は次のように話す。

 

「コロナで巨額の案件が中止になったり、インバウンド向け施策がなくなったりといろいろありました。それだけではなく、日々の運営において、現地へ取材に行けないなかで情報発信をしなければならないなど、メディア活動上の根本的な課題もありました。

 

そんななか、日頃から培った人的ネットワークを駆使して、現地のカメラマン、現地のライターに効率的に取材をお願いすることで、このコロナ禍でも日本各地の情報を発信し続けることができました。

 

結果的に、ローカルの人脈を活かせたことで、ローカルとの繋がりが強化できたのは嬉しい収穫でした。そのおかげで、日本各地からの情報も入手しやすくなりました。」(松原氏)

 

昨今の取り組みとしては、Twitterを使って〈新潟のつかいかた〉の発信力を高めていくために、大規模なプレゼントキャンペーンを実施。

 

フォロー&リツイートが条件で、2022年1月時点で3,000フォロワーだったのが、たった3カ月で8.9万フォロワーまでファンを増やすことに成功した。キャンペーン終了後もフォロワーの離脱は少ないという。

 

「デジタルメディアは、発信した情報をどこに流通させ、どこにアーカイブするかなどの設計が重要です。だからこそ多方面との連携が必要なのですが、我々の強みの一つはターゲットに合った雑誌メディアとの連携や、タレントさんとの連携にもあります」(松原氏)

 

その連携ワザが光る事例の一つが本件のプレゼントキャンペーンだ。〈新潟のつかいかた〉プロデューサーの山尾信一氏が中心となって、POPEYE編集部やDJ松永氏と連携を図りながら、4つのプレゼントキャンペーンを同時に行った。

 

「POPEYEとコロカルが選んだ新潟の魅力的なアイテムを使ってプレゼントキャンペーンを展開したり、キャンペーンアンバサダーになってもらったDJ松永さんとトークイベントをやったり、さまざまな施策を組み合わせてプロジェクトを推進しました。

 

マガジンハウスだからこその、多様なソリューションを提供することが可能です」(松原氏)

 

届けたい層によって連携すべき雑誌やタレントを提案することができるのは、出版社がオウンドメディアをやる意義にもつながっているようだ。

これからの自治体オウンドメディアは“連携”がキーワードに

このコロナ禍で、自治体の観光分野は大きな打撃を受けたが、状況の沈静化に伴い、徐々に回復していくだろう。そのなかで、コロカルとしての次の打ち手について話を聞いた。

 

「自治体はそれぞれの部署がそれぞれのWebサイトを持っていて、さまざまな情報ツールを活用している。

 

そんな状況を前に、私たちが提案したいのは情報ツールの交通整理と、すでに自治体が持っているWebサイト同士の連携です。自治体は部署ごとにそれぞれの事情で動いていますので、我々がハブとして入ることで情報の連携ができるのではないかと考えています。

 

たとえば〈edit Oita〉で移住定住をテーマにした記事を制作するなら、大分県の移住定住をテーマにしているサイトと連携して送客したり回遊を図ったりすることができる。我々の作った記事から、もっと詳細な情報のあるwebサイトに誘導したりすることもできる。

 

そうやって双方向の関係を築き、オウンドメディアをより活性化していきたいと思っています」と松原氏。

 

定性・定量の両側面からアプローチし、雑誌やキーパーソンとの連携で規模を拡大していったコロカル。これからの展開に目が離せない。

松原 亨

『コロカル』編集長

1992年から男性ファッション誌『POPEYE』の編集に携わり、ファッション、音楽、インテリアなどを担当。2000年より月刊『Casa BRUTUS』創刊に参加。「ケーススタディハウス」「イサム・ノグチ」「安藤忠雄とメキシコへ。ルイス・バラガンを巡る旅」「アップルは何をデザインしたのか」など、幅広いテーマの特集を編集者として担当。Casa BRUTUS編集長、POPEYE編集長を歴任後、2020年webマガジン『コロカル』編集長に就任。

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