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ENILNO いろんなオンラインの向こう側

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ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。
これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

シャッター街に現れたまちごと宿泊棟「セカイホテル」。USJをヒントに“旅前のスイッチ”にこだわる理由

人口減・転出者増といった構造的な背景から、日本各地でシャッター街が増えている。かつて賑わいの中心だった商店街の店舗が次々と閉店し、寂れて人通りも少ない光景は珍しくなくなってしまった。

そんな商店街を「ホテル化」という視点で復活を目指す企業がある。クジラ株式会社が運用する「SEKAI HOTEL(セカイホテル)」は、商店街周辺の空き家・空きテナントをリノベーションして客室化。夕食・朝食会場は周辺の商店へ、大浴場は銭湯へと、地域と連携することで、まち全体をホテル化しているのだ。日経MJ賞「最優秀賞」受賞をはじめ、テレビ番組『ガイアの夜明け』でも紹介された。

そんなセカイホテルが重視しているのが、公式LINEを使った「旅前」「旅中」の体験。その実態について、同社代表取締役の矢野浩一氏に聞いた。

東大阪のローカル部分を堪能できるホテル

シャッター街となりつつある商店街を舞台に、新たな価値創造を目指すセカイホテル。東大阪市の布施商店街は、かつて780もの店舗が入っていたものの、いまは約半分に縮小している。そんな商店街を「まちごとホテル」として、人気を博しているのがセカイホテルだ。

受付は婦人服をリノベーションしたスペースで、当時のままの看板がそのまま残っている。チェックインを済ませると、今度は菓子屋の看板が掲げられた客室へと移動する。そう、このように商店街を「ホテル」と見立て、商店街歩きをしながら過ごすのだ。夕食時には居酒屋へ、風呂は銭湯へ、朝食は喫茶店へと、商店街中を堪能できるのが面白い。

また、受付時に受け取った「SEKAI PASS(セカイパス)」を提示することで、老舗の揚げかまぼこ屋やコロッケ屋などのパートナーショップで様々なおまけがもらえる。そこから地元の人たちとの様々なコミュニケーションが始まるので、まさに「旅行先の日常」に入っていく感覚だ。多様なプランが用意されているが、平日・6名・素泊まりだと5,500円とお値打ち。海外から訪れるお客さんも多く、ローカルを感じられる旅のスタイルとして国内外で注目を集める。

LINEに搭載した「旅前」に着目したサービス

「ホテルのコンシェルジュ」と言われて何を想像するだろう。この仕事は日本ではまだ想像しにくい職業の一つであるが、シンプルに表現すると宿泊客の「なんでも相談役」。お客さんが希望するレストランやレジャーの予約から記念日のサプライズ準備、時には人探しをすることもあるようだ。お客さんの滞在中のあらゆる要望をかなえる仕事と言えるだろう。滞在中の期間に限られるが、とても近く頼もしい存在となる。その一方で絶妙な距離感をとることで、旅先の体験に余計な着色はしない。まさにホスピタリティあるプロフェッショナルだ。

 

セカイホテルでは、チェックイン後にスタッフが丁寧に対応するものの、このコンシェルジュについて、LINEにも機能を搭載している。

 

「営業日や地域にまつわる情報をお届け! 旅先の日常を楽しめる『まちごとホテル』」とは、セカイホテル公式LINEに掲載されている言葉だ。その言葉通り、商店街をホテルと見立てた同サービスでは、銭湯や朝食・夕食会場やホテルのある東大阪・布施の商店街の情報を教えてくれる。また、FAQとして旅前に気になる質問に対する回答がここで確認できる。

「旅前の準備の部分って、ワクワクして楽しみな部分もありますが、一方で、ドライヤーはあるのか、駐車場はあるのかなど、何の準備が必要なのかとストレスに感じる部分があります。まずはそのストレスを省くのが目的。また、できる限り、旅前に楽しむ“スイッチ”を入れてもらいたいんですよね。なので、街の情報などをここに掲載しています。お好み焼きの上で鰹節が踊っている絵や、銭湯にある黄色い桶の絵などを見てもらい、旅中のイメージをしてもらうんです」(矢野氏、以下同)

 

ホテルの公式LINEは時おり見かけることがある。ただ、一方的な情報提供の域を脱していないのが現状だと言えよう。旅行の終わりと共に、登録削除されることも珍しくない。そのなかでセカイホテルは、双方向なコミュニケーションツールとしてのLINE活用を視野にいれている。

 

他ホテルとの違いは、まちごとホテルと見立てている部分。宿単体としての魅力発信だけではなく、まちごとの魅力を感じ取ってもらいたいのだ。だからこそ、旅前の登録を促し、旅中でもお客さんと並走することを心がける。現状、旅前の登録は全体の10%を占めるというから驚きだ。これまであまり着目されていなかった「旅前」にフォーカスしたサービスが今後、伸びてくるのか注視が必要だ。

 

