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ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。
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シリコンバレーで見えた日本企業の可能性。2030年のモビリティ産業で日本が生き残るには?

“脱炭素”が世界の潮流となり、日本でも2035年前後にはガソリン車の新車販売が禁止される予定だ。そんなモビリティ産業の変革期とも言えるいま、シリコンバレーで起きているデジタルやモビリティ領域の変化を日本に伝えてきたのが、シリコンバレー在住・元在住の日本人メンバ―4人による「シリコンバレーD-Lab」だ。発足から7年を経て、彼らは未来のモビリティ産業を紐解いた『モビリティX シリコンバレーで見えた2030年の自動車産業』(日経BP)を上梓。2030年のモビリティ産業を、DXとSX(サステナビリティートランスフォーメーション)の2つの潮流から考察する。日本企業が読み間違えたモビリティ産業の本質とは? 日本企業の可能性は? 本書を元に、今後のモビリティ産業における日本企業の勝ち筋について考えたい。

 

※本記事は同書から許諾を得て掲載しております。

日本企業が読み間違えたモビリティ産業の本質

シリコンバレーD-Labでは2016年より、自動車産業やデジタル業界の有識者との議論を重ね産業変革の本質を発信してきた。2017年には自動車産業を取り巻く大変革「CASE(Connected、Autonomous、Shared、Electric)」を、2019年は「Maas(Mobility As A Service)」を取り上げ、そして2021年にはモビリティの脱炭素化に焦点を当て、世界の潮流を伝えてきた。その度に彼らは「日本にはシリコンバレーをはじめとする海外の情報が正確に伝わっていない」ことを痛感してきたという。

『モビリティX シリコンバレーで見えた2030年の自動車産業』(日経BP)木村将之、森俊彦、下田裕和/著

例えば、CASEの波が押し寄せた2016年。すでにアメリカではUberがライドシェアリングサービスを始めていて、Googleはマウンテンビューの一般道で自動運転を走らせていた。

 

「シリコンバレーではCASEを起点とした投資競争まで起きていて、この潮流は単なる技術開発の話ではなく、既存ビジネスの在り方を変える抜本的な変革というのを体感していました。対して日本では『自動運転の実現はまだ先の話』という議論や、『Uberは白タク(自家用車の有償での相乗り)の解禁』といった楽観的な見方が大半でした。日本の企業も、従来通り自動車の乗り心地や製品の品質の高さを競うことに終始していたように思います」

 

産業の競争軸は、製品性能や乗り心地などのハード的なものから、新たな体験やサービスといったビジネスモデルそのものへと移行した。かつて携帯電話がiPhoneに、またビデオカメラがGoProに取って替わられたように、世界のニーズは「ものからコトへ」。モビリティ産業でも、製品スペックよりも新しい顧客体験が求められる時代になりつつあった。しかし日本企業は従来の戦法から抜け出せずにいた。

 

戦後以来、“壊れにくい高品質のものを安価で作る”日本の自動車産業は世界を席巻してきた。しかしこうした2016年頃からのモビリティ産業の潮流は、その勝ち筋が通用しなくなることを意味していた。こうした危機感を最前線で感じてきたメンバーが集まり、現地情報を発信するようになったのは自然な流れに思える。

DXとSXを融合

本書ではテスラやウーバー、ゼネラルモーターズ、Waymo(ウェイモ)、アマゾンなどの取り組みを具体例とし、昨今のモビリティ産業の本質として、DXとSXという2つの潮流がクロス(異業種融合)する「モビリティX」を紐解いていく。

 

浸透しつつあるDX(デジタル・トランスフォーメーション)に対し、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)はまだ発展途上。脱炭素社会に向けた持続可能な取り組みとして、モビリティ領域ではEVやバッテリー、再生可能エネルギー開発などが語られることが多いが、著者陣は「もう一段踏み込んだ企業変革こそが真のSX」と言う。

 

「真のSXとは、脱炭素の潮流に沿った顧客の新たな体験の創造を指します。再エネへの移行といった単なる技術導入に留まらず、モビリティ産業とエネルギー産業が融合しながら、顧客起点でサステナビリティを体現するための新しいビジネスモデルやその価値を創っていくことを意味します」

 

本書にも詳しいがテスラの例がわかりやすい。テスラは2021年の販売台数は90万を超え、EVでは世界最多の販売台数を記録した。今やEV車は多社から出ているが、同社の強みは急速に高まるEV需要の増加を早期から捉えていたことはもちろん、車に搭載し走行性能などを随時アップデートできる無線通信のソフトウェア「OTA(Over The Air)」を車両にいち早く導入し様々なエンターテインメント機能に力を入れてきたことも大きい。これによりユーザーはEV充電の待ち時間や自動運転中にゲームや映画などのコンテンツを、それも常時アップデートしながら楽しむことができるのだが、こうした充実した車内体験がファンの心を掴んでいる。

 

