ENILNO いろんなオンラインの向こう側

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ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。
これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

近年増加する「人を呼ばない葬儀」の課題は偲ぶ場の提供。今の時代にあった追悼の方法

近年、家族や親戚など近しい人だけで行う家族葬が増え、葬儀の規模は小さくなりつつある。会館等で行う数百人規模の葬儀は減り、数人〜十数人規模の葬儀や火葬式も認知が広がり一般的になってきた。さらにここ数年でいえば、新型コロナウイルスの影響もあり「ご縁のあった人の葬儀に参列できない」という場面も増えているという。またコロナ禍が落ち着いても、葬儀の小規模化は止まらないと言われている。

 

「持ち寄ろう、思い出と想いを。」というキャッチコピーを掲げ、オンラインで故人を追悼する場を提供するサービス「しのぶば」は、葬儀後の「偲ぶ場」に焦点を当てたユニークなサービスだ。生前に故人とご縁があったが葬儀には参加できなかった人などがオンライン上で集まり、故人を偲び、故人との思い出を語り合える特別な場をつくっている。

 

「しのぶば」のアイディアはどんな経緯で誕生したのだろう? また、昨今の葬儀業界の変化とは? AD plus VENTURE株式会社しのぶば事業代表の勢村理紗氏に話を伺った。

偲ぶ権利は誰もが持っている

生みの親である勢村氏が「しのぶば」を立ち上げた最初のきっかけは、自身の経験だった。勢村氏は28歳の頃に自身の母親をがんで亡くした。

 

「母は4年半の闘病生活を経て亡くなりました。母が亡くなったあとに気づいたのは、自分が母についてあまりよく知らなかったということ。母の子供時代のこと、学校で何を学んでいたか、私をどんな思いで育ててくれたのか、家族のことをどう思っていたのか。知らないことが多すぎました。『もっといろんな話をしておきたかった』という後悔の気持ちが湧いてきました」(勢村氏)

 

亡くなった後でもできることがあるかもしれない。そんな思いから、祖母や母の友人などに話を聞く場をつくりたいと考えるようになった。

 

その後、周囲で「生前あんなに仲が良かったのに、葬儀に呼ばれなかった」と話すのを耳にするようになる。核家族化や高齢化が進み、家族葬などの小規模な葬儀が増えている。そもそも遠方に住んでいたり、入院していたり、足の悪い高齢の方が葬儀に出向くというのはハードルが高いことだ。

 

「葬儀に呼ばれなくてお別れができず、後悔の気持ちが残るのはあまりにも悲しいことです。悲しいのは家族だけじゃないんです。偲ぶ権利は誰にでもあるはずなのに、葬儀に出られず『偲ぶ場』がなくて、気持ちの行き場がない人がいる。なんとかしたいと思いました」(勢村氏)

 

友人の追悼をしたいという強い想いに可能性を感じた勢村氏。さらにちょうど同じ頃、勢村氏は大学院に進学しMBAを取得。そこで、博報堂DYグループの社内公募型ビジネス提案・育成制度である「AD+VENTURE(アドベンチャー)」に応募し、2回目の挑戦で採用される。自分の経験や課題意識から出発し、社会のニーズを見据えた上で、新規事業の立ち上げに挑戦することとなった。

故人を偲ぶことに集中できる「しのぶば」の仕組み

「しのぶば」は、全国のどこにいてもオンラインで故人を「偲ぶ場」に参加できるところが大きな魅力だ。参加者はスマホやパソコンを使って、Zoomなどのオンライン会議サービスに接続する。ただつなぐだけではいわゆるZoom飲みのようになってしまうが、「しのぶば」では故人を偲ぶことに集中できる仕組みがある。

ひとつ目は、プロの司会者が会を進行すること。「悲しみの寄り添い方など、コミュニケーションのひとつひとつがプロフェッショナルであることは非常に重要です」と勢村氏。さらに“第三者”が会を進行することも大事だという。

 

「故人を追悼するとき、知り合いだけで集まると『これはみんな知っているかな……』と話すのをためらったり、説明を省いたりしてしまうことでも、第三者が改めて問いかけをすることにより改めて詳細に話してもらえたり、新しい視点から話してもらえるので、他の人も知らなかったような故人の側面やエピソードを、ほかの参加者から知ることができます」(勢村氏)

 

また、しのぶばでは追悼のための特設Webサイトや動画などを用意する。事前に参加者から追悼メッセージを集める際、「ご冥福をお祈りします」などの定型文にならず、故人への思い出や想いが詰まったものになるよう質問の仕方にも創意工夫が施されている。また、動画以外にも故人が好きだった音楽をプロの音楽家がライブ演奏する場合もある。

「オンラインに接続後、すぐに『偲びましょう』と言われても、なかなか気持ちも乗らないものです」と勢村氏。音楽を流して故人を思い出す時間をとり、その後動画を流したあと、主催者があいさつすることが多いという。その後、参加者が故人との思い出を語る時間を設ける。プログラムは主催者と細かく作り込んでいくため、ひとつとして同じ内容の会はない。1時間程度の会が多いそうだ。

 

「Zoomではなるべく画面をオンにして参加していただくようにしています。横の人がどんな顔をしているのかが見え、一人ではないことを実感できるのもひとつのグリーフケアだと思っています」(勢村氏)

 

これまで「しのぶば」を利用した人たちはどのような人が多いのだろう?

