ENILNO いろんなオンラインの向こう側

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ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。
これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

コロナで大打撃を受けた地方の観光業「打開策はコンテンツツーリズム」と言える理由

高齢化や人材不足、産業の空洞化、教育機会の不平等、観光客や関係人口の減少……。日本の地方が抱える課題を、コロナ禍はより明確に浮かび上がらせた。こうしたさらなる危機に晒されている地域社会の打開策として、地域×オンラインの可能性を追いかけたのが『地域創生DX −オンライン化がつなぐ地域発コンテンツの可能性−』(2022年11月刊行)だ。ジャーナリスト/プロデューサーでありながら、2019年からは新潟県の大学で教育・研究も行う著者・松本淳氏が、実際に東京から新潟へと拠点を移すことで目の当たりにしてきた、地域社会の現状をベースに書かれたものだ。DXとは単なるデジタル化ではなく生活や仕事の様式の変化であることを前提に、地域DXで同氏が重視するのが「物語性」だ。物語性とは一体何か? 地域において物語をいかに活用すべきか? 本書が“次世代型地域振興の教科書”とも評される理由を探る。

 

※本書は同書から許諾を得て掲載しております。

「地域コンテンツ」著者が捉えるコロナ前後の地方

岸田文雄首相は2021年の所信表明演説において、「デジタル田園都市国家構想」を打ち出した。「地方からデジタルの実装を進め、地方と都市の差を縮め、都市の活力と地方のゆとりの両方を享受できる社会の実現を目指す」というこの構想の背景には、現代の日本における地域格差の深刻化がある。

 

現在、高齢化や過疎化、産業の空洞化、医療格差、教育機会の不平等、交通・物流インフラの衰退といった地方の問題に対処する地方創生事業を行う上では、今「地域DX」というワードは欠かせないものになっている。

『地域創生DX オンライン化がつなぐ地域発コンテンツの可能性』 松本淳/著

そんななか、地方の「コンテンツ」を軸に様々な事例をまとめ、地域の可能性を探っているのが本書だ。著者・松本氏はアニメや情報産業の研究・教育に携わる研究者でありながら、ジャーナリストやプロデューサーとしても活動している。日々社会の変化を敏感に捉えながら、デジタルネイティブ世代と向き合い、またアニメやコンテンツ分野のプロジェクトにも従事する。

 

2018年に刊行した前著(共著)『コンテンツが拓く地域の可能性』では、アニメの舞台となった地域をファンが訪れる「聖地巡礼」による地域振興の様々な例をもとに、コンテンツ製作者、地域社会、ファンの“三方良し"を叶える重要性を説いたが、本書ではそこにオンラインの要素を合わせ、より多角的に地域の可能性を探っている。

 

本書は2部構成で展開される。第1部は、コロナ前後でオンライン化が日本の産業・社会をどう変えたか?について。備えなきオンライン講義に学校関係者が対応に追われたこと、遅々としていた日本の働き方改革が急進したこと、世界に比べて日本のオンライン環境がいかに遅れているか、またオンライン化を支えるツールについて、といったテーマの要点がまとめられている。IT事情に詳しい読者にとっては“おさらい”のような箇所も含まれるが、続く第2部の内容を解像度高く捉えるためにも重要な部分だ。第2部では「オンライン化が変える地域の価値」と題し、地域×オンラインへと踏み込んでいく。地域コンテンツ、地域観光、地域の働き方、教育と地域人材、地域の新しいコミュニティといったテーマで、地域×オンラインの可能性を分析。各章には様々なデータや事例、そして当事者のインタビューが織り交ぜられおり、様々なレイヤーから考察を深めることができる。

物語はなぜ必要か?

なかでも「地域観光の危機を打開するコンテンツツーリズム」の第3章と続く「地域からコンテンツを発信する」第4章は、地域の観光業×オンラインにフォーカスした本書の柱とも言える部分だ。コロナ禍で大打撃を受けた日本の観光業と、その“前線”に立っていると考えられる地方。その打開策は「コンテンツツーリズム」にあると筆者は強調する。

 

コンテンツツーリズムとは「地域に『コンテンツを通して醸成された地域固有の雰囲気・イメージ』としての物語性・テーマ性を付加し、その物語性を観光資源として活用すること」(本書より)であり、観光客が増えるだけでなくひいては移住にも繋がる関係人口が増えるきっかけにもなるという。実際この効果は、アニメをベースにしたコンテンツツーリズムが盛んな地で多数確認されている。

 