「お客さんのストレスを省き、旅行のスイッチを入れるのがセカイホテルの公式LINE。そして、コンシェルジュのように『なんでも相談役』として振る舞います。ですが、正確にいうとコンシェルジュではないと思っています。もっと新しい言葉が必要。アルバイトのスタッフが『今日、ここの居酒屋にいくとコレが食べられる』『ここに行くとお得』など、カジュアルな提案ができるのが理想です。公式LINEとして、botやコンシェルジュを超える価値を提供できればと。現状は公式LINEを使って旅前・旅中に色んなコンテンツに触れてもらっています。LINEに質問をすれば回答できる体制も整っています。旅中に『いまこうやって過ごしている』と状況を共有してくれるお客様もいました」

 

同ホテルの価値観の一つに「フレンドシップ」がある。旧友の地元にいった感じだと矢野氏は教えてくれた。旧友の地元だからこそ、リアルタイムで程よいガイドがあって然るべきなのである。

「あと、ユニバーサルスタジオでバックトゥーザ・フューチャーを体験したんですが、もう並んでいるところから面白いんですよね。『飲食はだめです』などの注意事項をコミカルに表現。ユニバーサルスタジオやディズニーはこれを当たり前のようにやっています。自然と大切なことがインプットされている。こういったコミュニケーションが取れるよう工夫が必要。

 

私たちは通常のホテルとは異なる部分が多いので、お客様との期待値にズレがあってはいけません。ですので、旅前にしっかり目線合わせできていることが大事。あとはシンプルに面白い街なんで、色々と知ってもらって楽しんで欲しい」

アトラクションの前にスムーズなコミュニケーションをとる。ホテル業界においても「旅前は重要」というのが矢野氏の考えだ。誰かに寄り添ってもらわないとできない経験が旅にはある。ただ、ずっと人が隣にいると負担になる。そのなかでLINEという気軽な世界観だと、お客さんも気軽に活用できるのではという見解だ。

地域を循環する旅人と地元事業者の想い

LINEによって街の商店などを紹介していると、思わぬ効果も確認できたよう。記事コンテンツとして発信しており、記事への遷移数は96.8%となっている。ここで紹介されるセカイホテルのパートナーショップに足を運ぶと、ちょっとしたおまけをプラスしてもらえる。右も左もわからない旅人が商店街を歩いて楽しむには心強い。

 

そんなサービスをするなかで、思わぬ反響が見えてきた。現在のパートナーショップは9つで、商店街すべてにお声かけしきれていない状況。しかしながら、自主的にセカイホテルの宿泊者向けにサービスを展開するお店が出てきたのだ。

あるお店では、このように訪れた宿泊者におまけを提供。「SEKAI HOTEL宿泊者がお店にやってきて、常連が交流する様子を見てて、微笑ましく感じていた。それだけでなく、宿泊者が自分たちのお店を紹介してくれてたので、お返しができればと思った」という理由から、自主的にサービスを提供し始めたという。宿泊者と街のお店が交わり出した事例だ。

改めて創業当時を振り返ってもらった。

「少しずつですが『まちごとホテル』という仕組みや、「旅先の日常に飛び込もう」というコンセプトが浸透しつつありますが、設立当時から変わらないのが、お客様にとっての『第2のふるさと』になりたい点。帰りたくなる、行きたくなる地域になってもらう。そのために、セカイホテルへの所属意識をもってもらう必要があるんです。LINEももちろん大事ですが、現場でスタッフと会って、人間関係を深めるという体験は非常に重要かと。ですから、テクノロジーとアナログの両どりを目指しています」

そのための施策として、「ジェネラリストとして振る舞えるスペシャリスト」の育成が不可避であると矢野氏は言う。リノベーションを軸にした会社であるクジラには、多くの建築分野のスペシャリストが揃う。そのなかでホテル事業を推し進めるには、「建築+SNSコミュニケーション」「建設+ホスピタリティ」「建築+プランニング」といった越境できる人材を育てることが目下の目標だ。インバウンドやAIの影響を受け、ホテル運用の方法は過渡期の中。

「繰り返しになりますが、セカイホテルは『フレンドシップ』を掲げており、旧友の地元に遊びに行く感覚。そこにまた行きたくなる感覚を体験価値として提供していきたい。そのためには、今の時代は、テクノロジーとアナログ、どちらも同じくらいに使いこなせないとダメですね」

矢野浩一

Koichi Yano

クジラ/SEKAI HOTEL 代表取締役

不動産・建築業界にクリエイティブディレクターを増やす【不動産×デザイン×建築で事業開発 -クジラ】【まちごとホテル -SEKAI HOTEL】。
不動産業界で働く中で、「もっと社会課題を解決できる不動産業があるのではないか」と考え始める。2017年には、地方の空き家増加や若手人材の流出の問題を解決するために、有名観光地ではない地域を選びSEKAI HOTEL(セカイホテル)をOPEN。
2022年には初めてのパートナーシップ(FC)モデルとしてSEKAI HOTEL Takaoka(富山県高岡市)をオープン。日経優秀製品・サービス賞 日経MJ賞 最優秀賞など受賞多数。

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