ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。
これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。
国内最大級の商業リゾート施設「VISON(ヴィソン)」誕生。スーパーシティ構想も担う最先端テクノロジー活用
4月末、コロナ後への賑わいを見据えて、国内最大級の商業リゾート施設「VISON(ヴィソン)」が誕生した。場所は三重県中南部に位置する多気町。近くには伊勢志摩、熊野古道など観光名所がそろう好立地だ。東京ドーム24個分に相当する広大な敷地に展開しており、開業を3期に分け7月にグランドオープンを迎える。今回は、産直市場「マルシェ ヴィソン」15店と、洋菓子とパンの「スウィーツ ヴィレッジ」2店、猿田彦珈琲(コーヒー)の計18店が先行して開店。施設の外壁にはあたたかい印象が得られる「木」がふんだんに使われており、20年に一度のタイミングで一部を張り替えるという。これは、「式年遷宮」がモデルとなっており、施設を成長させることで、40年後、80年後、100年後の未来へブリッジさせる考えだ。
VISONは未来に残る商業リゾート施設として、スーパーシティ特区としての役割も担う。これは内閣府が進める国家戦略特区施策で、地域の困りごとを最先端の「J-Tech(日本が世界に誇る技術力)」を活用し、地域・事業者・国が一体で解決する取り組みだ。いち商業施設におさまらない価値の追求について、その詳細を探った。
立花 哲也
株式会社アクアイグニス 代表取締役
1974年三重県生まれ。92年高等学校卒業後、地元建設会社に勤務。94年には自ら建設会社を設立する。2012年「癒し」と「食」をテーマとした複合温泉リゾート施設「アクアイグニス」をオープン。2013年から「VISON」の建設プロジェクトをスタートした。「VISON」では、日本が誇るべき食や伝統文化、テクノロジーを集めた。日本一の地方創生モデルを創り上げたいと話す。
猿田彦珈琲など三重県にゆかりある店舗
“みちひらき”の神様である三重県伊勢市・猿田彦大神。伊勢神宮近くのこの神社の名前で思い出すのが、東京に本店を構える猿田彦珈琲だ。スペシャルティコーヒー専門店として、全国的な人気を誇る同店が初めて、三重県にお店を出すこととなった。
同店でも多くの木を使用していることがわかる。国産のヒノキ材を採用し、茶屋のような雰囲気を醸す。神社の森の空気感を堪能しながら、窓越しに豊かな木々を見て過ごせるのだ。店舗デザインは陶芸家・造形作家である内田鋼一氏が監修した。
「地方での店舗だとデザイン性の高いものがあまりない。こういった施設に触れることは意味を持つと思っております。今回、猿田彦さんがこのレベルで世界観を表現してくれて、非常に嬉しく思っています」(立花)
限定ブレンドの「伊勢国ブレンド」は、コーヒー豆の国際品評会においてニカラグア5位、コスタリカ9位に輝いたゲイシャ種のコーヒー豆をブレンドしており、上品で奥深い赤ワイン、爽やかなベルガモットのような余韻が感じられるだろう。クリーンな後味を確認したいところだ。
また、三重県熊野市の新種のみかん「新姫」と、バジルやローズマリーなどのハーブを組み合わせたソースを使用した「三重県産 旬のみかんとハーブのフレンチトースト」も限定スイーツとして注目となっている。
「産直市場のマルシェ ヴィソンもこだわりが強いものになりました。今回、ナショナルチェーンのお店は導入していません。一方で、この三重という地域を意識した店舗を中心に出店してもらっています。松阪牛の『若竹』は、地元の多気町で、松阪牛を飼育する竹内牧場の直営精肉店。上質で、美味しく、そして安心。一頭一頭大切に育てている生産者でありますが、今回は精肉店としても出店する珍しいケースです。また、『第十八代甚昇丸』では、三重県で唯一の底引き網漁船・甚昇丸で水揚げされた深海魚の販売・料理提供します。今まで、水揚げされた海産物は、三重の市場で安値で買い取られ、東京・名古屋などで高値で販売されていましたが、甚昇丸では仲買人の権利を取得。このことで、三重の市場で自ら買い取りができるようになり、地元で販売することができるようになりました」(立花)
他にも、地元企業からいくつもの店舗がオープンしている。3世代続く海人さんとして話題の旅館「なか川」(鳥羽市相差町)は、魚介類を焼いて提供する「海女小屋 なか川」を開店。
伊勢志摩産の鮮魚などを扱う「鈴木水産」(度会郡度会町)は、生きアジの刺し身を提供する「鈴木水産」と、カキ・スープを提供するカフェ「マーケテリア」を。
「わらしべ」ブランドで知られるたいやき店「わらしべ飯高駅前店」(松阪市飯高町)が「WARASHIBE たいやきわらしべ」を出店している。
