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ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。
これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

DX化に大事なのはアナログ!? イーロン・マスクのテスラ社が取り入れているアナログな販売方法とは?

企業のDXは、どうすれば進むのでしょうか? DX(デジタル・トランスフォーメーション)という言葉から、いかにしてデジタル化を行うかが問われているようにも思えますが。そのヒントの一つに「アナログとデジタルの融合」があります。イーロンマスク率いるテスラや、元サッカー日本代表監督・岡田武史氏がオーナーを務めるFC今治、世界の大企業や日本の地方の中小企業でも、この「アナログとデジタルの融合」が実践されているといいます。

 

「企業のDX化にはアナログ要素が必要」、KADOKAWAグループのDXを5年間担当し、過去最高の売り上げ・利益に貢献した各務茂雄氏も、その重要性を説いている一人。今回は、各務氏の著書『日本流DX』を参考に、企業DXを推し進めるヒントを探りました。

 

※本記事は同書から許諾を得て掲載しております。

言語化、数値化しにくい曖昧さが武器になる

「社内のDX化を推し進めたい」、これはDX担当者のみならず、経営陣が長く、そして深く対面している課題だといえるでしょう。DX化の必要性を感じつつも、「どう動き出して良いのかがわからない」「社内に適材人材がいない」「丸投げした外注先が思うように動かない」といった声が多方面から聞こえてきます。

 

そもそも、企業のDXとはどういったものでしょう。ビッグデータをはじめ、AIやIoTといったデジタル技術を活用し、業務プロセスを改善、それだけでなく、取り扱う製品やサービス、ビジネスモデルそのものも変革。結果的には、「組織」「企業文化」「風土」をも改革し、企業の優位性を高めるもの。その具体的な方法として、ビッグデータやAI、IoTなどデジタルを活用するのです。しかしながら、「アナログにも重要な部分がある」と説くのが各務氏です。むしろ、デジタル技術を使って合理化するだけでなく、“どこを合理化しないか”を見極めることが重要だとも語ります。

「合理化しない部分とは自社が生み出すビジネス価値の源泉であり、日常に埋もれていることが多い。日常に埋もれているということは、よほど気をつけて見極めないと見過ごしてしまうし、気をつけていても考えが浅いと価値のところまで辿り着けない」(書籍『日本流DX』より)

 

つまり、自社のアナログな部分(価値)を明確にし、そこを活かすかたちでデジタル技術を採用すると良いのです。デジタル技術という手段ばかりにフォーカスするのではなく、どこに自社の価値があるのか、という問いに答えてからのDX化。アナログな価値とはどういったものでしょう。各務氏の言葉を借りると、「言語化、数値化しにくい曖昧さをそのまま受け入れ、そして、それを心地よい、好ましいと感じる自由」です。

 

もう少し、アナログ・デジタルの解像度を上げると、「限りなく1に近い数字」「半分くらい」という“曖昧”な部分があるのがアナログ。そして、デジタルは、「YESorNO」「白or黒」「0or1」など明確なものを指しているのです。こういったアナログ・デジタルの側面を融合させることが、企業DX化と言えるのです。実際の導入事例を見てみましょう。

テスラ社で導入されているアナログ的な手法

EVや自動運転の技術を搭載した車を扱うのが、イーロン・マスク氏が設立したテスラ社。1,000万円以上もする「Tesla Model S」は、人気の車種の一つですが、かなりアナログな姿勢で販売していることに驚かされます。営業活動や広告を積極的に展開せず、あるのは自由にカスタマイズできるサイトと、自由に乗って良い試乗の機会のみ。

 

「テスラオーナーは、新技術にいち早く触れたい『イノベーター』や『アーリーアダプター』が大半である。そうした人たちは合理性を重視し、大げさでウェットな接客を嫌う傾向があるようだ。オーナーが欲しいのはテスラ車を運転することで得られる体験であり、合理的なサービスである」(書籍『日本流DX』より)

 

お客さんとはオンラインで繋がりながらも、1時間フルタイムで自由にEVが体感できるショールームを用意し、アナログ的な体験を重視。さらに、アメリカやカナダ、日本などのテスラオーナーたちが集まる団体「テスラオーナーズクラブ」が立ち上がっており、そこでは情報交換をはじめ、親睦を高めるイベント、新機能の研究会などが行われているのです。自身もテスラオーナーである各務氏は、「オーナーズクラブでの交流はサークルのノリのようでリアル交流会もあり、非常にアナログである」と、同書で振り返っています。

 

モビリティ社会を構築する先頭集団にいるような企業であっても、このようにアナログを意図的に組み込んでいるのです。まさしく、EVを体験することは、言語化、数値化しにくいものであり、すべてをオンライン化することだけが是ではないのです。

