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ENILNO いろんなオンラインの向こう側

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ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。
これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

既存の不登校支援と異なる兵庫県加古川市発のオンライン・フリースクールが描く未来

不登校の児童や生徒が増え続けていることは周知の事実である。文部科学省の2022年10月の発表では、約24.5万人もの児童生徒が不登校となっている。そうした子どもたちの受け皿として、フリースクールの存在感が増しているが、それでも支援が充分に行き届くようになったとは言えない。子どもたちを支援する人材不足に加え、施設の利用料や人件費などの経費面や制度上の未整備など、いまだ多くの課題が残る。

 

そうした中、解決策の1つが「オンラインの活用」にあるのかもしれない。コロナ禍での社会変容も後押しとなってメタバース(仮想)空間を活用した事例はすでに出てきている。「〝未来を選び取る力〟を育む」を理念に掲げ、兵庫県加古川市で立ち上がったオンラインフリースクール「choice」もその1つだ。

 

立ち上げの経緯や想い、既存の不登校支援との違いについて、同スクール代表者の伊藤広海氏と中野広夢氏に話を聞いた。

GIGAスクール構想で行き渡った「1人1台のPC」を不登校支援に活かしたい

「実は、少し前に僕の子どもが不登校になったんです」。そう語るのは、choice代表の伊藤氏。

 

「色々と調べてみると、うちの子に限らず社会全体で不登校が増えている実態を知りました」

 

コロナによって2020年4月に全国の学校が一斉休校。そのことをきっかけに、ICTを活用した様々な授業の可能性や学校の在り方が模索されてきている。しかし、不登校支援にICTが活用された例は多くない。

 

「行政に、不登校の子どもたちに対して、オンラインを通じた教育機会の提供について問い合わせてみたところ、『特に考えていない』との返事でした。ハード面ではできる環境が整っているのにもかかわらず、活用されていないのはもったいない。それなら自分でやってみようと思って2023年の5月に始めました」

 

同氏がオンラインの形態でフリースクールを立ち上げたのには訳がある。

「地域や学校によって差はあるものの、少なくとも僕が見ている範囲では、不登校児童・生徒に対して教育の機会が充分に提供されているとは思えませんでした。適応指導教室は設けられていましたが、そもそも家から出たり、通学にハードルを感じたりしている子どもたちに対する支援がほとんどないんです。昨今、GIGAスクール構想のもと、子どもたちに1人1台のPCを配る取り組みが進んでいます。このPCを活用し、支援が行き届いていない子どもたちに教育機会を提供できるのではないかと考え、オンラインの形でスクールを立ち上げることにしたんです」

突出した才能を伸ばそうとする〝オルタナティブスクール〟では不十分?

伊藤氏はオンラインフリースクールの立ち上げに際し、かねて知り合いだった中野氏に協力を依頼。その〝思い〟に共感した中野氏は、共同代表という形で参画した。中野氏は当時のことを以下のように語る。

 

「僕自身、小学校教員の経験があり、以前より公教育以外の教育に可能性を感じていました。一方で、近年増えてきているオルタナティブスクールや通信制のサポート校には違和感を覚えています」

 

オルタナティブスクールというのは、従来の教育(公教育)とは異なった理念や教育法によって行われる学校のこと。日本ではモンテッソーリやシュタイナー、イエナプラン教育などが知られており、フリースクールで採用されることも少なくない。同氏は、学生時代の卒業研究や卒業後のキャリアで公教育以外の学びに様々な角度から触れてきたが、それはあくまで一部でしかないと感じている。

 

「オルタナティブ教育の流れをくんだフリースクールや民間企業が主宰する学校で、イキイキと輝ける子どもは確かにいますし、それを否定するつもりもありません。しかし、教育産業の枠組みで行う以上、ある種メディア映えするような突出した能力を持っている子を育てることが目的であったり、やりたいことが定まっている子どもの才能を伸ばそうとしたりしているものが多い。不登校支援においては、特別な『何者か』にならなくても、突出したものがなくても、その子がその子のまま成長できる福祉的なサポートが必要とされているのではないかと思っています」

 