施設全体では、SDGsを意識した地域課題解決への取り組みを推進しているという。施設内で売れ残った魚・野菜をレストランで再利用するのだ。食品ロスゼロ、生ごみ・食品かすを活用したバイオガス発電所による自立型電力の活用などを実施する。
多気町から日本一の地方創生モデルを
VISONを運営するのは株式会社アクアイグニスが中心となるヴィソン多気株式会社だ。代表取締役の立花哲也氏は、2012年に「癒し」「食」をテーマにした複合温泉リゾート施設「アクアイグニス」を既にオープンさせている。2013年から「VISON」の建設プロジェクトを開始し、日本が誇るべき食や伝統文化、テクノロジーを集めた「日本一の地方創生モデルを創り上げたい」と考えている。
「VISONの開業により、約1,000人の雇用を生み出し、地元の食材を売るマルシェや地元食材を使用したレストランを展開していきます。働き口の供給、地産地消を行う事で、100年後も住み続けられる街にするのです。また、VISONが三重県にもたらす中長期的な経済効果としては、三重県中南部の観光シティバリューを高めることで、伊勢神宮・鳥羽・志摩含め、年間1,000万人訪れるこのエリアを2,000万人へと押し上げたい。さらに、年間800万人にも上ると言われる伊勢神宮への参拝客はほぼ日帰りでありますが、三重県中南部のバリューを高める事でエリア5,000室あると言われる宿泊施設の稼働率を上げていきたいです」(立花氏)
また、スーパーシティ特区としても期待がかかっているのがVISONの特徴だ。現在は、各自治体がそれぞれ構想を練っている段階だが、基本的にこの構想は2つに分割して進められる。新たな都市開発を行い、住民も新規募集する「グリーンフィールド」と、既にある町で住民合意を形成しつつ再開発を行う「ブラウンフィールド」だ。VISONの場合は、このどちらもを採用したハイブリッド型となっている。これらを繋ぐのは、住民参加型の「One-ID」だ。オープンAPIでデータ連携基盤を有効活用。地域住民や観光客がIDを使って各種サービスを体験できるのだ。
「モビリティを走らせたり、ドローンを飛ばしたり、VISONは私有地のため、色々と試したいと思っています。キャッシュレス決済も行いますし、One-IDの採用で顔決済も目指します。One-IDを使うことで、今度オープンするお風呂を町民が安価で利用できたり、また、町民の健康データを蓄積することができるでしょう。このデータを用いて、町民の健康維持や病気の早期発見に生かすことを考えています。医療分野は特に注目していて、約7万人のドクターが登録され、遠隔医療サービスを提供するMRT社が今回、VISONに入ってくれました。これは心強いですね。ワンボックスカー内に遠隔医療ができる設備を導入し、病院に来られない方々の家に訪問して医療を提供することもできるでしょう。VISONでこういった技術・テクノロジーを導入して実績を積み、その後は、VISONを囲む6つの町(多気町・大台町・明和町・度会町・大紀町・紀北町)に還元していくことを考えています」
今年開通した伊勢自動車道「多気ヴィソンスマートIC」から直接アクセスできるスマートインターチェンジを導入(民間施設として初の認可)しただけでなく、下記のようなデジタルインフラをVISON内に埋め込んでいく予定だ。
モビリティ分野
・自動運転バス周遊サービス
・自律式ドローンやルームサービス及び自動ごみ収集ロボット
デジタル観光分野
・希望者参加型の観光ポータルサービスにより、位置情報起点の情報、嗜好に合った情報発信
キャッシュレス分野及び地域通貨
・個人の顔を自動で識別し買い物等の決済を執り行う「フル顔認証決済」
次世代人材育成分野
・コワーキングスペース設置
医療ヘルスケア分野
・移動式遠隔診療、処方箋配送サービス
・オンライン診断、次世代型医療施設の開設
三重県のほぼ真ん中に位置する多気町。豊かな山海の幸に恵まれるだけでなく、古来より「多くの気(いのち)を育む場所」と親しまれてきた。VISONとは「美しい村」を意味している。
「コロナ禍においてのオープンは非常に難しい決断でした。ですが、3段階でオープンさせることで、まずは地元の方々にゆっくりと施設を堪能していただけたかと思います。早く売り上げを達成しないと、という思いもあるのですが、地元の方々が親近感を持って施設を楽しんでくれることも大切です。今後は6月5日に温浴施設など6店がオープンし、7月20日に約200室の宿泊施設や食エリアの44施設が加わりフルオープンとなります。VISONは施設だけがうまくいっても成功ではありません。地元の方々と手を取り合いながら、より過ごしやすい町になることを目指していきたいですね」(立花)