NEWS

ENILNO いろんなオンラインの向こう側

メニュー サイト内検索
閉じる

ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。
これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

支払いも交通も「顔パス」の時代に? 顔認証技術の最先端

バスも鉄道も手ぶらで乗車OK――そんな近未来的なキャッシュレス生活への第一歩が始まっている。

 

パナソニック コネクト株式会社が山万株式会社、ジョルダン株式会社とタッグを組んで行っている顔認証技術実証実験がそれだ。顔認証技術が暮らしにもたらすメリットとはどんなものか、パナソニック コネクト株式会社の新郷氏らに話を伺った。

 

「うっかり財布を忘れたけれど、スマホがあったからなんとかなった」。そんな経験をしたことがある人は意外に多いだろう。特に電子マネーや交通系ICが整っている都会では、電子マネーと紐づけたスマートフォンがあれば、現金がなくても普段の生活には困らない。

 

しかし、そのスマートフォンを忘れたり紛失してしまったとしたら……? そんなときに「顔パス」で電車やバスに乗れるサービスが、近い未来あたりまえになるかもしれない。

ハイテクにメリットを感じるのは、若年世代だけではない

この実証実験では、パナソニックが提供する顔認証技術とジョルダンが提供する決済・チケット管理システムを用い、非接触・非対面での本人確認と、チケット確認ならびに乗車管理を行う。事前に顔の画像を登録しておけば、乗車時には駅の改札やバス車内にある顔認証端末に顔をかざすだけで乗車・降車が可能になる。運賃は1か月後にまとめて請求されるシステムだ。

 

この実証実験のシステム開発を担当し、現場に何度も足を運んだという新郷氏はその手ごたえについて語る。「地域の方100人にモニターになってもらっていますが、アンケートでも非常に高い満足度をいただいています。育児中の方からは、例えば両手でベビーカーを押して移動するときなど、わざわざ財布やスマホを出さなくていいという声があがりました」。

 

こうした新しい技術は往々にして若い世代向けのものと思いがちだが、モニターには幅広い世代が参加、意外にも高齢者からも好評を得ているという。

 

この実験地であるユーカリが丘は、1980年代から入居が始まったニュータウンだが、分譲戸数を毎年制限することで、エリア内人口が一気に高齢化することを避ける工夫がなされた地だ。

 

「ご高齢の方から、『よく定期を忘れてしまうが、これなら定期がなくても電車やバスに乗れるからありがたい』とのご意見をもらいました」(新郷氏)。

 

一方で、実証実験では課題もあったという。

 

「顔認証をするには、光の当たり方など撮影する環境が重要です。鉄道で屋内に改札がある場合は、ある程度安定した撮影環境が確保できますが、動くバスの車内にある顔認証端末では難しいこともあります。例えば、夕方にバスが動いていると、西日が入ってきたりと角度や時間によって撮影環境が変化します。こうした撮影環境の変化に高度に対応することが、今後の研究課題のひとつです」(新郷氏)。

 

加えて鉄道の改札口やバスの入口に顔認証端末が置かれていることで、警戒心を持つ人もいるという。さらに言えば、街中に顔を認識する端末が置かれることで、「見張り社会になるのでは」という懸念もある。

 

「もちろんこの実証実験に限らず、街中にカメラがあることでそうしたご意見はあると思います。そうしたご意見に対しては、どういうサービスなのか、それによってどんなメリットがあるのか住民の方々に丁寧に説明することが大切だと感じています」(新郷氏)。

アミューズメントパークのいたずら防止から迷子捜索まで

ユーカリが丘の実証実験で採用されているパナソニックの顔認証技術は、実はすでに暮らしの中でも多々活用されている。

 

例えば、日本人が海外旅行に行くとき。以前ならカウンターに座った空港職員にパスポートを手渡し、出入国審査をしてもらっていた。出発便が多い時間帯だと行列になることもあり、フライト時間が迫ってきて、焦った経験がある人もいるはずだ。

 

それが現在では、顔認証ゲートが羽田・成田・中部・関西・福岡・新千歳空港・那覇の主要空港で運用されている。これにより出帰国手続きはかなり合理化された。もちろん出入国審査を担当する職員の数を減らすことにも貢献している。この空港の顔認証ゲートは2017年のグッドデザインアワードも受賞している。

アミューズメントパークでもこの顔認証システムは有効だ。富士急ハイランドでは2018年より入園・退場ゲートおよび全39アトラクションの乗車ゲートに顔認証システム「パークまるごと顔パス」を導入。パスを確認する作業の手間を省いたことで、スタッフの数を減らすことに成功した。同時に、園内での盗難・イタズラが激減する効果もあったという。顔認証システムに顔をかざすという行為は、利用者に「顔を認識されている」という意識をもたらし、それがひいては迷惑行為や犯罪等の抑止力につながる。顔認証システムは時に防犯カメラの役割を兼ねるのだ。