だからこそchoiceは、〝橋渡し的役割〟を担うスクールにしたいと考えているという。

「choiceでは、子どもたちに未来の選択肢を提供し、子どもたち自身がそれらを選択できるように育てていきたいと考えています。現在、適切に教育機会が与えられていない子どもたちや保護者にとって、近年増えてきた世の中にある様々な学びの機会やその環境を把握し、自分で選ぶことは容易ではありません。最終的に学校に戻るにしても、フリースクールやオルタナティブスクールに入るにしても、もしくはオフライン(リアル)の環境で実績のある不登校専門の適応指導教室に移るにしても、僕たちはそれらを子ども自身が選択し、歩んでいけるようサポートしていきたい。一旦オンラインという心理的安全性が担保されている環境の中で、自分のしたいことを見つめ直し、今後を考える機会になれば嬉しい。そういった意味では、当スクールの役割は橋渡しや、ブリッジのような存在と言えるかもしれません」

子どものサポートやケアを担ってきた既存の団体との交流会で気づいたこと

choiceについて、「外に出られなかったり、人と関わるのが億劫になっていたりと、社会との関係が閉ざされてしまっている子どもたちに対する福祉的な役割が強いかもしれない」と両氏は語るが、そうした思いが強くなった出来事があった。地域で様々な方向から子どもたちのケアやサポートを担ってきた団体と行った交流会でのことだ。中野氏は次のように話す。

 

「交流会でお会いした、ある保護者さんが、『フリースクールはハードルが高く感じる』とおっしゃったんですよね。そうしたスクールは、グループワークやアクティブラーニングのカリキュラムが多く、対人関係に苦手意識を持っているうちの子はついていけないとのことでした。確かにその通りだなと思いました」

 

もちろんそういったソーシャル・スキルを育むような学校が合っている子どももいる。大事なことは、「不登校になった子どもたちや保護者に対して、きちんと情報にアクセスできるようにキュレーションし、その子に合った教育機会を提供していくことではないか」と同氏。さらに、伊藤氏はこう重ねて言う。

 

「本人にとってベストは何か。それを探すための第一歩として、choiceにできることが必ずあると思っています」

伊藤氏と中野氏、それぞれが思い描く未来像とは

現在のchoiceでは、ICT教材として「eboard」、学校空間としてはバーチャルオフィスとして企業の導入例も多い「ovice」を活用している。もしも加古川という地域でchoiceが行政や教育委員会、あるいは保護者などとうまく連携し、〝社会のクレバス〟のような場所に取り残されていた子どもたちの受け皿になることができれば、他の地域でも同じような仕組みがつくれるかもしれない。

 

最後に伊藤氏と中野氏に、それぞれがchoiceを通じて目指しているものを聞いた。

「今後、choiceの取り組みを加古川市外の自治体へ広げていきたいです。先ほど、僕の子どもが不登校になったという話をしましたが、実は僕自身も不登校経験者なんです。だから1人でも多くの不登校の子どもが、自己否定することなく、前を向いて歩んでいけるようにしたいと思っています。また、学校現場が合わない先生たちの雇用にもつなげたいと思っています。学校の先生のなかにもリアルの場に出られなくなった人はいると思います。そうした人たちが活躍する場にもなればと夢を描いています」(伊藤氏)

 

「僕は、子どもたちに限らず、大人も納得感をもって自分の人生を生きていくことが重要だと思っています。今、様々な領域で『ウェルビーイング』が叫ばれていますが、それを感じるためには、自分の人生を自分の手で作りあげていくという実感が必要不可欠です。自分の幸せは何か、そのために、どのような人生をデザインしていけばいいのか。choiceではその答えを見つけるお手伝いができれば嬉しいですね」(中野氏)

《Profile》

伊藤 広海(Hiromi Itou)

1983年生まれ、兵庫県姫路市出身。バルーン、デザイン事業を手がける「e-スマイル」代表。幼少期は学校へ通えない時期があり、小学校で不登校を経験。15歳で第1子が誕生し、家族を養うため定時制高校に通いながら土木関係の会社に勤める。2012年に「e-スマイル」を立ち上げ代表に就任。中高生を対象にした交流カフェ「お、しゃべり場」や、学童保育関係者の交流会「学童カフェ」、熊本地震の被害にあった子ども達のストレス緩和の為の風船プールの設営、YouTubeチャンネル「しゅくだいチャンネル」などの企画・運営に携わる。

 

中野 広夢(Hiromu Nakano)

1992年生まれ、奈良県出身。畿央大学教育学部にて小学校教諭一種免許状を取得。卒業研究では「フリースクールにおける教育評価」をテーマに、兵庫県の六甲にある「ラーンネット・グローバル・スクール」で実践研究を行う。卒業後は人材派遣会社の営業、公立小学校教諭を経験。その後、民間学習塾の教室長、認定こども園の保育補助を経て兵庫県加古川市でまちづくり・地方創生の仕事に就く。2022年11月より独立。

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