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農家が減ると米の値段が下がる!? 大淘汰が予想される農家に必要なデジタルと戦略脳

スーパーで夕飯の買い物をしていると、「最近野菜がなんだか高くなった」「輸入野菜が増えてきている気がする」「有機野菜って実際なにが違うの?」と感じることが増えました。

農家は高齢化がどんどん進み、日本の農業が存続の危機にあるという話も耳にする。そうなると、輸入野菜がもっと増え、さらにその先、国民の食糧は確保できるのだろうか。いま農家の現場では、何が起きているのか。今回は書籍『農家はもっと減っていい』(久松達夫 著)で語られる農家の現状について、ピックアップした。

 

(本記事は出版社・著者から許諾を得て編集しています)

農家=弱者というイメージを捨てよ

著者の久松達夫氏は、1999年より茨城県南部の土浦市で「久松農園」を営む。久松農園では年間100種類以上の野菜を有機栽培し、卸売業者や小売店を経由せずに個人消費者や飲食店に直接販売するという、前衛的な農業を実践。そんな久松氏は、もとより農家の出身ではない。大学卒業後大手繊維メーカーでのサラリーマンを経験し、28歳にして初めて農業に従事した。農業経験は今でこそ20年以上になるが、参入した当初は、いうなれば農業界では「新規参入者」。

 

今回取り上げる彼の著書『農家はもっと減っていい』では、新規参入者として農業に対峙してきたからこその著者のフラットな視点から見える、農業にまつわる古い常識やイメージ先行の誤解を、バッサリと斬っている。農家の減少が社会問題として叫ばれている中で、それを根底からくつがえす「農家はもっと減っていい」というタイトル付けは、どういったことを意味しているのか。

 

事実、農業従事者は減少の一途を辿っている。2012年の基幹的農業従事者数(15歳以上の世帯員のうち、ふだん仕事として主に自営農業に従事している者)191万4千人に対し、2022年の報告では122万6千人に減少(農林水産省「農業構造動態調査」より編集部が引用。とくに稲作においては、顕著にそれが起こっている。農業に関心を持つ学生や脱サラを考えるビジネスマンはこの事実を表面的に捉え「恵まれない農家さんを助けたい」という発想に陥りがちだ、と同書では指摘。

 

「いつの間にか農家は清貧な弱者という見方が定着してしまったように思います。農業に興味を持つ学生や20代の若者と話をすると、農家は手を差し伸べる対象として捉えられています。(中略)実は農業者や関係者の側にも、哀れだと思われていた方が得、という人が少なくありません。(中略)あえて訛りを強調するような小芝居が入ることもあるので、農家の観察には文化人類学的視点が必要です。(同書P39より抜粋)」

「久松 達央『農家はもっと減っていい』/光文社」

農家が減っていることが「問題」なのかというと、決してそうではないと著者・久松氏は語る。特に稲作においては、農家の8割を占めるといわれている売上500万以下の零細農家を守るために政府からの補助金が発生し、効率的に生産できる事業者が米を作らないという事態が起こっている。この零細農家には、収入源を他から得ている兼業農家も多く含まれている。大規模農家だけが残る仕組みにすれば、稲作のコスト自体が下がり米の値段が下がるのではともいわれている。

 

「安定兼業化によって、時代に合わない小規模な稲作経営が温存されていることのしわ寄せは、他の国よりも高い米を食わされる消費者と、現代的な経営をしようとしている農業経営者に行きます(同書P37より抜粋)」

 

農家が減ること自体がいいというより、農業も他産業と同様、時勢に合ったやり方でしかるべき淘汰が起こっていき、常にアップデートしていくべきなのであろう。その先に、私たち消費者がより安定した米や野菜を供給できる未来が待っているのかもしれない。

2030年までに農家は大淘汰される

「農業経営対数(農家・農業法人の数)は107.6万で、2015年の137.7万から2割減。このトレンドが続けば、2030年には40万にまで減るという予測もあります(同書P21より抜粋)」

 

例えよい土地を持っていてもインフラやオペレーションのアップデートが追いつかず、現世代で農業から身をひいてしまうケースも多いといわれる。この数字だけを追うと日本の食事情は海外に頼るべき危機に瀕しているのでは?と想像してしまうが、内訳をきちんと紐解くとそうではない事実が見えてくる。

