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ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。
これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

「人生100年時代」提唱者の新書にみる、働き方改革に悩む企業を救う『リデザイン』とは?

多様で柔軟な働き方へのシフトが各所で行われる一方で、取り組みを始めてみたものの定着せず「形骸化している」、もしくは「新たな課題が生まれている」などの事態に直面している企業も少なくない。そんな悩みを抱えた企業の経営層はもちろん、これからの生き方・働き方を考える全ての世代の共感を呼んでいるのが『リデザイン・ワーク 新しい働き方』(東洋経済新報社/2022年10月発行)だ。著者は、変化する時代における新しい人生戦略を唱えた前作『LIFE SHIFT』(アンドリュー・スコットとの共著)が世界的ベストセラーを記録した、リンダ・グラットン。「人生100年時代」は彼女の代名詞でもある。本書は、その鋭い時代感覚をもって彼女が着手した働き方の書だ。数多ある類似書とはどう違うのか? 本書が“本当に使える働き方本”といわれる所以を探った。

人生100年時代の働き方

リンダ・グラットンは世界トップクラスの経営学者だ。彼女のことを知らなくても、前書『LIFE SHIFT』に登場したパワーワード「人生100年時代」については、耳にしたことがあるかもしれない。

 

その考え方は本書『リデザイン・ワーク』の基礎にもなっているので、読んでいない人のためにも触れておきたい。人生100年時代とは、世界の長寿化や医療の発展などにより人間が100歳まで生き、70代まで働くのが当たり前になる時代のこと。その時代はすでに訪れている、というのがグラットン氏の考えだ。人生100年時代では、「人生がマルチステージ化し様々な経験をする順序が柔軟に変化する」とし、100年ライフを生き抜く力をいかに身につけるか、を前書で説いた。特に世界的にも長寿化が進む日本では、大ベストセラーを記録している。

 

そのグラットン氏が、働き方にフォーカスして書いたのが本書である。LIFE SHIFTで唱えた長寿命化、マルチステージの時代、自動(オンライン)化、生き方の多様化、人口動態の変化といったあらゆる世界の潮流を踏まえて、新しい働き方を導きだすことができる。

 

本書では働き方をリデザインするために、(1)理解する、(2)新たに構想する、(3)モデルを作り検証する、(4)行動して創造する、のデザインプロセスを提示。それぞれのステップごとには、様々な企業の経験に基づく現場の知見を紹介しながら、取り組むべき項目が書かれている。

 

例えば、自社の重要な要素について理解することが必須とされるステップ(1)。どのようなスキルや人的ネットワーク、職種が生産性を向上させるために必要なのか? 社内の知識の流れはどうなっているのか? 社員は仕事と会社に何を求めているのか? などを知る必要があるとし、その上で、それらを隅々まで観察・把握するための手法が事細かに記されている。

大事なのは自社に合っているかどうか

こうした働き方や組織論に関する情報は、コロナ禍以降は特に乱立した。一方で、「導入するも浸透しなかった」「社員の反感を買った」「生産性が落ちた」などという落とし穴が待っている。例えば、大手IT企業や有名なベンチャー企業が導入しているという“流行の”組織体制を自社でも導入してみたものの、その先進性に社員がうまく馴染めず逆効果に終わる、などという事態は多い。

 

こうしたよくある失敗は、本書を読むことで防げると、本書の編集を担当した東洋経済新報社の能井聡子氏は言う。

 

「どんな“〇〇型組織”であっても、その企業のカルチャーによって描き方は変わるはずです。自社に合った働き方は何だろう? ということを根本から考え抜かなければどんな取り組みも満足のいく結果を生まない、とグラットンは言います。その意味でも本書は、何らかの組織のフレームワークを導入する前に、まず真っ先に読むべきフレームワークだと言えます」

 

一つ言えるのは、本書には全ての企業に適した方法論は提示されていないこと。それぞれが自社の深い分析と理解を土台に、自社だけの手法をゼロから構想し、実践していく。その最初から最後まで、読み手に伴走してくれるのが本書なのだ。

