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ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。
これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

東洋紡が開発する「スマート衣料」はスマートウォッチに勝てるのか?

日進月歩の勢いで進化し、様々な産業分野に成長と革新をもたらしているものの1つに、ウェアラブルデバイスがある。最も身近なものとしてはApple WatchやFitbitに代表されるスマートウォッチがあるが、より精緻なデータを取得できる可能性をもつのがスマート衣料(スマートセンシングウェア®)である。

 

2013年に文部科学省が始めたCOI STREAM(革新的イノベーション創出プログラム)をきっかけに、繊維メーカーの東洋紡らが開発したCOCOMI®は、そうしたスマート衣料に使うフィルム状導電素材。2014年にはドイツ・ミュンヘンの世界最大規模の国際スポーツ用品専門見本市(ISPO)にも出展した。プロジェクトの発足から10年を経て、活用フィールドは確実に広がっている。

 

そこで今回は、スマート衣料の可能性や競合するスマートウォッチなどとの違い、COCOMIの開発に係わるお話を、同製品の開発に携わった東洋紡STC株式会社の表雄一郎氏と平田和則氏に聞いた。

こだわりポイントは耐久性、着心地そして連続性

簡単にいえば、COCOMIは電気が通る、導電性の衣類の材料である。洋服の裏側などに貼り付けることで利用していく。

 

「COCOMIは、フィルムでできていて、とても柔らかいのですが、電気がしっかりと通ります。このフィルムを裏に貼り付けた服を着ると、電極という形で体の表面に電極シールを貼ったような役割をしてくれます」(表氏)

COCOMIの構造

開発の段階で最もこだわったのは、耐久性の部分。毎日のように着用するものだからこそ、100回以上洗濯しても耐えられる必要がある。もちろん、そのような耐久性を保ちながらも、心拍数や心電などの生体情報をしっかりと測れることは大切だ。とはいえ、身近な生体センサーといえばスマートウォッチが頭に浮かぶ人も多い。COCOMIとの違いはどこにあるのか。表氏はこう続ける。

 

「衣料型の一番の特徴は、長時間着用しても違和感がないこと。たとえば医療機器向けに使われるシール型のセンサーだと、スポーツなどで汗をかくと剥がれてきたりしますが、そうした煩わしさがスマート衣料にはありません。また、腕時計型のものは激しく動いたときに遅延が起きたり、ノイズが発生してデータが不正確になることもありますが、衣料型であれば連続的にきれいなデータが取れます」

 

特に鍵を握るのは、その連続性の部分にある。様々な条件や環境下においても、途切れることなくデータが取れることが重要だからだ。なぜか。

 

「たとえばスポーツの分野ですと、もともと心拍数が高いか低いかが最重要視されていたように思います。しかし、スポーツ自体が進化していくなかで、心拍のゆらぎなどにも注目が集まるようになってきました。データをメンタルやメディカル的な解析に活かすためです。そうすると、常に連続してデータが取れないと、正確性が担保できなくなってしまいます。もちろんCOCOMIも完璧ではありませんが、少しずつそこに近づいていっています」

 

イギリスのプレミアリーグにしても、アメリカのNFLやMLBにしても、日本の躍進によって大きな話題を呼んだサッカーワールドカップにしても、選手の様々なデータを勝利のために活用する動きは、加速度的に広まってきている。もちろんそこにはビッグビジネスがあると考えているという。

 

「もちろん我々としても大いに期待しているところです。私が把握している範囲でも、ワールドカップではオーストラリアのカタパルト社のGPSセンサーが使われておりました。ただ、一方でリアルなところでは、市場の規模は大きくなるところにまだ至っていないと感じています。もちろん時間の問題で、今後、横に縦に、どんどん成長する分野だと捉えています」

COCOMIを使用したスマート衣料はジェル電極と同等の精度で計測が可能

病気の予兆ケアや熱中症のケア……広がるその可能性

では、現状ではどのような活用方法が実際に見られるのだろうか。

 

「まずはメディカル関係です。特に病気になる前の予兆ケアという形で活用し、病気の早期発見などに使えると考えています。それから熱中症のケアなど、労働者の労務管理等もあります。現状、スマートウォッチで管理していることも多いのですが、もっと精度を高めるには、COCOMIなどのスマート衣料のほうが適しているのではと考えています」

 

さらに、営業部隊を率いる平田氏が主に取り組んだ、動物の分野もある。

 

「主には競走馬ですね。たとえば競走馬の心拍トレーニングには最適で、すでに販売を展開しているところではあります」(平田氏)

 