 

「もっとも多いのは教授や医師など『先生』と呼ばれる方の偲ぶ会です。先生を偲びたいという想いを持つ教え子やお世話になった方々が主催されることが多いですね。リアルで集まることが難しいご時世ですし、参列者の方は各地で活躍され、日本各地や海外にいらっしゃりご多忙であること、患者の方々への配慮という事情もあり、オンラインで実施できる『しのぶば』を選んでいただいています」(勢村氏)

 

そのほかには、会社の上司などの追悼にも「しのぶば」は活用されている。数百人規模にも対応しているため、取引先の方々も含めて社内外の大人数が参加できる。会場のキャパシティに関わらずお声がけでき、参加者が遠慮の必要なく参加できるのも、オンラインの良いところだ。

オンラインだからこそ高齢の方が参加できる

一回目の「しのぶば」は、プロトタイプを検証する目的もあり、勢村氏が主催者となって自身の母親を偲ぶ会を開催した。

「会の準備をしているときに、母の友人に30年ぶりに会いました。今まで母の友人にアプローチする機会がなかったので、父に頼んでセッティングしてもらい、母の若かりし頃の話を聞きました」(勢村氏)

 

当日の会では、父方の母と母方の母、つまり勢村氏の祖母同士が話すというワンシーンも。ふたりとも90を超え、住む地域も異なるため、会う機会もなくなっていたが、久しぶりにお互いの顔を見ることができ、声を掛け合い嬉しそうだったという。オンラインでは字幕もつけることができるため、耳が遠い勢村氏の(母方の)祖母も会の内容についていくことができた。

 

「私は(母方の)祖母と一緒に参加したのですが、会の途中に『これは何よりの供養だよ。ありがとうね』と祖母が言ってくれました。それが本当にうれしくて。オンラインで行ったことにより、90を超える祖母たちが参加することができました」(勢村氏)

現代に合った追悼の「新しい選択肢」をつくれば文化は継承される

「しのぶば」ではオンラインの利便性を生かす一方、勢村氏は「故人を偲ぶ場は、本当はオフラインがいい」と話す。

 

「とても辛い時に、背中をさすってもらってむせび泣くのは、リアルでないとできないことだと思います。誰かに触れてもらったからこそ張っていた気持ちが緩んで、すっと気持ちが落ち着くこともある。しかし、人を呼ばない葬儀は増え続けていて、この流れは止められないと感じています。すべてをリアルに戻しましょうというのではなく、今の時代にあった選択肢が必要だと思うのです」(勢村氏)

 

勢村氏は現代の人間関係の変化にも言及した。例えば、住む場所や職場に関連したコミュニティだけでなく、SNSやオンラインゲーム上で知り合った人とも友情が芽生える。コミュニケーションがデジタル化しているのだから、別れもそれに伴って変化するはずだ。「しのぶば」のようなオンラインで追悼する場は、現代社会に合った新しい追悼の形なのかもしれない。

 

一方で、「葬儀自体は絶対になくならないし、追悼したいという気持ちは普遍的なものだ」と勢村氏は話す。

「時代が変化するなかで、『しのぶば』がひとつの選択肢になればと思っています。今私たちが提案していることは、追悼の『新しい選択肢』をつくりませんか? ということです。追悼という大切な行為が省略され抜け落ちたまま社会が進んでいけば、いつかほころびが生じて社会問題化するかもしれません。すでに苦しんでいる方が多くいらっしゃいます。『しのぶば』を立ち上げるにあたり、葬儀関係の方や宗教者の方、グリーフケア団体の方など、様々な方に支えていただきました。こうした方々と一緒に新しい選択肢を提示し続けることで、本当に世の中が変わっていくのだと思います」(勢村氏)

勢村 理紗

Risa Semura

博報堂DYグループAD plus VENTURE株式会社しのぶば事業 代表

2007年博報堂入社、営業職とマネジメント職を経験。大学院へ通い経営学研究科 経営管理修士(MBA)を取得。二児の母。28歳で母を亡くした経験から、本事業を起案し社内起業プログラムに応募。2021年4月よりAD plus VENTURE株式会社しのぶば事業代表。

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  • 公式Facebookページ

取材:橋本安奈

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