著者陣は「テスラは自動運転後の世界を前提として体験を設計しているようにも思える」と指摘。自動車が自分で運転するようになれば乗車中のエンターテインメントが重要になるし、もしくは乗車しない時間帯には車がロボタクシー(自動運転タクシー)となり“勝手に”お金を稼ぐことも可能になる。そうした自動運転後の世界を高い解像度で捉えることが、新たな顧客体験や価値の創造を可能にしているのだ。モビリティXの時代には、デジタル化や再エネ移行といった形式的なトランスフォーメーションに留まらず、顧客体験中心のDXとSXを同時に進行することが、今後のモビリティ産業のプレーヤーに求められる。

「再エネ信仰」からのゲームチェンジ

多くの読者が興味深いのは、日本企業の強みを考える第6章だろう。自動運転後、ロボタクシーが普及するような社会に、日本企業が生き残るためにはどんなアプローチが有効なのか? 着眼点として印象的なのは、今の世界のように「再生可能エネルギー」だけが焦点となると日本の企業にとっては必ずしも得にならない、という見解だ。

 

欧州の脱炭素推進から広まった波は、今や「脱炭素≒再生可能エネルギーの活用」という世界の風潮になっているが、これにより日本のモビリティ産業界は大きな逆風を受けているという。「化石燃料は悪」「ハイブリッドでは不十分で、EVでないとダメ」という通説ができたことで、ハイブリッド技術に強みをもつ日本の自動車メーカーは、EVでの戦いに転換を迫られている。おまけに日本はそもそも国土が小さく、台風や梅雨などで気候も安定せず、自然エネルギーを開発・活用しにくい国でもある。

 

「これまで省エネルギーや燃費効率の指標で戦ってきた日本企業は、いきなり再生可能エネルギーが利用されているかどうかの指標で判断されることになりました。欧州の戦略的なゲームチェンジに対して、日本も戦略的に迎え撃つ必要があります。少なくとも再生可能エネルギーが最善、という考え方は変えていかねばなりません」

日本の強みは省エネ、リサイクル、製造技術

では、今後日本の産業界はどう戦えば良いのか。本書では日本の強みをいくつか挙げているが、その一つに「省エネルギー」と「リサイクル」がある。

 

「日本には“もったいない精神”があり、資源をもたない国だからこその倹約精神が根付いています。品質の高い製品を長く大事に使い、住民・自治体一体となったリサイクルシステムが各地で既に構築されています。特にゴミの分別などをしっかりと行える国民の意識の高さは世界的にも驚くべき水準です。今後は分散型電源の普及に伴いエネルギーもますます地産地消になる今、こうした地域資源を活かし地域循環のなかで新たな産業モデルを生みだせれば、世界的にも優位なものになると思います」

 

加えて、日本の「製造技術」もまだまだ強みになると言う。高品質で故障せず、耐久性も高い物作りを実現する確かな技術は、自動運転後のインフラを支える基盤として欠かせない。ロボタクシーの普及の際にも、オペレーションの正確性やコスト削減などに大きく貢献するだろう。

 

「また日本の自動車産業には、系列企業同士の強い結びつきもあります。それらを活かすことで、製造サイクル全体でこれまで以上のリサイクル・リユースやカーボンフットプリントの削減も可能になり、さらなる最適化が実現できます。そうした製造過程のプラットフォームが構築できれば、世界に先駆けたビジネスモデルも発信できるのではないでしょうか」

 

日本の産業界にとっては、化石燃料や再生可能エネルギーの指標だけでなく、こうした社会全体の最適化を考えていくことで一つの勝ち筋が見えてくる、というわけだ。

 

あらゆる産業がDXやSXの波に直面する今。本書のテーマはモビリティだが、今後のビジネスモデルやサービスを考える全ての人の指標になる一冊と言える。

木村 将之

Masayuki Kimura

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社 シリコンバレー事務所パートナー、取締役COO/Deloitte Private Asia Pacific Emerging Growth Lead Partner

2007年、有限責任監査法人デロイト トーマツ入所、公認会計士としてIPOおよびM&Aなどの各種業務に従事。2010年、社内ベンチャーとしてスタートアップ支援などを行うデロイト トーマツ ベンチャーサポートを2人で第2創業。15年からシリコンバレー事務所を立ち上げ、現地で200社超が参画する新規事業開発コミュニティー「SUKIYAKI」を創設。デロイトの成長企業支援のアジア地域リードパートナーに就任。

森 俊彦

Toshihiko Mori

パナソニック ホールディングス株式会社 モビリティ事業戦略室 部長

2003年、松下電器産業(現パナソニックホールディングス)に入社。民生ビデオカメラのソフトウエア開発や商品企画に従事。13年からシリコンバレーのオートモーティブ拠点を立ち上げ、5年半、自動車メーカーとの新規事業開発やモビリティ領域のスタートアップ投資に携わる。19年、帰国後はモビリティ・スマートシティ領域での新規事業責任者として事業創出や地方創生を目指す。

下田 裕和

Hirokazu Shimoda

経済産業省 生物化学産業課(バイオ課)課長

1999年、通商産業省(現経済産業省)入省後、IT、サイバーセキュリティー、バイオテクノロジー、再生医療、ヘルスケアなどのイノベーション産業推進を担当。2016年から4年間、JETRO(日本貿易振興機構)サンフランシスコ次長、World Economic Forum第4次産業革命センターフェローとして、日系企業のシリコンバレー進出やグローバルコミュニティーへの参画を推進。22年7月より現職。

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