そうした可能性が広がっている一方で課題もある。表氏はこのように話す。

 

「こうした病気の早期予防とか、労働環境の効率化などに生体データや個人のパーソナリティ情報、さらには環境計測を組み合わせながら生かしていこうとすると、計測からサービスへと繋ぐ構造も整えないと意味がないと思っています。アルゴリズムというのがサービス・コンテンツとしては不足していて、その組み立てがこれからの最大のポイントになってくるでしょう」(表氏)

 

そうしたサービスの設計やデータの収集という意味では、オンラインという要素は欠かせないようにみえる。しかし、「まだまだ初期の段階」と、表氏は楽観的な見方はしていない。

 

「オンラインで、生体情報を活用というのは、実はまだまだこれから。生体情報の計測に関していえば、リアルタイムでデータをアップして、リアルタイムで見られる部分ではオンラインが不可欠で、それができれば遠隔診療もスムーズにいくと思います。ただ、実際に運用しているかというと、特に日本においては非常に少ない状態だと考えています」

リアルタイム性を追求しようとすると、バッテリーという壁に当たる

このリアルタイム性においては、生体計測がまだ追いついていない状態なのだとか。どういうことか。表氏はこう続ける。

 

「やはりスポーツでいう加速度データ、動いた・止まったのデータが、ようやくいろんな戦略的な組み込みなどに使えるようになってきたレベル。スマートウェアを用いて生体情報をまとめたかたちで見るというのは、本当にまだまだ初期の段階です」

 

他方で、そういうところがうまくスムーズに回ってくるようになると、バーチャルリアリティも含め、無限の可能性が広がっている。

 

「たとえば、スマートゴーグルのようなものにもリアルタイムのデータ情報、計測情報がオンラインを通じて使っていけるようになると、いろんな可能性が広がりますよね」

 

実際、ゲームメーカーなどでは、加速度センサーが実際に活用されることもある。たとえばコントローラーに搭載されている加速度センサーを使ってゲームのキャラクターを操作するというような世界観は当たり前のようになってきている。

 

「通信の部分での負荷とかというのは、だいぶ解消されてきていると思っています。ただ、一番のポイントは、人間にセンサーをつけて、そこで取り込んだ生体情報を、リアルタイムにネットワークにあげる部分が、まだまだ不十分ですね。そのために我々のスマート衣料みたいなものが使えると考えていますが、電池(バッテリー)の問題が少なからずあります。デバイスからリアルタイム情報を速いスピードで出そうとすると、非常に電気を使います」

 

リアルタイム通信をしなければ、現在のCOCOMIで心拍を計測して心電の波形を計測するモードを使ったときには8時間、心拍数だけであれば5日ぐらいは電池1個でもつというが、常時、淀みなく各センサーから通信を行おうとすると、そうはいかないという。

 

「リアルタイム通信をすると1時間しかもたないというようなことが予想されます。したがって、なかなかサービスの組み立てにまで至っていないっていう状況と考えています」

東洋紡STC株式会社 技術開発部 表雄一郎氏

スマート衣料の特徴であり、スマートウォッチなどのライバルに対する競争力という意味でも、キーとなる連続性。そこを担保しようと考えれば、単にセンシング機能だけ高ければいいわけではない。通信する回数と速度も、同時に上げていかないと意味がないからだ。

 

「0.1秒に1回なのか、1秒に1回なのか、10秒に1回なのかで、電池の持ちはまったく異なってきます。仮に10秒に1回しかデータを送れないのであれば、それはスマート衣料の良さを活かせていないと思いますし、逆に0.1秒に1回の通信にすれば、すぐに電池が切れてしまいます」

 

生体データが貯まり、膨大なデータから模範解答を導き出せるようになれば、電池の持ちをよくするために連続性を少し落とした生体情報であっても、過去の蓄積から予測することは可能になるのだろう。その意味でも、繊維メーカーとして素材を提供するだけでなく、サービスとして展開し、データが蓄積されるような設計・体制を整えることができれば、様々な可能性を秘める市場のメインプレーヤーに打って出ることもできるかもしれない。

 

実際、欧米のみならず、アジア各国の企業も含め、すでに展示会などで海外との接触は済んでいるという。COCOMIを筆頭にした同社の今後の展開に、大いに注目したい。

《Profile》

表 雄一郎(Yuichiro Omote)

東洋紡株式会社 生活・環境生産技術部。COCOMI®の生産技術開発を担当。

 

平田 和則(Kazunori Hirata)

東洋紡STC株式会社 スマートセンシングG。COCOMI®の営業を担当。

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