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ENILNO いろんなオンラインの向こう側

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ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。
これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

「手伝う人材が欲しい」×「旅をしたい」のマッチング。9割が地域に再訪したいと答える理由

「おてつたび」というサービスがある。その名のとおり「おてつだい」と「たび」をかけ合わせ、手伝う人材が欲しい地域と、新たな地を旅して人とのつながりを築きたい人をマッチングするものだ。どんなサービスで、どんな人が利用しているのか。そしてこのサービスが目指すところは。代表の永岡里菜氏に聞いた。

「そんな軽い気持ちでは……」の逆風も

「おてつたび」。一度聞いたら耳に残る、印象的なサービスだ。人材不足に悩む地域と、新たな地で人とつながりたい人をマッチングするサービスとしてスタートし、現在5年目に突入する。これまでマッチングした事業者は全国47都道府県で970を超え、同社が「おてつびと」と呼ぶ参加者は、登録数3.3万人を突破した。

永岡氏がおてつたびを立ち上げたきっかけは、自身の故郷、三重県の尾鷲(おわせ)市にある。熊野古道の伊勢路を抱き、海があり山があり、地の食材にも恵まれた豊かな地だ。けれども上京後は「周囲の人と話していても知ってる!と盛り上がることもなく、良さが知られていないなという思いがありました」と永岡氏は語る。

 

「実際に足を運んでみると、日本には良い場所がたくさんあります。ただ有名な観光地がなかったりして、足を運ぶきっかけがないんです。だからそのきっかけになる仕組みを作れないかと考えて生まれたのが『おてつたび』です」(永岡氏、以下同)。

 

もともと起業家を目指していたわけではなかったという永岡氏。新卒でイベント企画・制作会社に就職、転職した2社目で、地方創生に関わる仕事を経験した。

 

「この後の自分の人生を何に使いたいかと考えたとき、日本の地域に人生を賭けたいと考えました。生まれ故郷の尾鷲市のような地域にスポットライトが当たるような仕事がしたいと思ったんです」。

 

そんな志を持ち、思い切って仕事を辞し、半年ほど日本をめぐる旅に出た。深夜バスに乗り、知り合いのつてをたどって日本各地をめぐる日々。「その旅の中で、ここだというところがあれば、企業に就職するという選択肢もありました」と永岡氏は回顧する。それでも旅をしていく中で、やはり「知らない地に足を運ぶ仕組み自体がない」ことを痛感した。それなら自身でやるしかないと、当初はLINEのみでサービスを立ち上げた。

 

「はじめは知り合いを一軒一軒当たって、地道に事業者の方と話をしていきました。続けようと思ったのは、わりとすぐに手ごたえを感じたからです。事業者の方もお手伝いをした人も喜んでくれて、これは仕組みとして成り立つと感じました」。

法人化してからも、地道に事業者をたずねて歩く日々に変わりはなかった。ただ「お手伝い」という言葉から、ボランティアと間違われることもあったという。またその言葉のイメージから、「そんなに軽い気持ちで来られても……」という反応を示す事業者もいたそうだ。

 

「それでも『おてつだい』という言葉にはこだわっていました。おてつだいをお願いするのは、例えば親戚だったり友人だったり、気心が知れた間柄だったりします。『おてつたび』では単に仕事として請け負うだけでなく、その地の人とつながりを持ってほしいという思いがあり、この言葉を使い続けています」。

コロナ禍が後押ししたサービスの拡大

法人化以降、事業者も参加者も少しずつ増えていったが、大きな転機となったのはコロナ禍だった。

 

「事業者の種別でみると、もともと農業が約4割、旅行業が約4割、その他が2割という割合です。農業の場合、これまでは繁忙期には地域の主婦の方に手伝ってもらうことも多かったのが、コロナ禍で子どもの学校が休校になり、手伝いに行けないという人が増えました。さらに外国人の技能実習生の受け入れも難しくなり、各地で人手が不足したのです」。

こうした事態に対処するために、「おてつたび」に頼る農業の事業者も増えた。さらに最近は旅行業の事業者も増加中だという。旅行業ではコロナ禍で休業したりしている間に人材が減り、旅行が再開されても人材不足ということが各地で起こっている。特に週末や大型連休など人出が増える時期にはその傾向は顕著だ。

 

だからこそ「おてつたび」のサイトを実際に見てみると、例えばゴールデンウィーク、夏休みなどのハイシーズンにかかる募集が多く、サイト上でも「夏休み特集」なども行っている。最近ではインバウンド(訪日外国人)需要拡大に伴う宿泊施設の人手不足解消に向け、「国際交流 特集」も掲載。コロナ禍が収束したいま、今後も需要は伸びていくだろう。