理由は、コンテンツツーリズムからは強度な結びつきを持った関係人口が生まれやすいためだ。ここが、単に観光名所を訪れて去っていく交流人口と違う点だ。前者では、地域社会、地域の人、外部の人の3者の間に物語が介入することで「ファンが物語に抱くグッドウィルが、地域と交流する際の支えとなる」、よって3者の間に強い結びつきが生まれるのだという。

 

本当の意味での地方創生や国益に繋げるためには「コンテンツツーリズムを含む文化観光を通じて海外からの旅行客をいかに呼び込み、交流のみならず関係構築を図っていくことが、ポストコロナにおける観光の本丸」だと筆者は言う。パンデミックや戦争、自然災害といった激動の時代に、危機・混乱を乗り越えるための、地域と人を結ぶ物語の力がいま問われている。

地域のオンラインコミュニティ形成に重視すべきもの

これからの地域社会に求められるのは、そうした物語性のファンを作る「地域のオンラインコミュニティ形成」だと著者は続ける。とはいえVRのような重厚なバーチャルリアリティ空間の構築がマストで必要なわけではなく、SNSやオンラインミーティングアプリなどシンプルな機能であっても「物語コンテンツが支えるバーチャル(非対面)コミュニティ」が形成できれば問題ないのだという。

 

技術や機能以上に重視すべきなのが、コンテンツの制作者自身が、地域のバーチャルコミュニティの形成により一層関わることだ。そうすることでひいては、ツーリズムを通じた、コンテンツの支持拡大にも繋げることができる。筆者は言う。

 

「バーチャルな場で物語コンテンツを仲介者として信頼関係を構築するという段階を経て、ようやく(フィジカルディスタンスを保ちながら)地域のリアルなコミュニティとファンが接続されていく、という時代がこれからしばらく(コロナ禍の完全終息までは)続いていくことになるでしょう」

 

そしてその変化は、コストという観点からも完全に元に戻ることはなく、もはや「オンラインの方がより本質的には『対面的』なのだと発想を切り替えるべき」と印象的なフレーズが続く。

 

従来の「バーチャル(外部)─リアル(地域)」から「バーチャル(外部)─バーチャル(地域)」の接続に組み替える。こうしたコミュニティの構造変化は、観光業やコンテンツ業に関わらず、あらゆる産業のポイントになってくる。

 

加えて、コロナ以降は様々なシーンにおいて「リアル(対面)」は贅沢品になったことも忘れてはいけない。ライブのオンライン配信が一般的になり、リアルのライブは以前より希少価値の高いものになった。今後もしもイベントやプロジェクトにおいて対面を主体にするなら、前以上にその価値がユーザーから問われることになる。

「まちづくり」を阻む世代間の断絶

これからの地域の未来を作る主役として、本書からはデジタルネイティブ世代への熱い視線も感じられる。特に地方の自治体では、地域のあらゆる物事の裁量を握るリーダー世代と若い世代の断絶があることを指摘。昨今は大学でも「まちづくり」関連の学科や科目は人気で、社会に出てからもその活動を継続する人も多いが、彼らが「地域コミュニティによって潰される」ことも少なくないのだという。

 

大きな理由の一つは、触れている媒体の違いにある。地方新聞や自治体が発行し無料配布する地方誌はおろか、自治体のWebメディアやSNSにも目を通していない(存在すら知らない)人が多い、というのが松本氏の実感だ。情報媒体の違いは、興味の矛先や共感を生むポイントが異なることも意味する。よって、埋もれている地域資源をそのまま並べただけでは若い世代には魅力的には映らない。

 

こうした地域の世代間の溝を埋めるには、「地域外からの視点」をもって地域資源を思い切り「再編集」し、新しい物語として提示することが必要だと著者。それらをもとに、オンラインツールを使って発信しオンラインコミュニティを作ることで、その盛り上がりが都市部など外の世界へ広がっていく可能性は十分にある。

 

メディア・コンテンツを専門とする著者が、地域DXの可能性を紐解いた本書。デジタルネイティブ世代が中心であり、オンライン活用の成功例も多いこうした分野の事例には、コンテンツ領域に留まらず、これからの地域×オンラインにおける多くのヒントが詰まっている。

松本 淳

Atsushi Matsumoto

ジャーナリスト・コンテンツプロデューサー・研究者

著書に『コンテンツが拓く地域の可能性』(同文舘出版、大谷尚之・山村高淑との共著)『コンテンツビジネス・デジタルシフト』(NTT出版)、など。メディア・コンテンツの社会や地域との関わりについて取材や実践を通じた研究を行っている。
敬和学園大学国際文化学科准教授/専修大学ネットワーク情報学部講師。

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