 

というのも、現在の農家の8割は売上500万以下であり、彼らは農業1本で生計を立てている「プロ農家」ではない。一方で全農業産出額の8割弱を稼ぎ出しているのは、戸数としては農家のわずか1割強である、売上1,000万円以上の上位層。売上ベースで見ると、売上規模が小さい農家ほど減少率が上がるというデータが出ている。このことから上位層であるプロ農家が経営規模を拡大し、新たなスタイルの農家のみが生き残っていくことが見てとれる。農業という産業が尻すぼみになるわけではなく、淘汰の時代を迎えるのだ。

 

「一般のビジネスでは、イノベーションと淘汰が繰り返されることで、産業は時代に合わせて進化します。技術の発展が経営を変え、企業をふるいにかけることで新陳代謝が進むわけです。農業、とりわけ稲作でそれがおこらなかったのはなぜでしょうか。その大きな理由が、稲作の兼業化の進行です。(同書P32より抜粋)」

 

全体の8割を占めるといわれる兼業農家が高齢化により減少し、農業の新時代がやってくる。その結果、スケールを追う戦略型の農業と、ニッチを狙う個人型の農業に、大きく二極化されていくと同書では表現されている。既存のいい部分が残りつつ、さらに進化する方向へと舵を切る農業の姿に期待したい。

農家存続にはデジタルと戦略脳がカギ

これからの時代、地域の担い手として期待される優秀な農家は、生き残るために来たる次の時代を見据えることが必要不可欠となっていく。そのためには他産業同様、機械・オペレーション・工程管理のデジタル化などの導入を着々と進める必要がある。

 

農業の世界は属人的な作業やスキルが大きくものをいう産業であるイメージがあるが、これからはテクノロジーの発達によりその側面は減少傾向に転じていく。よりオープンなものとなり、ビジネスのスケールアップや新規参入のチャンスが生まれる。このことを本書では、農業が「土地を知っている人にしかわからない職人技」といわれる時代は終わる、と久松氏は語る。農業=職人仕事というイメージが塗り替えられ新規参入者が増えると、より農業は活性化するであろう。

 

「未だに、農業を勘と経験則の仕事だと思っている人がいたら、認識を改める必要があります。現代の農業は、ロジカルな組み立てが可能な科学と経営の世界です。栽培ひとつとっても、理論を学び、再現性のある技術を身につけない限り、農業者としての未来はありません。(同書P43より抜粋)」

 

また、小さな土地では年間で少種類の作物を作るためどうしても「PDCAサイクルが長い」農業スタイルになってしまうが、大きい土地ではその限りではない。そういったことからも「農業歴がある=経験値が高い」という図式が、成立しなくなってくる。そしてテクノロジーの導入にプラスし、さらに戦略を意識していかなければならない、と本書では語られている。

 

「久松農園は、『美味しい野菜でお客さんに喜んでもらう』というシンプルな事業コンセプトを掲げています。これは、分解すると、『美味しい野菜』がものをつくることに当たり、『喜んでもらう』が売ることに当たります。ものをつくる仕事は、つくり手が客を規定し、客がつくり手を規定します。誰にどのように買ってもらうかは、何をつくるのかと不可分です。(同書P112より抜粋)」

 

農業従事者の高齢化により、いままでの農業のスタイルが大淘汰される時代が2030年までに確実にやってくる。農業に携わる人はもちろん、農業への転身を考える人も、リアルな農業の現状を知っておくべきだ。米や野菜を日常でいただくエンドユーザーの私たちも、劇的に変わっていくであろう農業の未来に注目したい。

 

《Profile》

久松 達央(Tatsuou Hisamatsu)

株式会社 久松農園代表。1994年に慶應義塾大学経済学部卒業後、帝人株式会社を経て、1998年に農家に転身。生産・販売プロセスの合理化と独自のブランディングで、補助金や大組織に頼らず自分の足で立つ「小さくて強い農業」を実践する。著書に『キレイゴトぬきの農業論』(新潮新書)、『小さくて強い農業をつくる』(晶文社)、『農家はもっと減っていい』(光文社新書)。

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