 

さらにショッピングモールやスーパーマーケットでは、顔認証システムを導入することで、迷子になった子供の早期発見に役立てている。

 

ビジネスマンに最も身近なのは、オフィスでの入退室だろう。以前ならセキュリティカードを忘れて外出してしまい、社内の人に連絡をとって解錠してもらった経験がある人もいるかもしれない。それが顔認証システムを導入したオフィスエントランスなら、「顔パス」でオフィスの入退室が可能になっている。

 

ほかにも、医療機関でマイナンバーカードと顔認証で本人確認することで、業務を効率化したケースもある。さらに銀行や保安施設では、顔認証による鍵管理で、盗難や不正利用を撲滅するというメリットも生まれている。

 

こうして暮らしに広がりつつある顔認証サービスだが、「コロナ禍は顔認証システムには追い風になりました」と語るのは、パナソニックの顔認証のマーケティングを担当する大住駿介氏だ。

 

「オフィスの入退室などもそうですが、コロナ禍によって非接触のほうが衛生的という概念が広がりました。さらにレストランやオフィスの入り口などに体温計測機が設置されることも増えて、『カメラに顔をかざす』ということに抵抗がなくなった人も多いです」(大住氏)。

整形手術もマスク着用もOK!? 精度を増す認証力

そもそも、顔認証システムとはどういう技術なのだろうか。

 

「パナソニックでは60年以上前からセキュリティカメラを扱ってきました。顔認証システムはそうしたカメラの中にシステムを搭載し、技術開発とAIの発達により認証精度をあげてきました」(大住氏)

 

パナソニックの顔認証では、顔の一部分の特徴を抽出するCNNという手法と、目と鼻の位置など全体の特徴を抽出するTransformerという手法の、異なるアルゴリズムを組み合わせている。例えば「くっきり二重の目」というパーツの特徴と、「目と目の間隔が離れている」という配置の特徴の、両方を組み合わせて識別しているのだ。それにより逆光など不利な環境での高精度な顔認証が実現できている。

ところで気になるのは、どの程度の精度なのだろうか。下世話な疑問だが、もし整形手術をしても顔認証してくれるのだろうか。

 

「その質問は、実はよくいただきます(笑)。これに関しては、例えば『目を一重から二重にしたから認証しない』という定義があるわけではありません。AIは全体から受ける印象から判断します。人間の目で見ても別人かと思うほどガラリと変わった整形でしたら、認証しない可能性もあります。ただ人間は年をとるにつれて経年変化しますが、それには十分対応します。つまりシワ取り整形程度でしたら問題なく認証します」(新郷氏)。

 

つまり「なんとなく最近きれいになった」程度の整形手術であれば、認証してくれる可能性が大きそうだ。さらに経年変化に関しては、パナソニックはNIST(米国立標準技術研究所)における経年変化評価で、全292団体参加中世界1位評価を取得している。シワが増えた程度であれば、顔認証システムは受け入れてくれそうだ。

 

さらに近年では、マスクやメガネをしたままでも顔認証する技術が向上している。われわれがマスクをしていると人の顔が識別しにくいと不満をもらしている間に、AIはマスクをしていても顔の違いを判別する技術を着々と身に着けているのだ。

5年で市場規模は倍増、驚きの未来へ

引用:社内調査を元に弊社試査

こうした顔認証システムは今後拡大の一途をたどると予想されている。国内市場においては、2025年は557億円、2030年には1,269億円と倍以上も拡大すると言われているのだ。

 

パナソニックの社内調査では、そのうち入退管理などアクセスコントロールを先鋒に、本人認証、防犯、そしてコンサートなどのチケッティングのジャンルで導入が進むと分析されている。

 

さらに今後は買い物ができる顔認証システムの導入も検討されている。そうなれば電車もバスも買い物も手ぶらででき、必要なのは「顔だけ」という驚くべき暮らしが実現する。

 

「そういえば昔は毎日財布や鍵を持っていた」と懐かしく思う日が、いずれやってきそうだ。

新郷 隆幸

Takayuki Shingo

パナソニック コネクト株式会社 技術研究開発本部 ソリューション開発研究所 システム開発部 開発2課

大住 駿介

Syunsuke Oosumi

パナソニック コネクト株式会社 現場ソリューションカンパニー 現場センシング事業部 マーケティング部 プロダクトマーケティング1課

新着記事

お問い合わせはこちら

CLIP 暮らしにリプする IT・インターネットをより楽しむためのエンターテイメント情報満載

Netflix FreaksはNetflixをとことん楽しむための情報メディア。Netflixの最新情報や厳選したおすすめ作品・レビューを紹介しています。

OPTAGE BUSINESS