『リデザイン・ワーク 新しい働き方』 リンダ・グラットン/著、池村千秋/訳

こうした構成の大元には、グラットン氏のバックグラウンドが深く関係している。彼女はロンドン・ビジネス・スクールの経営学教授であり、また「働き方の未来コンソーシアム」を主宰し、これまで90社超の企業の幹部と働き方についての意見交換を重ねてきた経歴の持ち主。様々な企業の事例に触れるなかで、働き方のリデザインには、仕事のあり方を根本から設計し直し、「自社ならではのモデルを作る」必要があることを体感してきた。

 

彼女の言葉を借りるなら、前提として企業は「いくつもの不確定要素を含む複雑なシステム」であり、パンデミックを経た「いまほど、仕事のあり方が会社によって異なる時代は過去になかった」からだ。

 

本書では、彼女がこれまで見聞きしてきたHSBCやIBMや富士通をはじめとする世界中の事例が「現場の知見」というコラムで多数紹介されている。保険、通信、建設、テクノロジー、また公的機関などその業界は様々。加えて各章には、「新しい働き方のアクション」や「検討のための問い」といったコラムも設けられている。これらは全て、読者が各項目をより自社の問題として熟考できるように設けられたものだ。

 

どんなに素晴らしいアイデアや手法でも、大事なのは自社に合っているかどうか。そこを踏み違えないように、という著者の想いが見て取れる。

社会と個人。マクロとミクロな視点

テクノロジーが進展し、自動化が進み、気候変動に拍車がかかり、人口動態が変わり、コミュニティの様相が多様化し、人間のメンタルヘルスが危ぶまれる。こうした社会の変容がパンデミックで加速し、人びとが仕事や人生に対して望むものも無限に多様化している。そんないま企業に求められるのは「あらゆる人にとって魅力的な職場を作ること」だと著者は言う。

 

例えば、ステップ(1)の「いま人々は何を求めているのか」の章では、「人が仕事に関してどのようなニーズをもっていてどのような働き方をしているのかは、一人一人異なる」ことを説いている。社員一人一人の境遇を単純化し理解しやすくするのに有効な手段として、著者は「架空のキャラクターを用いること」を提案。業務内容、年齢、家族構成、夢などを集約したキャラクターをいくつも設け、それらを軸に議論を進めることで、社員全員にとって公平な検討ができるという。

 

例えば、入社10年以上経っている中堅社員の男性と入社1年目の女性。前者は妻と10代の子供2人と一軒家で暮らしており、後者は20代後半の独身で友人とルームシェアをしている。両者は同僚でどちらもコロナ禍では在宅勤務を余儀なくされたが、このように架空のキャラクターを想定して具体的に考えることで、それぞれの在宅勤務の影響が浮き彫りになってくる。一見シンプルな手法だが、新しい体制を導入するときにここまで熟考する企業はどれほどあるだろうか。いま多くの企業が目指すダイバーシティ&インクルージョンは、こうした細やかな想像力があってはじめて成立するものなのかもしれない。

 

本書に通底するのは、「人生100年時代」をはじめとする世界の潮流や人間の向かう先を俯瞰するマクロな視点と社員一人一人を深いところで理解するミクロな視点を、どちらも兼ね備えていることだ。どちらか一方が欠けても、激動のこの時代に、強度のある働き方は描けない。

 

本書は、未来の働き方を模索する経営層やビジネスマン向けに書かれた指南書である。その一方で、今を生きる全ての人にとって必要なものの見方が詰まった“想像力の書”とも言えるだろう。

リンダ・グラットン

Lynda Gratton

ロンドン・ビジネス・スクール経営学教授

世界をリードする「働き方の未来」の専門家。全世界で最も権威ある経営思想家ランキングである「Thinkers50」では、トップ15にランクインしており、2018年には安倍晋三元首相から「人生100年時代構想会議」のメンバーに任命された。著作である『ワーク・シフト』『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』シリーズ(アンドリュー・スコットとの共著)は日本で大ベストセラーに。長寿社会におけるキャリア構築の考え方である「人生100年時代」というキーワードをつくり出した中心人物。

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