DX化を進める日本の地方にある中小企業

しかし、テスラはTwitterを買収するほどの大企業。読者の中には、テスラと比べて自社のスケールを考えると、あまりに遠い話に聞こえる方もいるかもしれません。でも、こういったアナログに注視しながらも、DX化を進めている地方の中小企業もあるのです。それは、元サッカー日本代表監督の岡田武史がオーナーを務めるFC今治。FC今治は、愛媛県今治市をホームタウンとし、現在J3のカテゴリに位置するクラブです。

 

「FC今治は、サッカーの試合というアナログな価値を、デジタルマーケティングや動画配信といった技術を使って、デジタルな価値に変換し、ビジネスに貢献させるだけにとどまらない。デジタル思考で仕組み化した選手育成法で、サッカーという競技を仕組み化し、チームをマネジメントしている」(書籍『日本流DX』より)

 

サッカーの仕組み化は、FC今治のサッカーへの向き合い方にも表れています。まず、チームとしてどのようにプレーするのかの原理原則を徹底し、攻撃・守備それぞれの原則も構築。最終的には個人の長所を生かしたものに昇華させるのです。マネジメントの領域でも採用される「守破離」を採用して、チームの哲学を作り上げる。監督、選手らが地道にこういった姿勢でサッカーに取り組み、チーム強化を進めています。

 

サッカーの試合そのものがアナログな体験ですが、一度試合会場に足を運ぶと、選手と交流する機会があったり、今治のソウルフード「焼豚玉子飯」のキッチンカーも出ていたり、県内外から駆けつけたファンを楽しませる仕組みが取り入れられています。会場から一歩でると、自然に恵まれたしまなみ街道や、今治のタオルとアートを融合した美術館など、この地域ならではの体験が待っています。サッカーチームとして、できる限りのアナログな体験を可視化し、提供していると言えるでしょう。

 

一方で、デジタルにも目を向けてみます。ここでは、デジタル技術を駆使しながらも、アナログ的な要素を生かした手法をとっています。メルマガ、SNS、YouTubeは言わずもがな。クラウドファンディングも活用し、東京からでもFC今治を応援できる仕組みになっています。選手写真・プロフィールが記載されたハリセンを試合会場で配布。試合中に気になった選手の詳細を知ることができ、メルマガ、SNS、YouTubeを通じて、該当選手について、さらに詳しく知れるのです。FC今治がもつアナログ的な価値を、いつでもどこでも享受できる。地道にそういった体制を構築しているのです。

 

「結局、岡田監督の知名度があるからできること」、そんな指摘に対して、各務氏は同書内で否定しています。スポンサー集めに関して、岡田氏の存在は少なくとも影響していることは認めつつも、スポンサーであり続けてもらうには、個人の力だけでは難しいからです。実際にFC今治の試合を観戦しつつ、岡田氏とも対談した各務氏は同チームの魅力をこう表現しています。

 

「個人の力ではなく、関係者がさまざまな課題を乗り越えながら一丸となって支えあっているのだと感じている。まず、一緒に進む仲間、地域の関係者、ファン、選手、業界関係者の方々に対して、共感というアナログの価値を可能な限り共有し、ともに広げていく。そして、『共有』『広げる』ときには、デジタルで合理的にできる部分は可能な限りデジタルで進める、ということを続けてきたのだろう。もちろん、プロのサッカーチームとして、最重要である『試合での勝利』という目的と両立させながらである」(書籍『日本流DX』より)

 

テスラでもFC今治でも、企業のDX化だからといって、難しいツールを導入して、必死に対応することを是としていません。むしろ、楽しみながらDXに向き合っているようにも見えます。企業のDNAから変えることになりかねないDX化は、丁寧に慎重に進めたいものですが、各務氏の指摘にあるように自社のアナログな部分(価値)を明確にすることが重要。この問いに答えられたら、価値を活かすかたちでデジタル技術を採用すると良いでしょう。

 

最近では、サッポログループが「全社員DX人財化」の方針を発表。従業員すべての約4,000人を対象としたDX・IT人財育成プログラムで、過去に例のない大規模な取り組みになります。専門的な社員だけがDXを担うのではなく、全社的にDXへ取り組もうとしています。今後、これがDX化の標準となるのか、企業の取り組みは待ったなしの状態です。

各務 茂雄

Shigeo Kagami

三菱UFJフィナンシャル・グループCDTO補佐

元KADOKAWA Connected代表取締役社長。INSエンジニアリング、コンパック、EMC(現Dell Technologies)、VMware、楽天、Microsoft、AWS(アマゾン ウェブ サービス)を経て、ドワンゴへ移籍。KADOKAWAグループのDXを5年間行ない、過去最高の売上・利益に貢献。2012年グロービス経営大学院修了(GMBA2010)。

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