「大学生のうちに知りたかった」!? 社会人なども増加中

一方の供給、すなわち「おてつびと」と呼ばれる参加者も増加の一途だ。その背景には、コロナ禍で海外渡航が制限されていた時期に、国内に目を向ける人が増えたことや、テレワークやオンライン授業により旅をしながら仕事をしたり授業を受けたりすることが可能になったことが挙げられる。

 

さらに「大学生のときにこのサービスを知りたかった、と言われることはありますね」と永岡氏は語る。

 

「おてつびと」の約6割が時間にゆとりがあって、かつ自由気ままに旅するにはお財布が心もとない大学生だ。さらにリタイアしたシルバー人材がその次を占めている。

 

とはいえ、同サービスは大学生に限定しているわけではなく、社会人でも参加可能な1泊2日での農業のおてつたび実証実験も行っている。さらに先述のようにゴールデンウィークや夏休みといったタイミングなら社会人でもある程度まとまった時間がとれる。こうした時期は逆に地域の旅行業にとってはかき入れ時なので、働ける案件も増加する。実際、コロナ禍以降はフリーランスや転職活動中の方、主婦、シニア世代などの参加も増えているという。

重要なのは旅先よりもむしろ、「旅先での経験」

こうした参加者に特徴的なのが、単に地方で働くという目的以上に、そこでできる独自の経験や、さらに人との繋がりを求めていることだ。

 

「Z世代を中心に、旅行への価値観が変わってきているのを感じます。単に目的地に行くだけでなく、彼らは『旅行先で何を経験できるのか』を意識しています」。

 

おてつたびのマッチングでは、事業者が募集をかけ、参加者が応募するスタイルだ。ほとんどの参加者が応募の際に動機や理由を熱心に書き込んでいるという。

 

事業者はこうした応募者の中から「おてつびと」を選んでいく。現段階では募集に対し、応募のほうが上回っている、いわば「買い手市場」だ。だから今後は事業者を増やすことに注力していきたいと永岡氏は語る。参加者はもし採用されなくても、ぜひ再度挑戦してほしい、とも。

 

そしてこうした「買い手市場」に、事業者に驚かれることもあるという。

 

「例えば農業の方だと、収穫といったイメージしやすい作業には人が集まりそうだけど、雑草を抜くような作業はどうかな……と心配されることがあります。けれどもふたを開けてみると、そうした作業にもちゃんと応募があります」。

 

参加者が吟味するのは、詳細な仕事内容よりも、そこがどんな地なのか、そしてどんな人との繋がりが生まれるかということだからかもしれない。

 

一方で人と人の付き合いでは、時には相性が合わないこともある。そんな時のために「おてつたび」ではLINE相談窓口を設けている。いつでも相談できる場があり、しかもLINEという手軽さは、特に若い世代が多い参加者にとっては安心材料だろう。

関係人口の創出に向けて

これまで数々のマッチングを行ってきた「おてつたび」だが、サービス開始から5年目、永岡氏は「予想以上に早く手ごたえを感じている」と顔をほころばす。

 

実際、おてつたびが行ったアンケートでは参加者の77.5%は「行ったことない地域」(そのうち47.7%は「存在も知らなかった地域」)を訪れ、実に9割以上が「地域にまた訪れたい」と回答している。

「例えば農作業の現場を手伝った大学生は、自分が翌日ひどい筋肉痛になったのに、農家のおじいちゃんおばあちゃんがピンピンしているのを見て、驚いていました。さらに食べ物が生まれる現場の大変さを目の当たりにして、フードロス問題に関心が高まったという参加者もいます」。

そして最大の目的である「つながり」も徐々に確立している。「おてつたび」がきっかけで再訪する人が増えているのはもちろん、その事業所や自治体に就職する人も出てきたのだ。福島県大熊町のおてつたびに参加した学生が、学生団体「おおくまWalkers」を創設するといった動きもある。

 

労働力のみならず、移住者、そして関係人口の創出に役立っている「おてつたび」。

 

「まだまだ知らない方も多いサービスなので、もっと世に広めていきたいです。スマホ一台で、今まで知らなかった地域に親戚ができるようなきっかけになればと思っています」。

永岡 里菜

Rina Nagaoka

株式会社おてつたび 代用取締役CEO

1990年、三重県尾鷲市生まれ。千葉大学卒業後、PR・プロモーションイベント企画制作会社勤務、農林水産省との和食推進事業の立ち上げを経て独立。2018年7月に株式会社おてつたびを創業。「おてつたび」は第六回「ジャパン・ツーリズム・アワード」、女性起業チャレンジコンテスト第五回「女性チャレンジ制度」グランプリ、第四回「地方創生ビジネスプランコンテスト」最優秀賞などを受賞している。

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